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『月刊アスキー』編集長として、PCやネットの最新事情をながく世の中に伝えてきた、遠藤諭氏。ユーザー視点からテクノロジーをとらえてきたことを活かし、現在は、角川アスキー総合研究所の主席研究員として、スマートフォン以降の消費行動に関するコンサルティングを行っている。
デジタルとライフスタイルの両方を知る遠藤氏に、これからの未来、社会や人々の生活はどう変化していくのか? を聞いた。

前編はこちらから

今の若者は、オタクが普通

前編では遠藤氏に、クラウドコンピューティングの時代と、そこで注目しているのがユーザーインターフェイスであること、そこから、デジタルガジェットについて語っていただいた。しかし、遠藤氏、そして角川アスキー総合研究所は、テクノロジーの動向だけでなく、それによって変わる人々のライフスタイルについて調査・分析を行っている。その中でも、注目される傾向について聞いてみた。

「アスキーが角川グループに入って、総研事業を立ち上げましょうという話になった。デジタル業界にとってはコンテンツが大きなテーマであり、一方、コンテンツ業界にとってもデジタルが大きなテーマになっていますからね。私自身は、ずっとPC雑誌の編集をやってハードやネットの動向を毎週おっかけてきたわけですが、調べてみるとネットやスマートフォンで生活が変化してきているところをきちんとおさえている調査がなかった。そこで、どこのどんな人が、スマートフォンやネットを含めたメディアをどう使っているか? 唯一の1万人規模の調査を行って評価をいただいています。

iモードが始まったのは1999年、2004年にGREEとmixiというソーシャルメディアが相次いで開始。2005年にYoutube、2006年にニコニコ動画、iPhoneが日本で発売されたのは2008年のことです。我々はこの5~10年ほどの間に出来上がったライフスタイルの中で生活しているんですね。

我々の調査は今年で5年目となりますが、最初の年にやっていちばん驚いたのが、いまの10代、20代が思っていた以上に“オタク”だということでした。要するに、マンガ、アニメ、ゲーム、ライトノベルにはまっている人たちが多いんです。ネットやソーシャルメディアということより、むしろこの点に顕著な傾向が見られたんです。調べるといまの20代前半が10代だった頃は、東京では週に100本のTVアニメが見られたそうです。彼らは、それまでの世代よりも二次元のバーチャルなコンテンツの中だけで育ってしまった。

これは、10代にも確実に広がっていて、初音ミクというボーカロイド(ユーザーが作った曲を歌ってくれるソフト)のファンの中心層は、10代女子です。ボーカロイドの曲しか聴かないという子が10代ではかなりいる。ヤマハの方に聞いたのですが、人は17歳のころに聞いていた音楽を一生聞き続けることが多いそうです。オタクということもさることながら、デジタルと密接に関係する新しい音楽層が生まれている。

世代ごとに影響を受けたメディアは違っていて、私などはテレビネイティブ、いまの20代後半から40代前半はゲームネイティブ、いまはソーシャルネイティブと呼ぶべき世代が出てきていると思います。1990年生まれくらいからですかね? 新人面接をしていると、「大学に入ってみんなでmixiを始めました」などと聞くことが増えた。社会と接点を持ち始めたと同時にソーシャルメディアを使いはじめた世代が登場したわけです。いまは、それがLINEなどの広がりもあって女子高生まで下がってきています。

図:ソーシャルネイティブの時代

横軸右方向に年代、縦軸下方向に年齢として、「テレビネイティブ」、「ゲームネイティブ」、「ソーシャルネイティブ」と色分けした。それぞれの世代が、メディアに関する主要なトピックを何歳のときに体験したかが分かる。角川アスキー総合研究所では、毎年、1万人規模のライフスタイルに関する調査を実施しているが、こうした背景が世代別のメディア行動の差にもなってあらわれている。(出典:角川アスキー総合研究所)

「日本人」と一口に言っても、いまは世代による差がものすごくあるのではないでしょうか? 50代以上はなんらかの形でバブルを経験していますが、その下にバブル期以降の世代、就職氷河期の世代、さらにいまの20代もまったく異なる社会環境の中で育った。いまは全世代に向けて同じようにメッセージを送ることはむつかしくなってきていますよね」

震災前後で、メディアに対する考え方を一番変えたのは、意外な層だった

「日本人はでこぼこで、世代によってまったく違う」という遠藤氏。
その具体的な違いとは、なんなのだろうか?

「それはもう、経済的なことや正社員であるかどうかなど生活の安定感、社会に対する考え方も違いますし、もともとのライフステージによる違いもあります。たとえば、うちの調査で1日の余暇時間(自由に使える時間)を聞いているのですが、いまの10代は本当に少ないですね。女子高生と女子大生を対象にLINEに関するヒヤリング調査を行った結果では、10代がLINEを使っているのは連絡網であって、必要なものなんです。20代より上は、Facebookの利用目的を聞くと「暇つぶし」、「なんとなく」というのが多い。

こうした、世代によるいろんな要素がからみあって、それぞれの足りない部分を、スマートフォンやネットが補っている。救っている部分があると思います。とくに、いまの若年層は、お金をかけずにみんなと繋がっていることで楽しく、モノよりもオタク的なコンテンツという傾向と、スマートフォンの活用とが相互に影響しながらライフスタイルそのものを大きく変えてきているのがいまだと思います。

東日本大震災後の人々の心理変化についての調査では、意外な発見がありました。一般には、あの震災とメディアの関係といえば、Twitterで安否確認ができたとか、ネット企業の情報で被害状況や支援の方法が分かったとか、ネット中継で記者会見がすべて見られたというような話が注目されたと思います。ところが、うちの調査ではこの部分でいちばん心理変化があったのは、60代女性たちだったんです。彼らのニュースや政治に対する信頼感が大きく落ちている。それを、何かがカバーしているかというとそうではない。いちばん目立たないところでメディアの意味に変化が起きていると分かって、私はショックだったんですよ」

「第2のイノベーションのジレンマ」が訪れている

技術革新によって大きく変わってきた、人々の生活。この発展の先には何があるのだろうか? インタビューの最後に、遠藤氏の考える展望、そしてより良い未来を目指すために必要な条件を語ってもらった。

遠藤諭氏「いま、第2のイノベーションのジレンマとでも呼ぶべき状況が起きつつあると思うんですよ。ネット通販とか、ソーシャルメディアとか、コンテンツや予約システム的なものなどは、イノベーションが起こりやすい。ところが、社会を支える産業や行政なんかは、なかなかイノベーションが起こりにくい。ところが、ネットによるイノベーションでは、いろんなものが“無料”か、少なくとも“安価”になるものがほとんどです。

そうすると、社会全体のインカムは減るのに、それを支える社会インフラの原価は下がらない。客単価は下がっていくのに高い家賃で商売しているようなものです。これでは、いくら税金を上げても間に合わないですよね。要するに、社会の表層部だけイノベーションが進むとかえって全体が支えられなくなる。世界で、社会システムが先にイノベーションできている国は、エストニアぐらいしかないかもしれません。旧ソ連の研究所がエストニアにあった関係で、ITがとても進んでいるそうですが。そんな国は希有であって、これは、多くの国で問題になってくるんじゃないと思います。

図:イノベーションのジレンマ 第2法則

一般消費者のライフスタイルの変化を見ていると、スマートフォン等により特定の分野のみが容易にイノベーションを起こしている。「イノベーションのジレンマ」は、既存の事業や商品を持つ企業が新しいテクノロジー分野への参入に遅れることだが、社会全体でもこれに似た矛盾が生じている。イノベーションの起きにくい社会的なインフラや産業分野こそクラウド的な取り組みが必要と思われる。(出典:角川アスキー総合研究所)

コンピュータの歴史を見ると、初期の開発はほとんどが国家予算で軍事など政府や大学の研究目的で作られました。コンピューターというのは“金喰い虫”といわれるくらい経済原則だけでは成立しないものだったんですが、それ以上のハードルの高さが、社会インフラ的なイノベーションにはあると思います。

クラウドを、IT分野の言葉ではなくて社会全体のムーブメントにしていく必要がありますよね。まさに、スマートグリッドやスマートシティの領域でもありますし、ビッグデータもキーワードになってきます。これからの社会を考えるときに、企業競争だけでなくて最適化ということを考えないと狭い地球ではやっていけない。

先日、ある教育関連のシンポジウムに参加してたのですが、とても驚きました。私は、プログラミング教育に興味があって出かけたのですが、そういう言葉は一切出てこない。シンポジウムが終わってから登壇者にそのことを聞くと、たしかにオバマ大統領の発言など米国の話題は知っているが、それよりも優先課題が自分たちにはあるというのです。

ところが、その課題というのを聞くとデジタルで解決の糸口が見つかると思えるものがある。門外漢だからかもしれないですが、いま一般のユーザーは、スマートフォンで生活を便利に、自分だけで解決できないことはネットで聞くなどやっているのにです。このデッドロックを解く方法は、大胆なヒューマンリソースの交流しかないと思いました。IT人材を世の中のさまざまな分野に一定数置くようなしくみが必要ではないですかね」

text:野田香里

遠藤諭氏

えんどう・さとし
遠藤 諭

株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員
1956年長岡市生まれ。1985年アスキー入社、1991年~2002年『月刊アスキー』編集長。株式会社アスキー、および関連会社(当時)のアスペクト取締役などを経て、2008年よりアスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長、2013年より現職。角川アスキー総合研究所では、2010年より実施している1万人調査をはじめネット時代のライフスタイルを分析・コンサルティングしている。著書に『計算機屋かく戦えり』、『ソーシャルネイティブの時代』など。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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