最近よく耳にするレーシック手術――目の表面にある角膜にレーザーを照射することで視力矯正を図る角膜屈折矯正手術の一種です。実はこれ、30年以上も前に発見された技術が基になっているのをご存知ですか? このレーザーの名前は、エキシマ・レーザー。IBMのワトソン研究所に所属する物理学/化学チームが1975年に開発した技術です。IBMが物理学? 化学? と思うなかれ、この研究所は、かつては日本の江崎玲於奈氏などノーベル賞受賞者も多く在籍した、米国基礎研究の砦なのです。

世紀の大発見は食べ残した七面鳥から!?

当初は半導体の基板加工など、工業的な用途にしか使われていなかったこの技術。それぞれ物質科学者・化学者・物理学者と異なる専門領域のスペシャリストであるサミュエル・ブラム(Samuel Blum)、ランガスワミー・スリニヴァサン(Rangaswamy Srinivasan)、ジェームズ・J・ウィン(James J. Wynne)のチームは、このレーザーを使った「次」の領域を模索していました。

そんな最中の1981年11月26日、スリニヴァサンが七面鳥の食べ残しを研究室へと持ちこみます。そう、この日はアメリカ人が最も大切にしているイベントの1つ、感謝祭の翌日。神に感謝し、家族でゆっくりと過ごすこの日の食べ残しにも、神の祝福が宿っていたのかもしれません。七面鳥の骨や肉にエキシマ・レーザーを照射してみたところ、周囲の組織に損害を与えることなく、狙った部分を正確に切り取ることに成功したのです。

1本の髪の毛に刻まれた“IBM”の文字

生物へのレーザー技術の利用が可能であることを確信した3人は、全世界にそのインパクトを示すため、人間の髪の毛にレーザーでエッチング(表面を削り、そこを染色して模様を浮き出させる手法)した画像を作成。“IBM”の3文字が刻まれた髪の毛の拡大画像は、彼らの狙い通り、世界中に衝撃を与えたのでした。

このイノベーションを発見した3人の科学者は、2012年にオバマ大統領からアメリカ国家技術賞を授与されています。

科学者の次なる夢とは?

この偉大な発見に関わった科学者の1人、ウィンは、次なるイノベーションに向けて研究を進めています。“スマート・メス”と彼が名付けたその新技術は、レーザーによって、死滅した肌細胞を、周辺の生きている細胞を傷つけることなく取り除くことができるようにするものです。ウィンは語ります。「私の情熱は、レーザー技術が医学にもう1つのパラダイム・シフトをもたらすことに注がれている」と。

photo:Thinkstock / Getty Images