特定非営利法人育て上げネットは、さまざまな事情で「働きたいのに求職活動ができない」「働く意思を持ちづらい」若者の就労支援に取り組んでいる。昨年、民間で初の『若年無業者白書』を作成し、10年間蓄積してきたデータを分析して就労支援の現場に活かそうとしている。
一人ひとりの個別性が重視される対人支援のプロセスに、データ分析で明らかになったどのような知見が効果をもたらすのだろうか。社会課題の解決にデータを活用する方策を工藤啓理事長に伺った。

求職行動にたどりつけない若者の就労支援

内閣府の『平成25年版 子ども・若者白書』によると、「15〜34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者の数」は63万人で、同年代の人口のうち2.3%を占めている。いわゆる「若年無業者」は大きく三類型に分けられる、とNP0法人育て上げネット理事長の工藤啓さんは言う。

工藤啓氏「第一に、働く意思があって求職活動をしている〈求職型〉。これは定義上、失業者と同じです。第二に、働きたい希望はあるけれど現実に求職活動をしていない〈非求職型〉。第三に、そもそも働きたい希望を表明していない〈非希望型〉。推計では第二、第三の人たちが63万人ということになります」

1990年代にフリーターやひきこもりが社会問題化し、2003年には内閣府、経産省、厚労省、文科省合同で日本初の若者を対象にした支援政策「若年自立・挑戦プラン」が策定された。「ニート」という言葉が初めて新聞の一面に出たのは2004年。その当時から育て上げネットは、さまざまな事情で「非求職型」「非希望型」の状態に陥っている若者の就労を支援してきた。

「10年かけて1万人近い若年無業者の就労支援をしてくると、どんな人が無業になりやすいのか、しだいに見えてきます。そこで、年間約150校の高校に出向いて講座を開いたり、リスクの高い生徒に対するカウンセリングを行ったりしています。2年前からは、困窮家庭の小学校4年生から中学校3年生までの子どもたちに学習と生活の支援も始めました。また、無業の若者や不登校の子どもを抱えている保護者へのサポート事業も行っています。若者への就労支援、保護者へのサポート、広い意味での教育。この三つが事業ドメインです」

施策の前提となるエビデンスを提示したい

育て上げネットは昨年、不特定多数の小口寄付を募るウェブのクラウドファンディングで資金調達し、立命館大学と協働して『若年無業者白書 その実態と社会構造分析2012-2013』を出版した。基づいたのは、2012年1月から2013年6月までに支援した14歳から43歳までの2,333名分のデータだ。

工藤啓氏「非求職型と非希望型の若年無業者に年間1,500〜3,000人の単位で対面している組織は、おそらく僕ら以外にありません。戦後から延々と2000年代まで、行政の執行機関名に〈若者〉と付く部課が見当たらなかったくらいなので、求職活動に至らない無業の若者を支援する公的な仕組みも無きに等しく、それに付随して研究者による若年無業者を対象とした調査も成されていない。だから今までは、極めて乏しいエビデンス(根拠となるデータ)で政策を提案し、立案せざるをえない状況でした。
より適切な政策や情報発信、人材育成は、社会的な調査で得られたエビデンスが前提になります。一団体による限られた母数とはいえ、少なくとも現段階で僕ら以上のサンプル数と内容を集めている政府機関も自治体もないので、分析に研究者の協力を得て信頼性を高め、公表することにしました」

求職活動中の若年失業者はハローワークなど公的なセーフティネットで捕捉できる。しかし、たとえば他者との関わり方に困難を抱えていたり、自己肯定感が極端に低かったりなど、何らかの要因で就職への自信を得られず、不安や緊張で立ちすくんでいる若者は、日本の現状ではセーフティネットから漏れてしまう。そのまま放置すれば、社会保障の支え手となるべき若者が、支えられる側に回ることを意味する。

「そうした若者が希望する就労を促し、将来の納税者となってもらうことは社会投資のひとつ、と僕らは考えています。したがって本来は、これから若者に支えられる側の年配の世代ほど、支援の声を上げてもらいたいのです。しかし定性的・情緒的なプレゼンでは真意が伝わらず、そんな若者はただ怠けているだけ、甘えているにすぎない、といった感情論を招き寄せがちなので、定量的・具体的なエビデンスを提示して納得していただきたい、という思いもありました」

プロボノプログラムを利用してコスト解析

一方、『若年無業者白書』の制作と並行し、別の側面でも「エビデンス」の重要性を改めて認識する出来事があった。IBM社員によるボランティア活動としてのプロボノ(プロボノとは職業上のスキルを提供して社会貢献するボランティア活動)支援を得て、業務分析やコスト解析に取り組んだことだ。バックオフィスの業務内容とそれにかかる時間を洗い出し、1分当たりのコストを算出して作業時間と年間回数を掛け合わせると、1年間にその業務にかかる金額がはじき出される。

「内線電話の取り次ぎに36万円、湯沸かしポットのお湯足しに24万円などなど……ここまで出すの!?  というくらいに詳細なコストが判明したのです。その結果、業界特性の低い経理や総務など単純業務の割合を下げて、会員管理や広報など顧客にとって付加価値の高い業務に注力する必要があるとの指摘を受けました。するとITの活用や無駄な業務プロセスの省略といった、課題点ごとの改善策が明らかになってきたのです」

バックオフィスの業務フローとコストを可視化することで、隠れていた無駄な時間と経費が浮き彫りになり、削減の方策が立つ。その結果、スタッフの時間という貴重なリソースを、より本来業務に集中させることが可能だ。

こうしたIBMとの出会いが、さらに新たな価値を生むことになる。育て上げネットの10年間で蓄積した支援者データを分析して、これからの若年無業者の就業支援に活かす試みが始まったのだ。

text:谷川国彦

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工藤啓氏

くどう・けい
工藤 啓

NPO法人育て上げネット理事長
1977年東京生まれ。成城大学中退、米国ベルビューコミュニティーカレッジ卒業。帰国後、NPO法人設立。金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師なども務める。著書に『育て上げ-ワカモノの自立を支援する』(駿河台出版)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事-』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる “はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)他。
育て上げネットホームページ http://www.sodateage.net/


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