再生プラスチックを転換し菌を死滅させる、その名は「ニンジャ」

ナノテクノロジーと医学・生命科学・生物学などの学問的知見を融合させ、高度な医療を実現することを目指す研究、ナノメディシン。10億分の1メートルという領域で、細胞や遺伝子に作用する薬や、それによる変化を検査・計測する技術の開発などが行われています。昨年、このナノメディシン分野で、画期的な発明が発表されました。
コンビニや自動販売機で売られている飲料の容器である、ペットボトル。これに由来する廃プラスチックを、抗菌剤となる新しい分子に転換することを可能にしたのです。水虫といった皮膚感染から、生命に危機を呼び起こす血液感染まで、さまざまな感染症を呼び起こす真菌に対し、この薬は驚くべき効果を発揮します。

従来の薬剤では、この真菌を、細胞の内部まで入り込んで完全に破壊することは困難を極めていました。真菌が死滅に至らないケースも多かった上、生存した真菌は進化し、攻撃してきた薬に耐性を持ってしまいます。また、健康な細胞と見分けがつきづらいという性質から、病に侵されていない細胞までも攻撃してしまうという欠点も克服する必要があったのです。
新しい抗菌剤は、これら従来の薬剤にあった弱点を解消。細胞膜壁を破壊してしまうため、真菌を、やっかいな耐性を持たせることもないまま完全に死滅させることができるほか、正常な細胞を攻撃してしまうこともありません。さらに、細胞を攻撃したあとは、自然と生体内で生分解され、消え去ってしまうのです。狙った菌だけを、確実に破壊し、静かに消える……この特性から、新しい抗菌剤には「Ninja Polymers」(ニンジャ・ポリマー)という愛称がつけられることとなりました。

「Ninja Polymers」(ニンジャ・ポリマー)のコンセプトムービー(英語)

IBM Researchによる「Ninja Polymers」の概要はこちらから(英語)

ニンジャ・ポリマーがもたらす、清潔で健康な世界

アメリカでは少なくとも毎年200万人もの人が真菌感染症となっており、23,000人が死亡しているといわれます。衣服やカーペットといった二次製品にしか利用できなかった廃プラスチックに、有用な活用法を見出したことも含めて、この発明がもたらしたインパクトは大きいと言えます。

ニンジャ・ポリマーを生み出したシンガポールのバイオ工学・ナノテクノロジー研究所とIBMの共同研究チームは、抗菌剤の研究を更に進め、次に挙げるような未来を作り出したいとしています。まず、抗菌剤の作用する対象を、さらに広げること。真菌にかぎらず、たとえば癌細胞のような、人間に害をなす他の細胞も破壊できる治療薬の開発を目指します。また、ニンジャ・ポリマーは「ポリマー」の名の通り、繊維や樹脂といった形で、人々が生活する上で使用する道具や機器に配合することができます。病室のドアノブや手術台といった医療用具から、公園の遊具や歯磨き粉、香水などにいたるまで、あらゆるところへこの抗菌剤を加えることが、理論上は可能です。それを実行に移していくことで、人間はより健康な生活を手にすることができるでしょう。より清潔で、安全な世界を目指して。最先端の研究がいまこの瞬間にも進められています。

photo:Thinkstock / Getty Images

研究に携わった山形大学福島助教によるニンジャ・ポリマーの解説はこちらから
再生プラスチックが狙った菌だけを死滅させる――医療を変えるかもしれない「生分解性ポリマー」の可能性