水虫から生命の危機にいたる感染症まで、世界中で毎年10億人を超える患者を生んでいる真菌感染症。従来の抗菌治療法では、菌が薬剤に対する耐性を持ってしまうという問題や、健康な細胞までも攻撃してしまい副作用を生むという欠点を抱えていた。
IBMの研究員と、シンガポールのバイオ工学・ナノテクノロジー研究所の研究員は、この問題に着目し、狙った菌に耐性を持たせることなく静かに殺し、あとは水に分解され体外に排出されるという、「ニンジャ・ポリマー」という愛称で呼ばれる非毒性生体適合性材料を研究・開発した。
このニンジャ・ポリマー開発の経緯、そしてその応用は、我々の生活をどう変えていくのかを、2009年〜2011年まで米国IBMアルマデン研究所で同研究に携われた山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻の助教 福島和樹博士にお話を伺った。

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ニンジャ・ポリマーの研究を経て、いま福島博士が研究しているものとは

福島和樹氏私は「バイオメディカル分野への応用を目標とした機能性材料・自己組織化ナノ材料の開発、有機分子触媒の高分子化学への応用」という幅広い分野にまたがった研究をしています。ひとことで言えば「医療に使える材料を、安全な方法で生分解性のポリマーを用いて、開発している」という感じです。ですので、現在もニンジャ・ポリマーの研究の延長にいるという気持ちもあります。生体にやさしい分解性ポリマーの研究開発、その全般に関われた経験を応用して、また別のものを研究しています。

科学者を志したきっかけは、学校にあったエジソンや科学者たちの伝記

小学生の頃から、色々な伝記を読んで「科学者はおもしろそうだな」という漠然とした憧れがあったんです。科学にも物理や化学など色々な分野がありますが、特に白衣を着てフラスコで液体を混ぜて……、みたいなところに憧れがあったので、とりあえず化学だなと入っていきました(笑)。その後、中学や高校ではバスケットボールに熱中していたのですが、大学に入る頃からまた色々と勉強するようになりました。
そして大学4年のときに、環境問題やエコに注目が集まっていたこともあり、魅力を感じていた生分解性ポリマーの研究室を志望したんです。その頃は生分解性ポリマーでプラスチックの代替になるようなものをつくろうという方向でしたが、その一方で医療材料に使うという方向もあり、大学を出てからは医療材料の道に進みました。

「学問」としての研究と、「それをどう使い社会に還元するか」という研究

福島和樹氏研究が世の中に与えるインパクトが強いのは、やはり医療材料の分野なんです。大学にいる間は与えられたテーマがあるので、なかなかそちら側には行けなかったのですが、化学者や研究者として華やかに見えるので、ずっと憧れもあり、そちらに進みました(笑)。

私が大学で研究していたときに指導教官に言われた印象深い言葉があって、それは「学問や基礎研究は超一流の人たちにまかせて、もっと実用的な社会に還元するような研究開発で金を稼げ」という内容だったんです。学問としての研究をやる人ばかりじゃなくて良いという考え方には非常に共感したので、使えるもの、使えそうなものにアンテナを張って、いろんなことを考えるようにしていました。

今こうして大学で研究者としては働いていますが、そういう経緯もあって私は「卒業したら企業に入ってお金を稼ぐぞ」という思いが強かったんです。どちらかといえば、その方が自分に合っているとも思っていましたし。
ただ、IBMアルマデン研究所に行ってからは「こうしたらどうかな?この現象はどうして起こる?」がきっかけになって実験してみるという、サイエンスを解明する自発的な研究も増え、結果として基礎研究と実用、両方の視点を持つことができたとも思います。

今後の直近での目標としては、実際に医療現場で使われる材料を開発したいと思っています。この何年かで私は祖父母を亡くしたのですが、どちらも血管系の病気だったので、そういった病気に効果のある材料を作りたいと思っています。

text:照沼健太

福島和樹氏

ふくしま・かずき
福島 和樹

大学院卒業後、2007年に米国スタンフォード大学化学科の客員研究員として渡米。2011年まで米国IBMリサーチ契約研究員としてニンジャ・ポリマーなどの研究に携わる。2011年から現在までは山形大学で研究室を開設。助教として指導・研究を行っている。

研究室公式サイト:http://polyweb.yz.yamagata-u.ac.jp/~fukushimagroup/


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