マーケティングの世界に大きな変革が訪れている。従来あまり活用されることのなかった多様なデータを分析し、企業のマーケティング戦略決定に生かす動きが急速に広がってきた。デジタル革命により、世界の情報量は今後10年で数十倍に増えるという予測もあり、今やビッグデータを企業活動に生かせるかどうかで命運が分かれる時代になった。
そこで、ベストセラー『SEXY LITTLE NUMBERS データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』の著者で、米国におけるデータ分析の第一人者ディミトリ・マークス氏に、ビッグデータを経営に活用する意味について伺った。

前編はこちら

ビッグデータを使って何を知りたいのかを明確に

――日本では産業界・公的部門とも、ビッグデータの活用はこれから本格化するところです。専門家としてアドバイスがあればお願いします。

マークス 特にアドバイスしたいことは、ビッグデータを使って何をしたいかをきちんと把握するということです。日本企業向けのセミナーでも申し上げたのですが、まず自分が何を欲しているかを明確にし、それに基づいて仮説を作り、分析していくというのが基本的なやり方です。そして誰に、どのようなメッセージを伝え、どのチャネルを通すか。予算をいくらかけ、有効性をどう測定するか。最適化をどう図るか。

ところが、ともすると技術やデータに魅了されて、自分がもともと何に疑問を持ち、何を知りたかったのかを忘れてしまいがちです。これは気をつけなくてはいけません。
データ・サイエンティストのサービスも始まっていますが、データが宣伝部門や顧客部門、その他の部門にばらばらに保存されているので、それらを全部つなぎ合わせてビジネスに役立つデータを作るには時間がかかります。
ところが、ともすると技術やデータに魅了されて、自分がもともと何に疑問を持ち、何を知りたかったのかを忘れてしまいがちです。これは気をつけなくてはいけません。
データ・サイエンティストのサービスも始まっていますが、データが宣伝部門や顧客部門、その他の部門にばらばらに保存されているので、それらを全部つなぎ合わせてビジネスに役立つデータを作るには時間がかかります。
組織全体を見渡してどこにどんなデータがあるかを知り、それを組み合わせて戦略を立てるリーダーシップを確立しなければなりませんが、日本では海外企業に比べてCMO(最高マーケティング責任者)の必要性や重要性がまだ認知されていないように思います。

どの国でも、ビッグデータはホット・トピックスで、重要性はよく知られています。マスコミの人気テーマにもなっていますが、その先にあるビッグデータを駆使したときの衝撃の大きさまでは理解できていないと思います。

個人情報の収集とプライバシー保護

――ビッグデータの利用については、プライバシー保護をめぐる議論も起きています。利用を広げるために、データの収集や活用の方法、透明性の確保などについて、どのようにお考えですか。

マークス プライバシーもホット・トピックスの1つで、どのセミナーに出てもこの問題を必ず聞かれます。顧客にとっては自分のデータがいろいろな形で収集されるわけですから、当然です。問題は透明性です。業界は努力をしていますが、まだ100%とは言えない状況です。
この問題が出ると、どうしても否定的な議論に陥りがちです。私としては、個人情報は正しく管理されているという前向きな受け止め方に変わってほしいと思っています。
これについて米独仏英で調査したところ、人々は個人情報の提供により対価として何が得られるかが明確な場合は、情報提供に問題はないと考えているという結果がでています。価値の交換が明確になっていれば、提供してもいいと考えている人が多いのです。

財務管理サービスをするMint.comは、企業向けに「財務情報の提供と引き換えに財務改善のお手伝いをさせていただきます」と価値の交換を呼びかけており、実際に同社に多くの人が財務情報を提供しています。またAmazonの利用者は、自分の購入履歴に基づいたさまざまな「おすすめ」情報が届くのを見て、情報提供してもよいと感じているはずです。
これらは価値の交換が明確で透明性の高い例ですが、多くの企業はまだ価値の交換を十分に定義し切れていません。その場合、消費者はプライバシーが侵害されていると考えがちです。ですから企業は、消費者の動向を追うことは消費者にとってもプラスだということを広く伝える必要があります。

消費者は、無料でいろいろなネットのコンテンツを見ることができます。その背後には実は広告主がいて費用を負担しているわけですが、その仕組みはあまり語られていません。消費者としてはそれが当たり前だと思っているので、自分の情報が取られることに拒否反応を起こすのです。

消費者がデータを提供するかしないかを選択できる仕組みも導入されています。例えばウォール・ストリート・ジャーナルなど多くの新聞社や出版社系のサイトは記事の冒頭部分だけを無料で読むことができますが、その先を読もうと思えば有料になり、個人情報の提供が必要になります。自分が情報を提供しなければ相手からも情報を入手できず、不利が生じるわけです。このように消費者が選択できるようにする動きはもっと増えていくと思います。

データ・サイエンティストの育成

――ビッグデータの活用が今後の企業活動にとって非常に重要であることは分かりましたが、日本ではデータ・サイエンティストの圧倒的な不足がネックになっています。各国はどんな状況なのか、また専門家の教育や訓練についてのご意見をお聞かせ下さい。

マークス 日本のデータ・サイエンティストの人材不足が他の国と比べて最悪だとは思いません。日本人の数学の能力は世界でも上位ですが、米国は27位です。世界全体で人材の需要が多く、とても足りません。GoogleなどのICT企業がたくさん集めるので、獲得競争が激しく、給料も天井知らずです。
そこで、企業は数学の得意な人材が多いインドやロシアから人を連れて来るとか、インドのバンガロールに仕事を外注することを考えています。人手に頼る分析作業をもっと自動化する方法もあります。

データ・サイエンティストには4つのタイプがあります。①数学や統計学を熟知している科学者、②専門知識は科学者ほどではないがマーケティングの知識も兼ね備えたアナリスト、③熱狂的なマーケター、④戦略を立案し業務のリーダーになれる人、です。
それぞれに育成の仕方があり、各タイプの人材がバランスよく機能しないと、ビッグデータ活用はうまくいきません。中でも2番目の要件を満たすアナリストを見つけるのは難しい。育成する際は、数学の基本がある人にマーケティングを教えるのが効率的で、その逆はうまくいきません。

text:木代泰之

ディミトリ・マークス
Dimitri Maex 

ディミトリ・マークス氏は、オグルヴィ・アンド・メイザー・グループのデジタルおよびダイレクトマーケティング部門「オグルヴィ・ワン」のマネージング・ディレクター。同社のデータ分析の第一人者。米フォレスター・リサーチ社が業界NO.1と認めるグローバル・データ・プラクティス・チームのリーダーでもある。計量経済学と現場の経験を基にした独自のデータ分析手法を開発し、グラクソ・スミスクライン、IBM、フィリップス、シーメンス、UPS、ユニリーバ、シスコシステムズなど、さまざまなグローバル企業に適用し、各社で実績を上げている。


Sponsor Content Presented ByIBM

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。