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世界に存在するすべての知識を蓄積していて、どんな質問にも即座に答えてくれるコンピューターがあったら――。SF小説によく出てきそうな設定ですが、それに近いマシンが、実はすでに存在しています。その名は「ワトソン」。IBMの開発した人工知能です。

積み重ねられてきた研究を統合した、スーパー人工知能

クイズ番組「Jeopardy!」に出場したワトソン

ワトソン・プロジェクトは、2009年に発表された「考えるコンピューター」をつくる計画。その最初の挑戦として位置づけられた、アメリカで50年の歴史を誇る超人気クイズ番組「Jeopardy!」へのチャレンジでは、番組内で圧倒的な強さを誇るチャンピオン2人を相手に、2億ページをも超えるテキストデータ(本1冊200ページとして、100万冊分)を取り込んだ「修業」の成果を生かし、激戦の末に勝利するという快挙を達成しました。

しかし、ワトソンのすごさは、そのデータ量だけではありません。2,880個ものプロセッサー・コアをつなぎ、1秒に8兆回もの演算を実行できるというその処理速度も売りの1つ。ですが、一番のポイントは「質問の意図を理解した上で、最適な答えを出してくれる」こと。世界中の学者が積み重ねてきた、知識処理・自然言語処理・機械学習などの研究成果を統合して、質問に答えられるように知識を蓄え、質問を適切に解釈し、応答する仕組みを作り上げました。まさに、技術の粋を集めた結晶といってもいいシステムなのです。

ワトソンが、人類の「相棒」になる!?

米コンピューター歴史博物館に展示されたワトソン

クイズ王に勝利したワトソン。では、この技術は世の中をどう変えるのでしょうか。IBMは3つのシナリオを示しています。コールセンターやヘルプデスクなどでの業務を支援する顧客サービスへの利用、膨大な演算でより精度の高い投資先やタイミングの決定を行う金融サービスへの利用、そして医療・ヘルスケア分野への利用です。

医療・ヘルスケアに対する応用は、IBMのワトソン・チームが最も力を入れているプロジェクトの1つです。たとえば、ガン専門医への支援においては、多様化するガンの症例に対して、学習した膨大な量の診察データにもとづいていくつかの仮説を提示することで、医師の誤診を減らす助けになっています。また、診療の現場だけでなく、医学生の教育にワトソンを利用しようという動きもあります。医学生が取り組む教育プログラムの中に臨床シミュレーションがありますが、それにワトソンとの対話を取り入れることで、学生たちは、適切な質と量の情報や仮説の提供を受け、それを基に検討を行いながら治療方針を決めていく、丸暗記ではないプロセスを学ぶことができるのです。

人々が迷ったときに、最適な選択肢を示してくれる“頼れる相談相手”へ――「ワトソン」はIBMの初代社長がその名前の由来だそうですが、我々人類にとっては、コナン・ドイルの名作小説に出てくる、探偵ホームズの相棒のような存在になってくれるのかもしれません。