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クレジットカードの歴史をひも解くと、1958年にバンク・オブ・アメリカがVISAの前身であるバンクアメリカードを発行、アメリカン・エキスプレスが1959年にクレジットカードのシステムを導入し、日本でも1961年にJCBが登場している。しかし他の先進国と比べて、日本はクレジットカードの利用が遅れており、今なお現金での決済が一般的だ。
しかし近年、SquareやPayPal Hereのような、日本の現状を変える可能性を持つモバイル決済サービスが次々と登場してきている。これらはカードリーダーを装着したスマートフォンやタブレットでクレジットカードを読み取って決済を行うシステムで、手数料も3%台と控えめなこともあり、小規模な店舗でも導入しやすい。
クレジットカードが使えるシーンが拡大しつつある現在、今後の買う、売るといったフローがどのように変貌していくのか。クレジットカード決済サービス「Coiney」を提供しているコイニーの佐俣奈緒子社長にお話を伺った。

「リアル」が変わらないと人の生活は変わらない

——Coineyを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。

佐俣 学生時代から、証券や株式なども含めてお金まわりのサービスに興味があり、新卒として最初に働いたのがペイパルでした。しかし当時は決済業界そのものについての関心はまだ低く、ペイパルについても、あくまでイーベイで使う支払いツールを提供する、シリコン・バレーの会社というイメージが強かったんですね。

やがて、アメリカの企業から日本の市場を見ていくなかで、日本にはいろいろな形の決済環境があることが見えてきました。おサイフケータイやスイカのような電子マネーがある一方で、コンビニ払いや代引きといった、日本特有の決済システムも存在している。ただ、お金を払う側の一般消費者からするといろいろな選択肢があるのですが、お金を受け取るお店側に立ってみると意外とサービスの選択肢が少ないのです。現金以外の決済ソリューションをもっと世の中に広めていくうえでの第一歩が、お店側がシステムを導入することであるにもかかわらず、です。

2009年頃は、オンラインではペイパルのようなサービスがありましたが、リアルな店舗で、このギャップを埋めてくれるサービスが、当時は見当たりませんでした。またお金を払う立場から見ても、やはり現金での取引には結構面倒な部分があると思います。長期的にはキャッシュレス社会というものができれば、一般消費者にとっても便利だなという気持ちもありました。だから、このギャップを埋めるような仕事をしたいと思ったんですね。

コイニー社内

マクロで見ると、オンラインでの決済は数%にしかすぎず、96〜97%はリアルな店舗などでのやりとりです。このような状況では、リアルな部分が変わらないと、人の生活は本当には変わらないのではないかと思ったのですが、この分野に進出する企業はないようでした。そうであれば、自分で始めようと思ったのがきっかけです。

他にも、新しい時代の通貨とは、新しい時代の銀行とは何だろうといった、お金にまつわること全般に興味があったのですが、やはり当時の自分がよく理解していた世界が決済だったこともあり、そこから始めてみようと思ったのです。

クレジットカードを使うコストを下げる

——どのようなときに、クレジットカードが使えなくて不便だと感じますか?

佐俣 家に来てくれるサービス全般がそうですね。私は1年に1回くらい引っ越しをするのですが、引っ越しには前金だけでなく、当日にも支払いが発生します。これが結構な金額になるのですが、その場ではクレジットカードは使えないので現金で払うしかない。
あとはピザなどをデリバリーしたとき、現金が足りなくて、ピザが届く前にコンビニに行って用意しておくとか(笑)。これは無駄な作業だなと思います。また地方に旅行に行ったとき、タクシーやペンションなどでもクレジットカードが使えなくて、不便だなと感じました。

地方、そして都心でも、店舗を離れたところで行われるサービスでクレジットカードが使えない。これは改善の余地があるんじゃないかと。そして、このような場合にクレジットカードが使えるサービスを提供できれば、それは市場としてかなり大きいのではないか、ということを思いました。

——地方のお店や個人経営のお店などで、クレジットカード決済システムが導入されていない理由はどのようなところにあると思いますか?

佐俣 まずは導入費用が高いということですね。クレジットカード支払の処理をする端末が高価なので、「導入するのに10万円もかかるなら、いまのままでいいか」と考えているのではないかと思います。あと、クレジットカード決済後、実際にそのお店の銀行口座に入金されるまでのスパンが長い。さらに決済手数料を5〜6%も取られると、入ってくるお金が減ってしまいます。理由としては、だいたいこの3つではないでしょうか。キャッシュフローも含めてオペレーションをコストと考えると、このコストの高さで踏みとどまられる方が多いのではないかと思っています。

——導入してもらうためには、コストを下げるのが一番効果があるということですか?

佐俣奈緒子氏

佐俣 一例をあげると、いままでは、コストの一要素である決済手数料がブラックボックスでした。たとえば私がお店を始めるとしましょう。そのとき、やはりクレジットカード決済は必要と考えてカード会社に届けを出したとします。しかし、この時点では決済手数料がわからない。登記簿を提出したり、手続きが全て終わってからはじめて「じゃあ、あなたは手数料何%です」と言われるんです。これを一律料金にするなど、サービスとしてもっと改善できるのではないかと思ったのです。

クレジットカードを使って買い物をする場合、一回あたりの購入金額は増える傾向にあります。現金が足りないから買うのをやめていた人も、カードが使えれば購入していたということもあると思います。ですから、購入の機会損失を減らすことでトータルで売り上げを伸ばし、しかもクレジット決済にかかるコストを下げることができれば、幅広い事業者に受け入れられるのではないかと思いました。

自分が成長しなければならない理由

——Coineyを始めてから、当初の想定と違うと感じたことはありますか?

佐俣 事業を立ち上げるには時間がかかるなと、あらためて思いました。新会社を登記するのは簡単です。しかしそこから、サービスを作る、会社の与信を高める、組織を作るといったことは、一日二日でできることではなく、考えて動くまでそれぞれ数カ月ずつかかります。そのなかできちんと結果を出していくためには、スピード感を高めながらも、着実に事業を進めていく力が必要だと感じています。会社を立ち上げてからサービス提供を開始するまでに、1年間という準備期間を費やしました。当初想定していたよりもだいぶ時間がかかったというイメージはありますね。

いま30人くらいの組織になっているのですが、この人数を経営者としてマネージメントするのは初めて。だからこそ、組織の成長スピードにあわせて自分も成長しなければいけないなと思っています。自分の成長が止まることによって組織の成長も止まってしまわないように、自分自身が起業家として成長できるかどうかが一番の課題でしょうか。

text:武者良太

後編はこちらから

佐俣奈緒子氏

さまた・なおこ
佐俣 奈緒子

コイニー株式会社代表取締役社長
大学在学中の2009年よりペイパルの日本法人立ち上げに参加。入社後、主にビジネス向けのマーケティングを担当し、2010年にアジア・パシフィック地域での優秀社員賞を受賞する。
2011年にペイパルを退社し、2012年にコイニー株式会社を設立。代表取締役社長に就任し、クレジットカード決済サービス「Coiney」をスタート。現在にいたる。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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