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「ネスカフェ アンバサダー」で知られるネスレ日本株式会社の快進撃が続いている。ネスレ本社はスイスにあり、世界のほとんどの国でビジネスを展開する世界最大の食品企業だ。その日本法人の「ネスレ日本」は、伸び悩む成熟先進国市場の限界を克服した「ジャパンミラクル」な成功モデルとして、世界で高い評価を得ている。人口が減少し高齢化が進む日本市場で、ネスレ日本はどのようにして高収益のビジネスモデルを確立したのだろうか。
2014年7月、日本アイ・ビー・エム株式会社が開催した「天城経営変革セミナー」の講師として登壇した同社の高岡浩三・代表取締役社長兼CEOは、「成熟先進国で起きている社会変化は、ビジネスモデル・イノベーションの好機」と強調。また、「経営トップがマーケティングを理解し、リーダーシップを発揮して初めてイノベーションは実現する」と情熱を込めて語った。

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ブランドに「ニュース」を作る

高岡 消費者とのコミュニケーションですが、お客様がすでに100%知っている商品はいくら広告しても売り上げは伸びません。そこでテレビ広告などの販促費を減らし、代わりにブランドに「ニュース」を作るようにしています。12年前、受験生応援キャンペーンで話題になり、以来、受験生や受験生を持つ親御さんたちの間でブームになった「受験にキットカット(きっと勝つ)」はその一例です。九州を中心に「きっと勝っとぉ」という方言と、当社の商品名「キットカット」の語呂合わせが広がっていることを知り、受験生を応援する活動をニュースとして広げ、大ヒットしました。

今や消費者は広告ではなく口コミなどを通じ商品を知る傾向が強く、共感すると自分もそれを拡散します。ブランドにニュースを作れば、ソーシャルメディアを通じて早く、しかも、ただで伝わります。このようにビジネスのやり方を変えることによって低コストで高効率なビジネスモデルを作り、私たちは利益改善を達成してきました。

イノベーションに求められるリーダーシップ

高岡浩三社長高岡 日本はすでに成熟期の国になっているのに、ビジネスモデルは依然として新興国時代のような部分が残っています。これを21世紀型の先進国モデルに変えていくには、企業の真ん中にマーケティングを据えて、ビジネスモデルのイノベーションを進めなくてはなりません。それにはリーダーシップがとりわけ重要になります。

ネスレ日本には全社員向けにイノベーションアワード(賞)を設けており、昨年は約1600件の応募がありました。イノベーションアワードは、アイデアだけを応募するのではなく、アイデアを実行して、その成果とともに応募してもらうしくみです。ヒット商品となった「焼きキットカット」を考案したのは応用開発グループの若い男子社員です。

イノベーションで仕事のやり方を変えようとすると、必ず抵抗があります。大体は社外より社内の抵抗が大きい。テレビ通販でコーヒーマシンを販売しようとしたときは、営業部門が反対しました。「家電量販店で売ってもらっているのに、迷惑をかける」と言うのです。
しかし私は、「消費者にとっての価値を実現するためにする」と宣言し、自分で家電量販店を回って説明しました。結果的に、テレビ通販開始後、当社の通販の売り上げが飛躍的に伸びたと同時に、量販店での売り上げも増えました。テレビ通販のコミュニケーションにより、お客様が製品の疑似体験をし、店頭で購入したからです。

菓子業界で「返品ノー」を宣言したのは当社でした。菓子業界は慣習的に流通で売れ残り在庫となった良品の返品と返金を受け入れており、例えばチョコレート製品では多いときで年間に100億~200億円も廃棄していました。
そこで、当社では2008年から返品を受け付けない方針を取りました。現在の返品率は輸送時の破損品などの0.3%しかありません。

また、エネルギー問題では、ネスレ日本は10年ほど前から工場にコージェネレーションシステムを導入しています。それは電気料金が高いことを当たり前とせず、電気をなるべく使わないで工場を動かす研究をしてきたからです。
法人税も議論がありますが、ネスレは法人税や社員の所得税を含めて、税金をきちんと払うことが、企業としての大事な義務であり社会貢献だと考えています。

この10年は本当にリーダーシップが必要な年月でしたが、社内は明らかに変わったと思います。イノベーションを行うには、トップが「責任は自分が取る」という姿勢でリーダーシップを発揮するしかない。それには正しいマーケティング理解に基づく判断と、企業の社会的責任という視点が大切だと信じております。

逆算の人生――42歳を人生の「〆切」ととらえる

高岡 最後に私の「逆算の人生」についてお話しします。私が10歳の誕生日を迎えたその日、父が42歳で亡くなりました。祖父も同じ42歳で亡くなっており、以来、私は高岡家の嫡男の寿命は42歳までという運命のようなものを感じるようになりました。男性の平均寿命が80歳という日本で、半分の寿命ということになります。
ならば、42歳を人生の「〆切」と考え、そこから逆算して、人の2倍の密度と速さで人生を駆け抜けようと決めたのです。

ネスレ日本の社長は、創業以来ほぼ外国人でした。日本人社員として生え抜きで社長になったのは私が初めてです。私は学生時代から「ブランドに関する大きな仕事をしたい」とずっと考えていましたので、大手広告代理店の内定を辞退し、ブランディングに関し超一流のネスレに入社を決めました。
今、父や祖父の歳を12年も長く生きていますが、これからもその志を貫いていこうと思っています。

text:木代泰之

高岡浩三社長

たかおか・こうぞう
高岡 浩三

ネスレ日本株式会社 代表取締役社長兼CEO
1960年生まれ。1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本株式会社入社(営業本部東京支店)。各種ブランドマネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリー株式会社マーケティング本部長として「キットカット」受験生キャンペーンを成功させる。2005年、ネスレコンフェクショナリー株式会社代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本株式会社代表取締役副社長飲料事業本部長として新しいネスカフェ・ビジネスモデルを提案・構築。利益率の低い日本の食品業界において、新しいビジネスモデルを追求しながら超高収益企業の土台をつくる。同年11月ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOに就任。


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