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株式会社MAGES.代表取締役社長 志倉千代丸氏(左)とIBM東京基礎研究所所長 森本典繁(右)

フィクションの世界だからこそ、ストーリーのバックグラウンドにあるリアリティが重要。それと同時に「事実は小説よりも奇なり」の言葉があるように、現実の技術の最先端も想像を超えた領域にある。
『シュタインズ・ゲート』をはじめとした科学アドベンチャーシリーズで、「もしかしたら、この世界は本当にあるのかもしれない」と思わせる世界を紡ぎ続けてきたゲームクリエイター・志倉千代丸氏と、将来のコンピューター・アーキテクチャーの変革を担うデバイス研究や機械学習とデータマイニングなどの最先端の研究を行っているIBM東京基礎研究所所長・森本典繁氏、IBM社のPC「IBM5100」がきっかけとなり対談が実現。分野の違う二人から見るコンピューターの未来と科学の進歩がもたらす可能性を語ってもらった。

IBM5100だったら最高のセキュリティが可能になると思ったんです(志倉)

――ゲームファンのみならず、多くの人が熱狂し、支持しているゲームおよびアニメ作品の『シュタインズ・ゲート』には、IBM5100をモチーフにしたキーアイテムが登場します。このIBM5100を作品世界に取り込もうとした理由を教えていただけますか。

志倉千代丸氏志倉 僕は12歳のときにはじめてMZ-2000というコンピューターを手にしたんです。作品に出すのはこのMZ-2000でも良かったんですけど、もっとコンピューターの原始的なところに近寄れないかと考えたんですね。また歴史上、最も謎とされたコンピューターはなんだろうと調べていったら、COBOLでもFORTRANでもBASICでもない、公開もされていないし一部の技術者しか知らない、IBM5100でしか動かないコンピューター言語の存在を見つけたんですね。

ファイヤーウォールなどを含め、最高のセキュリティって何だろうと考えたときに、今の言語ではアタックできない何かだろうと。中核のデータはそれこそ1bitのデータで済むはずなので、その1bitを守るだけだったらIBM5100用の隠されていた言語でいい。IBM5100だったら最高のセキュリティが可能になる、と思って『シュタインズ・ゲート』というSFを書いたんですよ。

――現実のIBM5100はどのような目的で作られたんですか?

IBM5100

1975年製、IBM初のポータブル・コンピューター「IBM5100」
(実機提供:片桐様)

森本 社内で聞いてみたんですよ、USの古株の人間にも。でも存在を知っている人も少なかったですね。よくIBM5100を題材にされましたね。

志倉 当時は、いつIBMさんに怒られるんだろうってドキドキしていました(笑)。

 

過去にメールを送るという発想、ビッグデータとのマッチングでできるかもしれません(森本)

――同作品ではタイムマシンもキーになっていますね。

志倉 タイムマシン、というか時間を超越する物語ですね。SFを志す人なら誰でも一度は書いてみたい、憧れるテーマだと思います。SFにも様々なテーマがありますが、時間ほど大きなテーマってないんですよね。
あとゲームって、そもそもセーブをして先に進み、ロードをして元にいた場所に戻ることができます。これもある意味、タイムトラベルなんですね。そういう意味ではすべてのゲームがタイムトラベルものだと思っているんです。

じゃあタイムトラベルをどうやってリアリティのあるものにしようかと考えました。現実としてタイムトラベル11の理論が現実のものになっていないから、この世界線にはタイムマシンがない、ということになっています。なら、新たな12番目の理論を思いついた厨二病の大学生がいるという設定にしたらどうかと。

また、当時僕が北海道にいる友達に携帯電話でメールを送ったら、数秒後に返事がきたんですね。そのとき、何も難しいことは意識せずに「何でこんなに速いのか」と感じました。どんな乗り物でも北海道に行って、また情報を持ち帰るって相当時間がかかるのに、データは何でこんなに速いんだと。だいたい光回線は本当に光の速さなのかとか、いろんな事を考えて……。もしかしてこの世の中で一番光速に近いのはデータなんじゃないかと思ったんですね。

そしてデータの速さは光速を超える時代がくるかもしれない。だったら過去にメールが送れるんじゃないかというところに行き着いて、これはタイムリープでもタイムマシンでもない時間をテーマにした新たなストーリーが作れるなと。

――フィクションの世界ではありますが、過去にメールを送るといった技術は将来的に可能になるでしょうか?

志倉 いや、IBMさんにはあるんですよ、すでに。きっと隠しているんですよ(笑)

森本典繁所長森本 私はエンジニアですから、どのような技術を使えば過去にメールを送るということが実現できるかを考えながら今のお話を聞いていたんですね。
たとえば、「あの時ああすればよかった」というある人の経験は、集合知として分析・パターン化すれば、将来同じ状況下におかれた別の人の助けになるのかもしれないなと思いました。
ある場面で欲しかった知識や情報を、事後過去の自分に対してアドバイスするメールを送り、それをデータベース化します。いろいろな人から集まるアドバイスをビッグデータ分析によってパターン化し、属性や状況などとマッチングして、自動的に適切なアドバイスをメールとして届けることができれば、原理的には過去にメールを送り、未来からメールが届くのと同じようなことになるのかなと。さすがにロト6の当選番号を送って役に立てるというのは無理ですが……(笑)

キャラクターの個性があれば、ゆるいデータでも許されるんですよね(志倉)

――IBMが昨年発表した未来予測コンテンツ「5in5 for 2013」では、「教室が生徒のことを学び的確な学びの環境を与える」「地元での購入がネット販売を超える」「医師は日常的にDNA診療を行う」「個人がデジタルセキュリティーで強く守られるようになる」「都市が市民をサポートする」という5つのイノベーションが語られています。この中で志倉さんが強く興味を抱いた項目についてお話いただけますか。

志倉 この中で気になったのは「地元での購入がネット販売を超える」ですね。デジタルだけだと行き詰まってきていて、デジタルから僕らのリアルな生活にどうやってフィードバックさせるのかという発明がまだできていないと思っています。

志倉千代丸氏たとえば渋谷にいて、グルメサイトを見て、この辺で美味しいお店……と検索すると300件くらい出てきてしまう。そのうちの一店に絞ってやっと行ってみると休日だったりして。サイト内には営業時間内と書かれているけど、店長の都合で店を閉めているときもあるでしょう。でもデータがシステマティックに感じるものだと「店、開いてないじゃないか!」と怒りすら感じてしまうものなんですよね、人間って(笑)。

ここで、僕らが作っているゲームのエンターテインメントの部分が役に立たないかって思ってまして。たとえば、技術としては新しいものではないけど、ARで街に出てスマートフォンをかざすとアニメの女性キャラクターが出てきて「次はあっちいってみようよ」「今日はパスタ食べようよ」と誘導してくれるんです。その誘導していく間にも物語は進行していくし、物語はデータセンターからどんどん出力されているので、どのような形にも分岐できるんですね。

そのAR彼女はプレイヤーの好みなどをどんどん学習して「またコーラ飲んでるの!?カロリー気にしてるって言ってたよね!」とか「たまにはオレンジジュースにしたら?」と会話が弾んでいく。外から見ると一人っきりなんだけど、プレイヤーはフィルターを通じてAR彼女とのコミュニケーションを楽しめる。AR彼女は体調管理をしたり、何百件とある周囲の飲食店店舗から2~3件に絞り込んで営業中のお店にちゃんと誘導してくれると。もし店が開いていなくても、キャラクターが「ごめんね」と画面の中で謝ってくれるだけで許せてしまう。

森本 確かに飲食店などを検索するときに、こだわりがあって探すわけではないケースが多いですよね。「何でもいいけど」って思いながら何となく和食を探しているとか。そのときに誰かが「うなぎ食べたい」と言ったら「それいいんじゃない」となったり。

志倉 誰かにちょっと背中を押してほしいんですよね。昔の言葉で言うともっとファジーな、ゆるいデータでいいんですよ。キャラクターの個性があればゆるいデータでも許されるんですよね。

ワトソン1号2号3号……がそれぞれ違う得意分野、性格を持つようになれば(森本)

志倉 IBMのワトソンも多くのユーザーが使えるようになったら、様々なユーザーからこれやって、あれやってと頼まれて、ワトソンくんは超大忙しじゃないですか(笑)。
いくらワトソンでも、そこまでの並列処理をやってのけることは不可能だろうと……かと思ってたら、それが一般にAPIが公開されるという。そうなるとワトソンとグルメサイトや、クイズとはまったく文化圏の違うデータベースがコラボレーションすることにもなってくる。だったらいま言ったことは、いま見えている技術だけで十分実現可能だと思うんです。

森本 そうですね。そのアイディアってお客さんに合わせてカスタマイズするというよりは自分がゆるくインタラクトする、何かそのデータベース自体に人格があるっていうイメージですよね。だからワトソン1号2号3号……とあって、それぞれが違う得意分野、性格をもっていたりして、バックエンドの知識を偏らせるわけですよね、ある意味。

志倉 そうですね。

森本 そうやって知識を提供してくるエージェントなりアバターなり自身が、人格を持っているようなイメージだと。

志倉 一回やってみたいですね。おバカなキャラクターであれば本来はワトソン級の脳はいらないんだけれども。ただ、ゆるい会話の中でなんとなくお店に連れて行ってもらって、あるメニューをオススメしてもらったら、少なくともその作品のファンは楽しめるんですよね。その一歩をどこかでできないかなって考えていますね。

デジタルの次は、五感に直結するものなのかなと(志倉)

――エンターテインメントの世界から見て、いまどういった技術が現実で使えるようになると楽しくなるだろうとお考えですか?

志倉千代丸氏志倉 たとえばストレージを例にとると磁気テープやフロッピーの時代から、今はHDDやクラウドと進化していますけど、どれも結局デジタルなんですよね。アナログがデジタルになり、その先は何になるの?ということをずっと考えているんですよ。すると「宇宙の果てって何だろう」というのと同じくらい、デジタルの次ってわからない。

アナログを0と1に置き換えてデジタルサンプリングするのではなく、別のことをするとデジタルの次が生まれるんだと思うんですよ。その1つは五感に直結するものなのかなと。より五感で感じたものを他の人にそのまま伝える技術。デジカメで撮った画像では、実際にその風景を見たときの感動は伝わらない。4K、8Kといってもデジタルで処理されたものには限界がある。

五つの感覚器からデータが入ってきて、電気パルスのようなものに変換されて脳に情報が行っているわけですけど、その部分とデジタルの先が関係あるんじゃないかなって思っています。
ADコンバータがデジタルサンプリングを実現したように、アナログ-パルスやデジタル-パルスコンバータのようなものが出てくると、もしかしたらアナログに近い状態で鮮度の高い情報を第三者に届けるという技術が、この次にやってくる技術なんじゃないかなと考えていて、それで初めて感動が共有できる…のかなと。だから、パルスについて色々と勉強しているところなんです(笑)

脳の仕組みを真似たチップの研究を行っています(森本)

森本典繁所長森本 とてもいいお話ですね。私たちとマッチングしてくる部分もあって。アプローチがアナログ側からなのか、デジタル側からなのか、その違いかもしれないんですけど、目指すところは似ている気がします。実はIBMでもSyNAPSEというプロジェクトを進めています。

人体に刺激を与えると、脳の中ではシナプスやニューロンの結合のなかでパルスの形となってその刺激が伝播するんですね。そこでこのパルスのパターンをどうやって共有するか、感激・刺激のパターンを記憶するか、アップロードするかなどをコンピューター・チップで実現しようとしています。

SyNAPSEチップでは256個のニューロン(*1)から刺激をインプットして、さらにパルスでアウトプットします。どんな刺激がどんなパルスのパターンとなるのかを記録できる、最初のプロトタイプを作ったところです。面白いのは、回路的にはデジタルではなくアナログに近いんですよ。

これを1000個くらい並列化させたものが、猫の脳くらいの処理能力になるんですね。人間の脳のシナプス・ニューロンを再現するにはさらに数百倍の規模が必要で、今は単純なことしかできません。どうやってチップに教え込むのか、プログラムするのかという部分が整備されていないので、そこは今後の研究課題ですね。

SyNAPSEチップはIT側の、一回デジタルにいっちゃった人たちの発明なのですが、いまのお話を聞いていて、志倉さんの考え方のほうが近道なんじゃないかなという気がしましたね。物からのアプローチではなく、心からのアプローチ。それこそSyNAPSEに魂を入れてほしいと感じました。道具はできつつあるので、その上で志倉さんにクリエイティビリティを発揮していただきたいですね。そういうのができたら楽しいですよね。

志倉 僕が最初に作った会社の名前は5pb.といいまして、これはファイブ・パワード・ベーシックって意味なんです。人間が基本的に持つ5つの力、五感からしか感動は得られることができないと思っています。人間はそれ以外のことを知覚できない。だからファイブ・パワーというところに注目してきたのですが………。そういう意味で、今日は、ここに来る運命だったのかなと。その運命に基づいて僕は『シュタインズ・ゲート』を作ってきたのかと、不思議な縁を感じますね。

MAGES.とIBMがコラボしたらとんでもない発明が生まれるんじゃないかな(志倉)

――近い将来、志倉さんとIBMがコラボレートするという世界線はあるのでしょうか。

志倉千代丸氏志倉 ありますね!IBMさんがもっている技術、教えてもらっていない技術、まだ世間に公開できない技術も含めて、もの凄く興味があるんです。ThinkPadもそうですけど、コンシューマーの方向にもっと向いてもらいたいという願いもあります。
逆に言うと、僕はコンシューマー向けのものしか考えていないんですよ。その技術的な部分はどうかというところを話し合っていくうちに、人間や社会を豊かにしてくれるとんでもない発明が生まれるんじゃないかという気もしていて……それをIBMさんがやってくれるなら、全然ありだと思いますね。

森本 先ほどから、ずっと目から鱗の状態が続いているのですが、我々IBMが機械とかシリコンのチップとか、ハードウェア的な方面から考えていることを、志倉さんはゴールのイメージからいとも簡単に見せてくれるので、今日はもの凄い刺激を受けました。だから、ぜひコラボレーションできるといいと思います。

text:武者良太

*1 対談当時。現在は100万個のニューロンを持つ第2世代チップも発表されています。

 

STEINS;GATE 聡明叡智のコグニティブコンピューティング

 

志倉千代丸氏

しくら・ちよまる
志倉千代丸

株式会社MAGES.代表取締役社長
『カオス・ヘッド』『シュタインズ・ゲート』『ロボティクス・ノーツ』をはじめとするゲームの企画・原作から作詞・作曲、音楽プロデュースなど、活動は多岐にわたる。現在は自身初となる小説『オカルティック・ナイン』の執筆の他、科学ADVシリーズ最新作『カオス・チャイルド』が12月18日に発売を予定している。
 
MAGES.(メージス)公式ウェブサイト
http://mages.co.jp/
5pb.Games
http://5pb.jp/games/

森本典繁氏

もりもと・のりしげ
森本典繁

日本アイ・ビー・エム株式会社 理事 東京基礎研究所 所長
1987年日本アイ・ビー・エムに入社。1995年マサチューセッツ工科大学のEECS(電気工学およびコンピュータ・サイエンス)にて修士号を取得。1996年にIBM東京基礎研究所へ。プロジェクトのリーダーを経て、2002 年から基礎研究所の技術戦略および管理部門を担当。2006年IBM リサーチ部門上級副社長の補佐として米国ワトソン研究所赴任。2009年5月より現職。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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