“会社は株主のもの”と考えて短期のリターンを追求する「株主資本主義」。
だが、それとは異なる新たな資本主義のかたちを唱える日本人経営者がいる。事業持ち株会社デフタ・パートナーズ・グループ会長で、内閣府参与 兼 経済財政諮問会議専門調査会会長代理も務める原丈人氏だ。近著『増補 21世紀の国富論』では、株主資本主義に代えて従業員や地域・地球環境などへの貢献を重視する「公益資本主義」を提唱し、自ら率先垂範している。近年は大企業経営者たちの間にも賛同の輪が広がっている。
スタンフォード大学留学中にインターネット草創期を迎えた原氏は、シリコンバレーを代表するベンチャー・キャピタリストの1人として、インターネット、ICT分野やバイオ分野の多くの先端企業を育ててきた。その経験をもとに、2000年当時からコミュニケーション機能を中心に据えたPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)を提唱し、その実現を目指してきた。ハードウェアとソフトウェアが一体化した知的工業製品であるPUCには日本に優位性があり、将来の基幹産業に育てるべきだと主張する。

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途上国ではODAや寄付ではなく、現地の人々が事業化できる第3の道を

――原さんは社会貢献事業として、バングラデシュで「デフタ・ブラック・ネット・モデル」を実践されているとのことですが、どのような内容の事業なのでしょうか。

 世界最大のNGO(非政府組織)であるブラック(BRAC=Bangladesh Rural Advancement Committee=バングラデシュ農村向上化委員会)と合弁を組み、2005年にブラックが立ち上げたインターネット接続通信会社にデフタグループが60%出資しました。
このモデルでは、仮に1億円の税引き後利益があれば、NGOであるブラックはその40%にあたる4000万円を全額、農村部の教育や医療の向上という社会貢献に使えます。ブラックは、5000カ所以上の学校や診療所を運営しています。(普通のCSRであれば配当後の残余利益の1%ぐらいしか使えません。)
これは社会貢献事業というよりは、21世紀の企業のあり方を先取りしたものです。

外国からの支援はODAか欧米の財団等による寄付か、どっちかしかないと思っている途上国の人々に対し、私たちは第3の道としてデフタ・ブラック・ネット・モデルを提示しています。営利会社を創り、その利益の20~40%を現地の社会貢献に還元する方法を示すことで、「日本企業は真に信頼できる相手だ」と言われています。ぜひ、これを読まれた方々も、同じような形式で、どんどん途上国への事業展開をなさってください。

デフタ・ブラック・ネット・モデルの説明図

出典:原 丈人氏

現在約70億人の地球人口は、2100年には100~105億人になると国連は予測しています。人口が減少する日米欧はロシアを加えても2050年には世界の12%にすぎなくなり、残り88%は途上国が占めると言われています。
これからは経済のエンジンは先進国に代わって途上国が果たします。パラダイムの大変換です。日本は欧米先進国とだけでなく、こうした途上国とも一緒にビジネスをしていくために、積極的に良好な関係を築くことが将来の繁栄につながります。

バングラデシュでは昨年9月、現地の企業家たちとバングラデシュ・ペトロ・ケミカル・コーポレーション(BPCL)という会社も立ち上げました。
貧しい国ではもともとあまり化学系のゴミは出ないのですが、最近のBOPブームとともに、海外からペットボトル入りの飲料や、低価格で販売するためのプラスチックの小分け袋に入れた石鹸やチョコレートなどの商品が大量に入ってきて、ゴミの山が急激に増えています。そこで私たちは捨てられているペットボトルにまず着目し、回収して街をきれいにすると同時に、洗浄し再生してペレットにして化学繊維の原料として販売することにしました。そうすることで雇用を増やし、環境を良くし、エネルギー、外貨の節約にも貢献することができます。

――アフリカのザンビアでは「スピルリナ・プロジェクト」を進めておられますね。

原丈人氏 ザンビアでは銅の採掘を始め欧米企業の株主資本主義を原理としたビジネスが盛んでしたが、それとは違うアプローチを取っています。スピルリナというたんぱく質の栄養豊富なアフリカ原産の藻類に着目し、栄養不良の問題を解決しようという計画です。援助ではなく、農民たちがスピルリナ栽培を事業化することによって、自らの栄養不良問題を自ら解決し、最終的に国連の支援を断れるまでに持っていく考えです。

若い頃エルサルバドルで考古学をしていたとき、内戦前夜で誘拐が多発するなか、東洋紡の子会社が被害にも遭わずに操業していました。 その会社は現地で上げる利益の多くを教育や公園建設等に寄付していました。現地の改革派住民は、それを知っていたのです。とても印象的でした。当時の伊藤恭一会長は若い私に諭すように教えてくれました。それは遠い中米の地で、「ビジネスをやらせてもらっているのだから、現地で上げた利益はその国に還元しよう」という大阪商人の心意気だったのです。

2012年のアフリカ首脳会議の場で、私は19カ国の政府代表や事務総長らに公益資本主義の理念を話しました。翌2013年には、19カ国首脳を招き、多くの日本の経済界のトップや安倍総理に参加いただいてAFDP(Alliance Forum Development Programme )アフリカ首脳・経済人会議を開催しました。
ここでアフリカ19カ国が加盟する最大の自由貿易連合のCOMESAと、アライアンス・フォーラム財団は覚書を取り交わし、スピルリナによる栄養不良改善の取り組みと、貧困層のための金融制度改革を実施することなど3項目を取り決めました。

先ほど「人口増が大きい途上国」と言いましたが、その増分のほとんどが貧困層で生まれます。そこで、貧困層を中産階級に押し上げることができるような金融制度が必要となります。これがマイクロファナンスと言われる小口の無担保による融資制度です。まさに公益資本主義に基づく新しい金融制度です。植民地時代に持ち込まれたアフリカ諸国の銀行法は、旧宗主国の銀行法に基づくもので、富める者をますます豊かにできますが、貧困層には無縁です。もちろんCSRと称した貧困層向けのプログラムはありますが、形だけです。
しかも、日本や欧米中からの投資や貿易が増えても、富はますます支配階級層に集中するので、中産階級層の成長は遅く社会が不安定な状態が長引きます。治安が悪い状態では、幸せな生活を築くのは大変ですし、このような状態しか生み出せない政府は意味がありません。

ですからアライアンス・フォーラム財団が指導力を発揮して、旧来の宗主国による銀行法に替わるような新しい金融制度をアフリカにつくりたいのです。貧困層を豊かにするためにつくられたマイクロファイナンス銀行は、人々の希望を満たしてやがて大きな産業へと育っていくでしょう。
アライアンス・フォーラム財団は、2014年12月にCOMESA加盟19カ国の中央銀行幹部要員に対して、公益資本主義に基づく貧困層のため銀行法の改正と規制の枠組みについての研修を行いました。この研修には日本企業からの人材も受け入れ、将来アフリカで主流を占めるマイクロファイナンス分野の金融のリーダーたちとのネットワークを構築してもらえるようにしています。

人々が希望に燃えて人生を送れる制度を世界中につくれたらどんなに良いでしょう。 開発途上国へのODAや寄付で貢献するだけでなく、交流を通し、日本が途上国の発展とともに進化していくことが大事です。欧米が行っていたルール・メイキングを、途上国の人々とともに行うことが、日本が21世紀に繁栄していくことにつながっていきます。

パソコンやスマートフォン、タブレットの次はPUC

――ところで、原さんはパソコンを主体としたIT産業の次に来る技術として、PUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)を提唱されています。これはどういう概念なのでしょうか。

原丈人氏 PUCとは、使っていることを感じさせず(パーベイシブ)、どこにでも存在し(ユビキタス)利用できるコミュニケーション機能のことです。
パソコンは「計算機能中心の設計思想」で成り立っており、もともとコミュニケーションには向いていません。それを克服するためにマイクロプロセッサー、オペレーティング・システム(OS)、データベースの機能を極限まで高めてきました。でもそれは、しょせん書くための鉛筆を2本使って、食事の箸として使っているようなものです。

スマートフォンやタブレット型端末は、たしかにPUCのイメージにかなり近いものです。とはいえ、その中で使われているものは、ほとんどがパソコン時代のコア技術なのです。それらはパソコン時代の終焉とともに、新たな時代の方向性を予感させるものでもあると言えます。

インターネットの可能性はコミュニケーションにあります。そこで設計思想を計算機能からコミュニケーション中心に転換し、それにふさわしい理想的なソフトウェアとハードウェアが一体化した体系を作る。それがPUCのコンセプトです。

ネットワークの体系は現在の「クライアント・サーバー型」から、デバイス同士が相互に情報を送受信する「ピア・トゥ・ピア(PtoP)型」に変化します。前者は1人の話し手とその他大勢の聞き手がいる講演会のようなかたち。後者は全員が話し手であり聞き手でもあるかたちです。「クライアント・サーバー型」はいずれ消えて行く運命にあると思います。

――PUCではこれまで分離していたソフトとハードを一体化することが大切だということですが、日本企業はそうした知的工業製品の分野での優位性はあるのでしょうか。

 大いにあります。ハードとソフトが互いに依存し合い密接に入り組んでいるのがPUCの特徴であり、その両方を統合する知的財産を持つ国として世界で最も優位な立場にあるのは日本です。日本のモノ作りのレベルの高さは世界が認めるところですが、過去にも、携帯電話でWebの閲覧やeメールが使えるiモードや、第3世代携帯電話で日本は世界の先陣を切りました。
PUC時代の体系を作ることにより、日本こそが次世代の基幹産業で世界に先駆ける基盤があるのです。もっと自信を持つべきです。

――世界を舞台に活躍されている原さんから、日本の若者たちに何かアドバイスがあればお願いします。

 私はいまの日本の若者は以前よりも途上国に関心が高く、大いに期待しています。欧米への留学生が減っているのを見て、いまどきの若者は内向きだとよく言われますが、これは単に彼らが欧米の大学にそれほど魅力を感じなくなったからでしょう。
今60~70代の人たちが若者だった頃は日本と欧米に圧倒的な差があり、そのため今でも欧米に憧れがあるのです。今、米国への留学生を増やしている中国や韓国は、かつての日本のような時代にあるのだと思います。

最近の日本の若者はむしろ途上国に行くことを希望し、どんな辺境に行っても若い日本人がいます。特に女性がたくさん頑張っている。これはすごいことです。将来は途上国の時代がやって来ることを、若者たちは直感的に理解しているのです。

むしろ問題は60代以上の人たちです。若者に意見する前に、超高齢社会に突入した日本をどうするのか。若者に支えてもらうだけではなく、自分たちはどう社会に貢献し一緒にこの国を支えていくのか。自分自身の問題として、経験や知識を生かし何か行動すべき時なのです。

text:木代泰之

原丈人氏

はら・じょうじ
原 丈人

デフタ・パートナーズ・グループ会長、アライアンス・フォーラム財団 代表理事、内閣府本府 参与 兼 経済財政諮問会議 専門調査会 会長代理
1952年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、考古学研究を志し中央アメリカへ渡る。スタンフォード経営学大学院、国連フェローを経て同大学工学部大学院を修了。29歳で創業した光ファイバーのディスプレイ・メーカーを皮切りに、1985年にベンチャー・キャピタルのデフタ・パートナーズを創業。‘90年には、アクセル・パートナーズの共同経営者となり、シリコンバレーを代表するベンチャー・キャピタリストの1人となった。
自ら会長を務める事業持ち株会社デフタ・パートナーズ・グループは、PUCというコンセプトのもとに技術体系を構築し、ポスト・コンピューター時代の新産業を先導するだけではなく、新技術を用いた途上国の支援など幅広い分野で積極的な提言と活動を行っている。国連政府間特命全権大使、アメリカ共和党ビジネス・アドバイザリー・カウンシル名誉共同議長、ザンビア共和国大統領特別顧問、イスラエル商工会議所顧問、世界経済フォーラム(ダボス会議)評議会メンバーなど海外での役職に加えて、日本国政府の首相諮問機関、政府税制調査会特別委員、財務省参与、を歴任。
著書に『新しい資本主義』(PHP新書)、『増補21世紀の国富論』(平凡社)などがある。


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