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南鳥島沖の海底から採取した高濃度のレアアースを含む泥を手にする加藤教授

レアアース(希土類)はハイブリッド車、電気自動車、スマートフォン、LED照明、センサーなど日本が誇るハイテク製品に不可欠な鉱物資源である。2010年9月に尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件が起きた際、世界の生産量の90%以上を握る中国が対日輸出を制限して、急激に価格が高騰した記憶はいまだに生々しい。
そのレアアースが2013年3月、日本の排他的経済水域(EEZ)である小笠原諸島・南鳥島沖の深海底の泥中に、高濃度かつ大量に存在すると発表された。突き止めたのは、東京大学大学院工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授と(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の共同研究チームだ。濃度は中国鉱山の30倍、埋蔵量は少なくとも国内需要の300年分以上あり、陸上鉱床と違ってトリウムなど有害物質も含まず、揚泥は現在の技術を応用すれば十分に可能だという。
2020年の東京オリンピックが決定したいま、環境に優しい「国産レアアース」で動くハイテク製品が活躍する日本の姿がますます期待されるが、その後の実証実験計画やプロジェクトはどこまで進展しているのだろうか。加藤教授に聞いた。

高濃度、埋蔵量は300年~数万年分!?

――南鳥島沖での高濃度レアアースの発見は、鉱物資源が乏しい日本にとって大変な朗報でした。これまでの調査航海で同海域のレアアースの濃度や分布、埋蔵量などはどこまで判明したのでしょうか。最新の研究成果をお聞かせいただけますか。

加藤 私たち東大と海洋研究開発機構は、2013年1月に共同で南鳥島の250km南で調査し、水深5600~5800mの5ヵ所で海底の泥を採集して化学分析を行いました。
その結果、あるポイントでは海底2~4m付近に最大6600ppm(0.66%)を超える超高濃度のレアアース泥を発見したのです。別のポイントでも海底9m付近に5000ppmを含むことが判明しました。
この海域で、最も重要なジスプロシウムの埋蔵量を計算すると、1000㎢の広さの海底に国内需要の悠に300年分が眠っていると推定されます。南鳥島沖のEEZは半径370kmあるので、全体ではその10倍とか100倍、数万年分はあるかもしれません。最初は1000ppmの濃度のレアアースがあれば十分だと思っていましたが、今は1000ppmでは物足りないぐらいです(笑)。

図:「我が国のEEZ内にも存在するレアアース泥」

我が国のEEZ内にも存在するレアアース泥

――南鳥島沖のレアアースには、他にはない素晴らしい特長があるそうですね。

加藤 そうです。まず、日本の排他的経済水域(EEZ)にある国産資源であることです。いかなる他国にも、領有権を主張される心配はありません。

2つ目は、特に貴重な重レアアースを中心に大変な高濃度であることです。現在、中国が採掘しているレアアース濃度は300ppm程度ですが、南鳥島沖の濃度は6600ppmのところもあり、中国産の20倍という圧倒的な高濃度です。特にハイブリッド車などに使われるジスプロシウムに限れば、中国の10ppmに対し、南鳥島沖の最高濃度は320ppmで32倍もあります。

3つ目は、海底面にごく近いところにあり、船の上からサブボトム・プロファイラーという音波探査により、レアアース泥の分布状況が簡単に把握できること。
私たちは太平洋全域の深海の泥を詳細に分析して、タヒチ沖とハワイ沖の4600~5400mの海底に600~2230ppmの総レアアース濃度を持つ泥があることを発見し、2011年7月に英国の科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』に発表しました。すると、タヒチ沖にEEZを持つフランスを始めとする世界各国から問い合わせが殺到し、大変な反響でした。
タヒチ沖では水深4600mの海底面にそのまま露出しているので、南鳥島沖より採取は容易ですが、濃度は南鳥島沖の3分の1程度です。それでもフランスは大喜びです。フランスは海洋開発大国であり、レアアースの製錬や加工で高度な技術を持っていますので、確実に開発に乗り出すでしょう。

4つ目は、海洋のレアアースには、開発の障害になる放射性物質のトリウムがほとんど含まれていないこと。実は、これが非常に重要な点です。陸上で採掘されるレアアースは陸上のマグマ活動によって生成され、必ずトリウムを伴ってしまう宿命を背負っています。
これに対し海底のレアアースは成り立ちが違います。地球表面のプレートの境界である海嶺の熱水活動によって、放出された鉄質懸濁物質とゼオライト、アパタイトが、海水中に溶けているレアアースを吸着して海底に堆積したものです。トリウムはそもそも海水中にほとんど溶けていないので、レアアース泥を構成する鉄質懸濁物質などがトリウムを吸着し濃集することはありません。単純な理由です。
トリウムは環境への放射能汚染や作業員の被ばくの原因になるので、豪州や米国は陸上のレアアースの採掘を控えています。中国は野ざらしのまま採掘を続けてきましたが、尖閣での漁船衝突事件以降、環境問題を理由に日本への輸出禁止をとりました。

5つ目は、泥からレアアースの抽出をする方法。海底の柔らかい泥の中に含まれているので、希硫酸や希塩酸で簡単に抽出でき、製錬も容易です。泥にはバナジウムやコバルト、ニッケル、モリブデンなどのレアメタルも含まれており、それらも回収すれば資源価値はさらに高まります。

一丸となり2ヵ月で書き上げた論文

――ところで、『ネイチャー・ジオサイエンス』誌に発表された論文はわずか2ヵ月で書きあげられたそうですね。なぜ、そこまで急がれたのですか。

加藤 私は当初2年くらいかけて、充分な分析データを積み上げてから発表しようと考えていました。
ところが、2010年に尖閣諸島で漁船衝突事件があった後、中国が日本にレアアースの輸出を禁止したため、日本の産業界は大変なダメージを受けました。

私たちはその前にタヒチ沖とハワイ沖でレアアースを見つけており、日本のEEZ内にも埋蔵していることが分かっていましたので、とにかく一刻も早くそれを詳細に探査し、国産の資源を開発すべきだと思ったのです。
そのためには、ネイチャー・ジオサイエンスに発表し、まずはタヒチ沖とハワイ沖のレアアースの存在を世界に知らせて、独占状態の中国に警告を発する必要がありました。
と同時に、日本のEEZ内のレアアース探査に向け、世論を突き動かし日本政府を動かさなければ前に進むこともできません。私のところの学生たちや研究員もみんな同じ思いで、一丸となって2ヵ月で論文を書き上げ、2011年7月の発表に漕ぎつけたのです。

レアアースは17元素の総称で、特に重要なのは5元素

――ところで、レアアースは17元素の総称ですね。その中のどういった元素が特に産業に必要とされているのでしょうか。

加藤 レアアースは周期表にあるランタノイド15元素にイットリウム、スカンジウム2元素を加えた17元素の総称です。「産業のビタミン」と言われるように、ハイブリッド車、電気自動車、スマートフォン、LED照明、センサーなど日本が誇るハイテク製品の性能向上には欠かせません。また、軍事産業のような国家の安全保障に関わる分野でも、必須の材料です。
特に重要なのは重レアアースであるジスプロシウム、テルビウム、ユウロピウム、イットリウム、軽レアアースのネオジムを加えた5元素です。南鳥島沖のレアアース泥はこれらを高濃度に含有しているのです。

ハイブリッドカーのモーターの強力磁石(ネオジム磁石)にはネオジムが30%使われますが、高温安定性を高めるためにジスプロシウムも3~8%ほど添加しています。これを加えないと、温度が高くなったときに磁力が一気に失われてしまいます。

図:「レアアースとは?」

レアアースとは?

――最近、「ジスプロシウムを使わなくても代替磁石はできる」という声を聞きますが……。

加藤 政府予算で研究も行われていますが、元素の電子配置が磁石の性能を発揮するのであって、基本的に他の元素では代替できません。
このため日本の自動車業界では、当面ジスプロシウムの使用量を減らす技術を開発して対応しているところもあります。また、レアアースを使わないモーター用磁石の研究開発を進めているところもあります。しかし、実現にはそうとう時間がかかると見られており、そのためにも南鳥島のレアアース開発が急がれます。

ハイブリッドカーの他に、ネオジム磁石が重要になるのは風力発電機です。ハイブリッドカーがこの磁石を1台あたり1kg使うのに対し、風力発電機は1機あたり1~2トンも使います。
従って将来、再生可能なクリーン・エネルギーの利用を促進しようとすれば、レアアースも大量に必要になり、それをどう確保するかが大きな問題になるのです。

――南鳥島沖のレアアースは太平洋東部の海嶺付近で堆積を始めたものが、太平洋プレートに乗り1億年以上かけて日本付近まで移動してきたと聞きました。

加藤 そうです。南鳥島はもともとタヒチ近くで生まれた火山島で、プレートに乗って1億2000万年かけてわざわざ日本のEEZである今の場所まで移動して来てくれたのです(笑)。
サイコロ大の泥1c㎥には、約100㎥の海水中に含まれるレアアースが濃集しています。濃縮率は1億倍という凄さ! まさに夢のような鉱物資源だと言えます。
海底での探査は、例えば、100㎢(10km×10km)の四隅をボーリングするだけで、そのエリアのレアアース埋蔵量を簡単に把握することができます。我々の今年1月の実地調査は正味3日間でしたが、それでも大きな探査の成果を上げました。
今後もっと広範囲に調査すれば、どのポイントにどれだけ埋蔵しているか、掘削ポイントがより正確に特定できると思いますので、それを急ぐ必要があります。

text:木代泰之

後編はこちら

かとう・やすひろ
加藤 泰浩

1961年生まれ。1985年 東京大学理学部地学科 卒業、1990年 同大学大学院理学系研究科 博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員、山口大学理学部助手、米国ハーバード大学客員研究員、英国ケンブリッジ大学客員研究員、東京大学大学院助教授、准教授を経て、現在に至る。海洋研究開発機構(JAMSTEC)招聘上席研究員。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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