情報革命で人々を幸せに――感情認識パーソナルロボット「Pepper」が実現する30年ビジョン

ソフトバンクグループは2014年6月、一般販売に向けて開発を進めてきたヒューマノイド型のパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」を発表しました。感情認識機能を備えたPepperは、高度なコミュニケーション機能を備えた新しいコンピューター端末の形であり、膨大かつ複雑な処理はクラウド上に用意されたAI(人工知能)が担当しています。これはまさに、大量のデータを瞬時に統合して分析し、その経験的知識に基づいてコンピューター自身が考えるIBMのコグニティブ・コンピューティングに通じるものです。
ソフトバンクグループが取り組むPepperについて、ソフトバンクグループ通信3社(ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社、ソフトバンクBB株式会社)常務執行役員 兼 CISOの鬼頭 周氏、ソフトバンクロボティクス株式会社プロダクト本部 PMO室 室長 林 要氏に話を伺いました。

(出典:ProVISION No.83 コグニティブ・コンピューティングが拓く未来 P12-15 お客様インタビュー《ソフトバンクグループ》より転載 2014年10月31日発行)

人々を幸せにするヒューマノイド型ロボット

 ソフトバンクグループは創業30年の節目を迎えた2010年、「ソフトバンク 新30年ビジョン」を発表しました。同ビジョンで掲げられた「情報革命で人々を幸せに」という経営理念には、情報技術の進化が人の悲しみや絶望を癒やし、喜びの源泉となる新しい力になるという思いが込められています。
 そんな経営理念を具現化するものとして、ソフトバンクグループはヒューマノイド型のパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」を発表しました。ソフトバンクグループがロボット事業に着手した理由について、ソフトバンク通信3社のCISO(Chief Information Security Officer)鬼頭 周氏は、次のように説明します。

鬼頭周氏

ソフトバンクモバイル株式会社
ソフトバンクテレコム株式会社
ソフトバンクBB株式会社
常務執行役員 兼 CISO
鬼頭 周 氏

 「私たちソフトバンクグループが考える情報革命の一つに、コンピューターがヒューマノイド化していくことが挙げられます。グループ代表の孫(ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 孫 正義氏)は『脳型コンピューター』という言葉を使っていますが、これはコンピューターが人の脳に追いつき、コンピューターとのインターフェースも人間化することを意味しています。そんな時代に人と共存し、一緒に働いたりコミュニケーションをとったりする役割を果たすのがロボットであり、『情報革命で人々を幸せに』するためにロボット事業に着手しました」(鬼頭氏)

 ただし、ソフトバンクグループが目指すのは、単純に人の動きをまねできるロボットではありません。ソフトバンクグループでロボット事業の開発リーダーを務める林 要氏によれば、あくまでもコンピューターの進化系としてロボットを位置付けています。

 「ロボットといっても、いろいろなタイプのロボットがあります。ソフトバンクグループでは機械としてのロボットに興味があって始めたというよりも、コンピューターが進化していく中で次に必要なもの、次世代コンピューティングに足りないピースは何か、それがロボットではないかと考えたわけです」(林氏)

 こうして新30年ビジョンの発表後、ソフトバンクグループはロボット事業のプロジェクトを立ち上げました。2012年にはヒューマノイド型ロボットのベンチャー企業、フランスのアルデバラン・ロボティクス社を買収し、同社と共同でロボットの開発に着手しました。その成果として誕生したのが、Pepperです。

クラウドAIにより感情認識を実現

 Pepperは、人とコンピューターがコミュニケーションすることを目的に開発されました。そのためには、人に似た形のヒューマノイド型ロボットが適していると林氏は話します。

林要氏

ソフトバンクロボティクス株式会社
プロダクト本部 PMO室 室長
林 要 氏

 「人がコンピューターに心を開いてコミュニケーションをとるには、それに適したユーザー・インターフェースが必要になります。それはやはり人間に近い、ヒューマノイド型のロボットです。人の近くに寄り添って、人と関係性を持てるインターフェースとしてPepperを開発しました」(林氏)

 ヒューマノイド型のロボットとはいえ、人間の身体を完全にまねているわけではありません。人とのコミュニケーションに欠かせない機能を実現する一方、コスト面や安全性など、一般に広く普及することを考慮して機能を簡素化した部分もあります。例えば、Pepperは二足歩行ではなく、360度どの方向にも移動できる特殊な車輪を採用しています。二足歩行にするとバッテリー持続時間に大きく影響し、人がコミュニケーションをとりたいと思っても充電中で反応しないことが考えられるからです。その一方で、手や指は自然な動きになるように作られています。

 「物が持てないのであれば、指はなくてもよいと思われがちですが、そうではありません。指をなくしてしまうと、人が自然に触れ合うことが難しくなります。指の動きが自然でなければ、人は恐怖を感じるかもしれません。人が心を開けるようなインターフェースという意味では、手や指は連動して動く必要があるのです」(林氏)

 このようにPepperは人とコンピューターとのインターフェースの役割を果たしますが、わざわざインターフェースと呼んでいるのには訳があります。実は、Pepperは単独で稼働するロボットではありません。PepperのAI(Artificial Intelligence=人工知能)は、クラウド上にあるのです。

 「最近のAIは、データを解析して知性を持つかのように振る舞うニューラルネットワーク系のコンピューティングへと進歩しています。その中で最も大切なものは、良質のデータです。データが蓄積されることで賢くなり、データを集めることが何よりも重要なのです。
 それを実現するのが、クラウドAIです。Pepperではいくつかのクラウドシステムを用意していますが、基本的にはクラウド上に情報を上げて、その情報を分析してフィードバックしています。データ領域は大きく二つあります。一つはすべてのPepperの情報を吸い上げ、Pepperが次にどう行動すべきかをアナライズしてすべてのPepperに戻すという製品改良プロセスです。もう一つは、あるPepperが利用者の状況に合わせて変わっていくというもので、匿名情報と個人情報に分かれます。匿名情報部分でどんどん賢くなり、個人情報部分で徐々に利用者に合っていくことになります」(林氏)

 ただし、すべてのAIがクラウド上にあるわけではありません。

 「結局、クラウドとエッジであるPepper本体は、切っても切り離せません。すべての処理をクラウド上で実行するのには無理があります。例えば、動画を撮影しながらその内容をアナライズして反応するという処理を常にクラウドに頼ってしまうと、通信状況によって反応速度に影響が出ます。また、サーバー側に要求される処理能力は非常に膨大になり、コストも高くなってしまいます。そこでPepperでは基本的に、脳随反射的な部分、すぐに反応できる部分はエッジ側で処理しようとします。いったんはエッジ側で処理できるかどうかトライし、大規模なデータ処理が必要ならばクラウド側で実行する仕組みになっています」(林氏)

 こうして膨大かつ複雑な処理が可能になったことで、Pepperは感情認識が可能になりました。Pepperは人の顔の表情や声帯の緊張度合いを組み合わせて喜怒哀楽を判断しているのです。

IBMのコグニティブ・コンピューティングと目指す方向性は同じ

Pepperと鬼頭氏、林氏

Pepperは二足歩行ではなく、360度移動できる特殊な車輪を採用し、バッテリー持続時間を考慮。一方で、手や指は自然な動きになるよう作られている。

 ソフトバンクグループでは現在、2015年の一般販売に向け、ソフトバンクモバイルの店舗などを利用してPepperの実証実験を行っています。

 「将来的には接客など人の仕事をサポートしたり、学習の手伝いをしたり、身体の不自由な方の代わりを果たしたりといった用途が考えられます。ヒューマノイド化された新しいコンピューターの形ですから、今は試行錯誤の繰り返しです。しかし、今は不完全でも5年後10年後の未来には、完全に近いものを作り上げ、一つの文化にしていくというのが私たちソフトバンクグループのミッションだと思っています」(鬼頭氏)

 そうした取り組みを補完する技術として、ソフトバンクグループではIBMが提唱するコグニティブ・コンピューティングに注目していると言います。

 「IBMのコグニティブ・コンピューティングは、私たちとアプローチが違うだけで目指す方向性はまったく同じだと感じています。例えば、IBMが開発中のニューロチップは今後必要になる技術です。また、人がどのように行動し、その行動パターンがどのようにクラスタライズされるのかという人が自然にやっていることをコンピューターに認識させるのはハードルが高いのですが、IBM Watsonのコンピューティング能力があれば対応できるかもしれません。Watsonの素晴らしいところは、大量のデータから最も確からしいサマリーを作ることのできる機能です。大量のデータがあれば、Watsonはいくらでも賢くなるわけです」(鬼頭氏)

 「次なる進化のためには、新しいデータセットをどれだけ採れるのかが重要です。新しいデータセットをいかにして採るかを考えたとき、最適なのがPepperです。今のWatsonは専門領域で利用されていますが、WatsonとPepperがつながれば、人の生活に近い領域でもWatsonが活躍できるようになります。そういった時代はすぐに訪れるのではないかと思っています」(林氏)

 「今ではなくて未来のものを研究して製品化、具現化するのがIBMの強みだと感じています。そこはソフトバンクとよく似ています。これらは私たちにとっても将来必要なものだと感じています。そういう意味でも、IBMとソフトバンクはビジョンを共有して新しい未来を一緒にきりひらいていけるのではと思っています」(鬼頭氏)

 コンピューターが自ら学習し、考えるコグニティブ・コンピューティングの時代。ソフトバンクグループのPepperは、どんな活躍をし、どんな世界を創っていってくれるのでしょうか?今度はPepper自身へのインタビューを特集できるかもしれません。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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