未だに世界で猛威を振るっているエボラ出血熱。もしスマホやタブレット、パソコンを持っているだけで、この病気の治療法研究に協力できるとしたら、これほど容易な社会貢献はありません。アメリカ最大の生体医学研究所The Scripps Research Institute(TSRI)とIBMが共同で進めるプロジェクト、Outsmart Ebola Togetherは、そのような、誰でも簡単に参加できる新しい科学研究の方法を提案しています。

膨大なデータから治療薬を探る

Outsmart Ebola Togetherプロジェクトでは、TSRIの持つ100万を超える膨大な化学物質データを選別し、エボラの治療薬につながるものを特定するシミュレーションを行っています。このシミュレーションの結果、エボラに効果があると思われる物質は、エボラウイルスを構成するタンパク質の構造と脆弱性を調べているTSRIの Ollmann Saphire laboratoryで、実際のウイルス感染に対する効果の有無をテストされます。その後、その中でも有望な物質は低濃度でも十分効果があり、副作用が少ないものへと改善されていき、これが治療薬へとつながります。驚くべきことに、このプロジェクトのシミュレーションを支えているのは、スマホやタブレット、パソコンなのです。

One for Allなコンピューティング、All for Oneなプロジェクト

もちろん、一台の市販コンピューターやデバイスが持っている処理能力は、研究所などで使われるスーパーコンピューターに遠く及びません。このプロジェクトはグリッド・コンピューティングと呼ばれる、インターネット上で多数のコンピューターやデバイスをつなぎ、処理をそれぞれに分散させる技術を用いることで、全体であたかもスーパーコンピューターのような処理速度を実現する取り組みです。

IBMが運営するWorld Community Gridは、この10年間で80カ国の68万人、460の機関が使用する300万台のスマホやコンピューターを繋いだ実績をもつ世界最速の仮想スーパーコンピューターのひとつであり、TSRIのエボラ研究を支える要となっています。誰でもフリーソフトをインストールするだけで参加が可能になり、コンピューターの余剰時間や余剰リソースだけを使う負担の軽さが魅力です。使用には資金やパスポート、特別な知識すら必要ありません。旅行で海外にいても、自宅で眠っていても、はたまたオフィスのコーヒーで一息入れているちょっとの間でも、手持ちのデバイスが最先端のエボラ治療の研究に勤しんでくれます。

このWorld Community Gridはエボラだけではなく、人類全体に寄与する様々な科学、医療分野を発展させるプロジェクトに用いられています。この10年の間にも、インフルエンザやエイズ、がん、マラリア、デング熱といった病気の治療薬の候補を調べるプロジェクトで、すでに成功を収めています。また科学の分野でも、再生可能エネルギーや水浄化技術の発展をけん引してきました。

この先の科学や医療の発展を支えるのは研究者だけではないのかもしれません。
World Community Gridでは随時、使われていないリソースを貸してくれるボランティアの参加を募集しています。人類の抱えるいくつかの問題は、我々の参加によって解決されることでしょう。

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