東京、渋谷。かつて「シブヤ系」という名のもと、音楽やファッションの発信地として全国区になったこの街は、ベンチャー企業のメッカとしても知られてきた。IT系を中心に様々な起業家たちがこぞって集まってはここにオフィスを構えたからである。そんなスタートアップの街・渋谷を今もっとも象徴する存在が、株式会社ツクルバが設計・運営を手がける会員制シェアードワークプレイス「co-ba shibuya」だ。
さまざまなジャンルの起業家やクリエイターたちがスペースを共有するだけでなく、アイデアやビジネスをも共有し、新たなプロジェクトが生まれる「場」として注目を浴びている。そこで、自身も起業家としてウェブやリアルの事業を横断して展開する株式会社ツクルバのCEO村上浩輝氏とCCO・クリエイティブディレクターの中村真広氏のお二人に、共創コミュニケーションの現在を聞いた。

従来の不動産ビジネスではない、有機的な場所

シェアオフィスと聞いて、どんな空間を思い浮かべるだろうか。マンガ喫茶のように細かく区切られた個室? あるいは学生やビジネスマン向けの自習室のような無機質な部屋? そうした先入観は、ひとたびco-ba shibuyaのドアを開ければ見事に覆される。

起業家、デザイナー、エンジニア、ライター、フォトグラファーetc…。多種多様なジャンルの人間たちが、部屋の中央にドンと置かれた巨大なデスクの方々に散らばりながら、黙々とPCに向かったり、あるいはグループでディスカッションをしたり。各々を仕切る壁はまったくなく、それどころかいつでも誰とでもコミュニケーションできる、オープンな環境。co-ba shibuyaで繰り広げられる光景は、もっとも先進的なワークスタイルといってもいいだろう。起業したい、オフィスを持ちたい人たちに対し、単に仕事場を提供するだけでなく、その先にあるビジネスチャンスやコラボレーションの可能性を与えてくれるからである。

中村真広氏

「従来のレンタルオフィスって、不動産ビジネスの一環だったと思うんです。場貸しして賃料さえ入ればそれで良し、みたいな。僕らはそうじゃなくて、起業した人やフリーランス特有の悩みや問題点をシェアしてアドバイスし合える有機的な場所を作れないかなと以前から考えていました。そんなときに、アメリカでコワーキングスペースというものが普及し始めているのを知って、俄然興味を持ったんです」

そう語るのは、株式会社ツクルバのCCO・クリエイティブディレクターでありco-ba shibuyaの設計を手がけた中村真広氏だ。建築デザイナーでもある中村氏は以前の職場で同僚だった村上浩輝氏と出会い意気投合。株式会社ツクルバを共同創業し、一つ目の自社事業として本格的なコワーキングスペースをつくることを決意する。震災の記憶もまだ生々しい、2011年8月のことだった。

日本風の島ではなく、大きな宿り木をイメージ

当時、すでにアメリカでは倉庫や廃墟をリノベーションしたコワーキングスペースが増え始めていた。日本ではまだほとんど浸透していなかったが、「やるならこれだ!」と直感した中村氏は、村上氏とともに視察目的でサンフランシスコへ飛ぶ。

「まず当たり前ですけど、アメリカのコワーキングスペースはデカくて広いし、めちゃくちゃ自由(笑)。それこそ自転車でそのままデスク横まで乗り付けて、脇にワンちゃん寝かせながら仕事したり。キッチンスペースもゆったりしてて、みんなでわいわいランチ出来るし。あと、コミュニケーションのハードルがすごく低いんですよね。知らない人にも『ハーイ』ってガンガン話かけてくるじゃないですか。コワーキングっていうコンセプトは参照できても、空間デザインや雰囲気をそのまま真似するのは難しいだろうなって思いました。日本の風土や文化に合ったローカライズしなきゃならないだろうと」(中村)

帰国後、二人はさっそく準備にとりかかる。co-ba shibuyaを設計するにあたってまず心がけたのは、コワーキングを象徴するデザインだ。たとえば、日本のオフィスのようにデスクが点在する島ではなく、一つの大きなデスクを宿り木にしながら、いろんな枝葉でそれぞれが仕事している図をイメージした。ただ、知らない会員同士が対面していても気にならないように適度な幅を設ける一方で、グループワーキング用にはゆったりめのスペースを確保したりといったメリハリは必須。一人でもチームでも可変的な編成に対応できるようなデスクこそ、他の貸しオフィス系とは決定的に異なる点だからだ。
中村氏がデザインサイドを手がける一方で、村上氏は不動産業に携わった経験を活かし、物件探しから交渉、さらには資金調達といったビジネスサイドを担当した。

「2011年当時は震災直後で空き室が目立つ時期だったんですが、なかなかオーナーさんの許可が下りませんでした。シェアオフィスというと、荷物転送住所とか私設私書箱なんかと誤解されてしまうんです。そんなとき、地下がクラブになっている物件を見つけて、ここにしよう!と。オーナーさんにコンセプトや事業計画を熱心に説明して、どうにか契約にこぎつけました」(村上)

もっとも難航したのは資金の確保。飲食店や雑貨店といった既存の事業ではないため、金融機関には敬遠されがちだったからだ。結果的には、近所の信用金庫と面談を繰り返し、与信が下りることに。てっきりITベンチャー系に理解のある投資家から集めたのかと思いきや、正攻法だったとはやや意外だ。
「初期の段階で投資を受けることはあまり考えておらず、まずは自分達の力だけで事業を立ち上げたいという想いでした。」(村上)

自らが煽り役となり、強引に会員同士を近づける

かくして2011年の暮れ、渋谷駅新南口2分という好立地のビル内にco-ba sibuyaがオープンする。「スタバやルノアールへ毎日行くより安いはず」という理由で月会費は1人あたり1万5千円に設定したものの、オープン当初は意外にも1DAY利用(10〜19時まで、2,000円)の客が多かったという。

村上浩輝氏「1DAYのお客さんばっかりになっちゃうと、いわゆる街のカフェとかと何ら変わらない存在になってしまって、僕らが意図するようなコミュニティが作れないんですよね。なので、最初はなるべく面白い人をいっぱい知ってそうな人や、大きくなる可能性を持った起業家の人たちに声をかけて会員になってもらうよう促しました。そしたら輪を重ねるように月会員も増えていって、平均でも100人ほどで安定してくるようになりました」(村上)

とはいえ、アメリカのようなオープンな交流を日本人に期待するのは難しい。そこで自分たちがある種のファシリテーターになってけしかけることも必要だと考え、なるべく月に1、2度はパーティーを開催。煽り役に徹することで、半ば強引に会員たちの距離を縮めていった。
「会員の皆さんが仕事をしている中で突然叫ぶんですよ。ハーイ、みなさん今日はここで仕事終わり!今から交流会やりましょうって言いながらデスクにビールとピザを並べちゃうんです。ま、本気で仕事に煮詰まってる人は、それどころじゃないんだよって思っていたかもしれないですけど(笑)。それでもみんな、なんだかんだ言って参加してくれますね。そういう場所だよ、って最初から伝えていましたので」(中村)

「ノイズ」こそがco-baのおもしろさ

2012年5月には、同じビル内の別階に付帯施設としてco-ba libraryをオープン。こちらは午前10時から夜19時まではワークプレイスとして運用しながら、シェア・ライブラリーとしての機能も持っている。「図書館」というだけあって部屋の周りを囲む棚には、co-ba shibuyaの会員同士が持ち寄った本がぎっしり。それぞれに割り当てられた棚を見れば顔や職業を知らない会員でも趣味や志向が読み取れて、コミュニケーションのきっかけにもなるというわけだ。SNS的なものではなく、本というアナログなアイテムをあえて利用している点が何とも興味深い。

中村真広氏「無意識に目に入ってくる本や、耳に入ってくるブレストの声というのは、ある種のノイズ。それこそがco-baという場の個性であり、おもしろさでもあるのかなと。決してウェブで検索して出会うものじゃないし、自然と浴びているだけでも有意義なんじゃないかと思うんです。だって、ノイズを完全にシャットアウトしたい人は自宅で作業した方が集中できるわけじゃないですか」(中村)

是が非でもコミュニケーションを前提とするわけではなく、あくまで結果的にコミュニケーションにつながればいい。そんな意図が込められたco-ba libraryは、シェアードワークスペースが世間に浸透してきたことを示す象徴的な空間なのかもしれない。

text:宗像幸彦

後編はこちらから

村上浩輝氏

むらかみ・ひろき
村上浩輝

株式会社ツクルバ 代表取締役 CEO
1985年東京都生まれ。立教大学社会学部産業関係学科(現・経営学部)卒業。「場づくり」に関心があり、不動産デベロッパーの株式会社コスモスイニシア(旧:リクルートコスモス)に新卒入社し、主に事業用不動産のアセットマネジメント業に従事するが、リーマンショックの影響を受け入社7ヶ月目でのリストラを経験。その後、株式会社ネクストにて、ウェブサービスの企画・プロモーション・営業などを経験。2011年8月に(株)ツクルバを共同創業。

中村真広氏

なかむら・まさひろ
中村真広

株式会社ツクルバ 代表取締役 CCO / クリエイティブ・ディレクター
1984年千葉県生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。大学院時代に渋谷「みやしたこうえん」のスケボーパークの基本設計を担当。この経験を通じて、建築が生まれる前段階=枠組みのデザインに興味を持ち、株式会社コスモスイニシアに新卒入社。しかし、リーマンショックの影響で入社7ヶ月で転職。その後、ミュージアムデザイン事務所(株)ア・プリオリにて、ミュージアムの常設展示の企画など、空間を埋めるコンテンツづくりを経験した後、フリーランスとして活動。2011年8月に(株)ツクルバを共同創業。「場の発明」を通じた、ソーシャル・キャピタルの構築を目指して活動している。


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