IBMが未来を担う学生を対象に行うイベント、IBM Future Leaders Forum 2014が、東北(仙台)、西日本(広島)、関西(京都)、中部(名古屋)の全国4カ所で開催され、多数の学生が来場した。その中から昨年12月に名古屋市内のホテルで行われた中部会場をピックアップして、セッションやパネルディスカッションをレポートする。

世界はますます近くなり
一人ひとりが変化を起こしていく時代

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役専務執行役員・エンタープライズ事業本部長 藪下真平「未来が見える。テクノロジーが社会を変える―― Technology, building smarter society」と冠したIBM Future Leaders Forum 2014。

冒頭の挨拶に立った日本アイ・ビー・エム株式会社取締役専務執行役員・エンタープライズ事業本部長、藪下真平は、自身が1985年に新卒として日本IBMに就職してから今日までの体験してきたことを振り返り、「過去の30年間より、これからの30年間のほうが、テクノロジーの変化は速くなる。企業の変化も同じ。日本では、国内での社会の動きやマーケットシェアを考えて日々生活することが多いが、日本と世界、両方の視点を持つことが大事」と、企業を取り巻く環境がグローバルに変化したこと、また今後テクノロジーの変化がますます加速していくことを語った。

そして、これまでの仕事を通じた気づきとして、これからの時代を担う人材に求められるのは、第1に大きな視野を持つこと、第2に、将来に向けて変化を予測すること、第3に変化に対して自らが対応する、リーダーシップを備えた人材になること、この3つであると呼びかけた。

未来に向かって変化を起こすために
ITの専門家がキーマンとなる

続いて行われたパネルディスカッションは、「ビッグデータがもたらす豊かな価値」をテーマに、名古屋大学の副総長・教授で未来社会創造機構長の松尾清一氏、名古屋大学医学部附属病院の病院長補佐・病院教授でメディカルITセンター長の白鳥義宗氏、モデレーターを務める日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員・研究開発担当の久世和資の3名が登壇した。

パネルディスカッションの様子

左からモデレーターの日本アイ・ビー・エム 久世和資、名古屋大学 副総長・未来社会創造機構長 松尾清一氏、名古屋大学医学部附属病院 病院長補佐・メディカルITセンター長 白鳥義宗氏

松尾清一氏

名古屋大学 副総長・未来社会創造機構長 松尾清一氏

このパネルディスカッションに先立って、イタリアの過疎の村がITを活用している様子がビデオ上映された。ビデオを見た松尾氏は、「超高齢化が世界でも進む現在、これからの日本社会をいかに活力あるものにしていくかという点で、テクノロジーや社会システムが果たす役割が問われている」と会場に語りかけた。

松尾氏が率いるのは、産官学からさまざまな分野の知恵と人材を結集し、名古屋大学が推進する未来社会創造機構だ。その特徴は、「10年後、20年後の日本のあるべき姿をまず描いて、それに到達するために、何をすべきかを考えるバックキャスト的な思考、つまり現在からの予測や予想基づくフォーキャストの反対の思考法」であると言う。「描いた『未来』のために必要な技術を開発しようというのが、我々の考え方である」

バックキャストの考え方が求められる背景にあるのは、日本の予測される近未来像だ。「30年後は労働人口が減って現役世代1人あたり高齢者1人を支えなければならない。当然GDPも減る。未来の日本を活力ある社会にするために、社会のシステムはどのようになっておくべきかを考え、やるべきことを実践していく」。様々な分野の人材が恊働して行うオープンイノベーションで、社会変革をデザインする未来社会創造機構のあり方が、これからのキーパーソンとなり得る若者のヒントになるのでは——。松尾氏の語り口からは、これからの時代を担う若者へかける期待度の高さが伺われた。

白鳥義宗氏

名古屋大学医学部附属病院 病院長補佐・メディカルITセンター長 白鳥義宗氏

一方、名古屋大学医学部附属病院のメディカルITセンターの責任者として、医療現場におけるITによる改革を特に推進している白鳥氏は、自身が医者になってから20年ちょっとの間に、「高齢者の重傷の患者さんが約2倍に増える一方で、病院の数は2倍になっているどころか、逆にベッドの数は減っている。医者の数、看護師さんの数は、日本は世界的に見ても少ない」と指摘。

「これからは医者だけで医療を支えるのは難しく、病院の中だけではなく、地域で、さまざまな専門家が関わることが求められる。そこで求められるのが『チーム医療』という考え方で、あり、地域の人々にも入ってもらって一緒に医療を行っていこう、という流れが生まれている。その際、皆で情報を共有しなければならず、ITが担う役割は大きい。ITの専門家が、実はキーマンになるのではないか」

そこで求められるのが、これまでの常識を破る、大胆な発想法だ。「小さく凝り固まっていた日本を、今、大きく変革させることが求められている」と白鳥氏は熱く語った。

データは「集める時代」から「活用する時代へ」
そのために必要なのは、幅広い勉強

パネルディスカッションの後半では、新生児が問題を抱えて生まれてくる事態を、ビッグデータを活用して予測するシステムを作った海外のIT専門家を紹介するビデオが上映された。

この事例において、松尾氏、白鳥氏の両氏が注目したのは、病院現場で改革を起こしたのが、医療の従事者ではなく、ITの専門家だったという点だ。

たとえば、松尾氏のいる名古屋大学では、現在、情報と農業を融合させたIT農業が行われており、「情報学の先生と、農業の先生とが一緒になって取り組んでいる」と言う。これは農林水産省が推進する異分野融合事業であるが、今後、社会構造改革のために異分野の専門家によるコラボレーションがますます求められる中での、高まるIT人材に対する期待をあらわす事例の1つと言える。

さらに「教育現場でも、テクノロジーが果たす役割は増大している」と松尾氏は言い、「これからITをどのように使っていくのか。ITの活用にあたっては、権利や社会のルールの問題が存在し、かつ未来を想像する力も必要となる。情報学は非常に奥深いものであり、単なるテクノロジーを扱う学問ではない。データの量はものすごく増える一方で、人間の能力は限られており、今後ますます、技術に対する考え方も重要になってくる。ITに興味があって今日この会場に足を運んだ皆さんには、ぜひ、幅広い勉強をしてもらいたい。そして情報社会を正しく作っていく素晴らしい人材になってほしい」と締めくくった。

一方、白鳥氏は、「新しいアイデア、いい切り口があると、ITによって世の中が大きく変わる。それによって、医療も変わり、人を救うことができる。その際、重要なのは、データの中で、何が真実なのか、という見極めだ。ビッグデータをいうと、集めることに目が行きがちだが、データをいかに活用するかが重要であり、いわゆるスマートアナリティックスと言われる、データをどういう切り口で、どう解析するか、といったアイデアが求められる。それによって医療も変わる」と語り、「これからまさにITが活躍する時代。ぜひ、たくさんのアイデアを出し、新たな発見をし、人を助けられる人材になってほしい」と来場した学生たちにエールを送った。

パネルディスカッションの様子

最後にモデレーターの久世氏から、総括としてIT人材の重要性に触れつつ、「今勉強していることと違った分野にチャレンジすることが特に大切です」と未来の社会を担う学生たちに向けてメッセージを送り、パネルディスカッションを終えた。会場の別フロアでは、IBMの基礎研究による最先端テクノロジー(Watson)をロボットとのインタラクションに応用したデモや、IoT(モノのインターネット)を支える実際のソリューション事例を展示。興味を持った学生が真剣に質問する姿も多く見られた。

※登壇者の所属組織、お役職は2014年12月9日時点のものです

展示の様子

text:野田香里