2014年の全米オープンテニストーナメントで、ある挑戦的な試みがなされました。IBMと、米国のミュージシャンで音楽プロデューサーのジェームス・マーフィー氏が行った、試合データから音楽をつくるUS OPEN SESSIONSプロジェクトです。

試合データを音楽に変えるアルゴリズム

試合データを音楽に変えるという試みを実現させたのは、マーフィー氏とIBMが開発したコンピューターアルゴリズム。開発には、IBMの、数年間におよぶデータ集めと解析という地道な努力と、マーフィー氏の持つ音楽的感性と経験の相乗効果が必要でした。

このアルゴリズムを通して、今回の全米オープンテニス187試合でのボールの動きや歓声、選手の雄叫びや試合動向などのデータが、400時間にもおよぶ音楽データへと生まれ変わりました。試合中の音や雰囲気がすべて、電子音楽に置き換えられたのです。
そして現在、そのすべてが視聴できるだけでなく、中でも選りすぐりのリミックス12曲にマーフィー氏のさらなる手が加えられ、「Remixes Made With Tennis Data」というアルバムとしてIBM SoundCloud上で無料試聴可能になっています。

聞いているだけでもイメージが描ける音楽

驚くべきことに、このデータから音楽への変換はリアルタイムで行われ、試合中に試合を見る余裕がない人でも、試合を”聞く”ことで、音楽から試合を想像しながら楽しむことが出来たのです。中でもリミックスのうち2曲については、マーフィー氏が、音楽から試合をどう捉えられるか興味深いコメントをしています。

Match 104 Remix
「試合開始当初、どちらに転ぶかわからないゲームでした。その試合展開にインスパイアされるように、この曲もバランスのとれたビートで始まります。選手に共鳴するようにリード音もなく、試合に差がつきはじめる後半まで音楽は安定したペースで脈打っています。そして、やわらかく高いホイッスルの音で、敗北した選手をコートの外に誘うようにして終わります」

Match 4 Remix
「8月25日に行われたこの試合のように、若手選手が第一シード選手を破るときには、必ずいくつかのノイズが発生します。そして、この場合のノイズは栄誉の象徴です。シンプルで甘いオープニング音は徐々に変化し、意外なほど強く熟成したサウンドへと変化していきます。そしてどこからともなくビートが湧き、力強い新たな方向性を持つトラックとなります」

マーフィー氏の次なる関心は、雑多な音が不協和音を奏で続けるニューヨークの地下鉄に向かっています。不協和音の発生源である、改札機が鳴らす電子音を調和の取れた音とすることで、混雑する改札での不快感を取り除こうというプロジェクトです。マーフィー氏のチャレンジは、これからも、私たちが想像もしていなかった場面で広がっていきそうです。

photo:Thinkstock / Getty Images