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これからの日本経済活性化のキーワードの1つにロボットがある。
高齢化が進み生産年齢人口が減少する中で、次世代ロボットとして有望とされるのは、人間共存型産業用ロボット、防災ロボット、装着型ロボット、移動ロボット、搭乗型ロボットなどだ。
そこで、ロボットの研究開発に長年携わってきた産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター 研究センター長の比留川博久氏に、産業用ロボット市場の現状、次世代ロボットの開発と実用化の見通し、ロボット産業の可能性と展望について伺った。

待たれる“三品産業”分野と中小企業での利用

――日本は産業用ロボットで世界をリードしてきましたが、現在の産業用ロボット市場について概括的に解説していただけますか。

比留川 1980年は「産業用ロボット元年」といわれ、市場規模は760億円でした。そこから10年間は右肩上がりに伸び、1990年には約6,000億円になりました。以来、景気に連動するかたちで推移し、国内の市場規模は大きく変わっていません。

一方で、世界市場は堅調です。特筆すべき大きな変化は、かつて産業用ロボットの導入台数の半数以上は日本でしたが、現在は3分の1以下になっていることです。円高で日本企業が工場を国内から海外に移したことが大きく影響しています。さらにフォックスコンに代表される中国系のEMS企業の積極的な導入もあり、中国での稼働台数が急激に伸びています。だからといって日本の産業用ロボット市場がこの15年余り停滞しているわけではありません。1台あたりの価格が約半額になっている一方で出荷額はほとんど変わっていない。つまり性能が向上していて、出荷台数が倍になっているのです。

次世代ロボットの可能性と展望 ――ロボット産業は日本経済活性化の牽引車となりうるか(前編)

――今後、導入が進む分野としてはどんなところが考えられますか。

比留川 これまでは自動車産業と電子回路を製造する電機産業が中心でしたが、食品、薬品、化粧品という“三品産業”に広げていくこと、そして大企業でしか使われていなかったロボット化を中小企業に広げていくことがポイントです。三品産業にはアームの先端部分を樹脂にして洗浄できるようにし、滅菌が可能になれば採用が広がると思います。中小企業向けでは、2012年に掃除ロボット「ルンバ」の生みの親である元MIT教授のロドニー・ブルックスが設立したRethink Robotics社が「BAXTER(バクスター)」という双腕タイプのロボットを2万2000米ドルで発売しました。ブルックスは「アメリカの製造業(Made in U.S.A.)を復活させる」といって、中小企業をターゲットに、2万ドルという破格値で出したのです。
ロボットが今まで中小企業で使われていなかった理由は、価格が高く使い方が難しかったからです。日本メーカーが出している双腕型ロボットは約700万円します。それを3分の1程度にしたわけですから、価格面でのハードルは大きく下がりました。また、従来はプログラミングでロボットに作業を教えなければなりませんでしたが、バクスターはそれが一切不要で、手先を持ってダイレクトに導いてやることで、作業の手順を教えることができます。ただ、位置決め精度に難点があり、これからが正念場だと思います。

法律解釈変更で活用可能性が出てきた人間共存型産業用ロボット

――ロボットの普及が一挙に進むというわけではないのですね。

比留川 ロボットにはできないことがまだ、たくさんあります。フロンティアとして残っているのが組み立て工程です。組み立ては、川田工業とグローリーが共同で開発した両替機の組み立てセルが有名ですが、グローリーでは4人のセル生産で実施していたものをすべてロボットに置き換えました。これは称賛すべきもので、実は、人間が手を使ってやる細かな作業(マニュピュレーション)がロボットには一番難しいのです。人間の手は非常によくできていて、手にある関節数は全身のそれの半分くらいを占めていて、機能が集中しています。触覚センサーも大変発達していて、ごく微妙な差を指先で感知し対応できます。ロボットがそれに追いつくのは極めて難しいでしょう。

次世代ロボットの可能性と展望 ――ロボット産業は日本経済活性化の牽引車となりうるか(前編)

――次世代ロボットとして、人間共存型産業用ロボット、移動ロボット、防災ロボット、装着型ロボット、搭乗ロボットなどが上げられます。それぞれどのような可能性があるのでしょうか。

比留川 人間共存型産業用ロボットは、法律が少しずつ改訂されており可能性が出てきています。従来、労働安全衛生法ではロボットの全モーターの定格出力が80W以下の場合を除いて、作業中のロボットは人間から隔離しなければいけないと決められていました。

ところが2013年12月に厚労省が解釈変更を発表して、機能安全で安全性が確保されていれば、必ずしも隔離しなくてもよいことになりました。作業現場で求められる安全には、本質安全と機能安全があります。ロボットでいうと、力を弱くして、誰もケガをしないようにするのが本質安全です。しかし、物を持ち上げる場合には力が必要になります。そこで、センサーを付けて物が人にぶつかりそうになったら、ロボットを止めるようにする。これが機能安全です。
また、解釈変更で、器用さが要求される部分は人間、単純な作業はロボットでと、両方を足し合わせて作業することが可能になりました。

国際的には産業用ロボット規格としてISO10218がありますが、10218の2というかたちで、機能安全に基づいた規格に向け、改訂作業が進んでいます。

そうすると、人間と共存して作業する分野が出てきます。組み立て工程では、グローリーの両替機が最も先進的な例ですが、完全に自動化しています。それを、今は人間が行っている、例えばデジタルビデオカメラの組み立てなどで、人間とロボットがそれぞれの得意なところを生かし共存してやっていくかたちが進むでしょう。

技術的な難しさを抱え、需要も少なく、開発が困難な防災ロボット

――移動ロボットや防災ロボットはどうでしょうか。

比留川 移動ロボットは今まで工場内物流で使われており、高信頼製品が稼働しています。
こうした中、潜在市場として注目が集まっているのがネット通販の巨大な物流センターでのピッキング業務です。ネット通販では、注文時のデータ入力作業はユーザー自身が行い、配送は宅配便業者が非常に効率的な仕組みを構築しています。
問題は物流センター内での作業で、形も大きさも違う何百万種類もの商品が置かれた棚の間を人間が端末を持って動き回り、集めて梱包し、配送の準備をする部分です。今のところロボットは形や大きさが違うものを扱えないので、自動化されていません。しかし、これが自動化されれば業務は大変効率化されますので、移動ロボット市場としては大きいと思います。

次世代ロボットの可能性と展望 ――ロボット産業は日本経済活性化の牽引車となりうるか(前編)

防災ロボットは、これまで日本ではあまり普及していません。消防は市町村単位なので、財政規模が小さくて、ロボットは買えず、買えるとしても東京都と横浜市くらいです。
原発事故の教訓から原発用のロボットの需要もありますし、消防も県で1つ持つなど広域化すれば、これからはもっと需要が出てくるかもしれません。大地震にも備えなければいけませんし。ただ、防災ロボットは、工場や物流現場で稼働するロボットと違い、どんな過酷な環境で稼働しなければならないか分からないわけです。ロボットというのは想定外の問題が1つでも入ってしまうと、途端に何もかも困難になってしまうので、技術的にはまだまだ課題があります。

雲仙普賢岳の経験で開発されていた無人化施工機械が福島の原発事故で活躍していた

――東日本大震災のとき、事故を起こした福島の原発の建屋に最初に入ったのは、日本のロボットではなく、米国のものでした。その後、日本で開発されたロボットも投入されていると聞きますが、事故や災害現場で使われるロボットの開発はどこまで進んでいるのでしょうか。

比留川 米国のロボットが使用されたのは、すでに製品があったからです。米国は既に軍事用にロボットを使っており、それを投入したのです。日本でも大学などで作られたプロトタイプのロボットはたくさんありましたが実用化はされていませんでした。

実は米国のロボットが入る数日前、日本の無人化施工機械が福島第一原発に投入されて、原子炉建屋の敷地で放射線を浴びたがれきの撤去処理に活躍していました。この機械と米国製ロボットの違いは大きさだけで、クローラー(キャタピラー)の上に装置が載っていて、遠隔操作で動かすという仕組みは同じです。無人化施工機械は大きいのでロボットには見えず、パワーショベルなどが付いた建設機械なので、ロボットと呼ばれなかっただけです。

技術的に見れば、米国のロボットよりも、日本の無人化施工機械の方が優れています。無人化施工機械は雲仙普賢岳の噴火後、火砕流の危険の中での除石工事のために開発され、その後有珠山噴火の災害復旧工事などで使われ、製品化されました。違いは技術的な問題ではなく需要があるかどうかです。無人化施工機械のように、需要があれば日本は実用化することはできるので、日本の技術が米国に劣っているということはないと思います。

一番実用化に近いところまで開発が進んでいるのは装着用ロボット

――主に介護や医療の現場で使われる装着用ロボットはどうでしょうか。

比留川 日本が得意な分野で、最も実用に近いところまで来ています。筑波大学発ベンチャー企業のサイバーダインのロボットスーツ「HAL」はすでに国内200以上の病院で試用されてしいますし、ドイツでは治療機器として、労災保険が適用されるようになりました。また、2014年11月にはFDA(米国食品医薬品局)に対して、治験なしで承認が受けられる医療機器として、最終申請書類を提出しています。

また東京理科大が開発し、すでに訪問入浴介護のアサヒサンクリーンが600台導入している装着型動作補助装置「マッスルスーツ」は、菊池製作所がこの4月から本格的に量産を開始しました。こちらは介護だけでなく、物流倉庫などさまざまな作業現場での需要が見込まれています。

TEXT:菊地原博

後編はこちらから

比留川博久

ひるかわ・ひろひさ
比留川 博久

国立研究開発法人産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター 研究センター長 学術博士
1959年生まれ。1987年神戸大学大学院修了、学術博士。同年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所入所。1994~95年スタンフォード大学客員研究員。現在、国立研究開発法人産業技術総合研究所ロボットイノベーション研究センター研究センター長。NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクトリーダー等を務める。文部科学大臣科学技術賞(研究部門、2007年)等を受賞。生活活動支援ヒューマノイドロボット等を開発。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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