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これからの日本経済活性化のキーワードの1つにロボットがある。
高齢化が進み生産年齢人口が減少する中で、次世代ロボットとして有望とされるのは、人間共存型産業用ロボット、防災ロボット、装着型ロボット、移動ロボット、搭乗型ロボットなどだ。
そこで、ロボットの研究開発に長年携わってきた産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター 研究センター長の比留川博久氏に、産業用ロボット市場の現状、次世代ロボットの開発と実用化の見通し、ロボット産業の可能性と展望について伺った。

前編はこちらから

――搭乗型ロボットの開発はどこまで進んでいますか。

比留川 移動の場合、若い人は自転車でもよいため、可能性があるとすると高齢者や歩行が困難な人が考えられます。安全性の確保を前提としますが、電動車椅子や1人乗りの電動車で歩道を走行するシニアカーなどは、買い物が困難な人や近所に出歩けない人に向けた需要はあると思います。
また、より高い安全性を考慮すると、使う場所を限定して、例えばショッピングモール内で、フロアマップで行きたいお店のボタンを押すと連れて行ってくれる自動の車椅子のような使われ方が考えられます。

――どのタイプのロボットでも、用途をはっきりさせ、需要を見極めていくことが大切だということでしょうか。

次世代ロボットの可能性と展望 ――ロボット産業は日本経済活性化の牽引車となりうるか(後編)

比留川 2014年9月から6回にわたって、政府のロボット革命実現会議が開催されました。その中で言われたのが、どういう社会変革をするのかをきちんと考えないといけないということでした。“ロボットありき”で、「使ってもらえませんか」ではなくて、どういう課題があって、それをどう解決していくかが先です。それをはっきりさせて、そこから使い方を考えていくことが重要です。

導入フェーズが始まる分野もある
経産省のロボット介護機器・導入促進事業

次世代ロボットの可能性と展望 ――ロボット産業は日本経済活性化の牽引車となりうるか(後編)

――経産省のプロジェクトはどこまで進んでいるのでしょうか。

比留川 プロジェクトの重点分野は、移乗介助(装着、非装着)、移動支援(屋外、屋内)、排泄支援、認知症の方の見守り(施設、在宅)、入浴支援の6分野8項目です。年間25億円の予算を付け、年度ごとに参加企業を募集してステージゲート審査を行い、高い評価を得た企業が残ります。2013年度は43社が参加、20社が残りました。14年度は33社が新たに参加して、53社体制でやってきていますが、また何社かに絞られるので、15年度は新規募集を加えて、やっていきます。8項目の内、14年度で施設用の見守りと屋外の移動支援は開発が終了、導入フェーズに進みます。2015年度は残り6項目ですが、全体が3カ年計画なので、完了すれば、8項目すべてが揃います。

産総研としてもプロジェクトの完了を待つのではなく、実際に導入しての実証実験を積極的に支援しています。そこで大事なのはリーディング・ユーザーで、それなしにはイノベーションは起こりません。そのため、多少無理をしてでも導入して、新しい介護サービスを目指そうという事業者と導入のための話し合いを続けています。

突出する日本企業のロボット研究開発費用。
課題は事業化が進まないこと

――次世代ロボットの開発が進み、実際に使われるようになるには、開発投資だけでなく、事業の立ち上げのための資金の投入が必要です。日本での取り組みはどうなのでしょうか。

比留川 この数年、日本企業のロボット研究開発投資は年200億円くらいで推移しています。今、産業用ロボット以外のロボット市場は500~600億円といわれている中で、その半分近くの規模を研究開発費に充てているのですから、非常に大きな投資です。300人の社員を投入して、ロボットの研究開発をしている大企業もあります。これは世界の企業の中でも突出しています。大企業の中には果敢にベンチャービジネスに取り組んでいるところもありますが、多くが大企業であるが故に、インキュベーション・フェーズに入っていけない事情を抱えています。大企業は新しい分野の製品を投入して、万一事故があったときのブランド毀損リスクを恐れます。また、そうした大企業では売上100億円程度では事業規模が小さすぎて、事業として成り立ちません。その両方から、事業化に踏み出せないところが多いのです。

一方、米国では投資額50億円程度のロボット開発企業がたくさんありますが、ベンチャーなので、ブランド毀損リスクはありません。加えて、ベンチャー企業にとって、売上100億円は大きな目標で、事業規模が小さすぎるということはありません。

――その状況を変えるには、どこから手を付けていけばよいのでしょうか。

比留川 まず、大企業からロボット開発部門をスピンアウトさせるやり方があります。子会社ではさまざまな制約があるので、親会社の資本比率は50%未満にして、そこにベンチャーキャピタルの資金を投入します。そして社員を出向させ、知財も引き渡して、いろいろな制約を取り払った上で研究開発に集中してもらいます。失敗した場合、親会社に戻れるようにし、生活がきちんと成り立つようにして、全力で開発に当たれる環境を整えることが重要です。

AIが役立つのはロボット運用時の効果評価とコミュニケーション系の強化

――最後に、AI(人工知能)搭載の人間共存型などを含めて、今後のロボットの可能性と展望をお聞かせください。

比留川 AIでロボットを賢くするのは、現時点では難しいと思います。重要なのは、ロボットそのものを賢くするというよりも、ロボットを役に立つようにしようとした場合に、どれだけ改善できたかを測ることです。そのために、ロボットを運用して、そのログをクラウドに蓄積していき、効果評価をきちんとやっていくことが必要です。この効果評価においては人工知能はとても役に立ちます。ロボットそのものを賢くするのはコミュニケーション系ではありえますが、組み立てなどの作業は非常に難しいのです。

そもそもAIという言葉は定義があいまいで、広くとらえれば、フロンティアを意味しています。例えば文字認識も昔はAIでしたが、それがジャンルとして確立してくると、文字認識技術になりました。ロボットもAI研究としてやり始め、技術が固まってきて、ロボットとなりました。現在もジャンルとして確立していないさまざまなフロンティア技術があります。それをAIだと考えれば、ロボット運用時の効果評価とコミュニケーション系でロボットを賢くする取り組みに役立つと思います。

現時点ではロボットができることはまだ限られています。同じことを繰り返す単純作業や、体への負荷の高い作業をロボットに任せ、より付加価値の高い分野に人間の仕事をシフトさせるために、ロボットを役立てていくことが求められています。

TEXT:菊地原博

比留川博久

ひるかわ・ひろひさ
比留川 博久

国立研究開発法人産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター 研究センター長 学術博士
1959年生まれ。1987年神戸大学大学院修了、学術博士。同年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所入所。1994~95年スタンフォード大学客員研究員。現在、国立研究開発法人産業技術総合研究所ロボットイノベーション研究センター研究センター長。NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクトリーダー等を務める。文部科学大臣科学技術賞(研究部門、2007年)等を受賞。生活活動支援ヒューマノイドロボット等を開発。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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