339_main

日本のエネルギー自給率はわずか4%。主要先進国で最も低い水準だ。準国産エネルギーといわれてきた原子力発電も、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降ほぼ稼働していない。日本はこれからもエネルギー貧国のまま、海外からの輸入に頼り続けるのだろうか。この問いに対して、数年前にこんな夢のような答が発表された。
「将来、日本を産油国に変えるかもしれない再生可能エネルギー資源の研究が進んでいる」
国内外で熱い注目を浴びたその資源とは、水中で生育する“藻類”だ。旺盛な繁殖力をもつ2種の藻を組み合わせてハイブリッド増殖させ、石油代替エネルギーを高効率に抽出する。その後の研究開発の進展や今後の見通し、課題はどうなっているのだろうか。日本の藻類研究の第一人者であり、プロジェクトのリーダーである筑波大学生命環境系・渡邉信教授の研究室を訪ねた。

藻類でエネルギー問題を解決

福島の原発事故以降、再生可能エネルギーへの国民の期待がますます高まっている。太陽光発電の普及が進み、効果的な洋上風力発電の実証実験も始まった。
しかし、それらの再生可能エネルギーは電力としての消費を前提としたものだ。エネルギーの最終形態は電力だけではない。都市ガスや天然ガスなどの熱源、運輸燃料、それにプラスチックなど石油を原料とするさまざまな化学製品も含めれば、日本の総エネルギー消費量は電力としての消費量の4倍以上にもなる。運輸燃料の場合をみても、電気自動車の開発は今後加速するだろうが、やはり飛行機や船舶まで電気で動かすのは難しい。

そうしたなか、石油代替エネルギーとして近年クローズアップされているのが“藻類”である。
筑波大学生命環境系の渡邉信教授によると、藻類の中には1ミリにも満たない小さな体に、石油の代替燃料を効率よく生み出す力が備わっているものがあるという。
単位面積あたりで生産できるエネルギー量は、同じバイオ燃料のトウモロコシの数百倍にもなる。しかも、トウモロコシの燃料利用は穀物価格の高騰につながったり作物の耕作面積を奪うため、近年世界的な問題になっているが、藻類は食用にはほぼ無縁のためそうした心配がない。

主役はボトリオコッカスとオーランチオキトリウム

渡邉教授が打ち出している大規模な藻類エネルギー生産構想では、ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムという2つの藻類が主役となる。

ボトリオコッカスは太陽の光を受けて光合成をし、“炭化水素”という石油に近いバイオ燃料を生み出す。
藻類研究者として渡邉教授は長年ボトリオコッカスに着目し、北は北海道から南は沖縄まで日本中で200種類もの藻を採集して燃料生産に最も適するものを絞り込んできた。
しかし、光合成で増殖するボトリオコッカスを日本で育てて大量の炭化水素を得るには地域的ハンデがある。「日本の日照時間は短く、東南アジアやオーストラリア西部など海外の適地の半分ほど。気温も、平均15℃以下の月が東北では8ヵ月、九州でも4ヵ月もあります。それが大きなハンデとなっています」。

そこで、渡邉教授は、もうひとつの新しい藻類に活躍してもらおうとしている。
それこそが2009年に渡邉教授が沖縄で発見し、今や“夢の藻”とも称されているオーランチオキトリウムだ。多くの藻類が乾燥重量あたりつくる炭化水素は1%未満であるなか、オーランチオキトリウムは炭化水素を20%もつくる。
増殖のスピードも格段に速い。ボトリオコッカスが約6日で2倍に増殖するのに対し、オーランチオキトリウムは、わずか4時間で2倍になる。オイル生産効率はボトリオコッカスの12倍にもなる。
「オーランチオキトリウムは、光がなくても有機物を“餌”にして増殖する従属栄養性藻類です。餌を常に与える必要がありますが、光合成を必要としないので、タンクの中で24時間培養することができます。日照時間が短く、狭い国土の日本にうってつけの藻類です」

オーランチオキトリウムのもつ可能性に期待する渡邉教授は2011年、マツダとの共同実験で、この藻類から精製した油を軽油に70%混ぜ、ディーゼル車を走らせることにも成功している。実用化に向けて世界の最先端を走っている米国でさえ、混合率は50%を目指している中での快挙であった。将来は100%も夢ではないという。

ボトリオコッカスとオーランチオキトリウム

ボトリオコッカス(左)とオーランチオキトリウム(右)の顕微鏡写真(写真提供:渡邉信教授)


ハイブリッド・システムで効率性を徹底的に高める

いかにエネルギーを生み出すためのコストを減らし、無駄のない効率的なシステムにするか。
そこで渡邉教授が打ち出した構想が、このボトリオコッカスとオーランチオキトリウムの2種類の藻類を複合的に活用するハイブリッド・システムだ。互いの長所と短所を補完し合う、その徹底ぶりがすごい。

人間の生活廃水には有機物が豊富に含まれる。その有機廃水を処理した一次処理水をオーランチオキトリウムの“餌”とする。下水汚泥や食品工場の廃液など有機物を含む廃棄物なら、ほとんどオーランチオキトリウムの餌になるという。これでまず、オーランチオキトリウムから炭化水素を得ることができる。
次に、その先の二次処理水には生活廃水中の窒素やリンなどが残されるので、今度はこれを屋外でボトリオコッカスの培養に活用し、ここでまた炭化水素を得る。これで窒素やリンが原因で起きるプランクトンの異常発生も防げる。

さらに、オーランチオキトリウムとボトリオコッカスそれぞれから炭化水素を得たあとにできる残渣を、家畜の飼料やメタン発酵のための材料に利用。あるいは可溶化してオーランチオキトリウムの餌として利用する。
このとき残渣を燃やすことになるが、出てくる二酸化炭素をボトリオコッカスの光合成に活用し、熱もオーランチオキトリウムのタンクを温めるのに活用する。

炭化水素生産の複合システム

2種類の藻類による炭化水素生産の複合システムのイメージ(画像提供:渡邉信教授)

渡邉教授らが構想するこのシステムの一部を取り入れた実証実験は、国内ですでに行われている。筑波大学のあるつくば市では「つくば国際戦略総合特区」の試みとして、2012年度より、藻類の屋外大量培養技術の確立に向けた実証実験が進められている。
また、渡邉教授の故郷、宮城県丸森町に近い仙台市の南蒲生浄化センターでは、2013年5月から筑波大学、東北大学、仙台市の共同で、オーランチオキトリウムから炭化水素を得るための「藻類バイオマス実証実験」が始まった。

このハイブリッド・システムを耕作放棄地などで利活用して藻を増殖すれば、将来日本が産油国となることも理論上は可能となる。有機物や窒素・リン等藻類の栄養となる資源の賦存量が十分あると仮定すると、日本の休耕田のわずか5%、琵琶湖の3分の1の広さがあれば、日本の年間エネルギー輸入量を賄うことができるという。
そして何よりこの藻類バイオエネルギーの大きなメリットは、石油代替エネルギーであるので、既存の石油インフラがそのまま使用できることだ。水素ステーションなどをわざわざ造らなくてすむし、プラスチックなど石油製品ももちろん生産できる。

text:漆原次郎

後編はこちらから

渡邉信

わたなべ・まこと
渡邉 信

1948年生まれ。1971年、東北大学理学部生物学科卒業。北海道大学大学院理学研究科植物学専攻修了。理学博士。1977年、富山大学薬学部助手、環境庁国立公害研究所研究員、同主任研究員などを経て、1990年に国立環境研究所室長。1997年に環境庁国立環境研究所生物圏環境部長(1992年〜2001年は、筑波大学大学院生物科学研究科教授を併任)。2006年より、筑波大学生命環境科学研究科教授。2007年より日本学術振興会学術システム研究センター総合・学際新領域主任研究員を併任。研究テーマは、水界生態系における藻類集団構造の多様性動態と保全・利用に関する研究。
編著書に『新しいエネルギー藻類バイオマス』(編著、みみずく舎)、『藻類ハンドブック』(共著、エヌ・ティー・エス)など。


Sponsor Content Presented ByIBM

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


関連記事