江幡哲也

日々生活をしていく上で不安や知識不足を感じ、誰かにアドバイスを求めたいと思うことは多い。そんな時、さまざまな分野の専門家による有用な情報を提供してくれる総合情報サイトとして、圧倒的な支持を得ているのが「All About」だ。900人ものその道の専門家が、インターネットを介して、マネー、住宅、暮らし、健康、ビジネスから旅行や恋愛まで、多岐にわたる疑問や悩みに応え、情報を提供してくれる。
創業者は、かつて「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれた江幡哲也氏。㈱リクルートにはエンジニアとして入社し、その後営業や経営戦略を担当し辣腕を振るった経験を持つ。
近年、株式会社オールアバウトは人々の生活をより豊かにしたいと、新たに試供品を格安で提供する「サンプル百貨店」や生涯学習の場を提供し、最近では中古車の個人間売買にも進出している。
少子高齢社会や国内市場の縮小の中で、同社の売上高はこの3年間で2.4倍と好調だ。江幡社長はビジネス・チャンスをどのように見いだし、発展させてきたのか。その軌跡や発想の秘密を語ってもらった。

前編はこちらから

ITを利用して世の中を変える側になりたいとリクルートに入社

――ところでリクルート社は創業以来、「新規ビジネスに積極的に取り組むことが当たり前」というベンチャーの気風があったと思います。江幡社長がリクルート社に入社された動機は何だったのですか。

江幡 リクルートに入社した29年前は通信自由化が叫ばれていて、私はコンピューターや通信、今でいうIT系に大変興味がありました。武蔵工業大学(現 東京都市大学)電子工学科では、同級生のほとんどがメーカーの研究所や現場に就職しましたが、私はITを駆使して世の中を変える側の会社に入りたいと思っていたところ、リクルートが通信事業に参入すると聞いたのです。

実家は中小企業で私は長男でしたから、いずれ家を継ぐことが周囲から期待されていました。そのためには、若いうちに厳しい会社でいろいろな仕事を経験できて、実力を付けておく必要がある。リクルートはそうした条件に合っていた。

当時のリクルートは小さい会社で、私は700人もの大量採用の1期生でした。社員の3分の1が新人という状況で、新人が経営を語っているという、若くて勢いのある会社でした。飲みに行っても24時間、仕事の話ばかり。身体はきつかったですが、面白くて仕方がなかった。

100件もの事業企画を手掛けた「リクルートの立ち上げ屋」
ついに、オールアバウトの創業社長に

――「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれていたそうですね。オールアバウトの立ち上げにはどのような経緯があったのですか。

江幡 入社後は情報通信ネットワーク事業のエンジニアを皮切りに、営業などあらゆる職種を経験しました。98年に経営企画の戦略リーダーになったときは、リクルート全体がインターネット対応を迫られており、新規投資や既存事業の見直しなど100件を越える企画提案をしました。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(後編)

今のオールアバウトのようなアイデアは1996年ごろから温めていましたが、実際に始めるにはブロードバンドが普及する99年まで待たねばなりませんでした。リクルート自身での事業化も考えましたが、かなりの先行投資が必要で、リクルート伝統の短期高収益型ビジネスとはちょっと違う。そこで自分で独立してやろうと考え直しました。

ちょうどそのころ、アメリカで似たようなビジネスを手掛けるアバウトドットコムという会社が注目されていました。
そこで私は、さっそくニューヨークの本社に飛び、時にはケンカ腰になるほど真剣な議論を重ねた結果、対等なジョイント・ベンチャーで手を組むまで漕ぎ着けることができました。2000年の創業と同時にリクルートを退社して社長に就任したのです。

「企業」が「個人」にモノを売る時代のビジネスから
「個人間売買」の時代に照準を当てたビジネスを

――2014年7月には中古車の個人間売買をサポートする会社「カーコン・マーケット」を設立されています。車の個人間売買はこれまであまりないビジネス・モデルですが、どういう狙いがあるのですか。

江幡 インターネットは情報のやり取りを革新してきましたが、今やモノを作る、モノを売る過程の構造まで変えるフェーズに来ています。当社もそこに事業領域を広げていく必要があり、チャンスがあると考えています。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(後編)

企業が個人に売っている今の形を個人間売買に変えれば、流通の中抜きができてムダを省けます。受注生産による無在庫、自分仕様(カスタマイゼーション)、低価格という3つが成り立つことがこれからのマーケティングの理想です。

「カーコン・マーケット」は、板金修理店を全国に800店展開している「カーコンビニ倶楽部」との共同で設立しました。中古車を個人間で売買すると、車両本体には消費税がかからず中間コストを減らせるので、売る側は高く売れ、買う側は安く買える利点があります。個人間売買はこれから拡大する分野で、消費税が高いドイツでは中古車の多くが個人間売買と言われています。
ただ、車の売買には信用が不可欠なので、カーコンビニ倶楽部さんには高度な査定をしていただき、ローン手続きなどは金融機関の協力でネット上で完結する仕組みです。

また、中古の戸建てやマンションのリノベーションも、家族構成の変化や少子高齢化で住宅が余っていますから、今後は有望なビジネス対象だと思います。

失敗を恐れ、チャレンジをしない人には
成功のチャンスもめぐって来ない

――国内市場を中心にお話をお聞きしましたが、アジアの発展などグローバル化の大潮流が起きる中で、今後の海外展開をどのように考えておられますか。

江幡 すでに2つの取り組みを始めています。1つはグローバル向けのPRで、政府や官庁などが日本の良さを世界に伝える「HIGHLIGHTING JAPAN」という広報誌の編集を受託しています。これまで同誌には外国人の視点がやや少なく、誌面デザインもネイティブが読みやすいものではありませんでした。

もう1つは先生を育てる生涯学習ビジネスの海外展開です。アジア新興国の中間層にニーズがあることが分かったので、台湾では現地企業と提携してすでにスタートしています。タイでも時間に余裕のある日本人駐在員の奥様たちが先生として教え始めています。

――近年、若者が起業したり、企業内で新規事業を立ち上げたりするケースが増えています。有言実行で成功された先輩として、アドバイスをお願いします。

江幡 学生に就職や起業について話をする機会がよくあります。起業を希望する人はそう多くないですが、熱心な人はいます。気持ちがあるなら、できるだけ早めに個人としての力を付けて、チャレンジするよう勧めています。
失敗を恐れ、チャレンジをためらってばかりいる人には、成功のチャンスもめぐって来ません。

テキスト: 木代泰之

江幡哲也

えばた・てつや
江幡哲也

株式会社オールアバウト 代表取締役社長
1965年、神奈川県生まれ。1987年に武蔵工業大学(現東京都市大学)を卒業し、株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げ成功させ、社内外から 「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれるように。その間、1993年には早稲田大学ビジネススクール修了。2000年6月に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。著書に「アスピレーション経営の時代」(講談社)。


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