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企業経営者や、大学の研究者など経験豊富な「教諭」たちが、ボランティアで自分の得意分野を国語、算数、理科、体育など小学校の教科に見立てて、大人の「生徒」向けに授業をする。学びの場は、山形県高畠町の元小学校の廃校舎。先生も生徒も地元の山形県のみならず、全国から集まって来て、熱気あふれるクラスが展開される・・・。
こんなユニークなプロジェクトが、2015年10月から本格的に始動する。プロジェクトの名は「熱中小学校」。企業、地方自治体、大学などが協力し、過疎で廃校となった元小学校という場を活用し、経営哲学から最新技術、体育や道徳までを学びながら人と人をつなぎ、人の成長による地方創生やアントレプレナーシップなどを学ぶ場にすることを目指している。
「地方創生」を成功させることの難しさが言われている中、このプロジェクトで具現化されようとしている「高畠モデル」は、果たして成功を収めることができるだろうか。
プロジェクトの仕掛け人の1人である、オフィス・コロボックル創設者の堀田一芙氏に、「熱中小学校」プロジェクトの成り立ちから将来展望までを伺った。

「もう一度7歳の目で世界を…」
山形の廃校に大人の学び舎が開校

「熱中小学校」が開校されるのは、山形県高畠町にある旧時沢小学校の廃校舎。2010年3月、過疎による統廃合により閉校となった。同校はかつて水谷豊主演のTVドラマ『熱中時代』のロケ地にもなった。そのドラマのタイトルが「熱中小学校」というプロジェクト名の由来になっている。
廃校を、再び「開校」させて、大人たちの学びの場にする。プロジェクトのキーワードは「もう一度7歳の目で世界を…」というものだ。小学校の授業に見立てて、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図工、家庭、体育、道徳の授業を設ける。それぞれの授業を、企業の経営者や大学の研究者などの「教諭」たちが受け持つ。

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堀田 「“大人にとっての学校”として、廃校をもう一度開校させますという企画書をつくって、先生を集めました。さまざまな分野の経験豊富なプロの方々が、『面白い!』と言ってボランティアで参加してくださっています」 

プロジェクト発起人の1人、オフィス・コロボックルの堀田一芙氏はそう話す。堀田氏は、日本IBM㈱で常務取締役ソフトウエア事業部長を務めた後、2011年に東日本大震災を機にオフィス・コロボックルを東京赤坂に創設。専門分野の知恵を提供し合って解決する「場」の創出などを目指しており、東京や福島で古民家や空き事務所を活用した起業支援も手がけている。現在は㈱内田洋行の顧問や上場企業の社外取締役を務めるかたわら、仲間とボランティアベースで「面白い!」と感じるプロジェクトをプロデュースしている。

「熱中小学校」の教諭たちは、堀田氏の言うとおり、多様な面々となった。校長は、野球場やお寺までを会議室等として貸す事業を手がける㈱スペースマーケットのCEO重松大輔氏。教頭は、日本IBMやアマゾンデータサービスでの職歴をもち、現在は㈱ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏。どちらも1976年生まれの30代だ。熱中小学校が今後30年歴史を重ねても、2人ともまだ60代というわけだ。

そして、国語から道徳までの全科目に、企業経営者や研究者など豊富な実績を持つ教諭が2人ずつ就任し、興味深い授業を展開する。
例えば、算数では「『大きい数』を扱う算数、指だけでは数えられない『大数』の数え方やスケール感覚を体験しながら学ぶ授業にしていきたい」(算数担当教諭・㈱toor代表取締役の高枝佳男氏)、社会では「森と人間のワクワクするような関係をお伝えしたい」(社会担当教諭・東北芸術工科大学教授の三浦秀一氏)といった授業案が並ぶ。保健室担当医は、元山形大学学長で、NK細胞を発見した免疫学が専門の仙道富士郎氏。実に豪華な教師陣を擁する小学校だ。 元「オフコース」のドラマーで音楽プロデューサーの大間ジロー氏など多彩な客員教諭が招かれて特別授業を行うこともある。

教諭以外にも、「PTA会長」は、元経済同友会代表幹事で、現在は国際基督教大学理事長や日本IBM相談役である北城恪太郎氏、中国で12年間奉仕活動の経験をもつ大連博倫電子顧問の三上吉彦氏が務める「スーパー用務員」などが脇を固める。堀田氏自身は「用務員」に就いた。

山形のとある社長の「廃校利活用を」という思いと
町役場職員たちの熱意でキックオフ

「熱中小学校」では目的を3つ掲げている。「再興小学校を利用した地方と首都圏のソーシャル社会塾」になること。「地域との共生(林業、農業、里山)を学ぶ場」になること。「最新技術や人が集まり、アントレプレナーシップ、つまり起業家精神を育む場」になることだ。
実際の授業は月に2回、隔週ペースで土曜日に行われる。開校前に応募してきた入学予定者は、山形県在住者が65%ほど。他は東京都など他都県からの参加者となっている。

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堀田 「さまざまな方に入学していただきたいのですが、とりわけ団塊ジュニアを中心とした世代に来てほしい。私のような団塊世代と違って、比較的子どもを多く産むことがなかった環境に置かれています。これから苦労する世代です。

現時点の入学予定者の年齢層は、30歳から50歳にかけてが半数を占めるが、下は19歳から上は77歳までと幅広く、年代を越えて注目されていることが分かる。

そもそもこのプロジェクトはどのようにして立ち上がったのか。
2014年、オフィス・コロボックルの事業を福島県会津地方中心に始めて3年が過ぎたころ、堀田氏は、山形県南陽市にあるエヌ・ディーソフトウェア㈱社長の佐藤廣志氏から「山形で統廃合する学校の利活用を考えている。ぜひ知恵を貸してほしい」と相談された。そこで堀田氏は12月、山形に出向いて佐藤氏と近隣のいくつかの廃校を高畠町役場の職員を交えて下見をした。が、どこも決め手に欠く。旧時沢小学校にも足を運んだ。小さくて可愛い学校だと思ったが、駅からは遠いし、それに、なにしろ寒い。

堀田 「1杯飲んで、もう帰りましょうとなったんです。ところが、役場の人たちが町の活性化に非常に熱意をもっており、人をその気にさせるのが実に上手。飲んでいるうちに、だんだん盛り上がってきて、じゃあやってみましょうかとなってしまった」

その後、開校に向けて、各自がそれぞれの役割を果たしてきた。佐藤氏は、2015年9月開設のNPO法人「始まりの学校」を立ち上げて、熱中小学校の運営を担う。堀田氏は、自分のネットワークをフルに活用し、主に東京で「先生」となる人材確保に奔走。そして高畠町役場は、地方創生関連施策に対する国の交付金を活用するなどして、プロジェクトを支援する。2015年1月には通学区だった周辺の住民に説明会を行った。
熱中小学校の2階部分を企業のサテライト・オフィスにするため、町が総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」に「廃校再生ふるさとサテライト・プロジェクト」として5月に応募し、全国15カ所の1つに採択された。東京から2社がサテライト・オフィスとして入居することが決まっており、2社と3人の開発者らが開発に従事する。これで山形市のベンチャー企業などを含め、5社のオフィス入居が決まった。堀田氏は、この役場職員の人たちの熱意と、的確でスピーディな仕事ぶりに感動したと言う。

体を動かし、知恵を学ぶ
1泊2日のサマーオープンスクール

2015年8月1日と2日の土日。堀田氏たちは開校前の段階として「熱中小学校」とその周辺で「サマーオープンスクール」を実施した。真夏の暑い中、150人以上が参加した。
初日は、オプショナルプログラム。
13時過ぎに山形新幹線が高畠駅に停車すると、電車を降りた参加者たちが次々と改札口に集合する。「熱中小学校」までバスでも移動できるが、希望者は自転車で約1時間かけてこれから第2の母校となる熱中小学校へと向かった。真夏の炎天下、緑の稲穂が揺れる田んぼや、高畠のブドウ畑が連なる丘の脇を走り抜け、元気に到着する。その次は学校の裏手にある農園「こもれびの社」で農作業体験。じゃがいも掘りなどをした。畑で真っ赤に熟したトマトをもぎ、そのままかじる。生温かいトマトなのに、驚くほど甘くて美味しい。農家の奥さんたちが、収穫したてのじゃがいも料理や葡萄酒、かき氷などでもてなしてくれた。

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農作業で汗をたっぷりかいた後は、近くの湯沼温泉で汗を流してさっぱり。夜は地元の農家の人たちが、心のこもった郷土料理を差し入れてくださり懇親会となった。名刺を交換し、酒を酌み交わすうちに、お互い今日初めて会った者同士とはとても思えなくなる。開校前からまるで「同窓会」のような雰囲気になって、夜は更けていった。

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2日目の午前は、小学校前にある耕作放棄地の草刈りをしてブドウ畑へと再生のキックオフをした。夢は地元の高畠ワインさんのご支援でワインまで作ってみたい!重労働の後は再び温泉に飛び込む。山形名産の芋煮や大きなおにぎりの昼食をとった後、いよいよ午後から「熱中小学校」の授業、全員参加のプログラム開始だ。

㈱ネットラーニングホールディングス会長の岸田徹氏による「ネットで激変する教育と学習」という特別招待講演に続き、山形大学工学部教授の古川英光氏(理科担当)が3Dプリンター・レーザーカッターの活用について講義。

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その後はコンピューター周辺機器の開発などをするプラネックスコミュニケーションズ㈱の経営者でありながら、プロレーサーの久保田克昭氏(体育担当)による授業。2014年5月に開催された第9回モナコ・ヒストリックF1・グランプリで優勝した時の体験談に、「生徒」たちの熱心な質問が相次いだ。校庭では、わざわざこの日のために搬送されたその時のレーシングカー、ロータス72E/6を披露。同行した相棒のメカニックの方がエンジンを吹かして見せてくれる。ものすごい爆音に、「生徒たち」の胸は遠い少年の日の憧れに戻って高鳴った。

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さらに、マルチコプタースペシャリストの櫻田修一氏が校庭で無人飛行機ドローンのデモ飛行を披露。地元の本物の小学生まで加わって、目を輝かせてドローンの飛行を見守る。充実した1泊2日のプログラムとなった。

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