1980年代に実施した徹底的な犯罪防止政策により、1990年代前半までの間、犯罪発生数を激減させたニューヨーク市。しかし1995年を境に減少のスピードは鈍化してしまいます。警官の数を増やしても、人材の質を上げようと採用活動に工夫を凝らしても、状況に変化が見られないことに危機感を抱いていた市警トップのレイモンド・ケリー本部長は、それまで顧みられていなかった、あるポイントに着目します。
それは「情報」。紙ベースで、しかも部署ごとにバラバラに管理されていた犯罪情報を一元化することで、業務の効率化が図れるのではないか、というのがケリー氏のアイデアでした。

とはいえ、ケリー氏本人は警察組織の叩き上げ。情報の管理に関しては素人も同然です。そこで彼は、組織に最高情報責任者(CIO)を置くことを決定します。それまで市警の役員に民間出身者が起用されたことなどありませんでしたが、このままではこれ以上の犯罪減少は見込めない、と感じたケリー氏に迷いはありませんでした。IBM元会長 ルイス・ガースナー氏の推薦のもと、選任されたのはジェームス・オナルフォ氏。彼は食品メーカーであるクラフト社や、家電メーカーのスタンレーワークス社でCIOを歴任した、システム構築のスペシャリストであり、ニューヨーク市警の初代CIOとしてふさわしいと判断されたのです。

2005年、ニューヨーク市警はオナルフォ氏の主導のもと、新たに生み出された情報管理システム「リアルタイム犯罪センター」を構築しました。このシステムでは、膨大な犯罪記録がデータベース化され、24時間コンピューターを使って事件記録、逮捕歴、パトロール情報などが照合できます。また「Super Finder」と呼ばれる技術によって、今までに蓄積されたデータを参照し、容疑者の人物像や行動パターンを瞬時に特定することが可能に。犯罪検挙率の向上とともに、事前に犯罪を防止することもできるようになりました。

その結果、在ニューヨーク日本国総領事館のデータによると、ニューヨーク市の2011年における犯罪発生数は前年と比較して8万件減少。また、2012年度の人口10万人に対する発生件数で示す犯罪発生率は、人口の多い全米10大都市の中で最も低い数値を示したのです。

治安の維持にITテクノロジーを活用したこの事例。最先端の技術は、人々の生活を直接的に便利にするだけではなく、社会をより安全・安心にすることにも役立つことを示しています。人間の強い意志と技術の力を組み合わせた、凶悪犯罪撲滅への戦いは続きます。

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