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市長という役職は、「HUB」であり、「プラットフォーム」である—。2009年、全国最年少市長(当時)として初当選し、現在2期目にある千葉市の熊谷俊人市長は自らの役割をそう例える。日本を代表するIT企業の社員から市議を経て市政のトップに転身した熊谷氏。日々のTwitterで市民との対話を欠かさず、自らの選挙ではネット上にカンパ資金なども逐一開示するなど、ICTを駆使して活躍する若き自治体トップの一人だ。
その熊谷市長が中心になって千葉市が進めているのが、行政におけるビッグデータの活用やオープンデータの推進。既にスマートフォンなどを利用した「ちばレポ(ちば市民協働レポート実証実験)」も始まっている。「行政が保有するデータを二次利用が可能な形で公開し、社会が効果的に利活用できるようにすれば、新たな価値が創造できる」と意欲を見せる。

行政の持つデータを活用し、効率化や産業の活性化を

――市長はもともとIT企業のご出身で、市議会議員を経て市長に就任されましたが、行政側に入られた頃、ICT化に関してどのようにお感じになりましたか。

熊谷 民間から移って来てまず驚いたことは、市職員がユーザーIDを持たずに仕事をしていることでした。会社員だった頃は、顧客からコールセンターに電話がかかってくれば、まず相手がどういう人かを把握するため、データベースでユーザーIDを引き出し確認したうえで対応していました。ところが、市役所の職員は、窓口に来る市民のことを全く知らずに対応していたのです。

行政は、家族構成や住所、納税など、個人に関する情報をたくさん持っています。あらかじめ本人の了解を得ていれば利用できるわけですから、それを活用すれば効率的です。それなのに、IT化への対応の遅れや、「個人情報」への間違った思い込み等から、それらの情報を使えずにいるため手間ばかりが増え、結果的に市民にも余分な書類を何度も出していただくような状況でした。それは非常にもったいない、そう感じました。

――最近ビッグデータやオープンデータについて、さまざまな可能性が言われていますが、千葉市ではどのようなことを考えていますか。

熊谷俊人・千葉市長熊谷 いろいろあります。例えば、千葉市内で飲食店が開業や廃業をする際には、管轄する保健所に届出等の義務があります。この情報を、ネット上にある数多くの飲食店情報サイトと共有できれば、最新かつオフィシャルな情報が即時にアップされ、利用者にとっても非常に便利ですが、現状ではまだそれができていません。また、市は土地のボーリング・データを持っていますので、市内の地質データをオープンにできれば、隣接する土地の開発を手掛ける企業にとって、基礎を造るときにどの程度費用がかかるかなど参考にでき有益です。
どういった情報が個人や企業にとって有益かなど、これからも皆様の意見を聞いてより良いものにしていきたいと思っています。

さらに、浸水・土砂災害などのハザードマップ情報やAEDの設置場所も考えられます。既に各自治体がネットで公開していますが、情報の出し方がまちまちです。これらを統一して、何らかの有効なアプリを開発すれば、全自治体の情報が一目瞭然になり使いやすくなります。

ビッグデータやオープンデータの活用は、総務省が先行して取り組んでいますが、まだ国民の皆さんが身近に感じて便利だな、自分も使いたいな、と思う段階には至っていません。だからこそ、1つひとつ事例を作っていく必要があると思っています。

――千葉市を含む4市で取り組んでいる「ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会」では、そういう事例づくりも目指していますね。

熊谷 2013年4月、行政のICT化に意欲を持つ佐賀県武雄市、奈良市、福岡市の首長と私が、「ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会」を発足させました。ここでデータの活用アイデアを広く一般に募集したところ、3カ月の募集期間中に221件のアイデアが寄せられ、11月にその優秀作品を発表しました。実現性、もしくは需要があるとして検討できるものがいくつもあります。これらのアイデアを見て、「ビッグデータやオープンデータって、こういうことか」と分かってもらえ、二次的にアイデアがまた派生するかもしれません。
そうやってトライ・アンド・エラーを繰り返し、アプリを作るなどして、最終的に生き残ったものが全国展開されていくことになると思います。

政治家は「負の気持ち」も受け止めなければいけない立場

――Twitterやブログなどでも熱心に発信されていますが、公人の場合、些細な一言が大騒ぎになり進退を問われる例などもあるように、リスクもあるかと思います。

熊谷俊人・千葉市長

千葉県のマスコットキャラクターのチーバくんを手にする熊谷俊人・千葉市長

熊谷 私は大学時代からインターネットのサイトを立ち上げ、管理人もしました。ネット特有の「炎上」も経験しており、それらをどうさばくか、自分なりに経験値があります。基本的には「常にポジティブな発言をする」ということでしょうか。もちろん、中には誹謗中傷を気軽につぶやく人もいますが、我々政治家というのは、そういう「負の気持ち」も含めて受け止め、前向きに改革を実行していかなければいけない。それはむしろ政治家の特権というか、政治家が覚悟してやらなくてはいけないことなのだと思います。

盆踊りなどの地域の行事に参加するたびに、若い人からも声をかけられます。Twitterを通じて、たくさんの方々とやり取りをしているので、身近に感じてもらえるのだと思います。バーチャルな対話だけではなく、そうやって常にいろいろな機会を捉えて”リアル”な場にも出かけて行き、市民の方々とのコミュニケーションを心掛けるようにしています。

「負の気持ち」といえば、明らかに市民の側の要望が無茶な時もあります。でも、それに対して職員は「無茶だ」とは言えません。ただ「承ります」とだけ伝えてそのままにし、反映はされない。これでは行政に対する不信感が募ってしまいます。必要な時には「NO」と言わなくてはいけないし、その理由を説明しなくてはいけません。それが市長である自分の役割だと思っています。

市長は「インタープリター(通訳)」であると同時に、HUB であり、プラットフォームである

――市長が市役所と市民との間に立つということでしょうか。

熊谷 市民から選挙で選ばれた市長は、「インタープリター(通訳)」です。市民の思いを行政に反映すると同時に、行政側の考え方を市民に伝えることも重要な役割です。この“双方向”という意味で、私は市長というのは「HUB」であり、「プラットフォーム」だと思っています。

まちづくりにしても、新しい価値を生み出すには、さまざまな人たちが意見を出し合うことが必要です。行政側だけで考えるのではなく、市民と一緒に考える。それには、行政が市民を信頼し、行政が持つ情報を、市民と共有することが必要です。透明性の高い信頼できる情報を持つからこそ、市民は“わがまち“という意識を持ち、まちづくりに参加したくなります。

――行政の「見える化」といえば、自分が納めている税金がいったい何に使われているのか、使いみちを市民自身が知ることも必要ですね。

熊谷 千葉市では、税金の使われ方を可視化するサイト「税金はどこへ行った?」を市民有志により立ち上げています。世帯構成や年収を入力すれば、自分の納めた税金がどのように使われているかがクリック1つで分かります。
今後は、市として、納税額と行政サービスが分かるシステムを作ります。このシステムでは、自分が受けているサービスの財源がどこから来たかも分かるようにしたいと思っています。市民は税金について、強制的に徴収されている感覚になっていますが、それは自分に対し直接的・間接的にどんな形で税金が使われ自分が支えられているか実感がないからです。「見える化」することは、納税に対する納得感につながり、行政に対する信頼にもつながると思います。

text:深井久美

後編はこちらから

熊谷俊人 千葉市長

くまがい・としひと
熊谷 俊人

1978年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、NTTコミュニケーションズ(株)入社。2007年に千葉市議会議員、2009年6月、全国最年少市長(当時)で千葉市長に初当選。2013年、2期目当選を果たす。市長就任後は、情報システムの整備に取り組み、現在はオープンデータ活用に向けた活動も積極的に進めている。自身のブログやTwitterでは、 市政情報のリアルタイム発信だけでなく、市民と幅広く意見交換し、それまで行政にあまり関心のなかった若者層とも距離を縮めていると好評を得ている。著書に『青年市長が挑む市政改革―未来視点で大転換』『公務員ってなんだ?~最年少市長が見た地方行政の真実~』など。


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