「ロボットと人間がともにつくる未来」とは――フラワー・ロボティクス松井氏に見えているもの

2035年には10兆円市場となると言われているロボット産業は、テクノロジーの中でももっとも期待を集めている分野のひとつだろう。コグニティブ・コンピューティング「IBM Watson」や、感情を伴ったロボット「Pepper」など、新しいテクノロジーは枚挙に暇がない。またロボットの分野は、少子高齢化に伴う人手不足の解決や、サービス産業における生産性アップという面でも大いに注目されており、社会全体に与える影響も大きくなりつつある。

そんな中、家庭用ロボットの実用化という、夢の一歩を踏み出そうとしているのがフラワー・ロボティクス株式会社だ。これまで、3歳の女の子をイメージした「Posy」や、動くマネキン「Palette」、小鳥型ロボット「Polly」など、ユニークなロボットを世に生み出してきたが、2014年に発表された「Patin(パタン)」は、自社製品では初のコンシューマー向けの“商品”(2016年発売予定)。ロボット自体を一種のプラットフォーム化し、各メーカーが開発したサービスユニットを搭載することで、さまざまな家電として使えるというアイデアだ。

はたして今、ロボット技術の世界ではどんなダイナミズムが起こっているのか。また、人とロボットの理想的な関係とは。フラワー・ロボティクス代表であり、ロボットデザインの第一人者である松井龍哉氏に話をうかがった。

スマートフォンの普及が生んだ第3次ロボットブーム

——1985年のつくば科学万博を契機とした産業ロボットの普及を第1次、2000年前後のAIBOやASIMOの発表を第2次とすれば、今は第3次ロボットブームと呼ばれています。なぜここに来て、新たなロボットのブームが沸き起こっているのでしょうか。

松井 まず過去を振りかえると、こうしたブームの背景には、必ず象徴的な出来事があることがわかります。たとえば、第2次ブームが起こり始める1997年、IBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」が、チェス王者に勝つというニュースが世界中に衝撃を与えました。まさか20世紀中に、コンピューターが人に勝つということが達成されるとは思っていなかったので、私自身も大いに興奮を覚えました。

さらに、国際的なロボット競技大会である「ロボカップ」が生まれたのも1990年代。ロボット開発には、コンピューティングによる認識や学習等の知能面とロボット工学という2つの要素があります。たとえるなら、「頭」と「身体」というところでしょうか。かつて研究の現場では、このふたつはほとんど交差していませんでした。それらを融合させ、競技という形で一般の人たちにも分かりやすく提示したのが「ロボカップ」といえます。

そして第3次ブームの背景には、スマートフォンの爆発的な普及に伴う、ネットワークの高速化、クラウド化があるのではないでしょうか。ここ20年くらいの間はさまざまな技術がコモディティ化してきているため、パーツもぐっと安価になり、以前よりもロボットをつくりやすくなっています。

——日本の産業構造の変化も影響しているような気がします。

松井 確かに、車や家電に代わるハードウェアをつくっていかなくてはならないという機運も追い風になっていますね。そういう意味では未来を託せる産業として認識され始めた、といえるかもしれません。ただ、雇用面での効果や日本経済に与えるインパクトを考えると、まだまだ成長途上という域を出ていないのが現状です。

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ロボットの進化を支えるソフトウェア開発

——2001年にフラワー・ロボティクスを創業し、いわゆる“ロボットベンチャー”の先駆けとして歩んできた松井さんから見て、この分野におけるベンチャー企業の可能性についてどのように感じていますか?

松井 今、コンピューターテクノロジーを要するベンチャービジネスは、ソフトウェア系がメインストリームです。商業的にはスマートフォンのアプリ開発が圧倒的に多い。一方、ロボットのベンチャーに関していえば、3Dプリンターが普及したおかげで、プレゼンテーション向けの立体モデルづくりもしやすくなり、資金調達も以前よりはハードルが下がっているとは思います。

——単なるアプリ開発ではない、他の業種を巻き込んだ横断的なチーム編成や事業の組み立て方が必要ということでしょうか。

松井 そうですね。ハードウェアに関しては実にさまざまな企業が関わることになります。われわれがつくる小さなロボットですら、かなりの数の会社が関わっていますから。とはいえ、やはり技術面で核になってくるのは、いかにハードをうまく動かすかというソフトウェアの部分です。実際、フラワー・ロボティクスに関わるエンジニアに関しては、7割近くが制御システムの専門家です。ロボット製造というと、ハンダ付け等しているイメージを持たれるかもしれませんが(笑)、実際にはシステム設計の開発が大部分を占めているのです。

"ロボットの進化を支えるソフトウェア開発

在宅勤務の増加がロボットブームを後押しする!?

——2016年には、一般向けにロボット「Patin(パタン)」発売が予定されていますね。ところで「Patin」はフランス語でスケートを意味するそうですが、なぜそのような名前をつけたのでしょうか。

松井 自社開発によるコンシューマー向けロボットのプランはかねてからありましたが、手がけるなら家庭内で使えるものにしようと決めていました。自宅は、個人がいちばん安心できる最小限のユニットですし、これからは在宅勤務も多くなるのではないかと思っています。そうであれば、自宅でロボットを利用する機会も増えるではないかと考えたのです。

——未来のライフスタイル予測も込められているわけですね。家庭の中に本格的なロボットが入ってくると思うとワクワクします。

松井 そもそもロボットの面白さとは何なのかを考えたとき、「自動的に、物理的にモノが動く」「モノが考える」という点だと思うのです。では、ロボットが家の中にいるとして、どのようなものなら動いてもヒトの邪魔にならず、快適にその役目を果たしてくれるだろうかと考えたとき、ヒューマノイド型はその大きさからして、日本の住宅事情では現実的ではないなと思いました。かといって、反対に小さすぎるとおもちゃの域を出ません。いろいろ思考をめぐらせて、「靴くらいの存在感だったら」という結論に至ったのです。靴ならもともと履いて動かすものだし、それ自身が考えて滑走する光景は面白いじゃないですか(笑)。そこで「スケート」の意味を持つ「Patin」と名づけたわけです。

「Patin」

——「Patin」の開発は、機能面から考えられたのではないのですね。

松井 ロボットを実用化していくにあたり、設計上でもっとも重要なのが実は寸法なんです。いかに実生活で違和感なく存在し、使いやすいサイズ感にするかが先決。実寸を決定するだけで半年くらいかかりました。

サービスユニットの使い方は無限!

——サイズ感同様に、機能面もかなり試行錯誤があったのではと察します。

松井 もともとロボット自体は単機能になりがちです。しかも「Patin」は大きなものではないので、単体で複数の機能を持たせるのは難しい。そこをどうクリアしていくかが課題でしたが、本体(プラットフォーム)+サービスユニットというアイデアで解決しました。

スケートシューズに既存の家電をつなげることで、なんでもロボットにしてしまおうという発想ですね。そうすれば、サイズ、機能の両面で、家庭でも使ってもらいやすくなります。そして、これにクラウドとの通信機能を付加すれば、操作性も向上します。

——「Patin」には、具体的にはどんな用途が考えられるのでしょう。

松井 すでに開発済みのユニットとしては、照明器具やプランターなどがあります。たとえば照明の場合は、住環境の空間を把握し、利用者の好みや習慣を学習したうえで、状況に合わせたライティングを「Patin」自身が考え、実行してくれます。それ以外に、市販化へ向けてまずは7、8個くらいのサービスユニットの同時発売を予定しています。もちろん、サービスユニットの機能は、無限の拡張性を秘めています。それこそ将来的には、あっと驚くような発想から生まれたユニークなサービスユニットが出てくるかもしれませんね。

サービスユニットの使い方は無限!

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