「ロボットと人間がともにつくる未来」とは――フラワー・ロボティクス松井氏に見えているもの

車やパソコン、そしてスマートフォンのような存在になればいい

——お話をうかがっていると、この「Patin」は単に新製品としてだけでなく、まったく新しいビジネスモデルの提案でもありますね。

松井 私自身はロボット製品そのものをつくることよりも、そのロボットによって生まれる新しい価値観、新しいマーケットをつくることが重要だと考えています。ここが第3次ロボットブームの重要な点です。今回の「Patin」で、私たちはプラットフォームを提供します。あとは、サービスユニットがどれくらい市場に生み出されてくるか。IoT的な観点からも非常に面白いビジネスモデルになっていくと予想していますね。

車やパソコン、そしてスマートフォンのような存在になればいい

——新規参入してくる企業にとっても、専門外となるハードをつくる必要がなく、それぞれの専門分野を活かしたユニットの開発が可能になる。そういう意味では、まさにスマートフォンのアプリに近い気がします。

松井 車は100年前に量産化に成功し、パソコンは30年前です。そしてスマートフォンは10年前にはこの世に存在していませんでしたが、今や圧倒的な市場を確立して、人々の暮らしに溶け込んだ存在になっています。私たちも、ロボットが日常風景になることを目標に掲げています。「それ自体があることすら意識しないくらいの、当たり前の存在」が理想ですね。

——ロボットが「意識しないくらいの当たり前の存在」になるには、何が必要だと思われますか。

松井 ロボット市場とそれを支える企業体が、国内で圧倒的な成功体験を持つことが必要だと感じています。以前の日本は海外のビジネスモデルを取り入れて、国内用にカスタマイズしていくキャッチアップ型でしたが、これからのロボット産業は、まず新しいプラットフォームを確立し、世界からキャッチアップされる立場にならなければなりません。

「科学技術は人や社会の力となってはじめて完成」

——未来における人間とロボットの関係性はどう変わっていくのでしょうか。人間の仕事を奪ってしまう恐れはないのでしょうか。

松井 あまり悲観的になる必要はないと考えています。たとえば、馬車の仕事は自動車の普及と同時に消え去りましたが、馬車があった時代を知らない人にとっては「奪われた」という感覚自体を持ち得ません。それと同じことだと思います。ロボットの進化とともにライフスタイルや産業構造も変化していくということです。

——そのようにロボットは進化し続けるわけですが、では、ロボットをつくる人間に必要なものとは何だと思いますか?

松井 私には「あらゆる科学技術は人や社会の力となってはじめて完成」というポリシーがあり、あくまでロボットは人間の暮らしを豊かにするものだと信じています。私は、ロボットに関わる企業には、これまで以上に哲学が問われるのではないかと思っています。たとえば、優秀なロボットをつくっていた技術者の子供が、将来は親の会社に入りたい、親がつくっていたようなロボットをつくりたい、と思えるような会社は哲学がある。わかりやすくいえば、そのようなことです。世の中に優秀な技術者は大勢存在しますが、フラワー・ロボティクスに入社したいという人に会うときは、まずこのポリシーに共感してくれるかを最重要視しているくらいです。

——確かに、ロボットというと機能論やモラル論に終始しがちですが、松井さんがこれまで手がけてきた数々のロボットは柔らかさや温かみがあり、そうした議論からは一線を画しているようにも思えます。

松井 開発を続ける中でずっと意識してきたのが「花」です。たとえば「机」とか「椅子」といった、機能や役割がそのまま形になっているようなものは、たぶん20世紀までに出きってしまっています。家でのライフスタイルの中で、そのようなものの立ち位置はほぼ完成されています。極論かもしれませんが、機能的な面から考えた場合、絶対的に足りないものは、あまり見当たらない。

そうなったとき、これ以上何が必要かといえば、それ自体に機能を求められるというものではなく、存在しているだけで空間をトリートメントするというか、人や空間の関係を和らげてくれる要素を持つプロダクトだと思うのです。花は、まさにそういうものですよね。こういう考え方をロボットにも応用したいと常に考えています。

———最後にお聞きします。松井さんが手がけたロボットはすべて頭文字に「P」が付いています。これはどんな意味が込められているのでしょうか。

「PINO」

松井 私がフラワー・ロボティクスを設立するきっかけをつくった「PINO」というヒューマノイド型ロボットがあります。「PINO」を生み出したことで語り尽くせないほど学んだことがあり、後生にまでつなげていければという思いを込めて「P」を付けるようになりました。もちろん、PEACEやPLEASURE、PHILOSOPHYといった意味もありますが、たとえていうなら、徳川家の将軍の名前に多く「家」が付いているようなものかもしれませんね(笑)。

頭文字「P」のロボットは、まさに私の考えを具現化したものです。これからも代々、「P」にふさわしいロボットをつくっていきたいと思っています。

TEXT:宗像幸彦

松井龍哉>

まつい・たつや

松井龍哉 フラワー・ロボティクス株式会社代表

1969年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所、科学技術振興事業団ERAT北野共生システムプロジェクト研究員等を経て、2001年、フラワー・ロボティクス株式会社を設立。3歳の女の子をイメージした「Posy」をはじめ、動くマネキン「Palette」、小鳥型ロボット「Polly」などユニークなロボットをデザイン。2014年に発表した「Patin(パタン)」は自社製品では初のコンシューマー向けの“商品”となる予定。早稲田大学理工学部、日本大学芸術学部非常勤講師を歴任。2007年〜2014年日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査員。


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