今、クラウド・コンピューティングはITに携わる人だけでなく、企業経営者から一般の消費者まで広く知られた言葉になっている。米国で話題となったクラウド・コンピューティングをいち早く日本に紹介した野村総合研究所の城田真琴上級研究員は「企業でクラウドを利用するユーザーの満足度は非常に高い。これは特筆すべきことで、焦点は『使うかどうか』から『どう使えばよいか』に移っている」と指摘する。実際、日本でも当初の大企業中心の利用から、中小企業での活用も急速に拡大している。また、複数のクラウド・サービスを利用する企業も増えており、本格的な普及期に入ったと見ることができる。
2008年に注目を浴びるようになってから5年余り、クラウドの現状と企業での活用状況、その真価とこれからの進化の方向性について、城田氏に聞いた。

セキュリティー情報の積極的な開示に取り組んできたクラウド・ベンダー

「クラウド・コンピューティング」がIT業界のバズワード(はやり言葉)となったのは2008年だ。当時、『クラウドの衝撃』(東洋経済新報社 2009年2月刊)で、いち早くクラウドを紹介したのが野村総合研究所の城田真琴上級研究員である。城田氏は「当初は、セキュリティーを懸念する声が強かった」と振り返る。「当時、クラウドは文字通り雲の中のサービスで、クラウド・ベンダーがどういうセキュリティー対策を行っているか、ユーザーにはよく分からなかった。その後、ベンダーは自社が運営するクラウド・サービスに関するセキュリティー情報を積極的に公開するようになった」。

ベンダーによっては、情報セキュリティー・マネジメント・システム(ISMS=ISO27001)やセキュリティー関連の第三者機関の認定を受けていることを発表したり、クラウド・サービスを安全に使う際の留意点について説明している会社もある。「2008年から現在までの5年余りの中で、最も大きな変化は、ユーザーのセキュリティーに対する懸念を払拭する努力をクラウド・ベンダーがするようになったことだ」と城田氏は強調する。

加えて、海外ベンダーが日本にデータセンターを開設し、日本のユーザーはそれを利用できるようになった。クラウド・サービスが登場した頃は、日本企業はデータを海外のデータセンターに預ける以外になかったが、国内拠点ができたことでユーザーに安心感が出てきた。「日本は地震が多く、データセンターの立地として必ずしもよい場所ではないが、海外ベンダーが日本を大きな需要がある市場だと見ていることが背景にある」と城田氏は見る。

他のITサービスと異なり、利用満足度が極めて高く、利用拡大意向が強い

野村総合研究所が継続的に行っているクラウド利用に関する調査によれば、国内でパブリック・クラウドを使っている企業は2013年2月段階で24%だ。調査開始以来、右肩上がりで伸びてきたが、2011年8月にいったん落ち込んだ。それが2012年2月に再度上昇に転じて、現在まで増え続けている。

shirota_thum利用企業の状況について、城田氏は「全体的に見ると、順調に伸びてきていることは間違いない。当初、企業にとっては『使うべきか否か』が大きなテーマだったが、この1年ほどは『どう使うべきか』に変化してきた。つまり、コスト削減や新規ビジネスの立ち上げ、ITリソースの柔軟な利用といったクラウドのメリットはほぼ理解されており、現在は『自社でどこに使えばよいのか』に焦点が移ってきた」と分析する。

 調査では、企業でクラウドを実際に利用している人に意見を聞いているが、満足度は非常に高い。「満足」「どちらかというと満足」が6割に及び、「不満」「どちらかというと不満」は10%以下で、明確な不満が非常に少ないという特筆すべき結果が出ている。その上で、「さらに多くの事業に使いたいかどうか」という質問への答えを見ると、「利用を拡大させる」が60%、「現状維持」が36%で、「縮小」はわずか3%にとどまる。 「クラウドを1回でも使ったユーザーはその利点を評価し、他の業務にも広げていこうとしている」。

幻滅期を過ぎ、着実な普及期に入った日本。米中ではさらに利用が深化

調査は日本以外に米国、中国などでも行っているが、日本でのクラウドの用途として多いのは情報系やWebフロント・システムの稼働環境だ。一方、少ないのは開発、テスト環境やビッグデータの蓄積用である。特にビッグデータは、米国、中国ともに30%を超えているのに比べて、日本は7.5%と際だって少なく、大きな開きがある。

基幹系は米国30%、日本は18%だが、災害対策用では日米中にさほどの差は見られない。城田氏は「セキュリティーへの懸念から、当初クラウドはリスクが高いと見なされていたが、リスクをとってもメリットを最大限享受しようという意識が強い米国企業では普及スピードが速い。ただ日本企業でもクラウドに対する理解が深まっており、海外で事業を展開する際に、IT環境を迅速に整えられることなどから、クラウドを利用するケースは多くなっている」という。

IT業界で新技術の普及を占う指標としてよく参照されるガートナー社の『先進テクノロジのハイプ・サイクル 2013年版』では、クラウドは「過度な期待のピーク期」を過ぎ、現在「幻滅期」に入ったとしている。これに対して、城田氏は「米国と日本は違う。日本の幻滅期はいったんダウンした2011年8月だった。日本の企業は勉強熱心なので、新しいテクノロジーが出てくると、すぐにキャッチアップする。その分、幻滅期の到来も早い。あっという間に消えてしまったITバズワードはいくつもあるが、クラウドは違う。生き抜いて、幻滅期を通り過ぎ、着実な普及期に入っている」と見る。

実際に、複数のクラウド・サービスを使う企業が増えている。「調査結果では、利用サービスは1つが46%と最多だが、セールスフォース、GoogleApps、複数のインフラ系サービスというように、4つ以上のサービスを使う企業が16%に上る。クラウドに対する満足度が高いため、今後、複数のサービスを利用する企業が増えていくことは間違いない」。

text:菊地原 博

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しろた・まこと
城田 真琴

株式会社野村総合研究所 情報技術本部 先端ITイノベーション部 上級研究員。
北海道大学工学部卒業後、大手メーカーのシステム・コンサルタントを経て、2001年に野村総合研究所に入社。以来、ITアナリストとして、先端テクノロジーの動向調査、ベンダー戦略の分析、ユーザー企業のIT利用動向調査を推進。同時にそれらを基にしたITの将来予測、さらにベンダーとユーザー双方に対する提言を行っている。専門領域は、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、Internet of Things(モノのインターネット)など。主な著書に『クラウドの衝撃』(東洋経済新報社)、『今さら聞けないクラウドの常識・非常識』(洋泉社)、『ビッグデータの衝撃』(東洋経済新報社)、共著に『ITロードマップ』(東洋経済新報社)などがある。総務省「スマート・クラウド研究会」技術ワーキンググループ委員、経済産業省「IT融合フォーラム」パーソナルデータワーキンググループ委員などを歴任。

photo:Thinkstock / Getty Images


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