未来の日本を担う青少年に、国際語である英語を熟達させたい―。「グローバル社会」などという言葉もなかった戦後間もない昭和24年(1949年)、1人の青年のそんな熱い思いから「高円宮杯全日本中学校英語弁論大会」(当時は高松宮杯)はスタートした。

以来、この大会に出場し優勝することは“ティーン・エイジャーの夢”と称され日本全国に普及した。今年で67回目を迎え、毎年の総出場者は10万人に上る。まさに歴史・規模・質ともに日本最大、最高レベルの英語弁論大会として受け継がれている。

今年(2015年)も11月末に東京で行われた中央大会では、全国から選抜された中学生151人が、高円宮杯を目指し日頃磨いてきた英語のスピーチ力を披露した。

そこで理事長の藤野彰氏に、この伝統ある大会について、その背景や活動内容、日本の英語教育等について伺った。

平和になったら英語で弁論大会を

2015年11月に開催された「高円宮杯第67回全国中学校英語弁論大会」決勝大会。  写真提供: JNSA基金

2015年11月に開催された「高円宮杯第67回全国中学校英語弁論大会」決勝大会。
写真提供: JNSA基金

――最初にこの弁論大会がスタートした経緯を教えてください。

藤野 創始者である鈴木啓正(故人)は、若い頃から日本を国際化させるためには国民が世界語である英語を勉強しなければならないと考え、戦争が終わったら英語の弁論大会を創設しようと親友とともに考えていたといいます。その親友、富永靖さんは戦死なさいました。

彼は復員後、友と抱いた思いを実現させるべく、弁論大会開催に向けた活動を始めました。

まず、国際社会について造詣が深い故・高松宮殿下に名誉総裁をお願いすべく、足しげく通ったといいます。その際に、「この大会は50年は続けなさい」というお言葉を賜り、殿下を名誉総裁に昭和24年(1949年)にスタートしました。51回目より高円宮杯として引き継がれ、その後高円宮妃久子殿下を名誉総裁に現在に至っています。

高円宮妃久子殿下より、1位の高円宮杯を授与された沖縄県代表の英 ひなこさん。写真提供:JNSA基金

高円宮妃久子殿下より、1位の高円宮杯を授与された沖縄県代表の英 ひなこさん。
写真提供:JNSA基金

日本の中学校で、日本の英語教育を受けた生徒が参加する大会

――現在は、数多くの英語スピーチコンテストがありますが、それらと比べてこの大会の一番の特徴は何でしょうか。

藤野 最も分かりやすいのが、参加資格でしょうか。日本の中学校で、日本の英語教育を受けた生徒ということですので、英語が流暢に話せるからと言って、誰でも出られるわけではありません。「英語を母国語とする家族と同居していない」「5歳以降に海外在住経験がない」などの細かい条件があります。

日本が国際社会の中で生きていくためには、日本の英語教育がレベルアップしていかなければいけないわけですから、たまたま他の国で生活し、英語環境の中にいた日本人の子弟が英語を流暢に話すというのでは、日本の中学校の英語教育を向上させることにはつながらないですね。

またこの大会は、中学生向けとしては日本で最も長い歴史を持つ、最大規模の大会で、国内最高レベルのスピーチコンテストです。現在では地区大会や校内予選なども含めますと、大会に関与している生徒たちは毎年約10万人に達します。この規模で、これだけの長きにわたって続いてきた大会というのは他にありません。

――長年続いてきた中で、取り上げられる弁論のテーマに変化はありますか。

藤野 その時々の世界的に知られたスピーチに触れる人は多いですね。私の時代でしたら、キング牧師の「I have a dream」、近年では、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんのスピーチなどです。テーマに制限はありませんので、身近なものに触れる人もいますし、千差万別です。

スピーチにはさまざまな目的があります。相手を説得する、何か新しい情報を伝える、楽しませる…。どんなテーマであっても、適切な方法で、どういう風に料理をするかで変わってきます。

近年では、「いじめ」や自分の「性同一性障害」などをテーマにスピーチをした参加者もいます。こうした社会問題となっているテーマをスピーチにすることは、大変勇気がいることですし、評価されるべきだとは思います。しかし、日常のことを説明していても良いスピーチもありますので、特殊な環境ではなくてもいい弁論はできます。どういう風に組み立てて、どう訴求するかということです。

――採点の基準には、スピーチの技術も含まれるのですか。

藤野 採点は、「内容」「英語力」「表現」の3分野で行われます。

スピーチというのは、音楽と似ています。リズム、メロディーを感じながら、単調にならないようにしたり、「溜め」たり、言葉による変化をつけたりします。

また、英語のスピーチですから、少しだけでもユーモア、クスリとするようなものがあるといいのですが、日本の生徒たちの場合は真面目一本槍が多い。もちろんテーマによっては真面目一本槍でいいのですが、画一的なものにならないよう、努力があるといいなと思っています。

英語の弁論というとジェスチャーが重視されると思われがちですが、「不自然すぎるジェスチャー」はかえってマイナスです。欧米人の普段のコミュニケーションでする程度ならいいのですが、大袈裟すぎると不自然になりますね。ただし、アイコンタクトはとても重要です。聴衆1人ひとりの目を見て、自然に語りかける。ポイントは「あくまでも自然に」です。

熱意ある教員、それに応える生徒、そして家族のサポート

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――参加者の努力だけではなく、周囲のサポートが大きいですね。

藤野 創始者の思いとして、「生徒」「親」「学校・教員」の三位一体で運営することが肝心と言われていました。それらは今もなお、脈々と受け継がれています。

全国から参加者が集まりますが、どういう学校から生徒が出場するかというと、それは教員、先生方のお力にかかってきます。戦後間もなくの状況ですと、英語弁論について、親御さんが理解していないと難しかったでしょう。やる気のある先生がいて、それに応える生徒がいる。そして、それをサポートする家庭。それらが三位一体となって、取り組める活動だと思います。

――特に教員の影響力が大きいでしょうか。

藤野 その通りです。それによって人生が変わりますね。私も、自分が中学生の時に英語の先生に出会わなければ、高校で留学することもなかったかもしれませんし、今、ここにこうしていないかもしれません。先生が卒業の時に「人生常に岐路に立つ」と色紙に書いてくださったのですが、人生、常に岐路に立ち、その都度決断に迫られるわけで、私もずっとそのことを念頭に置いてやってきました。

先日先生とお会いする機会があって、そのことを申しましたら、「そこまで影響を与えたのですね。教師たるもの、きちんとしなければいけませんね」と感慨深そうでした。

弁論大会をきっかけに広がる活動やネットワーク

――大会に出場した生徒たちが、その後、大学や社会に進んだ時のネットワークが広がっているそうですね。

藤野 中学時代にこの大会に参加した生徒たちは、その後「栄光会」という同窓組織に入ります。また、大会の運営や、3日間の中央大会期間中の夜に宿舎で開催される「全国中学生会議」は、大学生たちによって構成される任意団体「JNSA基金」が実施しています。「会議」という名前になっていますが、大学生が趣向を凝らした楽しい企画で親睦を深めることを目的とし、ここで、多くの大学生たちと中学生が触れ合います。

また、弁論大会ではライバル同士だった生徒たちも、一生の友達になるような感動を味わいます。大学生という若者が、もっと若い中学生のために活動する。そして、その時に面倒をみてもらった中学生たちが、その活動に共感して、自分が大学生になった時にそちらの立場に立つ。そういった活動が連綿として続いています。

「全国中学生会議」の様子。 写真提供:JNSA基金

「全国中学生会議」の様子。 写真提供:JNSA基金

このJNSA基金の出身者のネットワークは強固なものがあり、さまざまな方面で大活躍をされています。国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は、皆さんよくお名前をご存知の方ですね。また、前内閣府特命担当大臣(規制改革・少子化対策、男女共同参画)の有村治子さんは、中学時代に弁論大会に参加、その後JNSA基金の本部委員としても活動なさいました。

――大会参加がその時1回だけのアクションで終わらずに、その後の人生に影響を与えているのは、素晴らしいことですね。

藤野 参加者たちは選考を受けてきているので、基本的には皆さん優秀です。それに加えて、JNSAの活動を通して、さまざまなことを学びます。組織として何が必要か、チームワークとは何か、そういうことは社会に出てからも重要ですので、JNSAの経験者たちは、社会で即戦力になれると思います。また、そこで生まれるご縁もあり、彼らはそれを大事にしたいと言っています。

――例えばどんな活動をしているのでしょうか。

藤野 幅広く中学生に、英語の楽しさや面白さを知ってもらおうと、JNSAの学生たちが実施しているのが英語キャンペーンです。チームを編成して、地方の中学校に出向いて、英語を介して楽しんでもらっています。例えば、ある中学校では、英語の映画に字幕をつけたり、推理ドラマを観ながら探偵ゲームを実施したりして、生徒たちに興味を持たせました。英語の教員が英語の教え方が得意かというと、必ずしもそうでないこともあります。そこで、こういった視点や活動はとても参考になると評価いただいています。

暗記・音読・シャドーイングで必ず英語の力は伸びる

――参加した生徒たちだけではなく、教員の方々にも影響を与えていると。

藤野 ある先生とお話しをしていた時に、「高円宮杯に生徒を参加させることができたおかげで、英語の教え方が変わりました」と言われました。実は、そういう方は多いのです。

例えば、どんなことをするようになったかというと、まず、英文を暗記します。教科書に載っているようなコンテクストですね、従来のように単語やフレーズだけを覚えるのではなくて、丸ごと全部覚えます。そして、音読します。それに加えて、シャドーイングをします。これは英語を母国語とする人の音声に続いて繰り返す方法で、同時通訳者もこの方法で訓練されるそうですが、この3点を重点的に教えるようになり、実際に役に立ったというのです。
例えば、シャドーイングでは、イントネーションや強弱が学べます。日本人が英語に強弱をつけようと思うと、どうしても「高低」になってしまいます。声を高くすれば強く言ったような気がしてしまう。そういうことは、誰かが指摘しないと気付きません。こうしたことを中学時代からきちんとやっていけば、確実に英語の力は伸びます。この大会を機に、そういうことを先生方はあらためて認識されたのでしょう。

自分の意見をまとめ、聴衆の前で話す能力を身に付ける

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――英語で流暢に話すだけではなく、スピーチというところが難しいですね。

藤野 自分の考えをまとめ、聴衆の前で、英語で話すという能力は、これからの世の中、ますます大切になると思います。ただ単に英会話スクールに通ったり、海外旅行を重ねたりしただけでできることではありません。きちんと自己表現するということは、それを文章にしてまとめること、書くことにつながります。5分間で聴衆に感動を与え共感を呼ぶ内容にするためには、どうまとめ、どういう話し方が最適か自分で考えることが求められます。もちろん中学生ですから、全部1人でできるわけではないので先生方のサポートが大きく関わってきます。

高松宮殿下もよくおっしゃっていたと記録にありますが、「母語である日本語できちんと考えをまとめて、話すことができなければ、外国語でできるわけはありませんよ」と。まさにその通りです。何よりコンテンツが大事だということです。

――現在の義務教育の学習だけでは、とてもそのレベルにはたどり着けないと思うのですが、教育に問題があるとすればどんなところでしょうか。

藤野 実は私は30年ぶりに日本に帰ってきたので、日本の教育の問題点については詳しくは分かりません。よく、日本人の英語力がアジアで低いレベルなのは、日本の教育のせいだといわれますが、なぜなのだろう、というのが正直な感想です。話す内容がないからでしょうか。内容がなければ、話せない。インプットがなければアウトプットもないわけです。

あくまでも英語は道具ですが、道具であるなら、その使い方を覚える必要があります。友人の教師たちと話をするのですが、例えば日本での国語の授業、あれは「国語」というよりは「文学鑑賞」ですね。私は高校時代に初めてアメリカに留学しましたが、その時に感じたのは、アメリカの国語教育は英語は英文学ではなく、英語で自分の考えを書き、発表する技術を学ぶことだということでした。

ところが、日本の国語の授業では、文章の説明や文学の解釈が多い。いまだに国語を道具として使い自らの考えをしっかり表現できるようにするための教育が少ないような気がします。

母語すら道具として上手く使えないなら、外国語で自分の考えを発表するのは無理というものです。

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道具としての英語の使い方を学ぶことが必要

――英語を道具として使えるようにするためにはどうしたらいいでしょうか。

藤野 道具ですから、使うほかありません。繰り返しになりますが、暗記して、声に出して発音する。その音も、勝手なものではいけないので、シャドーイング。これらをしていれば、できるようになります。それができないということは、練習時間が足りないか、翻訳文化がまだ残っていて、「使う」練習をするチャンスが少ないのではないかと思います。もちろん、文法をきちんと学ぶことは重要です。言葉の構造を理解しなければ書けませんし、書けないということは、話せません。英語でも日本語でも同じです。

世界の人とコミュニケーションをするのに必要なのは「語学」ではなく「語術」だといった先生がいました。学問ではなく、技術だと。だからこそ、難しく考えず、しかし、きちんと学ぶという意識は持たなくてはいけないと思います。

――この大会が67年間という長きにわたって続いている陰には、企業の変わらぬ支援もあるようですね。

藤野 この大会は、日本の子どもたちが世界へ羽ばたく第1歩の場です。大会創設当初から主催としてご尽力いただいた読売新聞社さんには先見の明があったと思います。また、IBMさんのような世界を代表する企業が、長年サポートしてくださっていることにも大きな意味があります。こうした多くの企業のご支援なしには、大会は続けてこられませんでした。

ところで、日本では、よく「グローバル人材」とか「国際人」という言葉を耳にします。

実は私はそれらの言葉を使うことはほとんどありません。なぜなら国際的に通用する人というのは、まずは日本人であるべきだと思っているからです。日本人としてのしっかりとしたアイデンティティーを持っていることが重要で、それがない人は国際的には相手にされません。

自分の考えをきちんと持ち、日本語で適切に発信できることが基盤としてなければいけない。その上で外国の人に自分の考えを伝える時は、世界共通語である英語で表現できるようにする。それが第一歩です。もちろん気軽で楽しい会話も大事ですが、自分の考えをきちんと発信するためには、日頃から文章にした時に適切か否か意識して話すという訓練が重要です。

今思えば、私自身がこれまで国際的な場で仕事をしてくることができた原点は、すべてこの弁論大会でした。全国の中学生の皆さんには、この大会をきっかけに、ぜひ世界に羽ばたいてほしいと願っています。

テキスト: 深井 久美

藤野 彰

ふじの・あきら

藤野 彰 高円宮杯全日本中学校英語弁論大会 / 日本学生協会(JNSA)基金 理事長

1951年山口県生まれ。山口高等学校、国際基督教大学(ICU)大学院行政学研究科修士(国際法)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院政治学研究科修士(国際関係論)、ICU大学院行政学研究科博士課程中退(国際法)。1980年に国連に採用され、ウィーンに通算25年、その間バンコクに5年赴任。約30年間、主に麻薬等の国際規制に関わる。国際麻薬統制委員会(INCB)事務局次長、国連麻薬・犯罪事務所(UNODC)東アジア・太平洋地域センター代表、UNODC事務局長特別顧問などを歴任。
自身も、中学時代に高松宮杯全日本中学校英語弁論大会への出場経験を持ち、、また高校時代にはアメリカ・カリフォルニア州サクラメント市の高校へ交換留学している。
公益財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター(DAPC)」理事。内閣府認証特定非営利活動法人「アジアケシ転作支援機構(APOP)」、「エバーラスティングネイチャー(ELNA)」及び「日墺協会」理事。


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