今、クラウド・コンピューティングはITに携わる人だけでなく、企業経営者から一般の消費者まで広く知られた言葉になっている。米国で話題となったクラウド・コンピューティングをいち早く日本に紹介した野村総合研究所の城田真琴上級研究員は「企業でクラウドを利用するユーザーの満足度は非常に高い。これは特筆すべきことで、焦点は『使うかどうか』から『どう使えばよいか』に移っている」と指摘する。実際、日本でも当初の大企業中心の利用から、中小企業での活用も急速に拡大している。また、複数のクラウド・サービスを利用する企業も増えており、本格的な普及期に入ったと見ることができる。
2008年に注目を浴びるようになってから5年余り、クラウドの現状と企業での活用状況、その真価とこれからの進化の方向性について、城田氏に聞いた。

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ユーザーが満足できるサービスであることが不可欠の条件

「この数年で、クラウドはITに携わる人だけではなく、経営者や消費者まで広く使われるようになった。その分、定義があいまいになった面もあるが、クラウドは次の5つにまとめることができる。 1つ目はスケーラビリティー(拡張性)が高く、柔軟なITインフラであること。2つ目はコンピューター・リソースが抽象化されていて、構成や物理的な所在は隠蔽されていること。3つ目はWebブラウザーさえあれば、どんな端末でも利用できること。4つ目は実際に利用した分だけの料金を支払うサービスであること、5つ目はインターネットに接続した様々なデバイスからアクセスできることだ。

城田氏は「大手ベンダーから中小ベンダーまで、異口同音に何でも『クラウド』という。ユーザーが自前で保有するのではなく、ベンダーが提供し、オンデマンドで利用できるものは皆クラウドになっている」とした上で、「それでユーザーが満足できるのであれば、呼び名はどうでもよい。ユーザーが使って、ベンダーがいうサービス内容と違うと感じなければ、構わないのではないか」とユーザー視点で、クラウドをとらえる。

つまり、ユーザーの期待を裏切ることがなければ名称はどうでもよい、というわけだ。例えば、「迅速に使い始められるという謳い文句なので、2~3営業日で使えると思ったのに、1カ月も待たされた」とか、「明日から1,000人使いたい」と申し込んだら、「それは無理だ」などという事態がユーザーに起きなければよいのである。

ビッグデータと相性がよく、今後の活用に大きな期待

実際のサービスでは、多くのベンダーがマーケットの状況を判断し、自分たちの立ち位置を決めて展開している。例えば、大手インテグレーターは、コンピューター・リソースを提供するIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)分野で圧倒的な強さを持っているAWS(Amazon Web Service)と正面から勝負するのは分が悪いと分かっている。そのため、最初から“安全・安心のクラウド”を打ち出し、大手企業向けのサービスを提供している。

また、勝ち組企業も見えてきたところで、その企業とパートナーになるベンダーも多い。自分たちの得意な分野は取り組むが、勝てないところはインターネットをベースにビジネスを展開する、いわゆるクラウド・ネイティブな企業と組んで、サービスを行おうとしている。

shirota_read2こうした状況について、城田氏は「収まるべきところに収まってきていると感じる。ユーザーの間でも、どういうサービスがあり、それぞれがどんな特性を持っているかの理解が進んできている。当初、日本では大企業の利用が圧倒的に多かったが、1年半ぐらい前から中小企業の利用が拡大し、今では大企業に追いついてきている」と語る。

クラウドが提供する価値は基本的に、登場した頃と大きな違いはない。しかし、以前は考えられなかった用途が出てきた。あらゆるものがインターネットを通じてつながる「インターネット・オブ・シングス」で収集される、センサー・データなど膨大な情報の蓄積である。これらはビッグデータと呼ばれるが、クラウドはスケーラビリティーが高いことが特長の1つであり、膨大なデータの蓄積に向いている。その意味で、ビッグデータとの相性が大変よく、米国ではビッグデータを扱う場合、クラウドがかなりの割合で利用されるようになっている。

「例えば、自動車の速度情報や位置情報など膨大な量のデータを蓄積しようとすると、オンプレミス(自社運用型)のシステムではコスト・メリットも出ず、すぐに破綻してしまう。クラウドを利用することで、ビッグデータの活用で社会をよりスマートにする、“スマーター・プラネット”のような新しいIT活用の世界が開けてきている」と城田氏は言う。

いかにうまく使うか、知恵を絞る時代がやってきている

企業におけるクラウド活用について、城田氏は、「プライベート・クラウドかパブリック・クラウドかといった二社択一の話ではなく、ハイブリッドに柔軟に活用していくのが現実的。実際にクラウドを使っている人の満足度は高いので、クラウドを導入し、効果を上げている企業の例などを参考にして、活用を加速させるべきだ」とアドバイスする。

また、ビッグデータ蓄積のためのクラウドの活用が米国や中国の企業で多いことを考えれば、グローバル・レベルで競争しようとする日本企業にとって、ビッグデータ蓄積のためのクラウド活用は必須となる。 城田氏は「経営トップも含めて、いまやクラウドを知らない人はいないし、IT部門の人たちのクラウドへの理解は進んでいる。しかし、今後企業がグローバル市場で勝ち抜いて行くためには、クラウド活用によるセキュリティーに、なお漠然とした不安を持つ経営幹部の人たちの賛同を得ていくことが重要だ。それには、同業他社だけでなく、厳重なセキュリティーが必要な金融機関においても活用されていることが参考になるだろう」と強調する。

今後、企業であれ、個人であれ、クラウドの活用がさらに普及していくのは確実だ。城田氏は「今は『クラウド・コンピューティング』と言っているが、そのうち、コンピューティングと言えばクラウドが当たり前になって、『クラウド』という言葉は取れるかも知れない。そういう方向に進んでもおかしくない」と見通しを語る。 そうした中で、クラウドによって以前は実現できなかった新たなサービスが生まれ、ビジネスに、そして市民生活にも一層恩恵がもたらされることが期待される。

クラウド利用が当たり前になる中で、企業にとっては、ビジネスの発展や業績の向上に役立てるために、いかにうまく使うかの知恵を絞る時代がやってきている。

text:菊地原 博

しろた・まこと
城田 真琴

株式会社野村総合研究所 情報技術本部 先端ITイノベーション部 上級研究員。
北海道大学工学部卒業後、大手メーカーのシステム・コンサルタントを経て、2001年に野村総合研究所に入社。以来、ITアナリストとして、先端テクノロジーの動向調査、ベンダー戦略の分析、ユーザー企業のIT利用動向調査を推進。同時にそれらを基にしたITの将来予測、さらにベンダーとユーザー双方に対する提言を行っている。専門領域は、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、Internet of Things(モノのインターネット)など。主な著書に『クラウドの衝撃』(東洋経済新報社)、『今さら聞けないクラウドの常識・非常識』(洋泉社)、『ビッグデータの衝撃』(東洋経済新報社)、共著に『ITロードマップ』(東洋経済新報社)などがある。総務省「スマート・クラウド研究会」技術ワーキンググループ委員、経済産業省「IT融合フォーラム」パーソナルデータワーキンググループ委員などを歴任。


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