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現在、コンピューター、インターネットを取り巻く環境は激変している。IBMが提唱するコグニティブ・コンピューティングを筆頭に、VR、IoT、ドローン、労働代替手段として期待されるロボットなど、さまざまな分野でイノベーションが起きている。今回は、日本IBM 東京基礎研究所 技術理事の武田浩一氏と、未来のゲームのあり方を描いた大人気作品である電撃文庫『ソードアート・オンライン』著者の川原礫氏の両名に、これからのテクノロジーの未来を語ってもらった。

機械翻訳やテキストマイニングで日本は先行していました(武田)

 武田浩一氏

武田浩一氏

――武田さんは2007年からIBM Watson(以下、Watson)のお仕事をされているとお聞きしました。これまでどのように関わってこられたのでしょうか。

武田 2011年がIBMコーポレーションの100周年を迎える年で、その辺りのタイミングでこれまでの技術ではできそうにない目標に挑戦しようというのが基礎研究所での1つのテーマでした。「グランドチャレンジ」と呼んでいたのですが、それがクイズ番組に挑戦するシステムの企画でした。後にこのシステムがWatsonと命名されたのです。そこで、世界中の主に自然言語を処理する技術を持った研究者を参集させて、IBM基礎研究所の総力をあげて取り組むということになりました。日本は、機械翻訳もやっていましたし、テキストを分析する技術、テキストマイニングの分野で先行していたので、「是非日本からも」とアメリカのチームから声がかかりまして、2007年12月から正式に参加をしました。

川原礫氏

川原礫氏

――武田さんは、以前から『ソードアート・オンライン』のファンだったとお聞きしましたが、作品のどんなところに惹かれたんでしょうか。

武田 ちょうどアメリカとの電話会議が終わった頃にアニメの時間帯になるので、習慣的に観るようになったんですね。ゲームで負けたら現実の死を意味するのは非常に厳しい。でも、「アインクラッド編」では最上階をクリアしないと、物理的に救われない。そういうギリギリの状況で、キリトとアスナが出会い、さまざまな感情が組み合わさっていた。すごく引き込まれる作品だったので、大好きになりました。

引退後はVRMMOゲームで遊びたい(川原)

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――川原先生が『ソードアート・オンライン』という作品の執筆を始めたきっかけは何だったんでしょうか?

 

川原 書き始めたのが2002年なので、かなり昔です。きっかけの1つは、ライトノベル作家という職業に挑戦してみたいという動機。もう1つは、オンラインゲームの世界がすごく魅力的だった。ゲームの世界であっても、そこでプレイしてるプレイヤーはみんな人間なので、色々と予期せぬドラマが起きるんですね。これは、ライトノベルのテーマとしてすごく魅力的だと感じ、その仮想世界で行われるゲームを舞台とした物語を書きたいと思ったんです。

――最近のVRやウェアラブル端末の進化をみると、近い将来『ソードアード・オンライン』の世界観が実現されそうなイメージはありますよね。川原先生が執筆を開始された時は、未来のイメージを膨らませて書かれていたのでしょうか。

川原 『ソードアート・オンライン』では脳と直接リンクして五感の情報を送り込む機械という、テクノロジーを具体的に説明できないガジェットを設定しました。作中ではSF要素は省いたのですが、作品を発表してから12〜13年経って、いま目の前にあるOculus Riftを見ると、そんな未来が近づいてきたなという実感が沸きます。ちなみにプロデビューする前から「老後は絶対、VRMMO(*)ゲームで遊びたい」「引退後は、VRMMO廃人になりたい」と公言するほどのゲーマーでした(笑)。

*VRMMOとは、仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)の略称。

Watsonが人の欲求を満たす支援ができる(武田)

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――『ソードアート・オンライン』の世界とIBM Watsonと言うのは、どういった部分がリンクしていくと思われますか。

武田 Watsonのような技術は、対話を通した人とのコミュニケーションや音声・画像の認識、人が見る・話す・聞く等の機能に集約していくと思います。仮想現実を含めて、人とのインターフェースというのがすごく大事になってきますので、その時に知りたいこと、自分が考えていることをWatsonと共有する。この世界についてもっと詳しく知りたい思ったときに、人と話すようなインタラクションをシステムでカバーするので、知的好奇心などの欲求をその場面でタイムリーに満たす支援ができます。

こういう言い方をした方がちゃんと解釈されるとか、経験で、人はどうしても思いやりの気持ちがあるので、対話もわかりやすくしようという風に変えてくるかもしれないですね。それがまた、人の良いところなのかなと。

必要なブレイクスルーは超小型メガネ(川原)

――以前川原先生が受けられていたインタビュー記事で、Oculus Riftを体験された時のお話をされていましたが、VRはこれからどうなっていくとお考えでしょうか?

川原 Oculus RiftもPSVRも体験させて頂いて、頭の動きに対する追従の速さとか、視野の広さとか、かなり実用的ですよね。僕が小説で書いたテクノロジーに近いところまで実現できるものなんだなと思ったんですけど、その一方で、長時間装着していられないという辛い部分もありまして。頭をものすごく締め付けたり、どうしてもパネルと近いせいなのか、目が疲れてしまって装着しているのは15分が限界という感じもしますね。

そこをメガネくらいまで小型化するなどのブレイクスルーがあると、これで、ネットゲームをやりっぱなしみたいな夢の体験をできるんじゃないかなと。

以前ペプシのTVCM『桃太郎』の世界を再現した体感ゲームを体験させて頂いたんですけど、ヘッドマウントディスプレイを付けて、画面に「RUN」という文字が出てきたら、その場で一生懸命足踏みするんです。すると、実際に画面が前進していく……というもので、これは足で動けるという素晴らしいテクノロジーだなと思ったんですが、問題としては、とにかく疲れる(笑)。5分くらいのデモで、やった人はみんなハアハア言っちゃうんです。これは予想外でした。『ソードアート・オンライン』は寝たままですからね。

こういうものはフィットネス目的ではピッタリだと思うんです。例えば、ヒマラヤとか、アフリカの密林みたいな普通は走れないようなところを、どんどん走れるというデモをやれば、運動する人にとっては面白い体験ができると思います。

AIキャラクターがゲームを導けば世界観を壊さない(川原)

――VRとIBM Watsonが組み合わさった場合、どのようなゲームが展開できるとお考えでしょうか?

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武田 1つの設定されたシナリオ内でユーザーがプレイするというような、枠組みをある種決められたゲームに対して、NPC(*)みたいな偶発性のあるキャラクターをWatsonで作るとか、個人の好みだとかこれまでの体験に合わせてゲームをどんどんパーソナライズするところには使えそうな気がします。医療や教育の分野でも同じなんですが、現実のWatsonでは、その人個人に合わせた処方や教育法、カリキュラムをつくる方向に向かっているので、その方向で考えると、よりパーソナルなゲームという方向に行くのかなと思います。

*NPCとはノンプレイヤーキャラクター(non player character)のこと。

――それは、全く新しい概念ですよね。今までのゲームでは全プレーヤー共通のシナリオを通して、そこから遊び方を考え出そうという流れでしたが、最初からユーザーにカスタマイズされた何らかのものを提供できるとなると、『ソードアート・オンライン』とも違うゲームになりそうです。

川原 そうですね。現実のゲームも、ブロックをフィールドに自由に配置する『Minecraft』に代表されるような、すごく自由度を求める方向に向かってると思います。ただ、自由になりすぎると、逆にプレーヤーが何をすればいいか分からなくなると思うので、そこを導くような存在としてWatsonが有効に使えそうですね。

仮想世界は没入感を求めるものだと思うんですね。実際、自分がその世界に入ってるという感覚。そこで、例えばTipsなんかが画面にポンって出てくると、興ざめしてしまいます。『ソードアート・オンライン』には「ユイ」というAIのキャラクターが出てくるんですけど、そういう人間を模したナビゲーションする存在がいてくれると、世界観を壊さずにプレーヤーをガイドできると思います。プレーヤーが色々と無茶なことを言っても、それに適切に受け答えできるテクノロジーにWatsonを活用すれば、親和性があるんじゃないかなと思いましたね。

――ガイドといえば、Watsonは「Pepper」と組み合わせてお店や銀行窓口の接客等で活用が期待されていますけれど、今後「Pepper」のようなロボット以外では、どのような分野で活用されていくと予想されるでしょうか。

武田 ディベロッパー向けのプラットフォームを作って、自由な発想で、Watsonを使ってもらうというのが、個人的には一番興味があります。最近では、アメリカの「Elemental Path」というベンチャー会社が、「CogniToys」という恐竜おもちゃのプレオーダーを始めました。プラスチック製の恐竜にWatsonを組み込んで、エデュテイメントに役立つおもちゃを開発したんです。こういう発想はすごく面白いと感じましたね。

プログラムが考えた料理を食べてみたいですね(川原)

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――『ソードアート・オンライン』の中では、コンピューターは触覚とリンクされていますが、IBMではそういった研究もされていたりするのでしょうか。

武田 そうですね。触覚をフィードバックするようなことは、IBMでも以前は研究していたと思うんですが、今は、あまり触覚の研究はしていません。物理的な身体性があるロボットとWatsonを組み合わせた時は、ロボットの動きや、会話の内容がジェスチャーとか物理的な空間で限定をされるので、仮想的な世界とはまた違うインタラクションになるかもしれません。

ロボットは面白いと思いますよ。1to1のコミュニケーションだとか、場所とか場面というのを共有しますので、限定的ではありますがより人間らしさを持ったような会話ができるかもしれません。

――触覚以外で研究に使われている五感では味覚のシェフ・ワトソンがありますよね。

武田 シェフ・ワトソンはレシピや食材の情報を蓄積し、食材の組合せや味の相性などを学習したうえで創作レシピを提案してくれるアプリケーションです。

川原 プログラムが考えた料理ってことですね。それは食べてみたい(笑)。

武田 イベントなどで、本当に作ってお出ししていますよ。ただ、最終的にどういう料理にするかというところは、料理人=クリエイターの方に任されるという部分も大きいです。

クリエイティブな方々が、よりクリエイティブになるような、思いもつかなかったような組み合わせを示したり、人間を助けるような役目という位置づけですね。

医療分野でディープラーニングが導く、より良い人生

――『ソードアート・オンライン』のマザーズ・ロザリオ編では、VRマシンである『アミュスフィア』が終末医療向けの『メデュキボイド』に進化するシーンがありましたが、今後そういった医療分野への展開は広がっていくでしょうか。

武田 現在では、特にガン治療の研究でWatsonが使われているようです。ガン治療の新しい医薬品や副作用の情報等があまりにも多く、情報に追いつくのが大変な状況なので、Watsonを適宜使って、医師が自分に必要な情報をアップデートするような使い方がされています。

――画像診断にコグニティブ・コンピューティングの技術が使われているという話もありますね。ある分野では人間よりも精度が高いということなんでしょうか。

武田 そうですね。ディープラーニングと呼ばれる機械学習の手法が注目されています。大量の画像とその対象(主題)を学習データとして与えた時に、新規画像の主題を非常に高い精度で認識するというようなタスクに使われる技術ですが、その精度が、初めて平均的な人の認識精度を越えたという報告もあります。医療画像だと皮膚ガンの有無を判別する事例などが知られています。

川原 『ソードアート・オンライン』に出てくる『ナーヴギア』というVRマシンは、最初は医療用に開発されて、ゲーム用に転用されて…という設定でした。あの小説で書かれているようなVR技術が実現したら、高齢者の介護問題などに寄与する部分もあると思っています。仮想現実と一番親和性が高いのは、医療分野だと私もずっと思っていました。

車の運転を全部ボイスコマンドでやりたい(川原)

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――先ほど『ソードアート・オンライン』の「ユイ」というAIキャラクターのお話が出てきましたが、川原さんは「こういうAIサポートが出てきたら良いな」というイメージがありますか。

川原 移動でよくクルマを使うので普段からカーナビに頼っているのですが、カーナビは運転中に操作できないという問題点があるんですよね。

これをボイスコマンドで、ものすごく細かい操作ができれば良いなと、以前から考えていました。Watsonのデモを見ると、この精度だったら「このルートのどこそこのガソリンスタンドに寄って、そこから高速になっているけど一般道に変更して帰宅」のような指示を音声で出せるようになれば、夢のカーナビになると思うんですよね。

武田 それは面白いですね。ただ、それが実現するには2つの大きな問題があります。

1つは車内のノイズです。クルマの中には常に周囲の騒音やエンジン音があるので、音声だけをキレイに取り出すのが、まだ少し難しいかもしれないですね。ただそこも少しずつ音声処理認識の問題として改善されてきています。

もう1つは、ユーザーが何を発話するか分からないので、想定していないことを言われた時に、それがどういう指示なのか解釈できないことです。シーンごとの対話シナリオを多く用意しないと、細かいことに対応できません

川原 今後システムが完成して、ディープラーニングを繰り返せば精度は上がりますか?

武田 そうですね。多くのユーザーがβテスターになってくれて、対話データの蓄積がされたら、それを元に改良できるかもしれません。

川原 将来的にはそちらの方向に進んでいくと思っています。でも、ナビに限らず、運転に関わる全てを音声でコントロールできるようになれば、ものすごく便利ですよね。

今のクルマは操作することがものすごくたくさんあるので、マニュアルを見ても分からない。「これ全部、ボイスコマンドでやりたい」と思うシーンが多々あるので、そこに僕は期待しています。

TEXT:大野恭希

川原礫

かわはら・れき
川原礫

小説家
『アクセル・ワールド』にて第15回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞しデビュー。電撃文庫にて『アクセル・ワールド』シリーズ、『ソードアート・オンライン』シリーズなどを発表中。『アクセル・ワールド』は新作アニメーション化、『ソードアート・オンライン』は劇場アニメ化も決定している。

アクセル・ワールド公式サイト
http://www.accel-world.net/

ソードアート・オンライン公式サイト
http://www.swordart-online.net/

武田浩一

たけだ・こういち
武田浩一

日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 技術理事 博士(情報学)

1981年京都大学工学部情報工学科卒業。1983年同大学院工学研究科修士課程修了。同年日本アイ・ビー・エムに入社。以後、東京基礎研究所において英日機械翻訳システムやテキストマイニング・ツールの研究開発に従事。2007年12月より質問応答システムWatsonプロジェクトに参加。現在同社技術理事。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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