ダイバーシティ実現にはプロフェッションを持つことが大切 ――チェンジウェーブ佐々木氏インタビュー

2015年7月「広める価値のあるアイデア」を共有するスピーチイベント「TEDxTokyo2015」が、東京・恵比寿にあるACT Squareで開催された。そのスピーカーの1人として招待されたのが、株式会社チェンジウェーブの佐々木裕子氏である。

「人のポテンシャルは無限大で、人は誰でも変われる。そのためには、人がお互いにスイッチを押しあう関係をつくることが大事」。――壇上でそう提言した佐々木さんは、自らを「変革屋」と名乗り、株式会社チェンジウェーブを設立。年間500名以上のビジネスパーソンに変化をうながしてきた。

人がお互いの価値を認め合う、そんな“ダイバーシティ”のある組織・社会の形成は、本当に可能なのだろうか。その導火線として、組織の中で個人が自分の殻を破り、能力を最大限に発揮できるようになるためにはどうすればよいのか。ご自身の体験をもとに、佐々木氏からお話を伺った。

ダイバーシティの本質は、“個”が輝くこと

――佐々木さんご自身は、「ダイバーシティ」という言葉をどのようにとらえていますか。

ダイバーシティは“今、すでにあるもの”だと思っています。

佐々木 ダイバーシティは“今、すでにあるもの”だと思っています。人は本来、とても多様で、1人ひとりがそれぞれ異なる人生・経験・価値観を持っている。だから人が自然にしていればダイバーシティはすでにそこに“ある”わけです。

1人ひとりが自分の意志や論を持ち、強みと個性をいかんなく発揮して、自分の未来を自分で決め、自分らしく生きる。そういう個人がお互いに協働し、化学反応を起こす。それが、世の中や未来の進化に最も貢献する。私はそれが、本質的なダイバーシティ推進だと考えています。

――しかし日本の場合「ダイバーシティ」という言葉は、そうした「個々の違いを受け入れる」といったニュアンスより、「女性活用」とか「外国人雇用」とか、やや偏向した使われ方が多いように感じます。

佐々木 たしかに今は、ジェンダーが如実で分かりやすい「違い」として注目されていますね。外国人活用にしてもLGBT(性的少数者)にしても同様です。

「ダイバーシティ」が必要な理由は、経験値や価値観、生き様の違う人々から成るチームのほうが、これからの時代より高いパフォーマンスを上げ続ける確率が高いからです。これが均一なチームは、「一定の環境下で平均的なヒットを打ち続けることはできる」けれど、激変する環境に合わせながら素早く進化し続けたり、ホームランを打ったりすることは苦手だと言われています。

それはなぜかというと、多様なチームほど、「空気の支配」や「思考停止」、「固定概念の呪縛」からお互いに早く抜け出せるからだと思うんです。そもそも見聞きしている世界が違うので、素朴な疑問が普通に飛び交う。その代り、即座に意気投合し、合意に至るというようなラクさはない。最後の最後、100%理解しあうことはできないことも多い。このなんとも言えない心地悪さを、お互いある程度のみ込んで前に進むキャパシティを持てるか、ということだと思うんですね。

でもこの心地悪さというのはなかなか厄介で、本音では誰もが直面したくないと思っている。だからどんな時代でも、社会システムをスムーズに回すために、本来多様な“個”を、「ある一定の型やルール」にはめる力は働く訳です。例えば、子供がおもちゃの取り合いをしていたら、子供が本当はどうしたいかはさておき、「貸して」「いいよ」と言わせなければならない、という親同士の暗黙のルールが出来上がる。

私たちが本質的にもっている多様性は本来、「女性」とか「外国人」、という形で一括りにできる類のものではないと思うんですね。でもやはり最初に「女性活用」とか「外国人活用」という大枠で議論を始めなければならないのは、よくも悪くも、性別や国籍の違いによって、それぞれ「ある程度の一定の型」にはめてとらえようとする社会イデオロギーの力が、ひとりひとりの潜在意識下に強力に働いてきた現実があるからだと思います。

ワーキングマザーやイクメンという言葉はあっても、ワーキングファーザーやイクジョという言葉は基本的に存在しないとか。男性Aと女性Bで実力が同じなら、多くの上司が男性Aにチャレンジ度の高い仕事を与えるとか。

だから、女性活躍とか、外国人活躍というテーマに取り組むということは、「一定の型で考える」という枠組みから本人も組織も自由になり、本来注目すべき本質的な「多様性」・「個性」に焦点を当てるための、前処理段階のような役割を果たしているのだと思います。

佐々木さんが“変革屋”を志した原体験

――「内側から変革し、真の変革リーダーを育成する」をミッションに掲げるチェンジウェーブ。設立された背景には、佐々木さんに課題意識のようなものがあったのでしょうか?

160204_sasaki_interview_03

佐々木 課題意識というよりも、コンサルタント時代の、とある体験がきっかけなんです。

当時「営業組織の生産性向上」を目的とした経営トップが旗を振るプロジェクトをお手伝いしていました。始めは「ハイパフォーマーが何をやっているかを調べて、その具体的なアクションを横展開すればいいんじゃないか」と思う訳なんですが、やっているうちにそのアプローチはあまり効かないな、と分かってくるんですね。現場で一緒に自転車をこいだり、営業車に一緒に乗り込んで悩みを聞いていると、彼らの本来的な強みも、つまずいていることも、その背景にある本質的な理由も、ひとりひとり全く違うと気づいたからです。

中でも印象に残っているのは、ある支店の中堅営業マンでした。商品部門から営業に異動してきて1年くらいだったのですが、なかなか期待に応える成績をあげられていませんでした。一緒に営業車に乗り込むと、いつも暗い表情で「僕はこの仕事嫌いなんです。向いていないんです」と仰るんですね。なぜかと聞くと、「目標とする業績のためには、押し売りをしなければ成績が上がらない。お客様のためにならない仕事なんて、なんの価値があるんでしょう」と。

副支店長に聞くと、彼はかつて商品部門にいたこともあって知識も豊富。お客様のために、という思いもある。なのに、なぜそんなことが起きているのか。つきっきりで同行していくなかで分かってきた「ことの本質」は、実は「ほんのちょっとしたこと」だったんです。

実は彼は、かなり真面目かつ冒頓としたタイプで、「ちょっとした世間話」が大の苦手だったんですね。でも、もともと商品部出身で商品知識だけは誰にも負けない自信があった。だから訪問してすぐに「商品説明」を始めてしまう。「成績が上がっていない焦り」もあって、お客様の話を聞く気持ちの余裕もなく商談を終えようとしてしまう傾向がありました。

――その後、その支店にはどのような変化があったのでしょうか。

佐々木 それに気がついた副支店長は、彼につきっきりで「ちょっとした世間話」や「お客様のお話を聞く」力の向上に短期集中で付き合うことを決めました。彼はもともと商品知識は豊富だったし、お客様の役に立つ仕事が心底したい熱い人でしたから、話術がほんの少し向上しただけで、実績はすぐに出ました。短期間で手ごたえを得た彼は、仕事に対する自信と誇りを取り戻し、あっという間に2ヵ月くらいでそのエリアのMVPを獲得してしまったのです。

こうして見違えるように意気揚々と仕事をし、これこそ自分の天職だといわんばかりに結果を出し始める彼の変化をみた同僚たちは、当然のように刺激を受ける。ひょっとしたら自分も変われるのでは、と思い始めるんですね。彼の上司にあたるマネージャー層も、これまでの自分たちに不足している部分を知り、部下たちが何につまずき、悩んでいるのかを、丁寧に観察し、コミュニケーションの頻度を上げるようになりました。すると支店の雰囲気が見違えるように変わり、支店全体での業績が急成長し始めるのです。

こうやってプロジェクト中に激変する支店が多数出始めると、指揮をとっていた本社も、「やはり支店幹部が1人ひとりをどうマネージ・育成しているかがすべて。支店幹部教育・評価の仕組みに抜本的に手を入れるぞ」と、極めて短時間で組織全体が本腰を入れて、マネジメント変革に取り組み始めました。

個人の背中を押す“おせっかいな人”の存在

――それが今の“変革屋”としての原体験なわけですね。今年7月「TEDxTokyo」でプレゼンをされましたが、そこで「人のポテンシャルは無限大で、人は誰でも変わることができる」と話されていました。そのなかで佐々木さんは「そのためには、スイッチを押す“おせっかいな人”のサポートが不可欠」とも話されていて、とても印象に残っています。

160204_sasaki_interview_04

佐々木 そう。まさに副支店長のような“おせっかい”な存在です。

私自身もそうなんです。この会社を設立する前、何をやるかを決めず、当時勤めていた会社を辞めました。その後、いろいろな人に転職についてアドバイスをもらいにいくと「君はそもそも何をやりたいの?」と人生のビジョンを問われ、それに答えられずにいたんです。

なんとなく思考停止していた私に真剣に向き合って、突き放してくれたのは、みんな“おせっかいな人”だったと思います。それをきっかけに考える時間があったからこそ、自分自身に向き合い、やりたいことを真剣に考え、その結果、コンサルタント時代の原体験を思い出したんです。

ふつうに生きていると、「この辺でいいかな」とか、「基本的に世の中はこういう生き方しかできない」とか「自分にできることなんて限られている」とか、自分自身の中にいろんなリミッターをはめてしまっていると思うんです。でも、そういう思考停止や固定概念のリミッター(制限装置)を外してあげると、人は瞬く間に変わる。それによって他の人が影響され、組織が変わる。もしかしたら世の中も変わることができるかもしれない。そう思い、私はその“リミッター外し”をやりたいと考えたんです。

―自分の中にあるリミッターに向き合うことが重要なんですね。

佐々木 はい。私はその方法論の一つが、自分の志=プロフェッション(Profession」を考え抜いてみることだと思っています。プロフェッションとは、単なる「職業」ではなく、自分自身が生涯かけてでも取り組んでいきたい仕事のテーマ、というような意味です。私のプロフェッションは、変革屋として個のリミッターを外すこと。そしてそのリミッターが外れた人々が変革を起こし、それが相互に化学反応を起こし、変化の波が急速に拡がる世界を創ること。チェンジウェーブの社名には、そんな想いが込められています。

12

関連記事