子育ては期間限定のプラチナチケット  ――「イクメン」が日本を「人材資源大国」にする

「子育ては日々の成長の発見、PTAはダイバーシティー。育児を通して地域とかかわることはさまざまな経験ができ、ビジネス・スキル向上の絶好のチャンス。やらない理由が見つからない」

――こう熱く語るのは、“元祖イクメン”と言われ、「NPO法人コヂカラ・ニッポン」の代表を務める川島高之氏だ。商社勤務の後、上場企業の資産運用会社社長に就任。ビジネスに結果を出しつつ、部下たちのワーク・ライフ・バランスの充実を考え、私生活にも配慮する「イクボス」を提唱している。

子育てや家事の経験を活かした「ライフの視点」、社長としての経験を活かした「ビジネスの視点」、PTA会長やNPO代表での経験を活かした「ソーシャルの視点」という、“3つの視点”を融合させ、多忙な社長業務の傍ら、全国で講演活動なども幅広く行う。「イクメン」「イクボス」を体現している川島氏に、イクメンの浸透や広がり、イクボス式マネジメントを行う利点や課題などについて伺った。

イクメンの浸透・広がりに伴い、新たな課題も

――“元祖イクメン”と言われるお立場から、その浸透や広がりについて、現状をどう見ていらっしゃいますか。

川島 私がイクメンを始めた18年前は、PTAや子どもの運動会を理由に仕事を休むと「え?」という顔をされたものです。今は子育てに積極的に取り組む男性も少しずつ増加しており、「イクメン」は大分浸透してきたのではないでしょうか。一方で、課題も生まれてきています。

1つは男性が「2人目の母親」になっているという点です。性別はどうあれ、子育てには父性と母性の両方が必要なのに、父親も一緒になって母性が強くなり、子どもに対して過干渉になってきています。例えば、昔は学校に対するクレームは圧倒的に母親からが多かった。子どもが喧嘩した、怪我をした、と。それに対して父親は「そんなことで」と諭す立場だったのが、今では両親そろって学校にクレームをつけに行く。また、お受験パパも増加し、両親そろって子どもにプレッシャーをかけているという状態です。

160330_kawashima_022つ目は、「ニセイクメン」の増加です。週末に子どもと一緒に遊んでいるから自分はイクメンだ、と言う男性がいるらしいのですが、それは楽なところをやっているだけで、ちょっと虫がよすぎる。子どもが病気をしたら交代で休み病院に連れて行く、おむつを取り替える。共働きで子育てをしているのならば、最低それくらいはして初めて「イクメン」ですよ。

物事は一方に進むと悪い方も出てくるものです。だから、イクメンが増えてきたのはいいけれども、その流れの中で勘違いなどの反作用も出てきているというのが現状だと思います。

――とはいえ、イクメン自体は今後、当たり前のこととして定着していくのでしょうね。

川島 共働き家庭が増加している現在、家事や育児の面でも共に協業しないと、妻にばかり負担がかかってしまいます。つまり「家庭でも共働き」することは自然な流れです。また、子育てをすれば必然的に地域と関係しますので、地域活動も同様です。育児・家事・地域、そして将来は親の介護などを妻に丸投げするのではなく、夫も一緒にやるという時代にどんどんなっていきますから、イクメンが当たり前になっていくでしょうね。

PTAはビジネス・スキルを磨く場でもある
ママさんマネジメントから得たもの

――お仕事が忙しい中、地元の小・中学校でPTA会長などの活動にかかわられたきっかけは。

川島 小学校に入ればPTAがあり、当然誰かがやるわけです。私も、1人の子の父親として、当たり前だと思ってやったら、すごく楽しい。やりがいもあり、自分自身の成長のためにもやる価値が高いということに気が付いたので、その後は積極的にやるようになりました。

――あえて母親ではなく、父親がPTA活動に参加するメリットは何だと思われますか。

川島 PTAは大体が女性社会、しかも専業主婦が多い。勤め人の母親がそこに入ると、えてして専業主婦との闘いになってしまうのです。女性は「私は仕事がありますから」と言って途中で退席し難い。しかし、男性の場合は、同じことをしても、「仕事があるのに、来てくれてありがとう」となるのです。PTAや地域活動にとって、従来から男性は希少価値でした。そこに男性が出て行くことは、本人にとっても、PTAや地域にとってもいいことだと思います。

また、教員の方にとっても、父親の参加は歓迎されていると思います。女性同士だとなかなか結論が出ないことがありますが、男性だとビジネスの場で日々鍛えられていることもあって、とにかく結論を出そうとしますからね。

――仕事と同様、ママさんたちのマネジメントが必要ですね。

川島 まさに、会社のマネジメント・スキルがそのままPTAのマネジメントに生きるし、逆に、PTAでマネジメントをやっていたことが、会社のマネジメント能力を高める効果もありました。

実は会社のマネジメントよりも、ずっとママさんマネジメントの方が難しいのです。PTAにいたっては、学校や父母、さらに、地域の重鎮、町内会長のような人がいるので、まさに「ダイバーシティー」です。会社のような共通言語はないし、あうんの呼吸も効かない。しかも、「PTA会長の命令だ」というような職権も使えません。

160330_kawashima_04会社には明確な1つの目標や共通言語はあるし、最後は社長命令という職権が使えます。私は自分のマネジメント能力を高めてくれたのは、PTAだと思っています。本当にやって良かったと思います。

だからこそ、私はPTA会長の後任を選ぶ時に、男性こそやった方がいいと言い続けました。やりがいがあるし、絶対自分のためになるよと。楽しそうに活動している人たちを見れば、他の人も参加したくなりますよね。結果的に、私のいた学校では役員の半数が男性になりました。

権利を主張する前に職責を果たす
1.5倍の成果で“仕事預金”を作れ

――イクメンであるためには、ワーク・ライフ・バランスも重要ですよね

川島 現状の日本でワーク・ライフ・バランスをしっかりとることは、贅沢なことかもしれない。そんな贅沢をするためには、仕事に対してはそれなりの強い意志やコミットメントを示すことが必要です。そのために必要なことは成果を出すこと。だからこそ、早く帰るけれども1.5倍の成果を出すということが必要なのです。

もちろん仕事によっては成果が出るまで10年かかる場合もあります。バックアップ的な仕事では目に見える成果を出すのはなかなか難しい。ならば、誰が見ても今まで以上に頑張っているという姿を示し続けることが大事だと思います。

最近は逆に、ワーク・ライフ・バランスの弊害で、権利主張型が増えてきていますが、これはダメです。

権利としての有給休暇はもちろん使っていいのですが、使うからには、「まず職責を果たせ」、ということ。権利ばかりを主張していると、「あの人、また休んでいる」となる。一方で、先に成果を出していれば「あの人、ちゃんとやっているので、休んだほうがいいですよね」と当然なります。

――先に成果を出してからの権利主張だと。

160330_kawashima_05川島 そうです。もちろん仕事には時の運もあります。よく私は「20代のうちに仕事預金を作っておけ」と言います。責任感ややる気、向上心などを持ってどんどん仕事にぶつかって行き、若いうちに認められるようになれということです。どんな仕事でも本気でやっていれば実力はつくし、仕事預金ができる。そういうことを、最近の権利主張型の人間には言うようにしています。

また、求められる人材であればあるほど、「断る営業」も大事です。すべての仕事に対して「分かりました」と引き受けるのが正しい対処方法ではありません。分配マネジメントの訓練にもなります。管理職になれば、いかに割り振れるか、全体をコーディネートできるかが圧倒的な実力の差になります。誰にもキャパシティーはありますし、仕事に子育てやソーシャルが入れば、さらにそのキャパは小さくなります。でも、一方では組織として成長が求められるのですから、仕事をうまく交代でカバーし合ったり、分配し任せたりすることで成果を出していくことが必要なのです。

昭和の管理職像はもはや通用しない
今後は「イクボス」が絶対不可欠な時代

――川島さんが提唱されている「イクボス」について、簡単に説明していただけますか。

川島 「イクボス」は今後の管理職として必須なことだと思います。

1つは部下の私生活に配慮し、キャリアを応援する。子育てだけでなく、家族に介護や闘病している人がいないか配慮できる上司でないといけません。

2つ目は、上司自身も会社の仕事と私生活を両立させ、ソーシャルな活動に参加していること。自分も管理職として多様性が身に付きますし、部下への配慮も自然とできます。もちろん、管理職としての業務目標の達成が前提ですが。

――従来の管理職とイクボスの違いというと。

川島 まず、「24時間いつでもどこでも働けます」、という社員、いわゆる「無制約社員」は今後ほとんど存在しなくなる、という前提において、それでも成果を出さないといけない。そうすると求められるのは必然的にイクボスになります。

昭和の管理職は、部下はいつでも、どこでも、どんな時でも働いてくれると思っていました。そして、それが実際にできていた。なぜか。自分も部下も、ほとんど男性正社員だったからです。そして、彼らの後ろには、家事、育児、介護、地域等すべてを丸投げできる妻がいたからです。このモデルだったから可能でした。

しかし、現在は妻も外で働いているので、すべてを丸投げできる状況ではない。少子高齢社会で、親の介護を抱える人もこれからはどんどん増えていく。生産労働人口の低下が止まらない中で、それでも結果が求められるのが今の管理職です。そうすると、どうしても部下の私生活を考えたマネジメントをできる人材が管理職として求められます。それらができない人は管理職から撤退した方がいい。

――そう思われるようになったのはご自身の経験からですか。

川島 マネジメントの一環として、最大のパフォーマンスを部下にしてもらうために当然のことでした。自分が私生活を充実させてきたので、部下も当然そうだよね、というのが私の中で所与の条件です。自分も早く帰りたいし、部下も早く帰してあげたい。しかし、そうするには組織の成果は他の部署よりは高い結果を出さないといけない。組織として、成果を1.5倍出したい。そういう気持ちでいたら、結果的にイクボス的なマネジメントになりました。

部下の私生活に配慮できるのがイクボス
仕事も家庭も地域での活動も、全部「本業」の生き方を

――こうしたマネジメントは、欧米では当たり前のように行われているのでしょうか。

川島 日本でよく聞く「単身赴任」ですが、この言葉は英語にはないといいます。一般的に欧米では、家族を大事にし、場合によってはそれ故に仕事を犠牲にすることもあるということです。上司としては、仕事を犠牲にされたら困るから、単身赴任がないように、部下に配慮する。欧米ではそれが当たり前なのです。

日本では仕事が上位にあって、家庭が犠牲になっていることがありますが、どれを優先するというのではなくて、仕事も家庭も、そして地域や社会での活動も全部「本業」なのです。では、どうやって、すべてを本業にするか。それがワーク・ライフ・バランスです。

160330_kawashima_06――日本ではワーク・ライフ・バランスも、言葉では大分浸透していますが、実際に行われているかというと、まだまだのようです。

川島 言葉は知っていて、意識もしていると思いますが、日本の伝統的な企業と公務員。ここが、なかなか変わらないですね。だからこそ、そういうところからの講演依頼が結構増えてきています。

一番変わらないのが、“粘土層”である男性管理職です。若い人たちは、ボランティアとか自分のことなどやりたいことがあるからワーク・ライフ・バランスを実践したいと思っている。女性も、年齢にかかわらず、仕事以外でもやりたいことがたくさんある。若い人、女性を除くと残るのが中高年男性、特に管理職の方々です。彼らの意識を変えていかなくてはいけない。彼らの影響力が強いですからね。ここが変わらない限りは、若いイクメンたちの仕事と家庭の両立も難しいし、女性も活躍できない。周囲に影響を及ぼすのが管理職なので、そういうことで始めたのがイクボスの活動なのです。

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子育ては期間限定のプラチナチケット
放棄するなんてもったいない

――子育ては、仕事同様、むしろそれ以上に楽しいことだと思われますか。

川島 私は本当に楽しいと思います。子どもは成長していきます。部下にしても、子どもにしても、人を育てることほど、やりがいのあることはありません。

私はよく言うのですが、仕事は挽回できるけれど、子育ては期間限定の特権であり、常に今が旬です。我が子の3歳は今だけで、来年楽しむことも、挽回することもできません。今が旬の、こんな“プラチナチケット”を捨ててまでやる価値のあることなど、世の中にありません。それを放棄するなんて、実にもったいない。

――子育ても含め、ワーク・ライフ・バランスの実現は社員の満足度向上にもつながりますよね。

川島 働き方を変えることの根本的な目的は社員の満足度向上、生活の向上です。社員の満足度を高め、そのことが利益を増やし、株価を高めます。そして、社員の報酬も上がります。社員の満足度というのは、働きがいと、働きやすさと報酬。この3つを高めることです。日本人は基本的に優秀で真面目ですから、働きがいと働きやすさ、そこに報酬が付いてきたら、みんな頑張りますよ。

――社員にモチベーションを与えるためのチャレンジ設定は、どのようにされていますか。

川島 社員に対するチャレンジ設定も、子育てと同じです。その人の現在の力がこのくらいだな、と思ったら、その少しだけ上を目指して、少しだけストレッチを設けるようにしています。誰しも成長意欲を持っているので、達成すれば自信になります。達成できたら次のステップです。いきなり能力のはるか上を与えてもダメだし、能力以下のものだと油断や怠けることにつながる。その人の力を常に見極めることが大切です。そのためには、月並みですが、やはり日々のコミュニケーションが重要だと思います。

――イクメン、イクボスの広がりは今後、日本の経済や社会全体に対してどのような影響を与えますか。

川島 良いことしか見当たらないですね。イクボスの広がりで女性が活躍できるとか、出生率が高まるといわれますが、それは目先の効果です。もっと広く長期的な目で見ると、育児をすることで、付加価値を生む人が増えてくると思います。職場で仕事漬けの人と、子育てや家事、地域活動など多様なソーシャル面の経験をする人と、どちらがいいものを生み出すかというと、やはり後者ですね。企業にとっても社会全体にとっても価値のある仕事をやるようになります。

また、男性が子育てを分担することで、子どもの視野も広くなり自立にとってプラスになるので、長い目で見るといい人材が生まれると思います。

日本の一番の資源は人間なのですから、これまで女性に丸投げしていた子育てを男性も一緒になってやれば、まさに「人材資源大国」になれます。その過程で自分も子育てを楽しみながら鍛えられ、人として大きく成長していける。そのために、イクメン・イクボスは不可欠だと思います。

TEXT:深井久美

川島高之

かわしま・たかゆき

川島高之 NPO法人コヂカラ・ニッポン 代表 / 三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社 代表取締役社長

1964年神奈川生まれ。1987年、慶應大学理工学部卒、三井物産株式会社に入社。2012年より、系列上場会社である三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社の代表取締役社長に就任。地元の小・中学校ではPTA会長、少年野球のコーチなども務めてきた。子ども教育関連のNPO法人コヂカラ・ニッポン代表、イクメン関連のNPO法人ファザーリング・ジャパン理事を務め、ライフ、ワーク、ソーシャルの3つの視点や経験を融合させた生き方をテーマにした講演を各地で行っている。著書に『いつまでも会社があると思うなよ!』(PHP研究所)。『AERA』の「日本を突破する100人」にも選ばれている。


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