「東京パラリンピック」をもっと楽しく。 ――2020年の成功に向けたクリエイティブ戦略の一端を見た

 「i enjoy !」をテーマにした壁のない開放的な空間、明るい色づかいなど、日本財団パラリンピックサポートセンターの活気あふれる斬新なデザインが今話題になっている。

2015年11月に新設されたこのセンターの総合クリエイティブ・ディレクターは澤邊芳明氏。広告制作を手がけるデジタル・クリエイティブ・エージェンシーの「株式会社ワン・トゥー・テン・ホールディングス(1-10)」代表取締役社長だ。

同社は広告作品の世界的なコンテストでの受賞歴も多く、「世界初となる自分の感情を持ったパーソナルロボット」といわれる「Pepper」の開発にも携わるなど、広告制作のみならず最先端の分野でも実績を積んできた。

今回なぜパラリンピックのサポートセンターのデザインを引き受けたのか。18歳の時にバイク事故に遭い、車いす使用者となりながらも、あえてこれまで福祉や障がい者にかかわる仕事とは一切関係を持たず、クリエイティビティのみで勝負してきた。そういった澤邊氏の視点から、サポートセンターのデザインやパラリンピックへの思いを語っていただいた。

「i enjoy !」
がんばった、その先にある「楽しみ」を味わう

 ――日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)のデザインを、「i enjoy !」(楽しむ!)というコンセプトにしたのはなぜですか?

澤邊 日本財団パラリンピックサポートセンターは、パラリンピック競技団体の共同オフィス。いろいろな団体が横のつながりを持ち、連携をとれるようにしたいという要望が、入札時のオリエンで日本財団側からありました。そこで、2020年に向けて、「パラリンピックを盛り上げる運動体」としての、オフィスの機能を考えました。コンセプトはワン・トゥー・テンが考え、過去に何度かご一緒にオフィスデザインを行っているトラフ建築設計事務所に設計をお願いしました。

オリンピックの起源を調べようとギリシャを旅行したところ、身分に関係なく、裸でわけ隔てなく競ったのが起源だということがわかりました。ですから、パラリンピックをサポートする職員のみなさんが働く場所も、人々を隔てる壁のない開放感あふれる場にし、選手と同じマインドで戦う舞台にしたかったのです。ですので、「都心ビル内に存在するスタジアム」をコンセプトにしました。

また、オフィスデザインの競合コンペに勝利後、我々の提案で運動体を支えるタグラインを提案し、日本財団パラリンピックサポートセンターのご理解を得て、開発するに至りました。

「i enjoy !」というタグラインの着想は、2012年のロンドンでのコミュニケーション戦略を基準に、そこから未来を思考したものです。ロンドンパラリンピックは、障がいや病気、事故を乗り越えた選手=「精神的にも肉体的にも強い人」という視点で、「超人」(スーパーヒューマン)を見に行こうというメッセージを打ち出した。これが成功して、史上初、パラリンピックのチケットが売り切れになったといわれます。

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東京2020パラリンピックも、同様に一般の観戦者が「超人」を見に行くのだろうか。「強い人」「がんばる人」の先に何があるかを考えたのです。よくスポーツ選手が「今日の試合を楽しめました」と言っていますが、最初は僕もあれを聞いて違和感がありました。試合本番に「スポーツを楽しむ」ってどういうことだろうと。でも、本当にストイックに何かに取り組んできた人は、試合本番を楽しめるのです。がんばった、その先にある「楽しみ」を味わえる。観客も「障がい者のスポーツ」を見に行くのではなくて、とにかくそこで繰り広げられる「スポーツそのものを観戦するのが楽しいから」スタジアムに足を運ぶようになったらいい。2020年の東京パラリンピック大会を機に、そうなって欲しいと思っています。

運動体を支える機能を盛り込んだオフィスデザインや
グラフィックの展開を行った

――そうした思いを、どのようにデザインに込められのでしょうか。

澤邊 例えば、開放感を出すため、オフィスの中央にはオープンカフェを配置し、左右は壁がないコミュニケーション・スペースにしました。

写真提供: ㈱ワン・トゥー・テン・ホールディングス

写真提供: ㈱ワン・トゥー・テン・ホールディングス

昨年11月29日に開催された、健常者も障がいのある人も一緒に走る「パラ駅伝」のデザインでは、オフィス同様の色面デザインのバリエーション違いを展開し、色と色とが重なりあった部分をあえて濃くせず、薄い色にしています。それは「交流することで、明るさが生まれる」ことを表現したかったからです。

森 喜朗元首相(左)や舛添要一東京都知事(右から3人目)を始め多くの東京2020オリンピック・パラリンピックの役員や関係者たちが新設されたセンターに訪れ、明るく開放的なデザインを楽しんだ。 写真提供:㈱ワン・トゥー・テン・ホールディングス ©Daici Ano

森 喜朗元首相(左)や舛添要一東京都知事(右から3人目)を始め多くの東京2020オリンピック・パラリンピックの役員や関係者たちが新設されたセンターに訪れ、明るく開放的なデザインを楽しんだ。
写真提供:㈱ワン・トゥー・テン・ホールディングス ©Daici Ano

――明るさはもちろん、オフィスデザインとしての「かっこよさ」「スタイリッシュさ」が目を引きます。

澤邊 ポジティブでテンションの高いイメージをどう打ち出していくのかは、パラリンピックやパラスポーツの課題だと思います。「チャリティ番組シンドローム」といいますか、どうしてもかわいそうとか、お涙ちょうだい的なムードになってしまうことが多く、これを何としても変えたいと思いました。

最近、アメリカで軍人たちの写真集が出たのですが、戦いで手足を失ったりしていても、筋骨隆々に鍛えられた肉体がすごく美しい。誰もそれを見て「かわいそう」とは思わない。

そのクリエイティブに触れたときに、心にざわめきを感じ、パラダイムシフトが起き、人々の心に大きな認識の変化が起こるわけです。もちろん、表層的な印象がすべてではないけれど、こうしたビジュアル表現は、世の中の認識に変革をもたらす上でとても大事だと思っています。

2020年の東京パラリンピックはこういったパラダイムシフトの発生土壌として意味があり、パラスポーツを通じ、障がい者のイメージが変わるのではないか。そこに、僕の持つ知見や、クリエイティブな経験が生かせるかもしれないと思っています。

本当はすごく面白いのに、これまでパラリンピックがあまり見られていないのは、見せるための仕掛けがあまり試されてこなかったから。僕はプロジェクション・マッピングやモーションキャプチャ、ホログラムなど最新のデジタル表現を使い、さまざまな方法でスポーツのエンターテインメント性をどんどんアピールしていきたい。そして、選手の活躍する姿を一目見ようとファンが会場に足を運び、選手も観客も全員が「i enjoy !」という雰囲気をつくっていきたいと思っています。

センターの建物の外側には選手たちの「かっこいい」雄姿がズラリ。 写真提供: ㈱ワン・トゥー・テン・ホールディングス

センターの建物の外側には選手たちの「かっこいい」雄姿がズラリ。

写真提供: ㈱ワン・トゥー・テン・ホールディングス

仕事に「色」を付けず、実力で勝負する

――2020年を迎えるころには、パラリンピックのイメージが大きく変わっているかもしれませんね。

澤邊 僕は18歳でバイク事故に遭い、手足が動かない状態になりましたが、身体の状態で、仕事に「色」が付いてしまうのは避けたい、身体的事情などとは一切関係ないところで仕事をしたいと思っていました。

そうすることで勝負していけるなら、それが本来のバリアフリーなのだと思ったのです。幸いにもネットの仕事は、人に会わなくてもすむし、純粋にデザイン性とか、企画やプログラムなどの能力で闘える。それに魅力を感じて、1997年にワン・トゥー・テンを創業しました。ですから、つい最近まで、取材がきても車いすに乗っていることは公表していませんでした。実力で勝負したかったのです。

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一方で、事故に遭った直後の一番の危機感は「一生働けないのではないか」ということでした。仕事があるとしても、ボランティアだったり、アルバイトで仕事をもらう立場だったり。

もしずっと障がい者としてのスタンスで仕事を受けてきていたら、今回担当した日本財団パラリンピックサポートセンターのデザインのような発想は出てこないと思います。ひとつの世界に足を突っ込みすぎると、自分の感覚が閉じてしまうことがありますから。

活動を後押しするスイッチをつくり、
「マイナー競技」を普及させたい

――澤邊さんご自身が、人が集まったり交流したりできる、日本財団パラリンピックサポートセンターで実現したいことはありますか?

澤邊 パラリンピックの成功に向けては、サポートセンターのみならず、交流の場をつくったり、活動を後押しするスイッチをつくったりすることが大事だと思っています。弊社は「希望ある未来の作用点をつくる」ことをミッションにしていますが、既成概念にとらわれた目線ではなく、みんなが議論をしやすい空気をつくりたい。障がい者についてまわるイメージや枠組みを取り外せるようにしたいですね。もっと「クールで楽しくていいんだよ」というように。

例えば、「パラスポーツ」ということをいったん忘れて、ダーツやビリヤードといったスポーツがバーなどで楽しまれているように、身近な場所でできる種目をもっと多くの人に楽しんでもらう。それから、後で「障がい者のスポーツだったんだ」と知ってもいい。

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バスケットボールやテニスなど自分がやっていたスポーツのほうが「自分事」としてとらえられ、すごさを実感できるから人は興味を持つ。体験者の多いスポーツは共感を得られやすいのです。だからゲーム感覚でできるパラスポーツを広げていきたいと思っています。実際にやってみた人なら、パラリンピックに出ている選手のすごさが身に染みてわかると思うのです。そうやって、体験した人たちの間で競技の魅力が再認識され、ブームに火が点き、普及していくといいなと思っています。

「熱量」と「継続する力」で取り組めば、
日本人はいろいろな分野でもっと勝てる

 ――広告の視点が、さまざまな活動に生かされているのですね。最後にクリエーターとしてのモチベーションの源を教えてください。

澤邊 僕は事故に遭い、「もう一生働けないかもしれない」と思ったので、基本的に働くことにとてもポジティブです。だから、いつも全力でやろうと思っています。日本人の優れた能力とは、継続する力だと思っています。いわゆる職人のように、根気よく物事を成しえていく力ですよね。

弊社に集まっているクリエーターたちは、ものすごい熱量を持って仕事に取り組んでいます。彼らは「自分を表現したい」という気持ちがすごく強く、僕は自分の会社を「サーカス小屋」と思っています。自分のやりたいことがはっきりしていて、まるで言うことを聞かない猛獣たちのようです。仕事もプライベートも、「好きなこと=仕事」という感覚でやっているような人たち。そういう人たちとたくさん話して、やりたいことをくみ取り、実現させ開花させていく、そういうプロセスをドライブさせるのが僕の仕事でもあります。

もしかしたら、100メートル走で、身体性だけ見れば外国の選手にはかなわないかもしれない。けれど、日本人が「熱量」と「継続する力」で物事に取り組んだら、ハイパー義足を生み出してパラリンピックの100メートル走で日本人選手がボルトを超える記録で優勝することもあり得るんじゃないか。

日本の選手たちと弊社のクリエーターたち、そして自分も重ね合わせ、そんなふうに感じています。

TEXT:斉藤真紀子

澤邊芳明

さわべ・よしあき

澤邊芳明 ワン・トゥー・テン・ホールディングス(1-10) 代表取締役社長

1973年、東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワン・トゥー・テン・デザインを創業し、ユニークなアイデアと時流に合わせた先進的なチャレンジによって、多くの大型キャンペーンを成功に導いてきた。ワン・トゥー・テン・デザインはこれまでに、カンヌライオンズ(カンヌ国際広告祭)金賞、One Show Interactive金賞、アジア太平洋広告祭(アドフェスト)グランプリなど、国内外のアワードを150以上受賞。デジタルテクノロジーを軸としたインタラクティブスタジオとして、国内外から注目を集めている。
2012年4月には、広告クリエイティブ領域からプロトタイピング、ロボティクスまでのデジタルクリエイティブを総合的にプロデュースするクリエイティブスタジオ、「ワン・トゥー・テン・ ホールディングス」を設立。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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