企業のイノベーションや成長には、 女性リーダーたちの活躍が欠かせない

日本の女性リーダーたちの更なる活躍に向けて議論する「IBM ウーマンズ・リーダーシップ・フォーラム」が、6月22日、東京・六本木のグランドハイアット東京で開催された。
主催したIBMのジニー・ロメッティ会長は、ジェンダー・ダイバーシティーのためには、その模範となるロールモデルを作る大切さを語り、ゲスト・スピーカーである内閣総理大臣夫人の安倍昭恵さんは、政治家の妻としての隠れた苦労を明かしながら、「人をつなぐことが私の役目」という信念を披露した。
女性活躍推進法が今年4月に施行され、301人以上を雇用する企業や公共団体は女性の活躍を実現するための行動計画の策定や、女性管理職比率などの公表を義務付けられている。
長い間、活躍する女性の数があまり多くなかったこの国にも新しい風が吹き始めた。パネル・ディスカッションでは、国内外5人の識者が、女性の活躍を推進するための具体策や女性たちへのアドバイスを語った。

オーニング・スピーチ

フォーラムで女性の活躍を加速するアイデアを考えたい

■ポール与那嶺 日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長

ポール与那嶺

本日はジェンダー・ダイバーシティーをリードする約200名の方々にお集まりいただき、スペシャルゲストとして安倍昭恵・内閣総理大臣夫人のご臨席をいただいております。
数年前、当社は日本の企業経営者約400人が参加する会議を東京で開催しました。そのとき、本日の当フォーラムの主催者であるIBMの会長・社長兼CEOのジニー・ロメッティがご挨拶しました。彼女はステージに立ってすぐ、会場にほとんど女性がいないことに気が付き、「Where are the women?」「How do you expect to become global?」と言いました。これはとても重要なメッセージだと思います。
女性の活躍は、CSR(企業の社会的責任)に留まらず、日本企業がグローバルに活躍するために重要不可欠です。本日は、女性の活躍を加速するためのアイデアを皆さまと共に考えていきたいと思います。

 

女性比率が高い企業ほどイノベーションが進み、売り上げや利益が伸びる

■ジニー・ロメッティ  IBM会長、社長兼CEO

ジニー・ロメッティ

IBMはダイバーシティーの施策を強力に進めています。それは、インクルージョン(包括性、一体性)を実現することです。日本はいま大きな転換点に来ています。生産年齢人口が減り、職場に女性を増やしていかねばなりません。IBMはこの分野でも先駆けとしての役割を果たしてきました。日本IBMも男女雇用機会均等法ができる20年前から大卒女性を採用し、幹部候補トレーニングを行い、託児所を作ってきました。その成果が出て、日本IBMの女性幹部の比率は日本企業の平均の7倍です。

道のりは遠くても、インクルージョンを高めることはどの国においても重要です。カタリスト(Catalyst:女性のキャリア推進を主導する米国の非営利団体)の調査によれば、女性比率が高い企業ほど、イノベーションが進み、売り上げや利益が伸びています。

私はかつて上司から大変な昇進を打診されたことがありました。即答せず、その夜、夫に相談しました。「昇進を受けるのはまだ無理かもしれない。あと1、2年したら自信を持ってその仕事をできるのだけれど」と迷う気持ちを告げたのです。すると夫は「君が男性だったら、そんな相談をすると思うかい」と言いました。それは数十年前に母が私にくれたアドバイスと同じでした。「自分のことは自分で決めなさい。自分がどんな人間なのか、何をすべきか、他の人に決めさせてはいけない」と母は言ったのです。翌日、私は昇進を受けました。

本日ゲスト・スピーチを賜る安倍昭恵様はワシントンポスト紙のインタビューで「私自身、少しずつ殻を破りつつあります」と語っておられました。このフォーラムにお迎え出来てとても光栄です。

ゲスト・スピーチ

人にはそれぞれ持ち味がある。「人をつなぐこと」が私の役目

■安倍昭恵 内閣総理大臣夫人

安倍昭恵

安倍家の嫁として心がけてきた「型からはみ出さない人生」

皆さま、こんにちは。今日から参議院選挙が始まり、ある立候補者の出陣式に出て、先ほど東京に戻ってきました。この時期選挙応援をするのが私の一番の仕事ですので、「出陣式に行ってくれ」と言われると、そちらを優先しなくてはならないのです。
女性の活躍と言っても、私はこんな女性になりたいとか、こんな仕事をしたいと思ったことはありませんでした。若い頃から結婚して幸せな家庭を持ちたいと思っていて、普通の主婦になりました。その後も安倍家の嫁として、衆議院議員・安倍晋三の妻として、その型からはみ出してはいけない、人から足を引っ張られないように、恥ずかしくない行動をしなくてはいけないと思って生きてきました。私自身、型にはまろうとしていたと思います。

総理大臣辞職のどん底から再出発し、可能性に挑戦した夫

夫は2006年に総理大臣になりましたが、高校生の頃から潰瘍性大腸炎を患っていて、ストレスでだんだん体調を崩してしまい、辞めざるを得ない状態になりました。多くの方から「期待していたのにがっかりした」と言われ、マスコミからも「総理大臣を投げ出した無責任な男」と批判を受けました。

私自身も初めてどん底の気分を味わい、ニコニコしている人を見ると、「この人たちは何でこんなに楽しそうなのだろう」と、涙を流すような不安定な精神状態の日々を送っていました。しかし、だんだん夫の病状が快復し元気を取り戻すと、これからは型にはまった自分ではなく、正しいと思ったことを言ったり行動したりしたいと思うようになりました。フルマラソンを走ったり、大学で勉強し直したり、自分の可能性に挑戦してみようと思ったのです。
2012年が50歳、結婚25周年でもあったので、ここからが私の新しい人生の始まりだと思っていたところ、再び主人が総裁選挙に出ることになりました。今思うと人生に無駄なことはなく、つらい時期を経たからこそ今があると、出会ったすべての方々に感謝しています。

無農薬のお米を食べてもらおうと開いた店に批判殺到

2011年に東日本大震災があり、山口県で無農薬のお米作りを始めました。それを皆さまに食べていただきたいと、神田で小さなお店を始めました。
自分としては無農薬のお米や野菜を安心して食べていただき、アットホームなお店にしようと、いいことをしているつもりだったのですが、「お酒を出すような店を元総理大臣の妻がやるとは何事か」と批判されました。主人の親しい友人からは「晋三さんの足を引っ張ることになる、全部買い取ってあげるからお止めなさい」と言われました。

しかし、私は絶対辞めるつもりはなく、今も続けています。でも「お酒を飲ませる店を出すのはよくない」と思う人がたくさんいることを改めて感じました。週刊誌には「裏路地の居酒屋の女将に成り下がったアッキー」と書かれ、写真も撮られて悲しい思いをしましたが、今ではオバマ大統領夫人のミッシェル・オバマさんにも来ていただけるようなお店になり、ずっと来てくれなかった主人もこの6月の結婚記念日に足を運んでくれました。

「人をつなぐこと」が私の役目

「人をつなぐこと」が私の役目と悟る

先ほどジニーさんから「いま何に一番熱心に取り組んでおられますか」と聞かれ、「女性問題、農業、LGBT(性的少数者)、HIVなどいろいろな活動をしています。プロフェッショナルなことは何もないのですが、『人をつなぐこと』が私の役目なのだろうと思っています」と、そうお答えしました。若い頃、周りの有能な女性たちがどんどんキャリアアップし、家族が増えていくのを見て焦ったこともありました。しかし、人にはそれぞれ自分だけが持っている役割があり、私の場合、それは「人をつなぐこと」だと思っています。

いま政府は「一億総活躍」と言っていますが、それは一人ひとりが持ち味を生かして活躍することだと思います。私はお酒を飲むのが好きなので、地元の山口で酒米の山田錦を作り、会津に持って行ってお酒にしてもらいました。長州と会津は戊辰戦争以来、仲が悪いのですが、それを何とかしたいと思ったのです。
会津若松の蔵元の社長は大の長州嫌いでしたが、昨年、おいしいお酒を造って下さいました。「仲直りはできないが、仲良くはできる」という言い方をされました。「やまとのこころ」と名付けたそのお酒を飲んで仲良くなる。分離したものを合わせていく。そんな役割を女性の一人として担っていきたいと思っています。

「失敗してもチャレンジできる世の中を作りたい」

主人が2012年に自民党総裁選挙に出る決意をしたとき、私に「どう思う?」と聞きました。主人が当選する確率は低いと言われていて、多くの方々が反対し、安倍の母も兄も「止めた方がいい」と言いました。

そのとき主人に、「総裁選挙に出て負けてもいいのですか」と聞いたら、主人は「今回全力で戦って負けたら、次の総裁選挙に出ればいい。その選挙で負けたら、その次の選挙に出ればいいじゃないか」と言いました。「人生は就職に失敗したり、倒産したり、いろいろなことが起こるけれども、それで終わりではなく、何度でもチャレンジできる。自分はそんな世の中を作りたい」と言いました。
私がお店を開くことに主人は反対しなかったので、私も主人の総裁選挙を応援したいと思い、「この国のために命がけでがんばってください」と言いました。

女性が大企業の中で昇進するのは素晴らしいことです。でも、女性が男性と同じ働き方をして昇進することだけがいいとは思いません。企業の中で女性の特性を生かして活躍する道もあってほしいと思っています。

あるフォーラムで「女性が活躍するためには何が必要ですか」と言う質問が出て、いろいろな答えが出ましたが、キャシー松井さんが言われた一言が心に残りました。「いいパートナーに巡り合うこと」。先ほどジニーさんがご主人に昇進の件で相談されたとをおっしゃっていましたが、ジニーさんのご活躍の陰には良きパートナーとしてのご主人の存在が大きいのではないかと思いました。

日本人は自分の能力をもっとアピールする必要がある

日本人はとかく謙遜して自分の能力をアピールすることが下手ですが、これからは自分が持っている能力を十分アピールする必要があると思います。世界に出かけると、「日本人のように勤勉に働きたい」「日本のような国にしたい」と言ってくださる方がとても多いのです。
この日本に生まれてきたことを誇りに思い、日本がリーダーシップを発揮して世界が平和になればいいなと思います。これからもしばらくは総理夫人として、女性のためにがんばっていこうと思っています。

パネル・ディスカッション

パネル・ディスカッション

パネリスト

  • 橘・フクシマ・咲江 G&S Global Advisors Inc.代表取締役社長
  • シャーリー・アン・ジャクソン  レンセラー工科大学学長
  • ピーター・ヴォザー ABB Ltd.取締役会会長
  • ジニー・ロメッティ  IBM会長・社長兼CEO

モデレーター

  • キャシー松井 ゴールドマン・サックス証券副会長

成長戦略の柱になったウーマノミクス

キャシー松井  パネリストのご紹介をします。橘・フクシマ・咲江さんは経済同友会で活躍されており、ダイバーシティーを日本で推進するためのさまざまな提案をされています。シャーリー・アン・ジャクソンさんはマサチューセッツ工科大学で1976年にアフリカ系女性として初の博士号を取得し、レンセラー工科大学初の女性学長を務めていらっしゃいます。ピーター・ヴォザーさんはシェルの元CEOであり、彼の下で多くの女性経営幹部が生まれました。カタリストの議長でもあります。そしてIBM会長のジニー・ロメッティさんです。

私は1999年に「ウーマノミクス」という本を書きました。日本では働く女性が第一子を設けると、6割が仕事を辞めてしまいます。誰もが「日本文化の一側面であり、仕方がない」と受け止めていました。
しかし、2013年にウーマノミクスが成長戦略の中心的な柱として組み込まれたのです。2016年4月には女性活躍推進法の施行によって、従業員301人以上の企業や公的機関はジェンダー・ダイバーシティーの目標を作り行動計画を発表しなければならなくなりました。これは革命的な出来事です。

介護や子育てなど人生のステージに合わせた新しい働き方

橘・フクシマ・咲江  経済同友会では「人材育成・活用委員会」を立ち上げました。ダイバーシティーに向けた経営者行動宣言を出し、各社が責任を持って目標を設定し、公表し、努力することにしました。
また同友会は日本IBMの北城恪太郎さんを委員長に次期上級幹部育成のためのジュニア・リーダーシップ・プログラムを立ち上げています。男性にマイノリティーの経験をしてもらおうと、企業の執行役員を男性40%、女性60%の割合で集めて会を開きました。男性からは「参加してよかった」と言う声をいただいています。この成果として、女性の社外取締役比率は6.6%から14%に増えました。
さらに、男性中心の長時間労働を改善するため、「新しい働き方委員会」を作り、介護や育児など人生のステージに合わせて、時間や場所に縛られない働き方ができるようなワークライフ・マネジメントを提言しています。

女性の活躍には経営トップの意思表示が欠かせない

ピーター・ヴォザー  シェルは50国籍の人が働くグローバル企業ですが、女性が活躍すれば効率が上がることが分かっているのに、女性参画の目標は達成できていませんでした。そこで私はCEOになったとき、真剣にこの問題を改善するという意思表示をしました。幹部たちと話をし、女性を昇進させるよう自分から能動的に取り組んだのです。その結果、シニアエグゼクティブの50%に女性が就任することになりました。
グローバル企業はいろいろなビジネスを多くの国で営んでいます。国情や文化に応じて目標を細かく現実的に作る必要があります。

ロールモデルには「初の事例」が必要

ジニー・ロメッティ  まず背景として、IBMは1934年に男女の同一労働同一賃金を実践しました。日本でも男女雇用機会均等法が施行される20年も前から、日本IBMは女性の大卒を雇用しています。
ロールモデルには「初の事例」が必要です。例えば、日本IBMでいえば女性初の研究所長になり、後に専務取締役に就任した内永ゆか子さん。また14歳で視覚障害になりながらもIBMフェロー(最高技術職)に就任した浅川智恵子さんのような方です。

女性が働いていく上でのさまざまな障壁を取り除くことも大切です。日本では第一子を生んだ後、6割の女性が職場を去るそうですが、日本IBMでは若い女性の6割が子どもを持つママさん社員、つまり逆なのです。社内託児所を備えたり、フレックスタイムや、家事に対応できるよう在宅勤務なども取り入れ、多くの社員が活用しています。企業としては有能な女性たちが会社を辞めると大変な損失ですから、IBMはビジネスの優先課題として女性が活躍できる環境作りを率先して推進してきました。

最も高い実績が求められるところに女性を参加させる

シャーリー・アン・ジャクソン  米国ではサイエンス、特にコンピューター・サイエンスやエンジニアリング、数学などの分野で、女性の比率が下がっています。シリコンバレーは女性のリーダーシップが欠けていると批判されています。レンセラー工科大学は米国の最も歴史ある工科大学ですが、数年前、ジニーさんに名誉学位を授与しました。女性たちが目標とすべき素晴らしい業績を成し遂げている人を実際に目で見ることが重要なのです。
また、女性たちには身近な先輩として相談にのってくれるメンターが必要です。上のクラスの女性が下のクラスの女性のメンターになります。女性のための起業家プログラムもあります。大事なことは女性専用のトラックを作るのではなく、最も高い実績が求められるところに女性を参加させる。そこで成功することで、他の女性が後に続くのです。

「女性という個性」を持った“人財”として、その業績や能力を評価する

橘・フクシマ・咲江  男女共同参画は、女性が男性の領域に入るだけでなく、男性が女性の領域に入ることが不可欠です。若い男性の8割は子育てに主体的に参加したいと考えています。そういう若い人たちが動けるよう、経営トップのコミットメントが大切です。
2点目は公平な評価制度です。男女の性別や国籍はその人の個性の1つに過ぎません。重要なことは、女性として評価するのではなく、「女性という個性」を持った“人財”として性別に関係なく業績や能力を評価することです。その場合、日本では女性登用が進んでいないので、一定のところに行くまでは時限的に目標値を設定することが必要だと思います。
3点目は女性の採用と職域の拡大です。学校の成績と入社試験と面接の結果だけで採用を決めると、女性が7割を占めるそうです。そこで、できない男性を入れて数を合わせている(笑)。
AIやIoTの導入で仕事の仕方は急速に変わりつつあります。長時間働くのではなく効率よく成果を上げることを、個人も企業も考えていく必要があります。

ピーター・ヴォザー  カタリストは女性のキャリア推進とビジネス発展を支援する非営利団体で、世界中の企業がスポンサーになっています。調査、トレーニング、イベント、コンサルティングなどを行っています。日本の企業も私たちのウェブサイトをぜひ活用してください。

シャーリー・アン・ジャクソン  女性の活躍によって社会は活性化し、異文化に対するセンシティビティも向上します。女性やその家族に優しい政策を取る必要があります。子育てから復帰する女性には、架け橋になる仕事を与えてみてください。

キャシー松井  最後に女性のキャリアに対するアドバイスを一言ずつお願いします。

ジニー・ロメッティ  人はリスクに曝されたとき、本当に成長します。成長と安穏は両立しません。これは企業も国も同じです。

ピーター・ヴォザー  チャンスがあるときは、とにかく掴みましょう。

シャーリー・アン・ジャクソン  星を目指せ、そうすればトップをゲットすることができる。つまり高みを目指さなければ、そこに到達できないということです。

橘・フクシマ・咲江  自分が昨日より少しでも賢くなるよう、努力することだと思います。

キャシー松井  パネリストの皆さま、ありがとうございました。

TEXT:木代泰之