「好きなことを、好きなだけ」。話題のN高で見つける“自分らしさ”

2016年4月6日、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する新たな通信制高校・N高等学校にとって初の入学式が行われた。入学者数は1482名。この日の入学式に参加した生徒はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、インターネット中継を介して沖縄本校にいる奥平一博校長の話に耳を傾けた。1年間のカリキュラムは、5日間のスクーリング以外、授業・レポート提出などのすべてがネットを通して行われる。併せて、生徒の目的に応じた課外授業も用意され、場所を問わずそれぞれのプログラムに参加することができる。高校卒業資格取得はもちろん、卒業後を視野に入れたさまざまな課外授業とともに、ネットをフル活用した同校の取り組みは、既存の通信制高校とは一線を画する。そこには一体、どんな狙いがあるのだろう。校長の奥平氏に話を伺った。

通信制高校に対する世間の認識を変えていきたい

——今年4月に開校したN高等学校(以下、N高)ですが、そもそも奥平さんはどのような経緯でN高の初代校長に就任されたのでしょうか?

奥平 小学校教諭や学習塾講師の経験を経て、通信制高校の世界に移って以来、十数年にわたり通信制高校の運営・立ち上げに携わってきました。そんなある時、ドワンゴとKADOKAWAの方から、N高の校長就任の話をいただきました。彼らは、我々にはない発想を持っている人たち。今まで経験したことのない、何か面白いことができるという期待を込めて、初代校長になることを決断しました。

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——通信制高校には、「高卒資格を取得するための学校」「全日制高校を退学した人の受け皿的な学校」というようなイメージがありますが…。

奥平 そうなんです。胸を張って「通っている」「卒業している」と言えない雰囲気が、通信制高校にはつきまとっています。でも、通信制高校に通っている生徒たちと触れ合ってみると、自分の立ち位置を探そうとしていたり、生活を安定させようとしていたり、次の進路を見つけようとしていたりします。そんな姿を間近で見続け、通信高校に対する世間の認識を変えていきたいと思うようになりました。しかし、通信制の生徒が胸を張って「通信制高校に通っている」と言える世の中にするには、我々教育業界の人間だけでなんとかできるものではないと痛感していたことも事実です。ドワンゴやKADOKAWAなど、他業界からの新たな力を借りて通信制のイメージを変えていきたいという思いも、N高の校長となったきっかけの一つです。

——現実として、日本で通信制高校に通う生徒は18万人以上いるといわれていますよね。さらに少子化が進む中でも、その数は下降していません。

奥平 これだけ通信制高校に通う子どもがたくさんいるのに、全日制高校に比べて低く見られてしまう。例えば、有名進学校に通っている生徒は「(有名な)○○高校の生徒だ」と胸を張って言うことができる。通信制高校であっても、そうして胸を張って母校をアピールできる状況をつくっていきたいんです。

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奇抜な入学式に、教育業界の反応は?

——先日、一期生となる生徒の入学式がありました。テレビのニュースでも取り上げられ、入学者がHMDを装着した映像が印象的でした。はたから見れば、「奇抜なことをやっている」という印象を持つ人もいるかもしれません。業界内の反応は、いかがですか?

奥平 きっと「こいつらなんやねん!」って思っている人はいるでしょうね(笑)。中には教育論を振りかざして批判したい人もいるかもしれません。でも、そう思っていると同時に、裏では「自分たちにはできない」と感じているはずです。

私たちの気持ちとしては「通信制高校を“つくる”」つもりはさらさらなく、「通信制高校の制度を“使う”」ことで、できることをたくさん提示したい。それを実現できるならば、全日制高校よりも通信制高校のほうがいい、という発想が生まれてきます。「これをやりたいからN高に行く」。そんな子どもがたくさん入学してくる状態にたどり着くのは、まだ先のことかもしれませんが、そうした発想で学校選びをしてもらいたいと思っています。

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——一方で、入学者の学習意欲はいかがでしょうか?

奥平 例えば入学希望者説明会にしても、通信制高校の場合、得てして実際に入学してくる子どもの参加が少ないものです。不登校傾向にある子もいますから、親御さんだけが参加するケースが多い。

しかし、N高の説明会には、子どもたちも積極的に参加してきました。中には「自分のやりたいことは、ここでしか学べない」と親にアピールし、親子同伴で参加したケースも多かったですね。

高卒資格に加え、自由に選択できる「課外授業」

——一般的な通信制高校とN高、大きな違いはどんなところですか?

奥平 一般的な通信制高校は、あくまで「高卒資格を取ること」が中心です。しかし、N高では「高卒資格」の取得は当たり前。それに加えて、「新しい進路・やりたいことを見つけられる学校にしていく」というのが基本スタンスです。課外授業を前面に打ち出しているのも、そうした理由からです。

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課外授業はどのコースも無料で受けることができ、後から選択し直してもOKです。学んでみて自分に向いていないことがわかったら、他のコースに移っても問題ありません。N高で興味のあることを見つけ、より深く学びたいと思えば、専門学校や大学に進学してほしい。それが、本当の進学だと思っているからです。

カリキュラムからもおわかりになると思いますが、私たちは高卒資格を取る勉強と、こうした課外学習をはっきりと線引きしています。前者は学習指導要領に定められた授業をやる場。ここを変えていくことはできませんが、課外学習であれば自由に設計することができます。そのため、課外学習は社会に自分の「居場所」を見つけるために、より将来的で、より実学を意識した学習内容にしています。

——課外授業には、どういったコースがあるんですか?

奥平 人気なのが、ドワンゴのトップエンジニアが教えるプログラミング授業でしょうか。Scala、JavaScriptなどのプログラミング言語で、ニコニコ動画のようなサービスやスマホアプリの開発手法を学ぶことができます。入学者でプログラミングに興味を持っている割合は約6割にも及び、設置しているコースの中でもメインコンテンツといえるかもしれません。

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講師としては、ドワンゴからデザイン戦略室室長の鈴木慎之介、技術コミュニケーション室の戀塚昭彦、さらに特別講師としてRubyの生みの親としても知られる、まつもとゆきひろらが参画しています。

——ほかの課外授業には、どんなコースがありますか?

奥平 KADOKAWAの文芸小説創作授業、ライトノベル参加授業、ファッションやゲームプログラムなどのクリエイティブ授業などがあります。大学進学のための授業も用意しているほか、地方自治体の協力を得て、漁業、農業、伝統工芸、酪農などの職業体験も行っています。

——かなりバリエーションに富んでいますね。

奥平 これ以外のコンテンツも、今後増やしていきたいと考えています。さまざまなコースから、もっと自由に、生徒に選んでもらいたい。苦手なことではなく、やってみたいこと、面白そうだと思うこと、好きなことに取り組んでもらい、自分の道をN高で見つけてほしいですね。

そういう意味からすると、N高は、プラットフォームなんです。多様性ある子どもたちに、全て応えていく。ある意味で、がめつい学校なんです(笑)。

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N高が東大生輩出を目指す狙いとは?

——ところで、N高には東大志望者限定の全寮制塾「N塾」も用意されています。“ビリギャル“の坪田信貴さんが塾長を務める本格的な進学塾ですが、こちらの狙いは?

奥平 通信制高校が世の中に認められない大きな要因の一つは、やはり進学なんですよ。有名進学校もなぜ有名かといえば、東大進学者をたくさん輩出しているから。それが世の中の尺度です。とはいえ、私たちが「進学だけが学校の価値ではない!」と声高に主張したところで、きっと誰も聞いてくれないでしょう。

周囲から「N高っていいよね」と言われるようになるため、「いっそ東大生を出してしまおう」というのが私たちの発想です。もちろん東大を志望する生徒が自分の夢をかなえることが大前提ですが、東大生を輩出することで、N高全体のステージも上げることにつながります。それがやがて「N高から東大に行って就職しよう」という流れを生むことにもなると考えています。

——ほかにも、オンラインゲーム『ドラゴンクエスト』の世界に入って行う「ネット遠足」があったり、サッカーゲームをやる「部活動」があったり……。ユニークなプログラムがまだまだあるようですが、そもそも奥平校長自身、こうした“今どき”な取り組みに抵抗はありませんでしたか?

奥平 テレビゲームを取り入れていることに関しては、抵抗感はまったくありませんね。自分が小さい頃に何をしていたかといえば、例えばビー玉遊び。その遊びと、今彼らがやっている通信型TVゲームと何が違うかといえば、まったく違わないわけです。結局、遊び道具はコミュニケーションのツールにすぎず、時代の流れでビー玉からTVゲームに変わっただけですから。

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教育とインターネットの親和性

——ドワンゴといえば「ニコニコ動画」なんかが真っ先に思い浮かびますし、授業や課外授業もインターネットと関係が深いですよね。奥平校長自身、そうしたいわゆる“ネット界隈”の世界には、どんな印象をお持ちでしたか?

奥平 実のところ、そういう世界には疎かったんですよ(笑)。しかし、今の子どもたちが、そうしたインターネットのコンテンツに夢中になっていることは理解していました。

私たち教育業界の大人たちは、そうした子どもたちが好む領域に、なかなか入っていきたがらない傾向があります。学校がインターネットに介入したり、インターネットを通じて生徒たちがコミュニケーションを取っていたりすることに抵抗を感じているのが常です。これを機に、そうした学校側の認識も変えていきたいと思っています。

——SNSでのいじめ問題なんかを見ていても、どこか「教育×ネット」をタブーに感じている雰囲気は、外から見ていても感じます。

奥平 インターネットは、今の子どもたちに最も影響力を与えているコンテンツだと思っています。それを避けて通ることは絶対にできません。数十年もすれば、インターネットによって世界はさらに変わっていることでしょう。避けて通れないこうした情勢を許容し、教育の世界も挑戦していかないといけないと思っています。

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自分の居場所を見つけられる子どもになってほしい

——最後に、「学校」という場がこれからどのように変わっていくのか、奥平校長のご意見を伺えますか?

奥平 私が小学生の頃の学校といえば、家にはないテレビがあり、実験室には見たこともないような設備が整っていて、まさに「先端を行く場所」でした。でも今、それは逆になっていると思います。学校より家庭のほうが、先端を行っているんです。

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——確かにネットを介せば、自宅でなんでもできてしまいます。

奥平 そうした状況下で、教職員も先端がどんなものかを知らず、結局、学校という場はどんどん遅れを取ってしまっているのが現状なんです。本来の学校が持っているべき「先端を学べる場所」というメリットが失われているのではないでしょうか。N高はもちろん、すべての学校は、これからそれを取り戻さなければならないと思っています。

私には「国際感覚のある人間に」など、子どもたちに小難しい将来像を押しつけるつもりはありません。N高で自分の居場所や生き方を見つけてほしい、ただそれだけです。やがて、そうした子どもたちが社会に出ていくことで、世の中にポジティブな影響を与える人材も徐々に増えていくのではないでしょうか。

TEXT:安田博勇

奥平 博一(おくひら・ひろかず)

N高等学校校長。30年以上教育業界に身を置く。小学校教諭から塾講師、通信制高校までと、その業績は多肢に渡っている。特に17年前より携わる通信制高校の分野では、時代のニーズに合わせた数々の立ち上げを先頭に立って行ってきた。2014年よりN高等学校の立ち上げに参画。