社会変革のリーダーを見いだし支える。 ――投資家・谷家衛氏に聞く「先行き不透明な時代」にどう備えるか

日本社会に現れる変革の旗手たちを次々と見いだし、知恵や資金を提供して企画から組織の立ち上げ、運営までを支える縁の下の力持ちのような投資家がいる。あすかホールディングス株式会社取締役会長の谷家衛氏である。
ネットで保険を販売する先駆けとなったライフネット生命保険、世界から集まった高校生が全寮制で共に学ぶインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)、世界の人権問題に取り組むヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)東京事務所などはその例の一部だ。
一方で、お金のデザインでは、投機マネーが躍る金融市場でも一般投資家が一定の利益を上げられるよう、京都大学と共同でロボット・アドバイザー「THEO(テオ)」を開発。人口減少や円価値の下落など将来の社会変化に備えた国際分散投資を呼びかけている。
かつて辣腕の証券トレーダーとして大活躍した谷家氏に、社会変革を目指す動きにとことん尽力する理由や、先行きが不透明な時代の新しい投資方法などについて伺った。

谷家さん

アジアのハングリーで才能ある子どもたちを日本で学ばせたい

――谷家さんは投資業の傍ら、非営利団体の企画や設立に深く関わってこられました。どういう思いで取り組んでおられるのですか。

谷家 例えばインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)のケースをお話します。私は外資系証券会社でアジアの投資部門のヘッドをしていましたが、そこでは中国人・韓国人・インドネシア人などアジア人の部下がたくさんいました。
当時、日本は市場が大きく人気があったので、日本人である私の場合英語がさほどうまく話せなくても、みんな私の話を熱心に聞いてくれたのですが、アジアの他の国から来ている人たちは、英語が流暢に話せてプレゼンテーションも英語でしっかりできる人でないと、チャンスすら与えられませんでした。
私は、「自分の子どもの世代になれば、世界における日本の市場はどんどん小さくなり、日本人もあの頃の他のアジアの国の人と同じような状況におかれるだろう。そうなると英語でのコミュニケーションができなければ、チャンスは少なくなるだろう」と考え、息子をインターナショナルスクールに入れました。100カ国以上から生徒が来ているとても良い学校で、比較的裕福な家の子どもが多くいました。

しかし、私はベンチャー投資をやっていて、ハングリーで才能のある起業家を多く見るうちに、アジアのそうした子どもたちこそ世界の宝だと思うようになりました。息子がそんな子どもたちと一緒に学べるインターナショナルスクールを探したのですが、日本にはありませんでした。
もし、そんな子どもたちに奨学金を出して日本に迎えて教育の機会を与えてあげることができれば、世界のリーダーになる人が生まれるかもしれない。日本から見ても、彼らが日本のファンになってアジアと日本の架け橋になってくれるかもしれないし、日本の子どもたちにとっても大いに刺激になり、視野も広くなってお互いに切磋琢磨することができるのではないかと思いました。
ただ、ベンチャー投資の経験から所詮誰がやるかに尽きると思い、そんな学校作りに情熱を持って取り組んでくれ、リーダーシップと資質・経験などを兼ね備えた人はいないかと探していました。そんなとき、ライフネット生命保険を起業した岩瀬大輔さん(現・代表取締役社長)から、後にISAK代表理事になる小林りんさんを紹介されたのです。

もともと小林さんはソーシャル・アントレプレナー・ファンド(社会起業家を支援するファンド)を作ろうとしていました。彼女はカナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験があり、国連児童基金(ユニセフ)のプログラム・オフィサーとして、フィリピンでストリート・チルドレンの教育に携わっていました。
私は「実はこんな学校を作る計画を練っているのです。ファンドを作るより学校を作った方がインパクトが大きいし、あなたの希望を達成できるのではないか。子どもたちはいつか母国に戻って改革のリーダーになってくれるはずだ」と、説得し、彼女も共感してくれて引き受けてくれました。今では「私はこれをやるために生まれてきた」とまで言ってくれています。

谷家さん

子どもたちに幸せをもたらす教育の3つのポイント

――ISAKには発起人代表として参加しておられますが、子どもたちの教育で心がけておられることは何でしょうか。

谷家 大切なのは子どもたちが幸せになることです。そのポイントの1つ目は絆があること。家族でも友だちでも地域社会でもいい。人とつながること。これがないと幸せを感じることはできません。
2つ目は成長すること。どんなお金持ちや名声があっても、ピークが過去でそれよりも下がっていると自分で考えている時は幸せだと感じにくい。大成功したビル・ゲイツも経営者の座に執着していたら、もしかしたらピーク後の喪失感、不幸を味わっていたかもしれません。しかし賢明なことに、彼はメリンダ夫人と社会貢献の財団を作り、新しい山に挑戦することで今も成長しています。
3つ目は自分の個性を表現すること。多くの人は社会の基準に合わせて自分を表現しますが、そうではなく人からアウトライヤー(中心から外れた異端者)と思われても、基準に縛られずに自分を思い切り表現できる人が幸せなんだと思います。

恵まれた国で育った自分には活動を支援する責任がある

――ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、差別や難民など人権問題に取り組んでいます。どういう経緯で支援されることになったのですか。

谷家 これも岩瀬さんから弁護士の土井香苗さん(現HRW日本代表)を紹介されたのがきっかけでした。土井さんはアフリカ最貧国のエリトリアで法律作成のボランティアをした経験があり、HRW東京事務所を立ち上げたいという夢を持っていました。 
会うと、情熱にあふれたすごい人でした。人権が守られない国々で命をかけて活動している人たちの話を聞き、恵まれた日本で生まれ育った私には活動を支援する責任があると思ったのです。そこで、私の親友であるマネックス証券CEOの松本大さんに理事会会長になってもらうと同時にお前もやれと言われ、副会長(Vice Chair Person)になりました。

マイノリティのリーダーこそ次世代のリーダーになる素質がある

――LGBT(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダーの頭文字を合わせた性的マイノリティをあらわす呼び方)を支援するNPO法人グッド・エイジング・エールズにも関わっておられますね。

谷家 HRWの活動の中で、ボリス・ディートリッヒさんというオランダ人のLGBT活動家と知り合いました。彼は同性愛者であることをカミングアウトした後、社会派弁護士になり、最高裁判事にも就任。さらに国会議員になって連立野党の党首になり、同性婚を認める法律を成立させました。私が友人の中で最も尊敬する人物の一人です。
LGBTの人たちは既存の基準に合わず、悩んで自殺する率も高いのです。しかし、カミングアウトした後は逆に基準に合わせようがないので、より自分らしい人生を歩む人が多い。マイノリティのリーダーは痛みを乗り越えてきてそれが分かっているから、みんな心優しく且つ強い。私はマイノリティのリーダーこそ次世代のリーダーになるのではないかと思っています。

彼のメールの最後にはいつもこう書いてあります。
「Future is not in front of us. It’s inside of us.」

個性を表現することに一生懸命な若い世代に期待

――社会変革を目指すリーダーたちを励まし育てて来られたわけですが、彼らに続く次の若い世代に一言お願いします。

谷家 今どきの若者は内向きだとか、小粒だとか言う人がいますが、そんなことは決してない。若い世代にはすごい人材がいっぱいいます。自信を持って進んでほしい。昔の高度成長期であれば社会の基準に合わせて生きていればよかったのですが、そういう時代ではなくなってきている。今の若い人は自分の個性を表現することに一生懸命です。起業したり、アートやNPO活動だったり。会社務めしている人も余暇には自分を表現している。世の中は良くなる方向に動いていると思います。
日本でも大企業の経営者になることより、デジタル・アート・クリエーターの猪子寿之さんとか堀江貴文さんのような生き方が尊敬される時代が、もうそこに来ているように思います。

谷家さん

行き過ぎた西洋型資本主義。見直される東洋的価値観

――投資家としての谷家さんは、資本主義が行き過ぎた現状に警鐘を鳴らす一方、日本古来の価値観の大切さについて語っておられます。少し解説していただけますか。

谷家 投資業の私が言うのもなんですが、最近の西洋型資本主義は明らかに行き過ぎています。投資に向かうお金の量が多すぎ、かつ変動するスピードが速すぎるのです。
西洋型では、経済活動の大事なファクターを取り出して、そのファクターの値を改善することで全体を押し上げようとします。例えばROE(株主資本利益率)を改善することで企業価値を向上させるアプローチを取ります。微分型といってよいでしょう。

こうした西洋型資本主義は、発展途上国がある程度のレベルに達するまでは有効ですが、それを続けていくと、そういうレバレッジの効くファクター(資本に対する利益率を高める手法)に強い一部の企業や人と、そうでない人が二極化して、いびつな社会になります。

社会とは、らせん状に上がりながら良くなっていくものです。西洋型資本主義で成長したら、今度は一段と上昇する形で全体を底上げしていく東洋的価値観が見直されていく。私が10年前からヨガの会社(スタジオヨギー)をしたり、「会社や組織」の健康づくりを実現する会社(キャンパスフォーエイチ)を創っているのは、そう考えているからです。

最近、「女神型リーダーシップ」という言葉を語る人がいますが、これも同じ世界観だと思います。
一例ですが、寿司職人は腕を磨き、素材を選び抜き、一生かけて自分なりの寿司を究め続けていきます。大きなチェーン店を作って大きくビジネス展開をすることはしなくても、自分の腕で社会の一員として生きていける。そうやってみんなで社会全体を押し上げていくのが東洋的、女性的、統合的な方向であり、最近のシェアリング・エコノミーも同じ方向と言ってよいでしょう。

自分の個性を120%発揮できる人が成功する

――谷家さんはベンチャーの発掘や育成の実績が豊富ですが、「投資の成否はビジネスモデルよりも、『誰がやるか』にかかっている」と語っておられます。具体的に解説していただけますか。

谷家 起業にあたっては、自分の個性を120%、パッションを持って表現できる人が成功すると思います。もちろんビジネスモデルが、全体としてマクロ的に伸びる方向や、社会が良くなる方向を向いていることは大切です。ライフネット生命を創業した出口治明さん(現・会長)や社長の岩瀬大輔さんは、まさにそういう人たちでした。出口さんに初めてお会いして事業計画についてお話をし、引き受けてもらえないかと打診したときは、その場で快諾していただき、ネットの生命保険ができるなら死んでもいいというほどの気迫を感じました。

シェアリング・エコノミーに希望

――最近、グローバル化の流れに対抗するように、世界中でナショナリズムやポピュリズムが台頭しています。21世紀に求められる理念や精神はどのようなものだとお考えでしょうか。

谷家 私を含め人間は煩悩の塊だと思います。誰もが何か良いことをして地球や社会に貢献したいと考えている一方で、エゴが抑えられないところもたくさんあります。国も同じで、世界の多くの国々が右傾化したり、境界や壁を作ったりする方向に向かっています。
一方、多国籍企業は国境をなくす方向に動きます。またエア・ビー・アンド・ビー(Airbnb)のようなシェアリング・エコノミーの発展にもすごく希望が持てます。エア・ビー・アンド・ビーのおかげで、お互い知らない人同士が信頼し合って宿を貸し借りして、旅行を安く楽しめる世界が実現したのです。

つまり、多国籍企業やシェアリング・エコノミーといった流れと、右傾化する国や政治家という相反する動きがあって、どっちが強くなるのか、せめぎ合っているのが現状です。私は、いろいろな境界をなくして個性を尊重し合い、ダイバーシティを大切にする社会の方が、より多くの人々を幸せにするだろうと思います。数年前に21世紀のキーワードは何かと聞かれ、「愛とリスペクト」と答えましたが、その思いは今も変わりません。

トレーディングも以前なら莫大なシステム投資をした企業や人しかできず、その組織に入ることが絶対的な条件でしたが、今はインターネット上で誰でも簡単にトレーディングに参加できます。民主化されて誰でもどこでも個性を発揮できる時代になっています。

谷家さん

投資の量やスピードと実業のギャップが拡大

――ところで、世界経済は英国のEU離脱や中国の経済成長の減速など長期的な停滞が予想され、不透明感が漂っています。投資家として、世界経済の行方や投資環境をどのようにご覧になっていますか。

谷家 いま世界中で投資目的のお金の量が膨らみスピードが速くなりすぎて、製造業など実業とのギャップがあまりにも大きくなっています。例えば原油価格は1日で5%も上下し、原油を材料としている実業を翻弄しています。欧米でも日本でも、実業の側が投資の大きさやスピードに合わせることは不可能です。

リーマンショック後の対応として、各国は民間の金融のレバレッジを下げて投資を抑制しました。ところが実際には需要までも縮小し、実業は大きな影響を受けてしまいました。そこで今度は各国の中央銀行が金融緩和でレバレッジをかけて支えていますが、日銀もどこまで緩和を続けられるか分かりません。本当に難しい時代になったと思います。

その中でも米国経済が強いのは、産業の新陳代謝が盛んだからです。世界中の国から来た起業家がアメリカで起業し、巨大なベンチャーを創り上げ、ひんぱんに栄枯盛衰を繰り返しています。投資家は、以前は実業のファンダメンタルズ(基礎的な指標)を考えて投資していれば、株価やアセット(資産)価値に相応の結果が得られたのですが、そんな時代は終わりました。
最近は株価やアセットが投資マネーによって先に動き、それによってファンダメンタルズが影響されるというように、原因と結果が逆転しています。どのアセット価格がどう動くかは、お金がどこに動くかによって左右されるので、短期的には読みにくくなっています。

未経験の社会変化に備え、生活を防衛するための「THEO」

――投資家にとってはきつい時代ですね。谷家さんがファウンダーをされている会社「お金のデザイン」では、一般向けの資産運用としてロボ・アドバイザーサービスの「THEO(テオ)」を提供されています。これについて説明していただけますか。

谷家 THEOは当社がアカデミック・アドバイザーを依頼している加藤康之・京都大学大学院特定教授に監修いただいて開発したロボット・アドバイザーです。金融工学やITを駆使するフィンテック(FinTech)の1つで、世界6000種のETF(上場投資信託=株価指数などに連動するように作られ上場されている金融商品)を対象とする国際分散投資をしています。
過去9年間のシミュレーションではリターンが年平均5%と、世界の平均経済成長率4%を上回る成績を上げています。お客様1人ひとりの事情や希望に合わせて最適なポートフォリオを設計し、スマホで10万円から簡単にスタートできる新しいサービスです。手数料もたったの1%と格安ですから、20代、30代の方を中心に選ばれています。THEO(テオ)というネーミングは画家のゴッホを金銭的にも精神的にも支えた弟テオ(画商)の名前から取っています。

これからの100年は今までの100年の延長ではありません。人口減少、超高齢化、円安・インフレなど、これまで経験したことのない社会変化が起きるでしょう。何が起きてもいいように生活や資産を守るには、リスクを分散することが大事。これまで当たり前だった円預金だけでなく、世界の株式・債券・実物資産などに国際分散投資を行うことが大切な時代になっています。

谷家さん

投資をしないことがリスクになる時代

――確かに日本では若い世代ほど人生の先行きに不安を感じています。毎月十分な預金ができるほど給料に余裕はなく、年金支給開始年齢も上がっていきます。そういった将来に不安を感じている人たちに向けた投資手段だということですね。

谷家 そうです。今の若者が22歳で就職して、ずっとコツコツ円預金して40年経ったときに、円の価値が下がって思ったほどの購買力がなかったという事態は十分に起こりうる話です。
アジアの人は、もともと自国通貨を信用していないので、お金をグロ-バルな金融商品に替えて生活を守ろうと考えます。しかし日本、とくに比較的お金を持っている中高年の間では、円に対する絶対的な信頼が続いています。
一方で、若い世代は投資をすることがリスクなのではなく、逆に投資をしないことがリスクになることを敏感に感じています。将来のお金の不安を希望に替え、自分らしく挑戦していくためにも、これからは世界に資産を分散し、世界経済の成長を資産形成に取り入れるのが、新常識になっていくでしょう。

TEXT:木代泰之

谷家 衛 たにや・まもる  
あすかホールディングス株式会社 取締役会長/株式会社お金のデザイン 取締役会長

1962年、神戸市生まれ。1987年、東京大学法学部卒。 1987年、ソロモン・ブラザーズに入社。早くからトレーダーとしての才覚を発揮。アジア最年少のマネージング・ディレクターに就任し、日本及びアジアの投資部門を統括。チューダー・キャピタル・ジャパンに創設中心メンバーとして参加後、同社のMBO(マネジメント・バイアウト)により、あすかアセットマネジメントを設立して日本における有数の独立系オルタナティブ運用会社に育て上げた。その後、社会にインパクトを与えるような投資をする会社として、あすかホールディングスを設立。2013年、お金のデザインを設立。現在に至る。 創業支援としては、日本初のオンライン生命保険であるライフネット生命の立ち上げや、いち早くヨガに注目してその普及に貢献したスタジオヨギーなどがある。NPO、NGOとしては、日本初全寮制のインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)を着想し、発起人代表として学校開設へのプロジェクトを進めると同時に、ヒューマン・ライツ・ウォッチの東京委員会理事会副会長(Vice Chair Person)も務める。一般財団法人日本再建イニシアティブ(RJIF) 理事。