【村山斉氏インタビュー】「宇宙の根源的な謎」に迫る唯一無二の研究機関とは?

カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は、数学・物理学・天文学という異分野にまたがった科学者が集まる、世界でも類を見ない研究機関だ。2007年10月、文部科学省が推し進める「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」に認定されて数物連携宇宙研究機構(IPMU)として発足し、2012年にはKavli Foundation(カブリ財団)の寄付金をもとに米国に基金が設立され、その助成を受けるかたちで現在の名前に改称された。WPIプログラムは10年間の期限付きプログラムだったが、Kavli IPMUは5年間の支援延長が決まり、2017年以降も国の支援を受けながら研究を継続していく。

今回、著書『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)で知られる機構長・村山斉氏に、「宇宙の根源的な謎を解く」という壮大なビジョンを描く同機関の宇宙研究の現状、機構長としての役割などについて話を伺った。

宇宙の起源は、素粒子を調べなければわからない

――村山さんはもともと、素粒子物理学を専門とされています。宇宙研究の世界には、どのような経緯で携わることになったのでしょうか?

村山 幼少期まで遡れば、研究員だった父の影響が大きいかもしれません。当時、父は自分の疑問に可能な限り答えてくれ、それでも不十分であれば本を買い与えてくれました。そんな父のおかげで、幼いころから「なぜ」を自分なりに突き詰めるようになり、やがて、その疑問が最も小さな素粒子にたどり着きました。その後、東京大学大学院理学系研究科で素粒子理論を研究していましたが、当時は物質の最小単位である素粒子と大きな宇宙というものが表裏一体であることが、次第に判明してきた時期でした。素粒子のことを知りたければ、宇宙のことを調べないとわからない。反対に、宇宙の起源を知りたかったら、素粒子のことを調べないとわからない——。素粒子が広大な宇宙を形成しているという繋がりを知った時、宇宙への興味が生まれました。

――現在、宇宙にまつわる疑問は、どこまで解明されてきているのでしょうか?

村山 例えば、正体不明の「ダークマター」「ダークエネルギー」の存在を解明しよう、という動きがあります。「ダークマター」というのは、宇宙の成り立ちに大きく寄与しているもので、ダークマターに密度差が生じ、そこで起こる重力で、さらにダークマターが引き寄せられる。そうした現象によって星や銀河が形成され、我々人類も誕生しました。

村山さん

――ダークエネルギーとは?

村山 ダークマターと同様に、“仮想的”なエネルギーと考えられているのが「ダークエネルギー」です。ビックバン理論はご存じですよね? 138億年前に起こった大爆発と急速な膨張によって宇宙が生まれた、とする理論です。宇宙空間の物質は互いの重力で引っ張り合いますから、ブレーキがかかったような状態になる。よって、いずれ宇宙の膨張は減速していく——と長らく考えられてきました。

しかし、どうやら宇宙は「加速膨張」していることが、最近になってわかってきた。この膨張を拡大させている力が、「ダークエネルギー」だと考えられています。

Kavli IPMUが迫る5つの疑問とは?

――いずれも存在自体が「ダーク」。宇宙は、まだまだ未解明な部分が多いということですか?

村山 はい。人類によって観測されている物質は、宇宙を構成する物質の約5%にすぎず、残り95%近くは「ダークマター」と「ダークエネルギー」です。

つまり、最近になってやっと「わからないことがわかってきた」。例えるならば、これは「コペルニクス以来の大革命」なんです。「自分たちが宇宙の中心(天動説)」と思っていたものが、あるとき「太陽を中心に自分たちが回っている(地動説)」に格下げされたのと同様に、「万物は原子でできているんだ」と思っていたものが格下げされたんですね。

――現在はKavli IPMUの機構長として「宇宙に関する根源的な疑問に迫る基礎研究」に従事されていますが、そのようなことが研究の対象となっているのでしょうか?

村山さん

村山 宇宙にまつわる未解明の疑問は、まだまだあります。こうした“わからないことをわかるようにしよう”というのが、Kavli IPMUの目的です。これをもっとわかりやすい言葉に言い換えるならば、次の5つの疑問に集約されると思っています。

・宇宙は、どうやって始まったのか?
・宇宙は、何でできているのか?
・宇宙は、これからどうなるのか?
・宇宙は、どのような法則で動いているのか?
・私たちは、なぜ宇宙に存在するのか?

 

――こうした疑問の解明に向け、Kavli IPMUでは、どんなアプローチをとっているのでしょうか?

村山 例えば、XMASS(エックスマス)という実験があります。スーパーカミオカンデがニュートリノをつかまえることに成功したように、地下深くに潜り、“キセノン”という液体を詰めた検出器でダークマターをとらえようとする実験です。どんなに運がよかったとしても、1年に1個か2個つかまえるのがせいぜいなので、いわば「鳴くまで待とう」の徳川家康的な実験です。一方で、それでは我慢できないため、「鳴かせてみよう」の豊臣秀吉的な実験として、LHCという粒子加速器を用い、暗黒エネルギーを実験室で作り出そうという試みもあります。

つまり、
・観測技術の発展
・データを解析するためのコンピューターの進歩
・データを理解するための理論

この3つが同じフェーズに揃ったときに、初めて新たな発見があると思います。

さらに、「SuMIReプロジェクト」。こちらは“宇宙の国勢調査”と呼んでいますが、1つ1つの銀河ではなく、全体の傾向を見てみようというものです。ハワイにある「すばる望遠鏡」の最先端観測技術を通して、ダークマターやダークエネルギーの正体を究明しています。

村山さん

――2016年の宇宙研究のトピックでは、2月にアメリカの研究チームが重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)で「重力波」の観測に成功したことが挙げられます。この発見には、どんな意味があるのでしょうか?

村山 重力波は、いわば「宇宙空間のさざ波」です。2つのブラックホールがぐるぐる回って、空間を揺すったことで発生したもので、それが何十億年もたった今、かすかな信号として地球上で観測されました。昔は望遠鏡で可視光でしか観測できなかったものが、デジタル化によって詳しいものが観測できるようになりました。さらに、赤外線を使えば、銀河の中心も見られるようになります。そんなふうに“今まで見えなかったものが見える”ようになっているというわけです。

村山さん

重力波の観測は偉業であることに間違いありませんが、それ以上に、研究者の関心は重力波を使って「次に何を見つけられるか」に注がれています。今後観測を続けていけば、これまで想像もつかなかったような、新しい天体が見つかるのかもしれません。

――日本でも神岡鉱山内にKAGRA(大型低温重力波望遠鏡)を建設しました。この「重力波観測」は、日本の研究者にとって何を意味するのでしょうか?

村山 今回、アメリカの観測所で重力波がとらえられたわけですが、1カ所だけでは、まだどこから来たのかがわからない状態です。幸い、アメリカのほかにも、ヨーロッパ、そして日本で重力波を観測できるようになりますから、3カ所で観測可能になれば「この重力波は、どこから来たのか」という詳しい観測ができるようになります。

いわば重力波の観測は、世界の研究チームが手を組まざるを得ない研究であり、アメリカやヨーロッパの研究チームと日本が連携していくことは、自然な流れとなるでしょう。

研究者とは異なる、Kavli IPMU機構長としての役割

――そもそも村山さんはIPMU機構長に招聘された当時、カリフォルニア大学バークレー校に籍を置かれていましたよね(1993年からアメリカに在住)。国家プロジェクトの責任者としてお呼びがかかったわけですが、そのときのお気持ちは?

村山 IPMU発足にあたって、東大の関係者から拠点長(要するに文科省に提案書を出す人)になってほしいと頼まれたのですが、そのときはいったん丁重にお断りしたんです。WPIができたこと自体知りませんでしたし、なにしろアメリカでの生活はとてもハッピー。そんな管理職みたいなことは、正直やりたくないと思いました(笑)。

ただ、政府の「日本のサイエンス研究を、世界に見えるかたちにしたい」という部分に共鳴するところはあり、結果的にはその任を受けることにしました。なにしろ日本国内で優秀な論文が出てきても、海外の研究者は誰の論文かではなく、「Japanese paper」と呼び、何でも一緒くたにしてしまうような傾向がありましたから。さらに言えば、学問に国や人種、国籍などの境界はないにも関わらず、日本の研究所の研究者はほとんどが日本人ですから、真の「国際化」の必要性を感じていたという理由もあります。

村山さん

それに、現在のKavli IPMUの特徴である、「数学・理論物理・実験物理・天文という学問が同じ場所に集まって宇宙の謎に挑む」という研究自体は、かねてより必要だと思っていました。世の中に共同研究はあっても、リアルな場で集まって研究しようとしているのは、世界中どこを探してもここだけ。宇宙の研究といえば天文学というイメージが強いと思いますが、先ほど申し上げたように「素粒子」の研究とも密接につながっているし、理論をつくっていくときには数学の力も必要になってきます。事実、東大だけを見ても数学の研究者は駒場、物理の研究者は本郷と、研究機関がばらばらです。

――Kavli IPMUでは、各分野の研究者が、どのような形式で異分野交流しているのでしょう?

村山 毎日午後3時にティータイムがあり、1カ所に集まってコミュニケーションを図っています。参加は全研究員に唯一課せられた義務です。実際に領域の異なる各研究者の知見から、意外な成果が生まれたこともありました。

村山さん

――そうした研究者集団の取りまとめや機関の運営など、機構長は一種の「経営者」のような立場でもあります。この10年間を振り返って、機構長のお仕事はいかがでしたか?

村山 私の大事な役割の1つに、広報活動があります。ここはこれまでにない新しいタイプの研究所なので、世界中を行脚して宣伝に駆けずり回ってきました。一旦、参画してくれると意思を示す研究者がいても、本当に来てもらうまでは諸々の条件を提示し、熱心に口説かなければ日本には来てもらえません。

また、文科省から支援を受けていますが、研究そのものに使用することは許されておらず、あくまで組織をつくるための人件費です。なので、研究に使う資金も集めなければならない。ただ幸いにして2012年、アメリカのKavli Foundation(カブリ財団)から寄付を受けることになりました。こうした資金が安定した研究の収入源です。日本は税制上の優遇も少なく、寄付文化がなかなか根づいていないのですが、国内でもそのための行脚はしていますよ。

「人や資金を集めること」。いわば経営者のような仕事が、機構長としての私の重要な役割です。例えるなら、自分は「中小企業の社長」で、政府は「ベンチャーキャピタル」のようなイメージでしょうか。

村山さん

――一方で『宇宙は何でできているのか』といったベストセラーがあるように、村山さん自身「わかりやすく宇宙を伝える」ということをポリシーにされていると感じます。

村山 Kavli IPMUは、国の税金で支援いただいている機関です。研究者の義務として、研究の成果を国民に返す必要があります。だからこそ、メディアを通して皆さんに私たちの研究を知っていただきたいという意識を持っています。アメリカなんかはそういう意識がもともと強い国なので、私自身は当たり前のことだと考えています。面白い研究をやっていることを知ってもらえれば、賛同し資金も集まってくるかもしれませんし(笑)。

もう1つの理由は、楽しい研究の成果を、皆さんと共有したいからです。面白い映画を見たら、その感動を友人に話して共有したくなりますよね。それと同じですよ。

基礎研究が社会に役立つ日は来るのか?

――イノベーションに直結しやすい工学領域と違い、村山さんたちの基礎研究は「社会に役立つものを生み出す」という点で、なかなか一般の理解を得られにくいように思います。

村山 正直、何に役立つかは自分でもわかりませんが、何かが生まれると確信を持って日々研究をしています。そもそも、基礎研究とはそういうもので、歴史的に見ても革新的な発見は基礎研究から生まれていることは事実です。

村山さん

例えば、リニアモーターカーには「超伝導」という現象(金属が一定温度を下回ったときに、電気抵抗がゼロになる現象)が利用されています。病院にあるMRIなんかにも使われていますよね。超伝導は今から100年ほど前、オンネスという物理学者が発見しましたが、彼は「低温物理学」という分野の研究者で、「どんどん冷やしたら何が起こるか」を研究し続け、そうこうしているうちに「冷やし続けると抵抗がなくなる」という事実にたどり着いたんです。

――オンネスがリニアモーターカーを思い描いて超伝導を発見したわけではないように、基礎研究は後々、人の役に立つ成果につながることがあると?

村山 目指していた成果とは全然違うものの、“見つかっちゃった”。基礎科学では、そうしたことが起こり得ます。「これができるはず」というゴールを定めて行う技術開発と決定的に異なる点は、そこにあります。

「何が生まれるかわからないけれど、とんでもないものが生まれることがある」。基礎研究がなければ、人類は絶対に進歩してこられなかったはずです。

――最後に、Kavli IPMUの今後の展望についてお聞かせください。

村山 細かな目標を挙げればきりがないのですが、例えば、拠点長として提案書を策定したときから、数学・天文・物理のほかに「統計学」の世界との融合を考えていました。宇宙研究の分野でもビッグデータやAIの領域は決して無関係ではなく、ビッグデータなどを活用した統計の新しい手法も考えていきたいです。あとは、次世代の研究者を育てていくこと。現状ここで学位を与えることができないため、正式に大学院生をとれる体制も整えていきたいです。

いずれにせよ、この10年間を振り返ると、当初から文科省で掲げている「世界に見える成果」を出すことは実現できたと自負しています。いわば、「ワールドクラス」の研究所になれました。これから5年間の目標は、次の段階として「ワールドリーディング」な研究所になることです。なんでも競争に勝てばいい、ということではありませんが、世界をリードしていける、そんな研究所にしていきたいですね。

TEXT:安田博勇

村山斉(むらやま ひとし)

数物連携宇宙研究機構の初代機構長。素粒子理論におけるリーダーの一人であると共に、基礎科学分野における若き指導者の一人でもある。 1991年に東京大学で博士の学位取得後、1993年以来アメリカ在住。2008年1月に帰国、機構長着任。