日本企業は今、ビッグデータやクラウドを、どう活用すべきなのか。2013年10月7日、都内で開催された日本IBMのイベント「THINK Forum Japan 2013」にて、「スマートな時代の競争優位とリーダーシップ」「先進テクノロジーによる新たな価値の創出」をテーマに、2つのパネルディスカッションが行われた。

日本人よ、クラウドの発想法を持て
(パネルディスカッション1:スマートな時代の競争優位とリーダーシップ)

前半のパネルディスカッションのモデレーターは、ハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高氏。パネリストには、パナソニック株式会社代表取締役社長の津賀一宏氏、NKSJホールディングス株式会社ならびに株式会社損害保険ジャパン代表取締役社長の櫻田謙悟氏を迎え、IBMコーポレーション会長・社長兼最高経営責任者のジニー・ロメッティ氏も熱い議論に加わった。

データを活用するために、必要なのは「勇気」だ

「今まで通りのやり方でパナソニックを考えていると、どんどんダメになる」と、パナソニック代表取締役社長の津賀一宏氏は開口一番言った。同社は今年、ブランドのスローガンを、「Panasonic ideas for life」から「A Better Life, A Better World」に変えた。競争優位を勝ち取る覚悟が、この新スローガンにこめられている。

「これまでのブランドスローガン、<ideas for life>は、マスを意識しているのに対して、新スローガン<A Better Life, A Better World>は、ひとりひとりが違った世界を持つことを前提としている。この転換は大きい」

パナソニックはもうすぐ創業100年。同社の特徴として津賀氏が指摘する「家電会社としてのDNA」が、新スローガンが提唱する、お客様ひとりひとりの価値創出において、いかにプラスに発揮されるかに今後の発展がかかっている。

「世の中はどんどん変化する。うまくいっている事業とそうでない事業との違いを決定するのは、社内だけの情報で回っているのか、外の情報と共に動いているのか、その差にある」と津賀氏は言う。企業の意思決定においてもクラウドの発想が求められる。だが「クラウド」を阻む要因は、意外なところにあった。

「惜しいところまでいったのに、どうして届かなかったのか、という話になると、あと一歩の勇気がなかった、ということが多い」データは手に届くところにある。「日本人はもっと勇気を持たないと。最後の決め手は、勇気なんです」。

人とデータが相乗効果を生む時代

「サービスそのものを再定義しないと、生き残れない時代になった」NKSJホールディングス株式会社ならびに損害保険ジャパン代表取締役社長の櫻田謙悟氏は、少子化や高齢化がもたらす課題に面している。

「損保業界が取り組むべき分野は、サービスでなくてはならない。けれど、これまで価格競争を回避したいこともあって、業界全体では、本当にお客様の声を聞くことには慣れていなかったのではないか。保険業界として企業の枠を超えて、情報を共有するようなインフラができれば、ビッグデータの活用も大いに期待できる」

一方で、データを活用すればするほど、パーソナルな情報源がますます重要になってくると櫻田氏は予測する。「お客様は、欲しいものを、欲しい時に、欲しいだけ、欲しい。だから、これからはより、ひとりひとりを見ていかなければならない。その際、お客様が何を求めているのか、どんな環境、状況にあるのか、それを一番わかることができるのは人間である。だからこそ、システムでできることは徹底的にシステムで自動化し、人は人にしかできないことに徹することが、これからの鍵となる」

ビッグデータをいかにイノベーションにつなげるか
(パネルディスカッション2:先進テクノロジーによる新たな価値の創出)

後半のディスカッションは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の石倉洋子氏がモデレーターになり、パネリストとして経済産業省大臣官房審議官(IT戦略担当)山田真貴子氏、株式会社本田技術研究所取締役専務執行役員新井康久氏を迎えた。米国のIBMコーポレーションのグローバル・テクノロジー・サービスのシニア・バイス・プレジデント、エリック・クレメンティ氏も議論に加わった。

パネルディスカッション2

データの質が以前とは違ってきた

「日本企業がデータを活用してこなかったかというと、そうではなくて、1980年代から活用している」と前置きし、経済産業省大臣官房審議官、山田真貴子氏は指摘した。
「今のデータは、かつてのデータとは性質が違っている。このことを認識し、それをどう安心してビジネスに活用していただくか、ということはとても重要であると考えている」

また、今はデータに対する感覚も、以前とは違う。「構造化されていないデータ、たとえばソーシャルネットワークのデータや、スマートフォンのデータなど、ものすごい勢いで毎日データが増えている状況である。これはナチュラルデータとも呼べるもので、見方を変えれば、私たち自身がデータのジェネレーターとして、パーソナルなデータを日々創出している。時代にあった形で、支援していきたいと思っている」

シナリオライティングの能力が求められる

「自動車メーカーは、まだビッグデータの波に乗り切れていない」――本田技術研究所取締役専務執行役員として、研究開発の指揮を執る新井康久氏の実感である。
ただ、活かすためのデータはすでに存在しており、データを活かすことで新ビジネスへの糸口を見つけることができるのではと考えている。

「たとえば、バッテリーはビッグデータの宝庫であり、バッテリーに関するデータ解析を始めている。使用状況の現状をいち早くつかんで、どのような状態で車が使われているのかがわかれば、そこから生まれるビジネスも絶対にある」

現場のエンジニアを率いる新井氏は「風が吹けば桶屋がもうかる、という図式はビッグデータで見つけることができる。なぜ風が吹いたら桶屋がもうかるのか、「風」と「桶屋」までの間の因果関係をひとつひとつ見つけていく作業は、エンジニアの仕事に似ているが、ビッグデータの解析は「風」と「桶屋」の相関を見出すもので因果関係とは違う」という。「暗黙知やハイコンテクストでのものづくりに長けた日本人は、ビッグデータを扱うことは性格的には得意のはず。早く因果関係の解明から卒業し、次のステップであるイノベーションに行きたい」

バッテリー情報の収集を通じて、すでにビッグデータを扱い始めている新井氏であるが、「大事なのは、シナリオライティングの力」であると感じている。「山ほどあるナチュラルリソースを、自分たちの仕事に結びつけてストーリーを描く力が、これからの仕事の現場で、最も必要な能力になると確信している」

※登壇者の所属組織、お役職は2013年10月7日時点のものです

text:野田香里