宇宙で太陽光発電を行い、マイクロ波で地球に送る ――京大・篠原教授が挑むワイヤレス給電の近未来

人類が1万年、10万年先も生き延びるために、夜の来ない宇宙で天候や昼夜に左右されず太陽光発電をする――そんな壮大な計画に挑戦している学者がいる。京都大学生存圏研究所の教授で、経済産業省委託事業太陽光発電無線送受電技術委員会委員長も務める篠原真毅氏だ。
篠原教授が挑戦しているのは、宇宙に太陽光発電衛星(SPS=Solar Power Satellite)を打ち上げ、発電した電気をマイクロ波に変換し地上に伝送して利用するというもの。衛星1基あたりの発電規模は原発1基に相当する100万kWで、そのパネルの大きさは2km四方というから、ゴルフ場がすっぽり入るような巨大な太陽電池を宇宙に浮かべることになる。
計画の根幹になるマイクロ波電力伝送技術は、篠原教授らがすでに確立済みだ。他の技術も巨大さゆえのさまざまな課題はあるものの、基本はクリアできている。経済産業省やJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、2045~50年ごろの実用化を目標にしている。
一方、このマイクロ波電力伝送の技術は、地上でもIoT時代の「ワイヤレス給電」の手段として注目を集めている。スマホの充電、機械やインフラに取り付けるセンサーへの給電など、用途は幅広い。
「エジソンが電球を発明して以来ずっと使われてきたコンセントやケーブルは、やがて私たちの家庭でも不要になる時代がやって来る」という篠原教授に、壮大な宇宙太陽光発電からワイヤレス給電までの将来展望について伺った。

日本上空の静止軌道で発電し、電気はマイクロ波で地上へ

――まず、SPS(太陽光発電衛星)の基本的な仕組みを、分かりやすく解説していただけますか。

篠原 SPSは気象衛星などと同じように地球からロケットで打ち上げ、約3万6000km上空の静止軌道にとどまって発電します。地上のメガソーラーより大きい2km四方の大きさの太陽電池が宇宙空間に浮かんでいるだけのことで、太陽光発電という意味ではとくに目新しいものではありません。ただ、宇宙と地上を電線でつないで電気を送ることはできないので、代わりに電波(マイクロ波)で送ろうという話です。
衛星1基あたり100万kWを想定しており、2km四方の太陽電池が必要になります。発電した電気は、電子レンジでおなじみのマグネトロン(磁電管)や半導体でマイクロ波に変換し、送電アンテナ(フェーズドアレイ、直径2km)から地上の受電アンテナ(レクテナ、同2.5km)に送電します。

受電したマイクロ波は再び直流電気に変換され、電力会社の系統線につなぎます。受電アンテナの面積はゴルフ場ぐらいの広さで、米国では砂漠を検討していましたが、土地の少ない日本ではシステム図にあるように海上に建設することが有力な選択肢になります。

宇宙太陽光発電のシステム図

宇宙太陽光発電のシステム図

雨や雲に影響されず昼夜の別なく発電。効率は地上の5~10倍

――仕組みは分かりましたが、地上のメガソーラーと比較した場合、SPSはどこが優れているのでしょうか。

篠原 静止軌道にあるSPSは地球の地軸が23.4度傾いている関係で、ほとんど地球の影(=夜)に入らず、24時間昼夜の別なく直射日光を浴び春分秋分の夜間を除き発電できます。しかもマイクロ波は天候に関係なく地上に届きます。この点、地上ソーラーは昼間しか発電できず、しかも雲や雨の影響を受けるので、日本で発電できる時間は平均してせいぜい1日の14~15%程度です。結局、総発電量(kWh)はSPSのほうが地上ソーラーの5~10倍も高い。
また、SPSは無線で電気を送るため、さまざまな場所に状況に応じて電力の送り先を変えることもできます。

耐用年数については、地上ソーラーは空気中のホコリなどが表面ガラスに着いて発電効率が落ちますが、宇宙は空気がないので汚れません。その代り太陽電池そのものに宇宙放射線や宇宙ゴミ(スペースデブリ)が当たり、少しずつ性能が劣化します。それでも平均寿命は約30年は可能と考えられ、地上ソーラーの法定耐用年数17年の倍近く長く稼働できるはずです。

いま電力会社は、悪天候などで地上ソーラーが稼働しない事態でも停電が起こらないように、バックアップ用の発電所を余分に抱えています。2014年、九州電力が太陽光発電の固定価格買い取りを拒否して、「九電ショック」を起こしたことはその帰結でした。
こう考えると、SPSは太陽電池の能力を完全に利用できるシステムで、将来の持続可能な再生可能エネルギーとして、魅力があることが理解してもらえると思います。

篠原さん

巨大なパネルをどう宇宙空間に展開し、維持するか

――それにしても、宇宙空間にこれだけ大きな構造物を運び込んで建設するのは並大抵ではないと思います。どのように実現するのでしょうか。

篠原 現在のロケットが1回当たり宇宙に打ち上げることができる荷物は約10トンです。SPSは技術革新を想定しても設計では総重量が1万トンぐらいですから、1000回の打ち上げが必要になる計算ですが、この先、ロケットを大型化すれば、回数はぐんと減らせます。

太陽電池は人間が出向いて建設することが考えられますが、日本での議論はパネルを折り畳んで持って行って自動展開したり、ロボットを活用したりする案が有力です。
注意すべきは宇宙空間に漂う宇宙ゴミです。これは衛星やロケットなどの破片で、静止軌道周辺にも大小さまざまなゴミが秒速7~8kmの猛スピードで周回しています。わずか1mmの宇宙ゴミでも太陽電池に穴をあけてしまいますが、もし穴があいても、他の部分が連動して機能し続ける構造になっています。

ただ、長い間使っているとやがて穴だらけになり、どこかの時点で故障するでしょう。
その時は人間が宇宙空間に行って補修することが考えられます。驚かれるかもしれませんが、宇宙にも人間が住んで活動できるようにするというのが、京大生存圏研究所の重要なテーマの1つなのです。

高度マイクロ波無線電力伝送用フェーズドアレー(左)と、受電レクテナシステム(右)の実験設備 (京都大学生存圏研究所 高度マイクロ波エネルギー伝送実験棟)

高度マイクロ波無線電力伝送用フェーズドアレー(左)と、受電レクテナシステム(右)の実験設備 (京都大学生存圏研究所 高度マイクロ波エネルギー伝送実験棟)

「マイクロ波を浴びると焼き鳥になる」は全くの誤解

――宇宙にSPSを何基ぐらい打ち上げることを想定されているのでしょうか。

篠原 数は多いほどよいのですが、静止軌道上は各種の衛星でとても込み合っており、場所が足りません。気象衛星や放送衛星なども太陽発電パネルを持っているので、これらの衛星をSPSと合体するというアイデアもあります。またエネルギー源は多様性があったほうが結局安定しますので、何とか10基ぐらいと思っています。

――宇宙からマイクロ波で電力伝送する際に気になるのは、人間を始めとした生物や、航空機、電子機器などへの安全性ですが、影響はないのでしょうか。

篠原 よく「鳥がマイクロ波の中を飛ぶと焼き鳥になる」といわれますが、そんなことにはなりません。SPSから伝送するマイクロ波のエネルギー量は100万kWと多いのですが、地上では約2.5kmの範囲に広がって降りてくるため、今の設計でのマイクロ波密度は一番強い受電アンテナの中心でも太陽光と同じ程度、受電アンテナの端に行くほどマイクロ波密度は弱くなります。マイクロ波の安全性はマイクロ波密度で決められており、SPSの設計のマイクロ波密度ではとても焼き鳥なんかなりません。よほど長時間とどまらなければ大丈夫というレベルです。

とはいえ、マイクロ波が地上の目標と違う所に届くようなことがあっては、太陽光発電の目的が果たせません。万が一にもこうしたことがないよう、送電アンテナを正確に制御する技術を開発しています。

発電コストは8.5円、原子力や火力発電に十分対抗可能

――国民が知りたいのは、安全性の他には、やはりSPSの経済性や、発電コストがいったいいくらになるかだと思います。他の発電方法との比較など、計算はどのようになっているのでしょうか。

篠原 これはJAXAなどが試算していますが、100万kWのSPS1基の建設費用は衛星本体と地上装置を合わせて約1兆2436億円という数字が出ています。内訳はSPS本体が7950億円、地上の受信システム1714億円、打ち上げ輸送費は2772億円と見積もっています。寿命は30年間とし、運営・保守・修繕費なども含んでいます。
これによる発電コストは8.5円/kWhという数字になります。あくまで現在価格との比較ですが、他の発電方式に十分対抗できる価格水準です。

また温暖化対策のCO2削減効果ですが、SPSを生産・建設するにはCO2が11~20g/kWh出ますが、経常運転中はずっとゼロ。これは数百グラムから1000グラム程度を出すLNGや石油、石炭火力と比べて大きな利点です。

産業波及効果や雇用創出については、SPSを20基、30年間運用するという条件で試算があります。SPSの建設・メンテナンス・売電の合計で、経済波及効果は183兆円、雇用者数は延べ793万人と出ました。宇宙発電という新しい産業分野が誕生することになります。

篠原さん

マイクロ波のビームの方向は0.001度の角度で制御

――先生は、SPSは巨大システムであるためにさまざまな技術的課題があるとおっしゃっています。どの辺りに難しさがあり、工夫が必要とお考えですか。

篠原 何しろ巨大なので、費用がかかります。打ち上げ用のロケットは先ほど述べたように大型化などの効率アップを図らないといけません。2km四方もある太陽電池は人間が宇宙に行って建設するのが良いのですが、日本には有人飛行計画がないので、代わりに得意技のロボット技術などを活用して発電パネルを自動展開する方法になる可能性が高いです。

発電した電気をマイクロ波に変換するには、従来はマグネトロンを使う案でしたが、最近は高性能の半導体で変換する案が候補にあがっています。
地上の直径2.5kmの受電アンテナは、海上に造る場合、すでに関西空港などの浮体工法で十分な実績があり、問題はありません。
マイクロ波のビームを約3万6000kmの彼方から受電アンテナに正確に当てるには角度にして0.001度以下の制御が要求されます。受電のデータを絶えず宇宙の衛星に伝え、送電アンテナの発信方向を精密にコントロールする必要があります。

宇宙開発に挑戦する米ベンチャー経営者たちに注目

――海外はどのようにSPSに取り組んでいるのでしょうか。動向をお聞かせください。

篠原 SPSは、1968年に米国のピーター・グレイザー博士が基本的なアイデアを簡単な計算とともに科学学術誌『Science』に発表したのが始まりです。当時の米国は月面着陸に挑戦するなど宇宙開発に熱心だったので、その一環として考案したのでしょう。米国はその後、十数年に1度位で大きな予算を付け、石油に代わる再生エネルギー源として研究を後押ししてきました。

いま私が注目しているのは、米国のベンチャー企業の創業者たちが宇宙開発に情熱を燃やしていることです。例えば、テスラ・モーターズの創業者イーロン・マスクは、スペースX社を設立して宇宙輸送用のロケット製造開発に取り組んでいます。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、低価格の宇宙旅行を実現するためブルーオリジン社を立ち上げました。米国の経済人は宇宙の夢を語り、お金もつぎ込む――実にいいなぁと思います。

日本では、私の教官だった松本紘・京大教授(現・理化学研究所理事長)が日本で最初にマイクロ波による電力伝送技術に取り組みました。私は、人類存続のために夢を現実に変えていこうとする先生の壮大なプロジェクトに心惹かれて、松本研究室への入室を志願しました。しかし当時松本先生のご専門はプラズマ物理学であったので、マイクロ波回路の開発は始めたばかりでした。そのため部品の購入先1つにしても自分で電話帳から探し、店にバイクで駆け付けて突然「申し訳ありませんが、大学なので代金は後日銀行振り込みにさせていただけませんか」と交渉するなど、無謀なことをやっていました。そして、1992年に松本先生らのグループが実施したマイクロ波で飛ぶ飛行機の実証実験に、大学院生だった私も参加させてもらいました。
今、この分野は日本が一番多く予算を付けているので、このまま先頭を走り続けたいと思っています。

篠原さん

被災地にはドローンからマイクロ波を送電して、連絡網を立ち上げる

――先生は宇宙発電だけでなく、地上でのワイヤレス給電(コンセントやケーブルなしの給電)の専門家でもあります。どんな分野で利用が可能なのか、予想される未来図を語っていただけますか。

篠原 SPSはまだ先のことなので、現在のテーマとしては、この技術を使ったIoT時代のワイヤレス給電技術を確立することを目指しています。
1例として、マイクロ波による携帯電話のワイヤレス充電が挙げられます。部屋にマイクロ波のビーム空間を作り、受電アンテナを埋め込んだ携帯端末をポケットに入れておけば、気づかないうちに充電できるといった使い方です。レストランやショッピングセンターがマイクロ波スポットを設け、お客さんに携帯の充電サービスを提供すると集客効果もあるかと思います。アメリカでは複数のベンチャーが携帯電話のマイクロ波充電器を開発しており、先日iPhone8にそのうちの1つが実装されるかも、といううわさがネットに流れました。
同じマイクロ波送電の技術を使うと電動自転車を無線充電することもできます。写真は、京都大学で現在取り組んでいるCenter of Innovation(COI)という研究プロジェクトで開発した電動自転車無線充電システムです。

マイクロ波を使う電動車両向け無線送電システム (京都大学生存圏研究所)

マイクロ波を使う電動車両向け無線送電システム (京都大学生存圏研究所)

また、飛行船を利用して電気が途絶えた災害地の上空にバッテリーを積んで行き、マイクロ波で地上に電力を伝送して電池の切れた携帯電話を使えるようにすることもできます。これはすでに私たちのグループで2009年に上空50mで飛行船を使った実験に成功しています。

災害地では飛行船に積んだバッテリーからマイクロ波で給電する

災害地では飛行船に積んだバッテリーからマイクロ波で給電する

また、ドローン利用も考えました。ドローンは機動性を生かし、積んだバッテリーから、工場の機械などさまざまな場所に設置した電池レスのセンサーにマイクロ波で給電して情報を集めるといった使い方が考えられます。私たちは2015年、京都大学宇治キャンパスにある電波暗室を使って、「ドローン+ワイヤレス給電センサー」の実験を行い、有効性を実証しました。

世界最大級を誇る電波暗室 (京都大学生存圏研究所 高度マイクロ波エネルギー伝送実験棟)

世界最大級を誇る電波暗室 (京都大学生存圏研究所 高度マイクロ波エネルギー伝送実験棟)

インフラ関連では、例えばトンネルのコンクリート壁面に電池レスセンサーを埋め込んでおき、走る車からマイクロ波で給電してセンサー情報を集め、老朽化の度合いや修理の必要性の有無を判断するといった使い方ができます。
さらに応用範囲を広げてユーザーをまとめていけば、ワイヤレス給電という新しい産業分野を興すことができると思います。家庭からコンセントやケーブルが姿を消す日も遠くないでしょう。

ベンチャーが自由にトライする米国の風土が日本にもほしい

――マイクロ波給電は、今後さまざまな分野に産業応用が広げられてイノベーションが進みそうですね。

篠原 マイクロ波給電の産業応用を広げるには、マイクロ波の新しい周波数を確保することが欠かせません。法規制が厳しい日本ではなかなか容易ではありません。しかし、現在日本がワイヤレス給電に関する世界の議論をリードしており、電波利用を話し合うITU(International Telecommunication Union)には多くの日本人が参加して議論しています。
一方、米国はまずやってみようの精神があります。先に述べた携帯電話のマイクロ波充電のベンチャーを始め、若いベンチャー企業が何社もマイクロ波給電の技術開発に挑戦しています。うらやましいぐらいです。日本も技術立国を目指すのであれば、ぜひこうありたいものだと思います。

TEXT:木代泰之

しのはら・なおき  篠原真毅  京都大学 生存圏研究所・教授

1968年千葉県生まれ。1996年京都大学大学院工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。同年、同大学超高層電波研究センター助手を経て、2010年同大学生存圏研究所教授となり現在に至る。
専門は無線電力伝送、宇宙太陽発電所、マイクロ波プロセッシング。現在、経済産業省委託事業太陽光発電無線送受電技術委員会委員長。IEEE MTTS TC-26 Vice Chair, IEEE MTTS Distinguish Microwave Lecturer, International Journal of Wireless Power Transfer (Cambridge Press) Executive Editor、電子情報通信学会WPT研委員長、 日本電磁波エネルギー応用学会副理事長、ワイヤレス電力伝送実用化コンソーシアム代表、 ワイヤレスパワーマネージメントコンソーシアム代表他。
著書に『Wireless Power Transfer via Radiowaves (Wave Series)』『宇宙太陽発電 (知識の森シリーズ)』『ワイヤレス給電技術 (設計技術シリーズ)』『マイクロ波化学』『エネルギーハーベスティング』他。


Sponsor Content Presented ByIBM

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


関連記事