(メイン画像)Credit: IBM

「美術や文学、音楽といったアートの領域はコンピューターとは相容れない」というのが、近年に至るまでの常識でした。決められた手順に従って動くコンピューターのプログラムにとって、人間のように想像力の翼を羽ばたかせるのは難しいことだと考えられてきたのです。

しかし、ビッグデータやコグニティブ・コンピューティングといった新たなテクノロジーの発展は、そうした旧来の認識を大きく塗り替えようとしています。

Alex Da KidとWatsonのコラボレーション

2011年にグラミー賞を受賞した音楽プロデューサーのAlex Da Kid(以下、Alex)は、IBM Watson(以下、Watson)とタッグを組んで、新たな曲作りの試みに乗り出しました。

Alexは、より多くのファンを喜ばすことのできる音楽を創り出すためにさまざまな方法を模索し続けてきましたが、性格や人生観の異なる聴衆一人ひとりの好みを全て把握することは、簡単なことではありません。世界中に散らばる無数の聴衆がどのような音楽を求めているのかを、どうやって知ればよいのか…。――この問いに対する一つの答えとしてAlexがたどり着いたのが、コグニティブ・コンピューティングでした。

データがインスピレーションの種となる

Alexはまず「Watson Alchemy Language API」を利用して過去5年間の雑誌の表紙や最高裁判所の判決、アクセスの多かったWikipediaのページや人気の高い映画のあらすじなどを分析し、影響力のある文化的なテーマを抽出しました。そして、抽出したデータを「Watson Tone Analyzer API」を用いて分析することで、それらについて人々がどう感じているのかを把握していきます。

同時に、音楽雑誌ビルボードに掲載された26,000に及ぶヒットソングの歌詞をWatson Tone Analyzerで解析するとともに、「Cognitive Color Design Tool」を用いてアルバム・アートのデザインに関するヒントを掴み、時代の流れにマッチした音階やコード進行などを抽出しました。

これらのデータをもとに、インスピレーションを膨らませて曲作りに取り組んだのです。

人工知能それ自体が人間と同じような「意識」や「感性」を持ち、自らのインスピレーションによって曲を生み出すようになるまでには、おそらくまだ時間がかかるでしょう。しかし、異なる側面からのアプローチでアーティストの創作を手助けすることは、今後、徐々に一般化していくのかもしれません。

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