飛行船、ドローン、地上システムが連携して社会を見守る

警備サービス業国内首位のセコムが、飛行船やドローンを駆使する新しい防犯・防災サービスに力を入れている。搭載する各種センサー、高精細カメラ、画像分析、追跡技術に地上システムが連携し、上空から災害地域やイベント会場等を広範囲に監視して、防犯や被災者への支援をする。その実力の一端は、2016年の東京マラソンやG7伊勢志摩サミットなどの警備で実証済みだ。
今、世界では異常気象に伴う災害や地震、テロ行為が頻発している。加えて日本では高齢化が進み、社会の安全・安心をしっかり守るインフラが重要となっている。こうした状況を早くから見据え、すでに平成元年に自らを「社会システム産業」と位置付け事業展開をしてきたセコムの先見性が光る。
その見守り体制を更に高度化すると期待されるのが、人工知能(AI)やビッグデータ、IoTなどの先端技術である。セコム株式会社執行役員で、技術開発本部本部長兼開発センター長の進藤健輔氏に、今後の技術開発の方向性や民間警備サービスが果たすべき役割について伺った。

侵入者は飛行船が発見し、ドローンが出動して追跡する

インタビューに先立ち、東京都三鷹市にある同社施設で、「セコム飛行船」と「セコムドローン(小型飛行監視ロボット)」を使った警備システムを見学した。開発センター・チーフエンジニアの工藤雅弘氏が、実物の4分の1サイズの模擬飛行船をセンター館内の空中に浮かべ、スタジアムや周辺の街路模型を上空から監視する状況をデモで再現してくれた。

飛行船、ドローン、地上システムが連携して社会を見守る ――最新テクノロジーを駆使したセコムの新しい防犯・防災サービスとは

会場にVIPが車で到着すると、飛行船は上空からVIPの移動を見守る。3Dマップ(3次元の建物情報や地理情報)をもとに、移動に合わせて侵入禁止エリアを自動設定し、不審な人や車両が近付かないよう監視する。地上カメラには見えない建物の屋上も監視できるので、監視体制はより万全となる。
もし搭載カメラが不審者を発見すると、映像は即刻コントロールセンターに送られ、その指示で直ちにドローンが格納庫から飛び立って現場に急行する。ドローンはあらかじめ3Dマップを用いて設定したエリア内を飛行し、照明で照らした不審者を広角カメラで撮影しながら追跡。そのデータをリアルタイムでセンターに送信する。飛行船とドローンが地上と巧みに連携する防犯システムである。

イベント会場で人の混雑が発生している場面でも、飛行船とドローンの組み合わせが活躍する。飛行船が混雑ポイントを早期発見して映像をセンターに送ると、ドローンや地上カメラの情報を加味した「混雑情報」が作成される。それは直ちに地上スタッフの端末や来場者のスマートフォンに配信され、混雑の解消に役立てられる。合わせて会場内のアナウンスで来場者を誘導し、混雑の影響を最小限にとどめる。発見や対応が遅れると、トラブルにつながる可能性があるだけに、素早い対応が求められる場面だ。

200m先の人の顔を鮮明に捉えるズームカメラ

――このシステムは、会場全体を広範囲かつリアルタイムに警備することが可能ですね。何より最先端の空間情報技術や画像認識技術、センシング技術を積極的に取り入れていることに驚きました。

進藤 実際の飛行船は全長20m、高さ5.6m、総重量が290㎏あります。トラックに積んで運び込み、ヘリウムガスを入れて浮かせます。係留するワイヤーには電源線と通信線が入っています。
地上100mの高さに浮かんで周囲2~3kmの範囲を常時監視し、4Kの高精細カメラ3台と熱画像カメラ1台で地上の監視カメラの死角を補うほか、指向性スピーカーやサーチライトを備えています。4Kカメラをズームアップすると、200m先の人の顔や車のナンバー等も鮮明に見えます。熱画像カメラは暗闇の中でも侵入者の行動をくっきりと写し出しますので、夜間の犯行も逃しません。
飛行船が撮影した広域映像は、ゴーグル型の端末を装着している地上の監視員が首を動かすだけで360度見渡して、画面上に映し出せるようになっています。

飛行船、ドローン、地上システムが連携して社会を見守る ――最新テクノロジーを駆使したセコムの新しい防犯・防災サービスとは

――大勢の人の集まるイベント会場、国際会議、2020年の東京オリンピック・パラリンピック等でも大いに活躍が期待できそうですね。

進藤 2016年5月のG7伊勢志摩サミットでは、開催前の2日間、メイン会場である賢島の対岸で飛行船を揚げ、三重県警と連携して不審者がいないか徹底的にチェックしました。同年2月の東京マラソンでは、お台場のゴール地点で飛行船を揚げて監視しています。

安全性にはとてもこだわっています。風に流されないよう2台のガソリンエンジンでプロペラを回して姿勢制御をしており、万一どこかへ飛んで行きそうな時は、ゆっくり地上に降ろす仕組みにしています。
飛行船は2時間以上の連続飛行が可能ですが、限界が来たら1度降ろしてガソリンを補給し、再び飛行させています。

飛行船を揚げるのに十分なスペースが確保できない場合などは、飛行船の代わりに小型の「セコム気球」を上空に係留して監視します。エンジンは持たず、カメラ1台で監視を行います。この気球は2016年5月につくば市で開かれたG7茨城・つくば科学技術大臣会合や、9月のG7軽井沢交通大臣会合でも活躍しました。

AIやビッグデータの活用でサービスの付加価値を高める

――警備サービス分野では、これからAIやビッグデータの活用がますます重要になりそうですね。将来はどのような防犯・防災システムを目指しておられるのでしょうか。

進藤 例えば飛行船の場合、カメラやセンサーから膨大な量のデータが得られます。飛行情報などをデータセンターに集めてAIに学習させれば、ワイヤーで係留せずに自律飛行することが可能になります。その実現に向けて検証や実験を続けています。
イベント会場の警備では、カメラ映像をもとにAIが人の密集エリアや異常な動きを認識し、アラートを出したり追跡したりすることができます。いまデータセンターは当社サービスの根幹と言っていいほど重要な存在になっています。

一方、セコムの原点であるセキュリティ事業では、全国218万件のお客様の物件(家庭117万件、法人101万件)に警備システムを設置しており、通信回線を介してコントロールセンターにつながっています。何か異常があればセンターから各地の緊急発進拠点に連絡が行き、警備員が駆けつけるという仕組みです。
このシステムでは全国で約9300万台の機器とセンサーが常時動いており、そのビッグデータを解析することによって、より適切で有効な対応が可能になります。人が考える部分とAIが考える部分をうまく組み合わせることで、緊急対応のやり方をより効率的で有効なものにできます。
物件ごとに発生する情報にはそれぞれ特徴があり、その情報をパターン分析すれば、物件の内部で起きていることが相当分かります。それをもとに、お客様に対して個々にマッチしたセンサー配置や電気料金の引き下げプランなどをアドバイスできるようになるでしょう。

このように、いろいろな分野にAIやビッグデータ解析を活用することによって、お客様サービスの付加価値を高めることができます。お客様に喜んでいただくのは、「社会システム産業」として大切なことであり、技術陣の総力を挙げて取り組んでいるところです。

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ドローンは自ら厳しい安全基準を作って自社開発へ

――2015年の改正航空法の施行によって、ドローンの利用規則が明確になりました。御社は警備用ドローンを他社に先駆けて実用化し自社開発されましたが、その開発にはどのような経緯や工夫があったのですか。

進藤 物件で異常が起きると、セコムの警備員が駆けつけますが、ドローンがあれば、それまでの間もしっかり現場を見張り情報を通報するなど補完できると考えたのが開発のきっかけでした。警備員が到着した時には状況をすべて分かった上で対処できるし、警備員の安全も確保されるからです。

法施行の3年以上前から開発をスタートしましたが、当時、国内外で市販されていたドローンは、プロペラがむき出しでケガをする心配があったり、墜落して電池から火が出たりと、安全上の問題点がありました。いろいろ試しましたが、結局、自分たちで厳しい安全基準を設定し、自社開発することにしたのです。

セコムドローンのサイズは縦横57cm、重さは約2kg、時速50kmで飛行時間は約10分です。自分の位置を知るためのGPS、ジャイロセンサー、高度センサー、方位センサー、加速度センサーや、撮影するための広角レンズカメラ、白色LED照明などを装備しています。
建物の外周に設置されているレーザーセンサーや監視カメラ、飛行船などが不審者を見つけると、ドローンは格納庫から直ちに急行し、警備区域の3Dマップを基に自ら飛行ルートを決め、自律飛行して不審者の3mの距離まで近付きます。車の場合は不審車両のナンバーを前後方向からしっかり撮影し、服装や特徴を捉え、不審者や不審車両が敷地から逃走すれば、逃げた方向を記録してから充電ポートに帰還します。
4個のプロペラにはプラスチックのガードがついており、万一何かにぶつかっても相手に損傷を与えないよう、ガードが壊れて衝撃を吸収するようにしています。これは当社がお客様に安全・安心をお届けする企業であることから、特にこだわった配慮です。

飛行船、ドローン、地上システムが連携して社会を見守る ――最新テクノロジーを駆使したセコムの新しい防犯・防災サービスとは

2015年12月、改正航空法の施行日にドローンの承認を得る

――この警備ドローンは、改正航空法で飛行が規制されている「夜間」「目視外」「人との距離30m未満」という条件で飛びますから、事前に国土交通省の承認を得る必要がありますね。

進藤 そうです。1件ごとに承認を取ることになります。当社は改正航空法施行日の2015年12月10日朝に国土交通省に出かけ、他社に先駆けて承認をいただきました。それまでの苦労が報われた時でした。

セコムでは、このドローンを単独でお客様に納めることはせず、警備している物件の付属サービスとして位置付けています。ちなみに料金はプラス月額5000円で、格納庫の工事料等の初期費用が約80万円かかります。需要の高まりもあり、本格的な普及はこれからだと思います。

ドローンについては、逆に不正侵入するドローンの検知や捕捉も大切な仕事です。
2015年4月に、首相官邸屋上にドローンが落下しているのが見つかり微量の放射線が検出された事件は、メディアでも大きく報告されましたのでご存知の方も多いと思います。大事には至らなかったものの、事の重大性を教えてくれました。
当社は2016年1月、レーダーと3D指向性マイク、近赤外照明付き高速パンチルトズームカメラを組み合わせた「セコム・ドローン検知システム」を開発しました。レーダーがドローンの接近を検知すると、3D指向性マイクが方向を特定し、検知位置をパンチルトズームカメラが自動追尾して監視員に映像を提供するシステムです。

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通信が途絶した被災地では飛行船が仮基地局になる

――2011年3月11日の東日本大震災を機に、被災地での情報収集や支援が大きなテーマになっています。こうした場面では、飛行船やドローンは具体的にどのような使い方を想定しておられるのでしょうか。

進藤 風水害やがけ崩れ、地震などの大規模災害が起きると、飛行船やドローンをトラックで被災地に運び込みます。飛行船は上空に長時間留まって映像などの情報を「セコムあんしん情報センター」に送ります。ドローンは、ポイントを選んで詳細に撮影します。これらのデータを総合的に分析し、被災状況の確認や安全な避難情報の提供に生かすのです。

被災者に避難を呼びかける時は、飛行船に搭載した指向性スピーカーで「どこそこの方向に避難してください」と、エリアごとに異なる避難ルートを伝えることができます。足元が悪く危険なエリアがあればサーチライトで照らし、安全な避難を手助けします。
また、被災地では通信が途絶することが多いのですが、そんな場合は飛行船の高速無線通信装置を仮基地局にして、通信機能を確保することができます。被災地での実際の活躍はこれからです。

「お客様にとっての正しさ」を念頭に技術開発に挑戦

――世界では異常気象に伴う災害、地震、テロなどが発生し、今後高齢化による生活不安が高まる国も増えていくと思います。こうした時代に御社が果たすべき役割について、どのように考えておられますか。

進藤 社業を通じて社会に貢献するというのがセコムの使命です。1962年の創業以来構築してきたセキュリティ事業のネットワークを基盤にしつつ、「安全・安心」「快適・便利」のサービスを社会にトータルに提供しようと考えています。
当社の事業は大きく8つに分かれます。「セキュリティ」「防災」「メディカル」「保険」「地理情報サービス」「情報通信」「不動産」がそれぞれ「国際事業」へと広がり、多くの関連会社がそれぞれの役割を担っています。

その一端をご紹介しますと、地理情報サービスの(株)パスコは、東日本大震災の際、津波の前後の衛星画像をもとに浸水範囲を判定し、津波災害の貴重な資料として東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」に提供しました。

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震 【推定】湛水区域(宮城県石巻市~山元町:2011年3月13日・24日・4月4日  (出典: ㈱パスコ)

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震
【推定】湛水区域(宮城県石巻市~山元町:2011年3月13日・24日・4月4日
出典:㈱パスコ
http://www.pasco.co.jp/disaster_info/

情報通信事業の(株)アット東京は、国内最大級のデータセンターを運営しています。また、国際事業はアジアを中心に展開していて、機器設置から異常信号の送信、駆け付けまでをトータルに提供するセコム方式のオンライン・セキュリティシステムの質の高さが評価されています。

私たちはこれらの事業を“ALL SECOM”の旗印のもと、「セキュリティ」「超高齢社会」「災害・BCP(事業継続計画)・環境」の3分野にまとめ、社会の困りごとや日常の不安を各事業が連携して解決すべく努めています。特に超高齢社会は日本が世界で最初に突入しましたが、今後先進国に共通する課題であることから、お年寄りの生活支援やシニアレジデンスの運営などにも力を入れています。

何が正しいかという時は、自分たちにとっての正しさではなく、お客様にとっての正しさという視点が大切です。私たちは「先進性、独創性、信頼性」という方針のもと、たゆみなく技術開発に挑戦したいと思っています。

TEXT:木代泰之

しんどう・けんすけ 進藤 健輔  セコム株式会社 執行役員
技術開発本部 本部長 兼 開発センター長

1958年生まれ。
1981年、日本警備保障株式会社(現セコム株式会社)入社。
2015年、 同社執行役員就任(現任)。