海外“留職”で課題解決力を育む!新興国で培うリーダーの資質とは?

留学ならぬ、「留職」という言葉をご存じだろうか? 「留職」とは、NPO法人クロスフィールズが行っているプロジェクトの名称で、日本企業が社員を新興国に派遣し、数カ月間の滞在中に本業で培った技術や知識を生かして現地で社会課題解決に取り組む団体とともに、抱えている課題解決に取り組むというもの。日本の大きな組織が新興国の小さな組織と出会うことで、どんな現象が生まれているのか。クロスフィールズ創業者のひとりである松島由佳さんに、事業の内容やその目的について話を伺った。

日本の会社員を新興国のNGOに派遣する「留職」

――留職プログラムの概要を教えてください。

松島 2011年にNPO法人クロスフィールズを起ち上げ、2012年に本格的に留職プログラムをスタートしました。留学のように先進国の大学に勉強しに行くのではなく、数ヶ月~半年間、新興国(主にアジアの国々)のNGOや社会的企業などに、日本の企業から出向するような形で働きに行ってもらいます。

特徴は一般的なボランティアとは異なり、ITやマーケティングなど、留職者がこれまで培ってきたスキルで現地に貢献していただく点です。

留職プログラムチラシ

――派遣する企業側の目的は?

松島 次世代リーダー人材・グローバル人材育成、社会貢献などを目的とされている企業が多いです。具体的には「それまでの自分の常識やネットワークが通じないところでも働ける人を育てたい」という要望や、これから市場となるアジアの地域で働ける人を育てたいという意見もよく聞かれます。

――留職を受け入れる側の団体は、日本企業に対してどんなことを求めているのでしょうか?

松島 現地の人たちは、人材育成の場として使ってほしいなんて、もちろん思っていません。日本のプロの人に来てもらい、「団体の課題を解決してほしい」「作業を効率化してほしい」と望んでいます。それに、現地の団体は少人数だったりメンバーが固定されていたりするので、「日本人の目から見たフラットな視点が欲しい」「外の風を入れることでより良い環境にしたい」という、外部からの刺激も求めていると思います。

松島さん

――留職の対象者は、どのように決まるのでしょうか?

松島 自分から立候補する方もいれば、企業が「この人を将来、海外で活躍させたいから」と指名することもあります。中には「このプログラムを使って留職したい」と、本人が企業の人事に働きかけてプログラムを導入された方もいますね。

――プログラムの初期段階で、クロスフィールズはどのような支援を行うのですか?

松島 候補の方が決まったら、まずは私たちと話し合い、どんなプログラムにしていくか、どの国に行くかなどを話し合います。私たちが行うのは、留職者のスキルと現地側の要望をマッチングさせること。しっかりと成果を出していただくため、事前のミーティングや研修などは時間をかけて行います。

――派遣先が決まった後のアテンドもされるのですか?

松島 派遣に先立ち留職先団体の下見をしますし、最初の1週間は留職者の方に同行し、最後にどんなゴールテープを切りたいかという設計を現地で最終確認します。もちろん、その設計は留職者側が考えることではありますが、初めての体験ですし、あまりに大きな依頼を請け負ってしまったりすると、成果があまりにも出なそうなものになってもいけません。逆に一人よがりのものになってしまっていたり、本質的な課題解決につながらないということも起きないよう、私たちが現地に同行して最初の設計をお手伝いしています。

また、人材育成プログラムとして派遣される場合、企業は留職者に一皮むけて帰ってくることを期待しています。でも、それは大変な状況に追い込まれるということでもある。環境も違う、言語も違う。心身ともにプレッシャー下におかれます。そのストレッチされた環境の中で、どんなことを学び感じているかを言語化するために、1週間に1回は私達とスカイプなどで会話する機会を設けています。

――留職者の年齢は?

松島 現地にしっかり成果を残すという大変なミッションでもあるので、ある程度経験がある方、具体的には在職5年目以降の方が多いですね。ただあまりにも上の方だと現場を抜けられないので、やはり20代後半~30代後半の方が多いという印象があります。最近は女性の割合も3割近くまで増えています。企業も女性をどんどん活躍させようと、留職プロジェクトを積極的に活用していただいているのかもしれません。

松島さん

――どういった職種の留職者が多いですか?

松島 利用する企業自体、電機メーカーやIT系が多いので、エンジニアが最も多く45%を占めています。続いて営業職、研究職、コンサルタント、人事など。新興国側からも、エンジニアのスキルはニーズが高いです。

――需要に合った人材を派遣するのが、クロスフィールズなんですね。その需要と供給のバランスを、どう取っているんですか?

松島 まさに、そこが私たちの腕の見せどころです。現地側にニーズがあってもすぐに適した人を派遣できるわけではないし、日本側が「こんなすごい技術があるんです」と言っても、専門的すぎたりすると現地で生かせないこともある。そのため、依頼があってから留職先が決まるまでに、3カ月ほどの期間がかかります。現地の団体も潤沢なリソースがあるわけではない中、大きなことをやっていることが多いので、例えば作業の効率化にITが必要なことはわかっていても、その整備の優先度が落ちるようなこともあります。現地の現状からそういった潜在ニーズを見出し、そこにIT系の技術者を派遣して、売り上げを管理するシステムを作ってもらったりすると、留職者にとっても有意義な経験になり、さらに受け入れ先にもとても喜んでもらえます。

個人ではなく、会社を代表していくことに意味がある

――留職プログラムを行うクロスフィールズの目的は、どんなところにありますか?

松島 留職者が派遣されるのは、現地のNGOや社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)と呼ばれる、社会貢献としてビジネスを行う企業です。なぜかというと、彼らが向き合っているような貧困や環境問題、医療などの社会課題に対し、もっと企業が主体的に関わらなければいけないと思うからです。NGOだけでは、課題が解決するほど簡単なものではありません。企業の人たちも社会問題に触れ、企業として自分たちに何ができるかを考えてほしい。そういう考えができる人を、もっと増やしていきたいと考えているし、そういう人が企業の中で増えていったら、もっと社会のあり方もよりよく変わっていくと思っています。

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――留職プログラムを始めるにあたって、参考にされた取り組みはありましたか?

松島 IBMが行っている「コーポレート・サービス・コー」(※)は先駆けだったと思います。プログラムを立ち上げる前、このプログラムに関連する団体にアメリカまで会いに行って話を聞きました。IBMやファイザーなど、海外では企業内で留職のようなプログラムを行っているところはいくつかあるんです。まさに留職を立ち上げようとしているときに、そうした取り組みの存在をしり、そこから学んだこともたくさんありました。

※世界のNPOの専門家と、さまざまなスキルや経験を持ったIBM社員がチームを組み、新興国などで経済、環境、教育分野の基盤構築支援など、社会・経済的に重要な課題解決に取り組むことを通じて、グローバルな問題解決力、コミュニケーション力、さらには感知力など、リーダーに必要な体験を得るというプログラム
http://www.ibm.com/ibm/responsibility/jp-ja/initiatives/corporate_service_corp/

――確かに一つの企業で留職のようなことをやるとなると、世界中に拠点があるような大企業でなければ成り立たないですよね。クロスフィールズが仲介することで、法人であれば留職ができるようになるということですね。社会人が新興国に手助けに行くという点では、政府が行う「青年海外協力隊(JICAボランティア)」がありますが、あちらは個人で行くもの。個人と法人の違いでしょうか?

松島 そうですね。そのほかの大きな違いとしては、青年海外協力隊は現地の政府系機関の一員として働くことが一般的ですが、私たちの場合は政府系機関に派遣するのではなく、現地のNGOや社会的企業といった、草の根の民間団体が多いです。最近はJICAも民間企業向けに青年海外協力隊の事業を行っていますし、青年海外協力隊と私たちの留職プログラムを兼用している企業もあります。個人と法人という観点では、私たちが留職プログラムを法人限定にしているのは、留職を終えた方たちが帰国してから企業に体験をフィードバックし、彼ら・彼女たちの現地での経験や気づきが日常の業務の中で体現されていくことで次は組織の未来を切り拓いてもらいたいからなんです。先の理由で、企業が社会課題の解決に向けて持っている影響力が大きいと思っているので。

松島さん

――これまでの中で、印象に残っている留職エピソードがあれば教えてください。

松島 私たちも最初は、数カ月という短い期間の中で、どこまで成果が残せるんだろうって思っていたんです。ですが、日本人って真面目な方が多いので、3カ月なら3カ月の中でそれなりの成果を残して、やりきって帰る方がほとんどなんですね。

現地で財務管理のシステムを作ってくれたおかげで、現地団体の財務状況がクリアになり、それを使って投資家に説明して新たな投資を得られたというケースもありました。成長フェーズにある団体が多く、実行力も高いので、良い形でサポートを出来れば、そのサポートを活かして飛躍的に進歩する団体が多いのです。留職した方も、帰国すると個人として生き生きとしている。自分の体験として世界を語れるようになるので、社内の報告会が大盛況だったなんてお話もありました。それまでは無理だと思っていたけど、留職を機に現地の人たちの実行力に感化されて、新規事業を立ち上げた方もいます。日本側も受け入れ側も、新しい風が吹くようになっているのではと思います。

働くことで社会を変える。社会に優しい人を増やしたい

――松島さんがこうした事業に興味を持ったのは、もともとお父様のボランティアで、中学生の時にカンボジアに行った経験があったからだそうですね。

松島 きっかけはそうでしたね。父は20年ほど前にボランティアでカンボジアに病院をつくるNGOを創業しました。その病院が完成した時に家族で見に行ったのですが、当時中学2年生だった私は大きな影響を受けました。多感な年齢でその風景を見たことで、世界にはこんな地域があるのだと気づかされたし、より社会をよくしようと動いている現地の人やNGOの人たちってかっこいいなって思いました。

その時のカンボジアは今と比べても医療状況がよくなく、病院にも日本では見ないような疾患を抱えている患者さんが多かったです。栄養失調でおなかの大きい子供もいて、14歳の私にとっては驚くことばかりでした。その後、海外で仕事をしたいと思うようになり、国連職員や外交官に憧れたりもしましたが、大きな組織よりも現場が近いNPOなどで一緒に働く方が私には向いているなと思いました。やはり現地での体験が大きかったんですね。最初に就職したのはコンサルティング会社でしたが、そこでキャリアを積んでいる時から、NPOで働きたいとずっと希望していました。

――クロスフィールズを設立することになった経緯は?

松島 一緒に創業した小沼大地とは、就職活動で出会いました。彼も私と同じようなコンサルティング会社に就職し、最初の会社で修業しつつ、いずれはNPOの活動に関わりたいと考えていました。私自身、会社で働きながらも、週末などの空いた時間を活用して、コンサルのスキルを使ったプロボノ(各分野の専門家が職業上持っている知識・スキルや経験を生かして社会貢献するボランティア活動全般)を始めたんです。

ビジネスの経験が、NPOにとって良い影響があることもある、と実感値を持って思いましたし、また、私自身もプロボノの経験が会社の仕事にも役立ち、すごくいい経験になりました。しかしやはりプロボノは会社の「外」の時間でしか出来ないし、もっと本業に活きるような形であるべきなのではないかと考える中で、より本業の中でプロボノをするような留職のアイデアを友人たちと構想し、社会貢献のソーシャルビジネスアイデアのコンテストに応募しました。そのコンテストで高い評価をいただき、IBMさんの「コーポレート・サービス・コー」など、近い取り組みがあることも知り、本格的に動くためのアイデアを形にしていったんです。

――留職プロジェクトの中で、これはやってはいけない、これはやるべきだなど、心に決めているポリシーはありますか?

松島 クロスフィールズが掲げているビジョンは、「企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界/すべての人が、『働くこと』を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界」で、そのために「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ること」をミッションとしています。

このビジョンとミッションを達成するため、今行っていることに意味があるかどうかというのは常に考えますね。ビジネスの力も活用しながら、もっとNPOのセクターが本質的な意味での課題解決をしていって欲しいなと思いますし、社会における現状や課題をより深くしったビジネスパーソンが、企業の中でも社会に優しいビジネスをつくってほしいなと思うんです。

松島さん

――最後に、松島さんの個人的な夢を教えてください。

松島 中学の時にカンボジアで得た体験をきっかけに、少しずつ自分にできることを積み上げて、ここまでやってきました。世界にはさまざまな理由で不便な生活をしていたり、困っている人たちがいます。それを他人事だと思わない人が増えたらいいなと思いますね。留職先として付き合っているようなNGOの人たちは、そうした問題から目をそらさず向き合っている。だから私は心から尊敬しています。彼らがもっと活動しやすいようになるように、私が出来ることをしていきたいですし、自分自身も目をそらさないで一歩を踏み出す人でありたいなと思います。

TEXT:大曲智子

まつしま・ゆか 松島由佳
NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・副代表

2011年5月、クロスフィールズを共同創業。現在副代表として、経営全般に加え、プロジェクトマネージャーとしても活躍する。NPOを創業した父の影響を受け、ソーシャルセクターの持つ可能性を感じて育ち、大学在学中は、カンボジアの児童買春問題に取り組むNPOにて活動。卒業後はコンサルティングファームで働く傍ら、NPOでのプロボノ活動で経験を積み、NPOとビジネスの双方のバックグラウンドからなる課題意識から、クロスフィールズの創業に至る。