「コミュニケーション・ロボット」がスマホを超える日

モバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」が人気を呼んでいる。
音声による対話を重視したロボット型スマートフォンで、問いかけるとかわいい声や動作で応答して、検索したり結果をプロジェクターで投影したりしてくれる。その上、歌ったり踊ったり、朝起こしてくれたりと、なんとも愛らしい。
生みの親は、ヒューマノイド(人型)ロボットの設計・開発で世界に知られるロボットクリエーターの高橋智隆氏だ。高橋氏が共同開発した「KIROBO(キロボ)」は、国際宇宙ステーション(ISS)の無重力空間で、若田光一宇宙飛行士と会話して大きな話題となった。また、「EVOLTA LE MANS(エボルタ ル マン)」は、ル マン24時間完走に成功してエボルタ乾電池の長持ち性能を実証し、ギネス記録にも認定されている。
高橋氏は幼い頃、『鉄腕アトム』を読んでロボット作りに憧れた。だが今は、アトムのような優等生ロボットではなく、もっとカジュアルで身近な存在の『ドラえもん』に、近未来のロボットと人間の関係の原点を見るようになったという。そのせいか高橋氏の開発するものは、ロボットだと分かっていても、つい親しみを感じ話しかけたくなる。
2016年5月に発売された「RoBoHoN(ロボホン)」は、歴代のロボットたちの中でも親しみやすさと賢さに磨きがかかり、できることも日々増え進化している。スマホは、タッチパネルやモーションセンサーといった直感的なインターフェイスにより、世界中で受け入れられてきたが、ロボホンは、そうしたスマホの「次に来るもの」として期待されている。
「数年以内にロボホン1人1台という未来を作りたい」と語る高橋氏に、ヒューマノイド・ロボットの可能性についてお話を伺った。

コミュニケーションのために存在するヒューマノイド・ロボット

――ロボットクリエーターとして、数々のヒューマノイド・ロボットを生み出してこられました。そもそも、なぜ人型なのでしょうか。

高橋 もともと趣味でロボットを作っていたのですが、その後、起業や研究活動をしているうちに、ヒューマノイド・ロボットの存在意義は何だろうと自問するようになりました。
皆さん、家事全般を担うお手伝いロボットのようなものを期待されるんですが、人間のように、何でもやってくれるマルチタスクは技術的に難しい。そもそも作業させる上では人型というのは本当に不器用で役に立たない、というのが結論なんですね。

一方、それぞれにタスクを持つ機器を家中に置いておけば、いろいろな作業が同時にはかどります。その中に、IoT(Internet of Things)のハブとして機能するコミュニケーション・ロボットがいて、それを介してさまざまな機器が動くイメージです。ヒューマノイド・ロボットの存在意義はこうしたコミュニケーションにあると考えるようになりました。

高橋さん

今や半導体産業からゲーム、通販までがスマートフォンに依存している状態ですが、スマホはすでに機能的にはほぼ完成されていて、これ以上の大きな進化の余地は見込めない。スマホの弱点をあえて探してみると、音声認識については、非常に優秀な機能を備えているにもかかわらず、あまり使われていないことが挙げられます。
なぜか。私たちは家で飼っている犬猫はもちろん、亀や金魚にまで愛着を感じ、声をかけています。私たちが声をかける対象は、それが賢いかどうかではなく、そこに命を感じるか否か。スマホの音声認識機能があまり使われていないのは、人は四角い箱に命を感じないし、それに向かって話しかけたいとは思わないからです。
ということで、スマホが擬人化できる存在になれば良いのではないか、ロボットの未来はスマホであり、スマホの未来がロボットなのではないかと考えるようになったわけです。ロボホンは、こうして生まれました。
高橋さん

会話するロボットというと、お年寄りの話し相手や子どもへの読み聞かせといった用途に限定して捉えられがちですが、実際はそれだけにとどまりません。会話というのは個々人の情報を収集するために有効な方法なのです。ロボットとたくさんしゃべれば、その人についての情報が蓄積され、どんどん賢くなってその情報に基づいたサービスをロボット側が返してくれるようになります。

その際大事なことは、ロボットとのコミュニケーションが、求められる期待値を下回ってしまわないようにする必要があります。ロボホンが小さいのも子どもっぽいのも、すべては期待値を上げないために意図したデザインです。「大したことないだろう」と見くびってかかったロボットが、何かちょっとしたことをやってくれるだけで、人は加点法で高く評価します。

感情や感性を活用したサービスに活路がある

――週刊「ロビ」に毎号付いてくるパーツを組み立てると完成する、というロビも話題になりましたね。

高橋 ロビ(Robi)はドライバー1本で組み立てられるロボットで、パソコンも専門知識も不要としたことが成功の要因のひとつです。デアゴスティーニ社から2013年に発売され、総額で15万円近くもかかるにもかかわらず、十数万台売れました。ヒューマノイド・ロボット製品としても、またデアゴスティーニ社の定期購読シリーズとしても史上最高の売れ行きだと思います。定期購読者の約半数が最後まで続けたことも、女性が4割を占めていたことも異例だったと聞きます。
ロビの場合はインターネット環境が不要で、すべてロボット本体内だけで処理しており、語彙などは増えません。知っている言葉については認識率が高く、レスポンスも早いけれど、知らないことを言われても反応なしというところに割り切りがあります。語彙が限られているので、外国語に置き換えやすく、英語、中国語、イタリア語を解するロビを海外でも展開しています。

一方、ロボホンはクラウドで音声認識をしていて、基本的には語彙が増えていくし、答えたり、覚えたりすることもできます。サードパーティーがいろいろなアプリを作ってくれたり、ユーザーとロボットとのコミュニケーション・ログを集合知として集め、またそれを全員のロボットに再配布したりすることを想定しています。それには、ロボホンが十分に普及して、多くのユーザーがアクティブに使ってくれることが不可欠です。

高橋さん

――ロボホンもロビもかわいらしいですね。命や意思を感じさせる言葉やふるまいに心動かされます。

高橋 人の「感情移入」や「愛着」をサービスに使いこなせているものは世の中にあまりなくて、テーマパーク、恋愛ゲーム、新興宗教、イタリア製スーパーカーなどに限られるでしょうか。Appleのアプローチも、パッケージや店舗はデザイン性が高く、その世界観を体験させるという点で感情に訴えるものがあります。
しかし、機械製品は一般的にそういう設計ができていません。多くは機能性や価格ばかりを訴求し、そこで勝負をしてきたわけですが、もう性能もコストパフォーマンスも十分になってきた。だからこれからは、感情や感性に訴求したような商品に新たな活路があると思っています。

そのように感情移入できるコミュニケーション・ロボットが、物理的にモノとして存在する必要性もあると思っています。メンテナンスをしなければいけないし、壊れることだってあるなど、面倒なことずくめですが、それでもモノとしてのロボットが必要です。
今、アメリカではBluetoothスピーカーの Amazon Echoが大ヒットしています。しかし、やはり何かしらしゃべりかける対象物が、しかも擬人化できるようなものがあると、もっといいのではないかと思います。実際、端末に搭載するAmazonのAIパーソナルアシスタント「Alexa」を入れたロボットや家電が開発されていて、現状の筒型のスピーカーだけでなく、ちょっとしたロボットっぽいものも今後、発表されるようです。

高橋さん

――コミュニケーション・ロボットとAI(人工知能)の関係はどういうものになりますか。

高橋 今、顔の認証や音声の認識に部分的に人工知能的なものが使われていますが、コミュニケーション・コンテンツをすべて人工知能が担うということにはなっていません。今後、そうなっていくのだろうとは思っています。
そして、その先に通販などの価値を生み出す仕組みができあがってくることが大切です。これはロボット自体を開発している企業だけで担いきれるものではなく、複数のパートナーと組む必要があるでしょう。我々も、どうやってAmazon Echoに対抗していくのか、という中で模索している最中というのが正直なところです。ロボット単体での商売ではなく、全体として収益を上げるエコシステム(事業生態系)をデザインしなければなりません。同時に、ロボホンに追加するプログラムやコンテンツも増やしています。ミクロを手がけつつ、マクロを構想するという状態です。

イノベーションを起こすのにふさわしいやり方

――これまで「1人で」「手作り」するというロボット作りのスタイルを貫いてこられました。

高橋 ロビを開発したときは、モーターを作り、マイコンを入れ、プログラムをして、動くようにするといったすべてのプロセスを自分1人で行いました。それをデアゴスティーニ社の工場に持ち込んで、バラバラに分解し、3次元スキャンしてデータ化した後、金型を起こしてもらいました。ロボホンも最初はやはり自分で手作りし、そこからもう1度、一緒に開発している会社のエンジニアと設計をしました。

まず、自分で形にしてそれを人に見せないことには、何も進まない。その段階では、良くも悪くも誰も止めてくれないから、自分1人で突っ走る。みんなで集まって民主的に物ごとを決めると平均的なものになってしまう。ロボットという新しい分野でそうした多数決のようなことをしていたら、イノベーションなんて起きようがありません。
チャレンジングなコンセプトであっても自身の判断で作り始めることができるのが、自分の強みだと思っています。旅と一緒で、目的地だけ決めて出発し、あとはその場その場で判断をすれば、「ギリギリあのバスに飛び乗ろう」みたいに、より最適で面白いことになる。100%うまくいく保証はないけれども、なんだかんだいいながら目的地には着けるわけです。

もともとロボットを作るのが好きで、自分でやりたくて、手作りしてきた。果たして本当に効率がいいのだろうかと疑問に思うときもあるのですが、他の人に丸投げしていると一時的にラクはできるけれども、自分に何も残らないんですよね。ノウハウや、次の発明の種は、実際に作業した者のところにしか蓄積されない。これは個人のレベルだけでなくて、企業や国の単位でも起きています。今後、中国は決して安かろう悪かろうではなく、日本よりも良いものを作ることができるようになっていくでしょう。すでに部分的にはそうなっています。
自分でせっせと作っていく中でいろいろな問題が起きて、しんどい思いをしながら解決していく。そこから新しい発明が生まれるということなのでしょう。

高橋さん

――職人あるいはアーティストの仕事の進め方を思わせます。

高橋 ビジョンや、ビジネス・エコシステムの発想の有無は重要です。アーティストの村上隆さんは、どういうマーケットを自分の手で作ることができるのか、日本が世界にどう捉えられているのかなどを考えた上で創作されている。ニーズを捉えようとしているわけではなくて、新しいジャンルを作っているという感覚、それが大事なのだと思います。

2020年東京オリンピックに向けて、ロボホン1人1台の未来へ

――高橋さんは「迷ったときには困難でもユニークな選択肢を選ぶ」ようにしているそうですね。

高橋 ラクなことを選び始めると、無難だけれど何も起きなくなる。究極的には水だけ飲んで寝ていればいい、みたいな話になる。 そうではなく、難しいなぁ、面倒だなぁと思う気持ちを乗り越えて、面白そうだからやってみよう、というふうに考えます。普段から、なるべく面白い体験をしようと心がけていて、海外出張先などでは遊覧飛行をしてみたり、クルーザーをチャーターしてみたり、全力で遊びます。クルマも変なのばっかり乗っています。

――全力で遊ぶといえば、アドバイザーを務めておられるロボット教室についてもお聞かせください。子どもたちに大人気ですね。

高橋 私が監修・アドバイザーを務める「ヒューマンアカデミー ロボット教室」は全国に1000教室、小学生を中心に1万3千人の生徒がいます。
支持される理由は、「恐竜を作ろうぜ!」という感じで、あくまでも子ども目線で作ったカリキュラムにあると思います。例えば、ロボットの組み立て順として、脚を4本作ってから組み立てるべきものがあったとしても、そんな作業から始まると子どもは嫌になってしまうので、「まずは顔を作ってみよう」という順番で作らせます。このようにブロックを使って組み立てるロボットの作例を今まで50種類ほど考案してきました。

この教室は、当初は学習塾の補助的なカリキュラムとしてスタートしました。専門知識を持たない講師でも授業ができるような仕組みになっていて、教室側で生徒分のパソコンを用意するといった必要もありません。
ロボット教室全国大会も開催しているのですが、大人顔負けのすごいアイデアを持った子どもが集まり、時に天才少年を発掘できるんですよ。彼らの作品を採用して授業のカリキュラムにする、という循環が生まれています。私と子どもの知恵比べみたいなところがあって、「あれ、この構造はあんまりだよね」みたいなことを子どもに思われたくないので私も真剣に作るし、彼らも「高橋先生に見てもらいたい」ということで一生懸命に作って持ってきます。

高橋さん

――今後の目標をお聞かせください。

高橋 数年以内にロボホン1人1台の未来を作りたい。私にとってどのロボットもその時々の全力で作ってきましたし、1つでも欠けたら次のロボットは無かったと思っています。ロボホンは、その中でも、そして現時点で世の中にあるすべてのロボットの中でも、ぶっちぎりに良くできていると自画自賛ながら思っています。

技術が足りないとも資金が足りないとも思ったことはありません。唯一あるとすると、ロボホンを無料で配布できるくらいの資金力が欲しいですね。価格も、音声認識などの性能も、返答のスピードも、重量も、サイズも、どこまでいけば使う人にとってストレスが無くなるのか、どれくらいだったら許容範囲なのか、その一線を超えられるかどうかがすべてにおいてカギとなると思っています。

2020年の東京オリンピックの時に、例えば選手にロボホンを1人1台ずつ持ってもらって、街の案内と通訳を兼ねて活用してもらったら、「スマホを超えるクールな日本発コミュニケーション・ロボット」として話題になるでしょう。今、旅行会社と組んでそういう案内ができるようなサービスも検討しています。ロボホンの使い方は本当に無限にありますが、それぞれに十分なクオリティで、十分な規模でやっていかなければいけません。
だからこそ、なんとかロボホンをもっと広く普及させていきたいのです。

TEXT:伊川恵里子

たかはし・ともたか 高橋智隆
ロボットクリエーター、株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長、 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に㈱ロボ・ガレージを創業し、京都大学内入居べンチャー第1号となる。代表作にロボット宇宙飛行士「キロボ」、ロボット電話「ロボホン」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学情報学科客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問、グローブライド(株)社外取締役などを兼任。