WEBカメラやスマートフォンで撮影している人やモノ、場所など、現実世界の映像に対して、欲しい情報や関連する映像がリアルタイムに読み込まれて重層的に表示される。SFの世界の物語と思われてきたAR(Augmented Reality:拡張現実)はスマートフォンの普及により多くのシーンで活用されるようになった。雑誌とも違う、WEBとも違う、もちろんテレビとも異なるAR。
この新たなインフォメーションテクノロジーは既存のメディアに対してどのように存在し、また融合していくのだろうか。AR開発者の代表的な存在といえる川田十夢氏に、ARとの出会いとメディアの未来を尋ねてみた。

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メディアの中心はテレビではない

――2020年の東京オリンピックまでに、メディアもテクノロジーもより進化していくと思いますが、ARを使ってテレビの世界は変わるとお考えでしょうか。

川田十夢氏川田 7年後はインターネットの速度が今の1000倍になるだろうって予想が出ています。そうなると、もうテレビをARで拡張するっていうよりも、視聴者の生活そのものが主体としてあって、いち要素としてテレビだとかネットだとかがあって、ハブとしてARを使うようになっているのだと予想しています。もう、テレビを真ん中に据えて考える必然がない。いまテレビに収まってないものを、ネットにただ流れてしまっているものを、どう7年後にたぐり寄せるかが重要になってくると思います。

せっかく、東京オリンピックっていう大きなお祭りがあるのですから、未来がこうなったらいいなって想像しながら、これからの7年間という期間をいかに他人事じゃなく過ごしてゆくかも、大事です。

『東京オリンピック 文学者が見た世紀の祭典』実は今日、昭和39年に発行された「東京オリンピック」っていう文学者が見たオリンピックの記録本を持ってきたのですが、三島由紀夫が競歩のことを書いてるんですよ。「空間の壁抜け男」というタイトルで。まさかこれが競歩のこと書いているなんて、思わないですよね。オリンピックという誰もが目にした競技なのに、三島の目を通すとこんな風に見えている。他にも大江健三郎とか、堀口大学とか、石原慎太郎とか、作家が貴重な記録を独自の文体で残しているのですが。絶版本だし、多くの人はこの本の存在すら知らないですよね。とてももったいない話です。

時間を経過しても、オリンピックの熱気が伝えられるような施策を講じたい。オリンピックが終わったあとも、そのスタジアムにいって皆がスマートフォン(あるいはそれに順当するデバイス)をコースに向けたら、躍動する選手たちが現れるような、あるいは視点を変えて選手の主観を追経験できるようなやつ。7年後のテクノロジーであれば、作れますよね。こういう、テレビの枠に収まらなかったコンテンツを、いかに記録して再生するのか。興味があります。

新しい原稿用紙を発明して文学者の皮膚感覚を可視化したい

――今後、目指したい領域をお聞かせください。

川田 文章構造のGoogleマップみたいなやつ、作りたいです。たとえば、どんな物語も思いっきりズームアウトしたら、あらすじなのか、一編の詩なのか、全体を断片として読むことができます。これもう一階層掘り下げると、誰々が何々を得て、何々を失って、でも誰々に会いたいからっていう具体が見えてくる。
文学者が書いたテキストって、焦点の当てどころ、時間の感覚が違いますからね。デフォルメと密度、つまり世界を成立させるパッケージ能力がすごい。彼らが描いている世界は、現実の時間軸だとか本の構造による束縛から解放されることで、書く側も読む側も、もっと自由になる。

実際に文豪カメラっていうのも、作りかけています。ある空間を俯瞰から撮ると、たとえば夏目漱石だったらその場所をどういう言葉で表現するかを、テキスト変換してくれます。星新一のショートショートを、人工知能が書けるようにするプロジェクトが、未来大学と瀬名秀明さんとで進んでいますが、こういうニュアンスで作家の文体と言語が整理整頓されてゆけば、さっきの文体カメラみたいなことは、比較的用意に開発することができるようになります。あと、物語の世界は、いち早く検索可能にした方がいいです。あらゆる空間と時間を、本棚にすることができるからです。

未来のARは経験を着脱可能にするものになる

――未来のARはどのようなかたちに進化していくとお考えでしょうか。

川田 まず、ARって言葉は使わなくなるでしょうね。そしていろんな技術と融合して、現実と仮想の境界をなくしてしまうのだと思います。もっと言うと、自分ごとハードになるというか、ソフトになるというか。

川田十夢氏たとえば、他人の話が全然わからないときってあるじゃないですか。もしくは自分の話を全然わかってもらえないときとか。ARは、それを埋めたり、楽しんだりすることに、使われるようになってくると予想しています。いわば、経験を着脱可能にする仕組みです。

ARに限らず、人間を知覚レベルでセンシングすることを、未来の製品やサービスが目指すのであれば、考え方そのものの再設計が必要となってきます。いまだに多くのデザイナーが、紙だったり物だったりウェブだったりプロダクトだったり、僕からすると片一方のデザインでしか、物を考えていないように感じます。もっと法律とか概念とか物語とか物理法則とかプログラムとか、まだデザインされていない領域について、考えた方がいいです。実際、こういうこと考え始めると、超楽しいですから。特に電機メーカーさん。技術開発部とデザイン部をいつまでも分けて考えているようでは、いけませんよ。未来に。

text:武者良太

川田十夢氏

かわだ・とむ
川田 十夢

1976年熊本県生まれ。1999年メーカー系列会社に就職、面接時に書いた『未来の履歴書』の通り、同社Web周辺の全デザインとサーバ設計、全世界で機能する部品発注システム、ミシンとネットをつなぐ特許技術発案など、夢みたいなことをひと通り実現した後、うっかりリストラに遭遇。まるごと背負って独立。天才開発者としての顔を持ちつつ、独特の文体で作家としても活動。著作と連載をわりと抱えている。凄いと言われるより、おもしろいと言われたい。おもしろいというより、ユニークだと言われたい。最後は、やっぱり凄いと言われたい。
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