【渋谷×ミツバチ】都心で広がる温暖化・ヒートアイランド対策

渋谷駅前の商業施設「ヒカリエ」にあるハチミツ専門店で、「渋谷のはちみつ」という商品が販売されている。商品名の通り、渋谷で採られたハチミツだ。販売元となっている「渋谷みつばちプロジェクト」では、ヒートアイランドや温暖化防止といった社会問題に危機を感じ、2011年3月から渋谷のビルの屋上で養蜂を開始した。

同団体の代表を務め、長年、渋谷に暮らし、街と人々を見つめ続けてきた佐藤勝氏は、「渋谷みつばちプロジェクト」のほかにも、渋谷のコミュニティFMである「渋谷のラジオ」を中心となって立ち上げるなど、ビジネスではなく渋谷という街のために情熱を注いできた。今回、プロジェクトの概要や意義について話を聞いた。

渋谷の街は暑すぎる。このままでは、人が来ない街になる

――「渋谷みつばちプロジェクト」は、どんなきっかけでスタートしましたか?

佐藤 私は渋谷で34年間、不動産業を営んできました。言い換えると、街をつくる仕事をずっとやってきたんです。そんな中、15年ほど前から、「空調機が効かない」というお客様の相談が増えてきました。確かめてみると、空調機が壊れている場合もありましたが、室外機が熱くなりすぎて、動いてないことが多かった。だんだんと同じようなことで相談に来るお客様が増えていき、これはおかしいなと感じました。

当時も既に、地球温暖化やヒートアイランドという現象は、環境問題として広く認知されていましたが、身近な自分事としては捉えていませんでした。しかし、お客様から多数の相談を受けていくうちに、渋谷の街も温暖化やヒートアイランドの影響が出ているのではないかと考え始めました。長年、渋谷という街のために頑張って仕事をしてきましたが、このままでは、真夏に人が歩けなくなるような街になってしまい、渋谷の街の価値が下がってしまうのではないかと。

佐藤さん

――特に都心部において、気温の上昇は一般の人でも感じていることかもしれません。

佐藤 渋谷は地名の通り「谷」なので、風がない夏は本当に暑いんです。真夏に行きたくない街になってはいけないなと思ったし、40歳を過ぎて子育ても終わっていたので、街に恩返しができるような活動がしたかった。そこで、ヒートアイランド改善をテーマに、まずは桜を守り広める活動を始めました。渋谷には、36本の桜並木がある桜丘町があります。春には両側の道が桜で埋まり、まるで“桜のトンネル”のようになる綺麗な桜です。

この渋谷の桜を守るため、2006年に「NPO法人渋谷さくら育樹の会」を立ち上げました。そこから桜の花を植える活動を開始しましたが、設立から約4年後、銀座のビルで養蜂を行い、ハチミツを作っているという「銀座ミツバチプロジェクト」の存在を知りました。

詳しく話を聞くと、ミツバチは、放置していれば消えていく花の蜜や花粉を食べることで、多くの植物の受粉を媒介している大切な存在だと分かりました。私たちが守ってきた桜も、ミツバチによって受粉すればサクランボがなり、それを食べに小鳥がやって来る。人間が断絶した、植物と動物のつながりを回復させることができます。

近年は都心でも屋上緑化などの活動が盛んですが、養蜂もビルの屋上で行うことができます。賛同者が増えてくれれば、生態系の循環によって都会の緑化活動も促進され、植物が増えれば温暖化やヒートアイランドの対策にもつながります。さらに、ミツバチが生息するには、蜜源となる花が必要となるため、養蜂によってどれだけの蜜が採取できるかで、渋谷に自然がどれだけ残されているかも知ることができます。

――個人での活動とのこと、最初はご苦労をされたのではないでしょうか。

佐藤 「銀座ミツバチプロジェクト」の話を聞き、すぐに「これを渋谷でもやりたい」と思いました。しかし、「さくら育樹の会」のメンバーに話をしたところ「誰が面倒を見る?」「ハチに刺されたらどうするのか」と反対意見もありました。当然、桜を守り広げる活動をするNPOであって、ミツバチを育てることが目的ではないので、結局、養蜂は私だけで始めました。

幸い応援してくれるビルのオーナーさんがいたので、そのビルの屋上を借り、自費でミツバチの巣箱を置き、2011年3月8日に養蜂を始めました。ちなみに、3月8日は「みつばちの日」で、渋谷駅前に設置されている忠犬ハチ公の命日でもあります。ミツバチの活動を渋谷で始める日として、これほどふさわしい日はほかにありません。

屋上養蜂場

活動開始の3日後には、東日本大震災が発生しました。そのため、最初の年に採れたハチミツは、被災地となった福島県南相馬市へ、物資と一緒に届けました。また、私が渋谷でハチミツを作っていると聞いた東急百貨店の方から誘われ、2012年にオープン予定したヒカリエで「渋谷のはちみつ」を販売し始めるなど、段々と周囲の理解も得られるようになりました。

明治神宮、代々木公園。渋谷は意外と自然が多い街

――養蜂を始める際、銀座ミツバチプロジェクト以外に、どんな方から指導を受けたのでしょうか。

佐藤 安全が第一なので、最初に銀座ミツバチプロジェクトの方から、国際養蜂協会連合APIMONDIAのアジア理事を務めている渡辺英男先生をご紹介いただき、その方の協力を得ることから始めました。また、50年以上の歴史がある玉川大学にミツバチ科学研究センターという研究所があるのですが、そこの3代目所長を務めている松香光男先生にも、養蜂について指導してもらいました。

――地域住民から「刺されないのか?」という不安の声もあったということですが、実際のところはどうなんでしょう?

佐藤 ミツバチは自ら餌を集め、自分たちで暮らしている生き物です。ペットではないので、やはり巣箱のふたを開けたりハチミツを搾ったりするときなどは、顔を覆う覆面布が必須です。でも、街を飛んでいるミツバチが人間を刺すことはほとんどありません。ミツバチは常に忙しく、人間に構っている暇はありません。ミツバチの寿命は30〜40日ほどですが、生まれて最初の20日ぐらいは巣の中にいます。仲間が外から集めてきた花の蜜を口移しで受け取り、六角形の巣を作り、羽であおいで水分を飛ばし、巣の掃除や子育てなどを20日間ぐらいかけて行います。そして、最後の10日間で外に出て行き、蜜を集めます。

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――忙しいんですね!

佐藤 一匹のミツバチが一生で集める蜜の量は、ティースプーン1杯分ほどです。人間からすれば微々たる量かもしれませんが、ミツバチたちはそれを集めるため、また子孫を守るために、最後の10日間で外に出てハチミツを集める。外でも危険の連続で、水に濡れれば飛べなくなるし、ツバメやスズメバチ、カマキリなどに食べられてしまうことだってある。すごく必死に生きているんです。外に出ていくのはオスのハチですが、彼らは命を懸けてメスや子どもたちを守りながら、自分たちの種をつないでいく。ミツバチを見ていると、すごく勉強になります。

――大都会である渋谷には、ミツバチたちが蜜を集める場所はあるんですか?

佐藤 渋谷はスクランブル交差点やセンター街など、若者の街というイメージが強いものの、意外にもそういった若者向けの場所は駅前だけです。ミツバチの行動範囲は半径3〜4キロといわれていますが、渋谷駅から半径3〜4キロ圏内には明治神宮や代々木公園もあります。それに、渋谷には松濤や南平台、代官山などの住宅地に付随して、小さな公園も数多くあります。最初は私も心配でしたが、実はミツバチの蜜源が多いとわかって安心しました。

渋谷

しかし、あくまでも環境のためにやっていることなので、ミツバチの数を増やすなど、ハチミツの採取が目的とならないように気をつけています。ハチミツを作って販売し、その収益を活動資金にしてはいますが、一歩間違えれば「ミツバチプロジェクト」ではなく「ハチミツプロジェクト」になってしまいます。花とミツバチがいなければ、本物のハチミツは作れません。私たちは、それを搾らせてもらっているだけです。

――ミツバチを育てるだけでなく、花や自然を増やす取り組みも必要ですね。

佐藤 明治神宮は2020年で100年を迎える人工の森です。代々木公園も人工の公園で、渋谷には昔からある樹木は多くありません。街をつくってきた人たちが蜜源となる花を植えてくれたからこそ、今こうしてミツバチが暮らすことができる。昔の人たちへの感謝を忘れず、自然との共存をしていきたいと思っています。

私たちも新たな試みとして、代官山でヒマワリを植える活動をされている方と協力関係を結びました。ミツバチが渋谷から代官山に行き、そこのヒマワリの蜜を吸って戻ってくる。黄色い花粉をまとったミツバチたちが帰ってくれば、ヒマワリのところへ行ったと推測できます。

花を育て増やすことで、人と人がつながっていく

――「渋谷みつばちプロジェクト」では、ほかにどんな活動をされていますか?

佐藤 ヒマワリのハチミツを作っていたところ、意外なところで縁が生まれました。2016年4月から「渋谷のラジオ」というコミュニティFMの発起人になったのですが、渋谷区内の芸能事務所に所属している歌手が、スペシャルファウンダーとして「渋谷のラジオ」に出資してくれました。彼がつくった曲にちなみ、テレビの企画でヒマワリの種を全国の希望者に配布したことがありました。その種を譲ってもらい、渋谷区の小学生に育ててもらうことにしたんです。

佐藤さん

昨年は小学2年生の子供たちに育ててもらったのですが、見事に大きなヒマワリに育ててくれました。ヒマワリは一つの種からたくさんの種ができるので、その子供たちが友達に種を配れば、そこからさらにヒマワリが広がっていく。自分の街にも小さな自然があること、自分が育てたヒマワリが大きく育ち、ミツバチが蜜を集めているのをその目で見ること。そんな流れの中で、子どもたち自身も何か感じ取ってくれるものがあればいいなと考えています。

――現在、ミツバチたちの巣箱はどれぐらい設置されていますか?

佐藤 桜丘町から始まって、東急百貨店のオフィスビル。笹塚のビルの屋上や富ヶ谷の東海大学。羽田の方からも、設置したいという声をいただきました。恵比寿、代官山、中目黒、埼玉県の川口にも広がっています。2014年には、玉川大学ミツバチ科学研究センターとの共同プロジェクトとして、カンボジアにも養蜂指導に行き、現地農家の若い人たちに養蜂を教えました。

――カンボジアとはすごいですね。暑い地域でも養蜂はできるのですか?

佐藤 ミツバチがいれば大丈夫です。それに、カンボジアにもマンゴーなどの花はあります。ベトナムとタイには養蜂があるんですが、カンボジアにはありませんでした。また、カンボジアにはオオミツバチというハチがいて、カンボジアの人たちはそのオオミツバチの巣を丸ごと取って薬にする習慣があります。しかし、全て取ってしまうとオオミツバチが全滅してしまう恐れがあるため、玉川大学の松香先生からの意見を受け、半分にしようという指導から始めました。また、養蜂の方法をしっかり伝えることで、受粉率は上がっていきます。結果、さまざまな作物が取れるようになり、現地の人たちも喜んでくれました。

――駅前の再開発や代々木体育館改修、渋谷駅大改修など、渋谷の再開発は東京オリンピック後もしばらく続きそうです。渋谷ミツバチプロジェクトにも影響はありますか?

佐藤 私の理想論ですが、再開発によって新しい街になっても、渋谷という街に人は集まってくると思います。私の活動は本当に小規模で、直接的にヒートアイランドや温暖化の改善は難しいかもしれませんが、「渋谷のラジオ」や、こうして取材してもらうことによって、さまざまな活動を行っている人たちをつなげることはできます。今後も、ミツバチプロジェクトの活動やハチミツを通して人と人をつないでいけば、応援してくれる企業ももっと増えるかもしれません。

また、再開発によって渋谷の街もさらに近代化が進むかもしれませんが、テクノロジーや情報は、もともとエコロジーのためにあるものだと考えています。そうしたものを、地球温暖化やヒートアイランドなどの大きな問題だけでなく、もっと身近なものとして簡単に使えるようにするべきです。身近になれば、多くの人がエコで過ごしやすいライフスタイルを実現するためにテクノロジーを使い、お金を使う。そうした経済の発展に、私も微力ながら貢献できたらと思います。

TEXT:大曲智子