日本のインフラを劣化から守れ! ――塗るだけでコンクリートや木造建造物の劣化を飛躍的に防ぐ驚異の「液体ガラス」

日本の経済成長は高度に整備されたインフラに支えられてきた。しかし今、そのインフラが大きな危機を迎えている。
戦後の高度経済成長期に建設されたビル、高速道路、マンションなどの多くが耐用年数を超えつつあるのだ。建造物の老朽化が原因で、実際に事故が起きたというニュースも耳にするようになった。日本のインフラは大補修を迫られる時代に突入している。
株式会社ニッコー代表取締役の塩田政利氏は、こうした現実にいち早く危機感を抱き、コーティングするだけでコンクリートの強度を飛躍的に向上させる「液体ガラス」を開発した。以来注文が相次ぎ、日本各地のビルや空港、ダム、トンネル、高架橋など、さまざまな公共事業に使われるようになった。
現在はこの技術をコンクリートだけでなく木材に応用し、「燃えない、腐らない、割れない、シロアリなどに食害されない木造建造物」の普及を推進している。その実績は評判を呼び、国宝の厳島神社や京都の大覚寺などの神社仏閣をはじめ、横浜港の大桟橋や幼稚園のウッドデッキなど、さまざまな場所に使用されるようになった。塩田氏はまた、日本の森林の荒廃に着目し、建物や土木における国産材の活用促進を目指して、さらなる液体ガラスの研究と普及に精力的な活動を続けている。
塩田社長が液体ガラスに取り組む理由は何か。理想とする社会、日本の未来像についても伺った。

鉄筋コンクリートの建造物の寿命は長くても60年程度

まずは液体ガラスとは何かを説明しなければなるまい。液体ガラスとは文字通り液体状のガラスだ。石英などの鉱物からなるガラスは常温では固体。これを溶かして液体にするには、通常1400度以上の高温に置かなければならないが、塩田社長は長年試行錯誤を重ね、独自の特殊技術を開発し、常温でのガラスの液体化に成功した。この液体ガラスで建造物をコーティングすることにより、建物の強度は大幅に増す。
塩田氏がまずターゲットにしたのはコンクリートだ。鉄筋コンクリートで作られた建造物の寿命は短くて30年、長くてもせいぜい60年程度と言われている。
鉄筋コンクリートは一般的には頑丈というイメージが強いが、どのように老朽化し、壊れていくのだろうか。

塩田 そもそもコンクリートはアルカリ性ですから、そのままの状態なら鉄筋コンクリートに使用されている鉄は腐りません。ところがコンクリートはご存知のように水を混ぜて作ります。この水が乾くと徐々に蒸発して、内部に隙間ができるのです。そこへ雨水が浸透する。雨水には塩分、酸といった成分が混じっていて、乾くと塩分や酸だけがコンクリートの中に残ります。これが鉄筋をさびさせるんです。そして、鉄はさびると膨張する。その力はコンクリートをものともしません。こうなるとコンクリートがひび割れ、さらに雨水が入るという悪循環に陥ってしまうのです。
こうしたプロセスで劣化するので、鉄筋を使わないダムなどは大丈夫です。大地震などの天変地異がなければ、おそらく何百年も持つでしょう。鉄筋が入っていると頑丈だと思うかもしれませんが、それは間違い。月日が経てばどんどん劣化が進むのです。

ニッコーの液体ガラスはコンクリートに浸透し、表面に膜を作ることによって水の侵入を防ぐ。だから鉄筋がさびることなく、コンクリートは元の状態を維持して建造物が長持ちするという。
透き通った無色の液体ガラスが、なぜこのような力を発揮するのか。しかも一般には「ガラス」というものは割れやすいとイメージされる。そこを問うと塩田氏は「ガラスは自然界に何千年も風化せずに存在する石英などの鉱物からなる固体です。液体ガラスはそれを液化したもの。それ以上は企業秘密。製法は生涯明かさない。ワッハッハ!」と豪快に笑い飛ばされた。

塩田さん

コンクリートを強くしようと一念発起。世界各地をまわり、遺跡からヒントを得る

ここで少し塩田氏の経歴を振り返ってみよう。出身は徳島県。1937年の生まれだから、今年で80歳になる。小学校2年生の時、父親が農業を始め、長男だったこともあって朝から晩まで家の手伝いをして育ったという。
地元の商業高校を卒業後、大阪のあるメーカーに入社し、主に営業畑を歩く。入社数年で公共事業関連の会社の立ち上げに参加した。これが現在、東証2部に上場している日建工学㈱である。同社で塩田氏は「吸い出し防止材」を開発するなど、早くもアイデアマンとしての才能を発揮した。

塩田 昭和40年ごろに河川法が変わって、河の砂利を取ってはいけないことになりました。本来、河岸を整備するにはブロックを置いて、その裏に砂利を入れます。それができなくなる。「これは困った」と思ったとき、ふと「ヤシの実は腐らないんじゃないか」とひらめきました。「名も知らぬ遠き島より・・・」と歌われるように、ヤシの実は何年も海水に浸かっていても腐らないのだからそれだけ丈夫なのだろうと。
ヤシの実の繊維は当時、車のクッションなどに使われていました。そこでクッションを作っている会社に飛んでいき、別の繊維の会社と交渉してヤシの実の繊維と化学繊維を合わせて吸い出し防止材を作りました。河の水が流れると土砂が吸い出されるわけですよ。それで吸い出し防止材。いまでも土木建設の現場では、盛土安定処理、排水向上処理、暗渠フィルターなどの用途に大量に使われています。

こうして公共事業にかかわる仕事をしていたころ、土木畑の技術者がボソッとつぶやいた。
「鉄筋コンクリートは、せいぜい持って50~60年程度」。
塩田氏は、街に林立する鉄筋コンクリートのビルやマンション、高速道路や橋梁、トンネルなどがそんなに早く壊れる危険性があることを耳にし、強い衝撃を受けた。

塩田 人間の生活の根幹は衣食住です。衣食住がある程度整っていれば人間は生きていけます。同じように経済の根幹はインフラです。インフラがなければモノは作れないし、運ぶこともできない。インフラが整わなかったら、戦後日本の高度経済成長もなかったことでしょう。

でも、戦後インフラを整備した結果、日本の国土は鉄筋コンクリートに埋め尽くされたと言っても過言ではない国になりました。高速道路、新幹線、リニアモーターカー、空港、通信、電力、ガス、上下水道…。これらすべてが耐用年数を迎えたとき、すべてを造り直すというのでしょうか。そんなお金はどこにあるのか。日本のインフラは本当に危ないんです。経済の根幹が維持できなくなるんです。
こうした事実を30年以上前に知ったんですよ。自分たちの時代さえよければそれでいいのか。そうじゃない。だったら何とかしなくちゃいけない。コンクリートを強くして、インフラの老朽化を食い止めてやろう。そう思いました。

塩田氏は、常務を務めていた日建工学を42歳で辞めて一念発起。世界各地をまわり、建築物を長期耐久化するヒントを探した。そして世界の遺跡のほとんどが自然石で造られている事実に気がつく。こうした遺跡は、厳しい気候、風化に耐え、何百年、何千年と生き残ってきた。そこから石の成分である石英などを溶かして作る丈夫な無機物、ガラスの存在にたどりついたのである。

塩田 地球上にある成分の中で最も耐久力があるのはガラスです。ガラスは風化しません。割れてこなごなになるだけです。そして地球に還元されていく。無機物ですから危険な物は何も入っていません。製造するのに大きな工場もいりません。
日本の戦後の高度経済成長は化学に支えられてきました。テレビでも洗濯機でも、ストッキングやプラスチックボトルでも、戦後作られるようになった物のほとんどの素材は化学合成物質です。化学合成物質を作るには巨大なプラントが必要です。製造過程で生まれる有害物質を排出する施設が必要になりますから。液体ガラスはそういった施設をまったく必要としません。

10年の歳月をかけて液体ガラスを開発し、50歳で会社を立ち上げ、ついに液体ガラスを世に送り出した。その後、液体ガラスは日本中の現場で使われ、現在では200社ほどの代理店がニッコーの技術をさまざまな建造物に導入している。

日方泊トンネル新設工事 (北海道)

日方泊トンネル新設工事 (北海道)

 中部大学50・51号新築工事 (愛知県)

中部大学50・51号新築工事 (愛知県)

木造の弱点を克服して、日本の林業を元気にしたい

しかし、コンクリートにおける液体ガラスの広がりは、塩田氏の理想とするほどではなかった。「日本各地でいろいろなところに使ってはもらいましたけど、私が思うような夢の社会にはなっていない。建造したものを100年でも200年でも持たせようという発想はないんですね。インフラがそんなに長く持ってもらっては困るところもあるわけで」。
やや失望にも近い気持ちを抱いていた矢先、ふと目にした新聞記事が新たなチャレンジ精神をかき立てる。8年ほど前の話だ。

塩田 日本の森林は飽和状態だという記事でした。森林の手入れが行き届かず、倒れて放置された木が腐り、地面に埋もれる。するとやがてメタンガスを発生します。メタンガスはCO2の増加、地球温暖化を促進し、蚊の大量発生や伝染病などを広める可能性があります。
日本は今、世界最大級の木材輸入国ですが、国土の68%が森林なのだから、もっと国産材を使うべきです。液体ガラスを塗装することで、燃えにくく、いつまでも美しい堅牢な建材として生まれ変われば、木材の用途も大きく広がります。荒廃していく一方だった日本の森林もよみがえり、林業も活気を取り戻しますよ。
そして、この国を「木材加工技術の輸出大国」に変えるのです。燃えにくく、強度も十分あり、環境に良いとなれば、世界の国々でも木材はもっと広く利用されるでしょう。日本はいま、原発や新幹線などを輸出しようと躍起になっていますが、こうした平和的な技術もぜひ、率先して世界に売っていくべきではないでしょうか。

塩田さん

ガソリンを何度かけても燃え広がらない木造建築物

木材は古来、日本で使用されてきた建材である。飛鳥や奈良時代の神社仏閣の建造物は木と石で造られ、今では観光名所となって多くの人々が訪れる。千年の時を経ても、我々は今なおその姿に接し、いにしえを忍ぶことができる。
ところが戦後になって、建造物の多くがコンクリートにとって代わられた。確かにコンクリートには、とって代わる利点はあった。耐用年数を別にすれば頑丈であり、コストも安い。木に扱いづらい欠点が少なからずあったことも、コンクリートの使用に拍車をかけた。木は燃える、腐る、シロアリに食われる、変色する、色あせる、曲がる、反る、割れる、剥離する…。とにかく扱いづらいのだ。
逆に言えば、これらのマイナス点をすべて解決すれば、木材は人々が潜在的に心地良さを感じる建材として、十分に活用できる。このような考えから液体ガラスは木に応用された。

塩田 液体ガラスを木材に使用する場合、刷毛で、ペンキを塗るように塗ってしまえばそれで終わり。これだけで木の強度が驚くほど増すのです。
木を腐らせる菌や、カビから木を守るのも液体ガラスの大きな特徴です。木材を腐らせる原因は、酸素、水、温度の3つの条件。このうち1つを断てば菌の餌食にはならない。液体ガラスを木に塗ると、しみ込んで表面に膜を作ります。水の粒子を通さず、かつ空気の出入りを確保できます。木は呼吸して、内部の熱も外に逃げる。これにより木の繊維が安定し、曲がりや割れ、反りもなくなるというわけ。
木は暖かみがあって、多くの人がコンクリートよりも木造建築物の中で働いたり、暮らしたりしたいと考えています。ただ木は汚れやすいし、燃えやすい。“木”を使うにはいろいろと “気”を遣います。我々が提供しているのは気を遣わない木。だから安心して使えるのです。気を遣わないですめば、みんなもっと木を使うのではないでしょうか(笑)。

塩田さん

液体ガラスで塗装した木材は変色や色あせもなく、何より火に強いところが大きな強みです。木は800度以上で燃えますが、液体ガラスを塗った木材は燃えることなく、表面が炭化して炭になるだけ。表面を削ればまた使えます。木材の発火を防ぐ製品はほかにもありますが、そうしたものは白くなって使えなくなってしまう。こうした問題をクリアしているところが、私が開発した液体ガラスの大きな特徴なんです。 

塩田社長が動画を見せてくれた。液体ガラスを刷毛で塗った模型の小屋(左)と、塗っていない小屋(右)に火をつけ、バケツでガソリンを撒いて燃焼実験をしたときのものだ。最初は両方ともガソリンの激しい炎に包まれた(写真左)。 だが、数分後に大きな差が出た。塗っていない右の小屋はそのまま燃え続けそのうち燃え落ちたが、液体ガラスを塗った左の小屋は表面が黒く焦げただけでびくともしなかった(写真右)。

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こうした燃焼実験はテレビでも紹介され、動画が㈱ニッコーのホームページにも掲載されている。

さらに液体ガラスはナノサイズ化した無機質顔料を融合することで、塗料としてもその力を大いに発揮する。汚れて黒ずんだ木材も、木目の美しさがはっきりわかる新品同様によみがえらせることができるのだ。
こうした効果から、世界遺産にも指定されている国宝・厳島神社を筆頭に、京都の大覚寺、東京の池上本門寺など、観光地としても親しまれている神社、仏閣の補修や再生に広く使用されている。また、横浜港にある大桟橋のウッドデッキは、できたばかりかと見紛うほどの美観を取り戻した。ウッドデッキは、かつては木が劣化すると発生しがちな「ささくれ」や「とげ」が目立つようになる。このため、子どもやペットにとって危険な状態であったが、液体ガラスのおかげでそうした心配がなくなり、保育園や幼稚園でも多く利用されるようになった。
一般住宅にも普及が始まった。大手住宅メーカーもその実力を認め、液体ガラスを採用するにいたったほどだ。ニッコーの塗料が変色しないことが決め手だった。
着想から商品化するまでに4年。発売からわずか3年でここまでの広がりを見せた要因は、商品の持つ大きな魅力にほかならないと言えるだろう。

横浜港大さん橋 (神奈川県)

横浜港大さん橋 (神奈川県)

兵庫県豊岡市・出石橋。左は紫外線や風雨により表面の劣化が進み、白木の 美しさが失われていた。また、長年の重歩行によりササクレやトゲなども目立つ。

兵庫県豊岡市・出石橋。紫外線や風雨により表面の劣化が進み、白木の美しさが失われていた。また、長年の重歩行により「ささくれ」や「とげ」なども目立つ。

液体ガラスの「木あじ」でクリア塗装の補修を行なった橋は、白木の美しさが復活し、 豊かなつやが生まれた。ガラス質コーティングにより、強度と防腐・防蟻性能もアップしている。(兵庫県)

液体ガラスの「木あじ」でクリア塗装の補修を行なった橋は、白木の美しさが復活し、豊かなつやが生まれた。ガラス質コーティングにより、強度と防腐・防蟻性能もアップしている。(兵庫県)

土木の分野にも木が活躍するようになれば、日本の林業にも活気が出る

塩田 木のぬくもりは人に安らぎを与えます。そして実際に暖かいのです。木には冷暖効果があり、部屋の中あるいは家の外に木を張ることで、エネルギーの使用量も減らせます。床はフローリング、窓枠はアルミではなく木。こうして部屋の中に木を増やしていくことで、安らぎのある心地良い住まいになるでしょう。

土木の分野でも木材は十分に使えるのだという。もし住宅などだけでなく、土木の分野、つまりはインフラでも広く木が使われるようになれば、木の需要は飛躍的に高まるだろう。

塩田 コンクリートが必要ないと言っているわけではありません。基礎や桁、橋などはコンクリートの強度が必要です。それでも木を使ったほうが良いところ、木で十分に賄えるところがあります。例えば橋の床版。橋の床にあたる部分ですが、これは木でも腐らないようにしておけば大丈夫です。
または高速道路上の遮音壁、あれも木で十分でしょう。安全柵、防護柵、土留め壁なども木を使うといいと思います。これらは全国で合わせるとかなりの量になります。現在、コンクリートや金属を使っているところでも、強い木を使えばまったく問題ないのです。土木の分野で木が活躍するようになれば、日本の森林への需要は10倍以上に膨らみ、林業にも活気が出るのではないでしょうか。

ニッコーはこれまで、少数精鋭で商品を開発し、営業活動も行なってきた。開発に重点を置いていたということもあるが、これではなかなか広くは普及しない。そこで昨年から代理店を希望する会社を対象にセミナーを開き、北海道から沖縄まで約60社がニッコーの手となり足となって、液体ガラスの施工をする体制を整えつつある。さらに今年は代理店を200社まで増やし、多くのニーズに応えようとしている。
今後は一般的に使われているスギだけでなく、建材には不向きと言われるカラマツも液体ガラスを使い、有効利用しようと研究している。

すべては子どもたちへの贈り物

塩田 私は今年80歳になります。もうそろそろ隠居暮らしをしたほうが楽かもしれません。でも、液体ガラスの普及は自分のためにやっているわけではないんです。もともと利益が出たらユニセフに寄付しようと思っていました。でも夢を切り替えました。半年ほど前のニュースで、日本の子どもの6人に1人、特に1人親家庭の約半数が貧困状態にあり、朝ご飯を食べられなかったり、進学をあきらめたりしているというのです。
私が子どもの時代は世の中全体が貧しかったから、自分の家だけが貧しいとは思わなかった。しかし今は貧富の差が大きくなって、贅沢な暮らしをしている子がたくさんいる反面、朝ごはんを食べられない子どもも増えている。そんな話を聞いて涙が出ました。子どもは国の宝です。ただでさえ少子化なのに、これを放っておいたら日本の未来はありません。進学を希望する子にはちゃんと勉強させてやりたい。年間50億円くらいの利益が出ると、これを救済できます。いまはそれが夢なんです。

塩田氏は今日もどこかで、よりよい社会を実現しようと、液体ガラスの普及に全力を注いでいる。すべては子どもたちへの贈り物。そう考えると、俄然やる気が出てくるのだ。

TEXT:渋谷 淳

しおた・まさとし 塩田政利  株式会社ニッコー 代表取締役

1937年 徳島県生まれ。 1956年 徳島県立川島高等学校卒業。 1964年 日建工学(株)創立参加。 1972年 同社 常務取締役就任。 1982年 同社 東証2部上場。 1989年 (株)パピア 創業。 1991年 (株)日興 創業。 2004年 同社 相談役就任。 2004年 (株)ニッコー 創業。 2005年 木材の浸透性塗料開発。 (財)日本立地センターと業務提携し、表面処理剤研究会設立。