アマナが目指す「伝わるビジュアルコミュニケーション」とは? ――代表・進藤博信氏インタビュー

文字から絵や写真、写真から動画へと、コミュニケーション手法はテクノロジーの進化とともに多様化し、近年は情報を「ビジュアル」によって受け取る機会が増加している。株式会社アマナが掲げる、「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする。」という理念は、まさに現代のトレンドといえるかもしれない。

アマナと聞くと「写真」というイメージを持つ人が多いかもしれないが、現在は写真のみならず、動画やCG、VRといったさまざまなビジュアルコンテンツを生み出している。1979年の設立から現在までの間、写真もフィルムからデータへと大きなデジタル転換期が存在したが、同社はそれをどう乗り越え、その先に何を見ているのか。創業者で、代表取締役の進藤博信社長に話を聞いた。

フォトグラファーに価値を。日本にフォトビジネスを。

――進藤社長はもともと、フリーランスのフォトグラファーで、27歳の時に起業されています。フリーランスよりも、組織にすることのほうが、メリットが大きいと判断されたということでしょうか?

進藤 フリーランスは個人的な仕事で、自分だけでビジネスが成立します。しかし、私は学生時代に夢中になったサッカーのように、個人よりも団体で取り組むビジネスがしたかった。フリーランスとしての活動は2年間でしたが、組織内で周りと切磋琢磨することこそ、成長の根源だと気づきました。

また、独立する前に経験したことの中で、学んだことが2つあります。ひとつは、営業部と制作部が、より密接に肩を並べてクライアントに向き合う必要があること。もうひとつは、クリエイターへの期待値を明確にすることです。極端な話、個を重視せず、代わりがいれば誰でもいいという仕事の頼み方に問題があると実感しました。

こうした経験も踏まえて、起業の際、組織運営にもサッカーのエッセンスを取り入れました。サッカーは野球などと比べてルールが少なく、フィールドに入れば組織力を後ろ盾に、卓越した個人技が前面に出ます。これこそ、組織の基本です。さらに、サッカーはセオリー通りに攻めても点が入りません。誰かがセオリーとは異なるクリエイティブな動きをするからこそ、チャンスが広がります。半面、相手にボールが渡った際は、セオリー通りに動くことが求められます。組織という土台をしっかり形作ることで初めて、個人の卓越したスキルやクリエイティブ力が発揮できる――会社の経営も同様に考えています。

――そのポリシーは、設立当初から進藤社長の念頭にあったものなのでしょうか?

進藤 当時ニューヨークには、クリエイターをどう売り込むか、という仕組みが既に存在していました。一方、日本ではクリエイターが現場に出ることは少なく、組織内での仕事に終始していて、クリエイターが育つ環境が整っていなかった。そこで、設立当初はニューヨークのスタイルを、どう日本で展開していくのかにエネルギーを注いでいました。

具体的には、その頃の日本の写真会社は、所属しているカメラマンが営業活動を行っていました。しかし、それでは正しい価値で「売る」ことができません。ニューヨークでは「レップ(Representative)」と呼ばれる、クリエイターの価値を上げるプロデューサーのような役割の人がいました。レップがいれば、クライアントとも適正なギャラや条件で交渉ができます。そのスタイルを、日本にも定着させようと考えました。実際、1979年に創業し、80年代前半にプロデューサー制度をつくりました。「プロデューサーが、クリエイターを売る」というシステムを始めたのは、この業界では当社が日本で最初だと思います。

進藤さん

――それまでに例がないことなので、フォトグラファーの値段のつけ方も初めてだったと思うのですが…。

進藤 確かに、自分の値段を決めるのは難しいことですが、会社でプロデューサーシステムを導入した途端、私のフォトグラファーとしてのギャランティは3倍になりました。専門的な人間と組めば、自分の価値が認められる。適正なギャランティをいただくことで、クリエイターの価値は守られるということが発見できました。

――1987年頃からは、ストックフォト事業を始められました。

進藤 ストックフォトを始めた理由は、2つあります。ひとつはマンハッタンで聞いた言葉。ある時、ニューヨークで “フォトビジネス”というワードを聞く機会がありました。当時の日本において、「フォト」と「ビジネス」は切り離されて考えられていた言葉です。それが、ニューヨークでは当たり前のように「フォトビジネスは……」という会話が展開されていたことで、目が覚めました。

――「フォト=素材」というだけではなく、フォトはビジネスにもなるのだと。

進藤 そしてもうひとつ、社内のカメラマンが、アシスタントに立場を追い抜かれてしまったことがありました。カメラマンはその瞬間に下を向いてしまい、仕事にも情熱を注げなくなってしまいました。それは、組織にとってもダメージです。当時はコマーシャルフォトが事業の中心でしたが、早い時期から多くのフォトビジネスを展開することで、たとえ下の者に立場を逆転されても、違うフィールドで力を発揮させることができるかもしれない、と考えてストックフォト事業を始めました。

――現在では国内最大級のストックフォトサービスにまで成長しましたが、成功の秘訣をどう分析されていますか?

進藤 国内でも競合と呼べる会社はありましたが、あるとき、友人のアートディレクターから「風を感じる写真が欲しいけど、ストックフォトには景色が写っている写真しかない。形容詞的な写真がないんだよ」と言われました。であれば、それを僕らがやろうと。今でこそ私たちも多くのジャンルの写真を扱っていますが、当時のアマナは形容詞的な写真に特化していました。それが、当時は画期的だったんだと思います。

「伝わるビジュアルコミュニケーション」をどうカタチにするか

――写真の世界では、アナログからデジタルへの転換期もありました。アマナは、どのように変化していきましたか?

進藤 アマナに加わった人に必ず話す、「鉄道王の失敗の教訓に学ぶ」という実話があります。かつてアメリカ東海岸で成功を収めた鉄道王がいましたが、大陸横断鉄道を造るという夢にこだわったばかりに、20年の歳月をかけて完成させた後に会社が潰れてしまったという話です。鉄道だけに固執せず、移動手段であればバス会社や飛行機会社も造れば、時代の変化に取り残されずに済んだかもしれません。

この話を教訓に、「真実を写す写真」にこだわるのはやめました。ビジュアルを通して、人と人とのコミュニケーションにこだわるべきです。そのため、会社の理念にも「伝える」ではなく、「伝わるビジュアルコミュニケーション」と掲げています。写真にもこだわりますが、それよりもコミュニケーションにこだわりたいとの思いがあります。アナログからデジタルへの過渡期には、もちろん苦労もありましたが、「伝わるビジュアルコミュニケーション」という理念のもと、何の迷いもありませんでした。

1年ほど前から「VISUAL SHIFT」というブログメディアを立ち上げました。年間1万5千件のお仕事をさせていただく中で、社員が培ってきたさまざまなノウハウを記事化して発信するメディアです。過去の経験でわかっていたことですが、情報の発信側になると、さまざまな情報が集まってくるという現象が起こります。「伝わるビジュアルコミュニケーション」との理念を実現するためには、クリエイターとして新たな情報を取り入れながら、最先端のメディアを使いこなしていくのも非常に重要なことです。カメラマンだって、写真を撮る機材はカメラではなく、iPhoneという時代が訪れてもおかしくありません。

「アマナ」は、日本古代の言葉で「創造の泉」という意味を持ち「人が中心」という企業理念を体現している。

「アマナ」は、日本古代の言葉で「創造の泉」という意味を持ち「人が中心」という企業理念を体現している。

――写真には、撮る人と見る人が存在します。進藤社長は日頃から、「日本はカメラ大国だが、写真大国ではない」とおっしゃっていますが、これはどんな意味でしょうか?

進藤 日本のカメラメーカーは、世界全体で多くのシェアを獲得しています。しかし、世界のトップアートフォトグラファーを特集している本を見たら、400人中、日本人は6~7人しか選出されていません。日本ではカメラを所有している人はたくさんいますが、写真を楽しむ、飾るという習慣が、まだ文化として根付いていません。「日本はカメラ大国だが、写真大国ではない」という発言も、そうした意味です。

――私たち一般人も、写真を鑑賞する目を養う必要がありますね。

進藤 まずは、いかに写真を楽しむかです。人間は、情報の約90パーセントを視覚から得ていますが、やはり触覚、味覚、嗅覚なども重要な要素です。最近、私が「モノよりコト」と言っているのは、コトであれば五感で感じることができるためです。今後、デジタルコミュニケーションが盛んになるほど、コトの重要さがクローズアップされるでしょう。私たちは長く二次元の世界でビジネスをしてきましたが、五感で感じる「ビジュアルコミュニケーション」をどうカタチにしていくのかが、今後のテーマです。

5年ほど前からアート写真雑誌「IMA」を発行しています。これには、アート写真を飾る文化の醸成を目指し、若手日本人写真家の活躍の場を創出する目的があります。デジタルメディアが圧倒的に増えている現在、あえて紙媒体を選んだのも、ビジュアルコミュニケーションへのこだわりからです。雑誌の重さや手触り、インクや紙の匂い、紙のめくれる音といった「五感で感じる」ビジュアルコミュニケーションを実践することで、アート写真の楽しみ方を伝えられたらと考えています。

アマナが発行する雑誌

――Instagramも動画がアップできるようになり、YouTubeでの販促が盛んになるなど、動画コンテンツも増えています。

進藤 時代の流れとして当然でしょう。事実、私たちの仕事でも、静止画より動画の案件が増えています。しかし、動画は人の時間を奪います。コミュニケーションという視点で考えれば、動画と静止画、そして五感で感じるリアルな空間の組み合わせが絶対に必要です。私自身、静止画を捨てようとは、これっぽっちも思っていませんし、同時に文字でのコミュニケーションも再評価されるでしょう。

――アマナでは、CGの制作も行っています。実像を切り取る写真に対し、CGは非現実的なものを生み出すことができます。CGについて、進藤社長の見解を教えてください。

進藤 我々が取り組んでいるCGの大半はリアルを必要とせず、ゼロから生み出すことができます。CGを扱うようになって知ったことは、それまで「足し算のクリエイティブ」だったものが、「引き算のクリエイティブ」を求められるようになったことです。

CGは全て計算でつくられるため、完璧すぎることが欠点になります。そこで、CGに「ノイズ」を加えました。まず、コンピューターで120点の完成度の映像を制作します。次にノイズを入れて95点の完成度に落とすことで、人々の感動を呼び起こすことができます。CG制作において、これはとても重要な要素だと思っています。60点のシチュエーションからレタッチをして手を加え、100点を目指す従来のアナログ写真とは真逆のアプローチです。

――CGは引き算、写真は足し算を大切にしているということですね。

進藤 手法の違いであって、人々を感動させるという目的は、どちらも変わりません。ゴールが見えているため、そこに向かうアプローチの方法を、時代によって変えていると考えたほうが正確かもしれません。

進藤さん

どんな方法で生産性を上げるか。躍起になって考える

――クリエイターや社員が働きやすい環境については、どのように整備されていますか?

進藤 現在、取り組んでいるのは「白線のマネジメント」です。僕が大好きな言葉ですが、道路に白線がなければ自動車事故が増えるように、何事も適正な白線を引くことで、人々の行動や思考レベルを上げることができます。会社としての大きな方向性を示しながらも、代表として出過ぎることなく、強制することもなく、それぞれの社員が見据えるゴールへ先導していく――。こうした「白線」のような役割を担うことこそ、最高のマネジャーの姿だと考えています。

それを補完するため、社員同士のコミュニケーションや仕事上での問題解決を目的に、社内でしか閲覧できないakb(amana knowledge board)というポータルサイトを立ち上げました。akbでは、毎日、専属の編集スタッフが社員のさまざまな成功事例記事を5~10本更新しています。例えば、VRのある成功事例記事を見ると、それに関わったスタッフの名前と写真が出てきます。そのスタッフを詳しく見ると、彼と関わりがある別のスタッフが紐付けて表示されます。もし、VRについて知りたければ彼に連絡を取ればいいし、彼の評価が知りたければ紐付けされたスタッフに聞けばいい。このツールを利用することで、1000人の社員の知恵を集積して共有し、そこからコミュニケーションを取ることができます。

アマナの競争力とは「人の表現力」であり、人の表現力とは「企画、技術、制作、運営、編集、人脈」の6つの要素によって成立します。社員一人ひとりが全てを満たしていなくても、不足している部分を社内で補い合うことで、競争力が担保されています。akbもそのためのツールであり、取り組みの一例に過ぎません。

――マネジメントや働き方を整備するため、テクノロジーの進化は重要な要素だと思います。今後も、新たな技術を積極的に取り入れていかれるつもりでしょうか?

進藤 当社はクリエイティブな会社にしては珍しく、組織としてどのように生産性を上げるかを躍起になって考えています。そのために取り組んでいるのが、労働集約型から知恵集約型への移行です。我々の協力会社は、1万2000社を数えます。現在、社内と社外を巻き込んで生産性を上げるため、是非、AIを活用したいという話で盛り上がっています。

具体的に、当社の業務は大きく「プロデュース業務」「ディレクション業務」「オペレーション業務」に分類できます。オペレーション業務をアウトソーシングしながら、社内でのプロデュース業務、ディレクション業務をAIによって効率化することが、労働集約型から知恵集約型への最終的な目標です。そのプラットフォームをつくるため、IBMが提供している「IBM Watson」にも期待しています(笑)。

プラットフォームが確立できれば、人員を増やすとともに、その働き方や契約形態も多彩になっていくはずです。もちろん、ただ人数を増やすだけでなく、一人ひとりの価値を上げていくことも重要です。クリエイターでもクライアントの前に立ち、ファンを増やしていくパーソナルブランディングが求められます。

進藤さん

――最後に、進藤社長が経営者として、指針にしていることは何でしょうか?

進藤 取捨選択が常に正しいわけではなく、時として間違えることがあります。多少なりとも世の中の役に立てているという自負はありますが、失敗した事業もたくさんあります。ただ、世の中の役に立つことはできても、役に立ち続けることが非常に難しい。それを、いかに続けられる仕組みをつくるか。そのためには、人への期待値が低く、誰でも代わりが務まるような作業に重きを置いた「工場を中心」にせず、「人を中心」にすることが重要です。そこまで割り切れれば、迷いはありません。我々にとっての致命傷は、「時代に遅れる」こと。今はそれを回避するための仕掛けを、山のように考えています。

TEXT:大曲智子
PHOTO:白幡敦弘(アマナグループ 株式会社UN 所属)

進藤博信(しんどう・ひろのぶ)
株式会社アマナ代表取締役社長

1951年、東京都生まれ。1977年、フリーランスのフォトグラファーを経て、1979年、アマナの前身となる広告写真制作会社、アーバンパブリシティ株式会社を設立。1987年にはストックフォト事業を開始。以降、デジタル化を急速に進め、動画やCG制作、コンテンツ制作なども取り扱う総合ビジュアルコミュニケーションカンパニーへと成長させた。