「超小型衛星」で新ビジネスを創る ――今、世界で「マイ衛星」の利用競争が激化

超小型衛星の開発・利用競争が世界で激しくなっている。気象衛星や放送衛星などおなじみの大型衛星に比べると、費用は約100分の1、開発期間も半分の2年以下で、技術の進歩や用途に合わせて小回りが利く。
政府機関でなくても企業や大学が「マイ衛星」を手軽に持てるようになり、ビジネス利用のアイデアがいま爆発的に拡大している。宇宙開発とその関連ビジネスを根本から変革する可能性を秘め、「大型コンピューターに代わってパソコンが登場してきたインターネット黎明期を見るようだ」との声もある。
先行する米国では、衛星の製造から打ち上げ、産業利用、運用管理まで、100社以上のベンチャー企業が競い合う。日本も昨年11月に法律を整備し、有力なベンチャーも登場。ようやく追撃する態勢が整ってきた。
「キューブサット」(CubeSat)や「ほどよしプロジェクト」など、約20年前から日本の超小型衛星の開発・利用を主導してきた東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授に、そのインパクトや産業創生の将来性について伺った。

「安い」「早い」で大きく変わったプレーヤー

――まず超小型衛星とはどういう衛星なのか、その定義や大型衛星との違いを説明していただけますか。

中須賀 超小型衛星は重さ1~100kgの衛星を言います。これに対し500kg程度のものを小型衛星(地球観測衛星ASNAROなど)、数トン程度のものを大型衛星(気象、準天頂衛星など)と呼んで区別しています。
私たちが取り組んでいるのは超小型衛星で、2003年6月に重さ1kg、10cm角のキューブサット1号機(サイフォー)を世界で初めて打ち上げました。その後も、2010年に始まった「ほどよしプロジェクト」で50~60kg級衛星4機を作り、これまでに計8機を開発、うち7機を打ち上げました。

キューブサット1号機(サイフォー)写真提供:中須賀教授

キューブサット1号機(サイフォー)
写真提供:中須賀教授

特徴は「安い」「早い」に尽きます。まず「安い」ですが、大型衛星が300~400億円、小型衛星が100億円程度なのに比べ、50~60kgの超小型衛星は約3億円で作れます。キューブサット1号機は人件費を入れなければ250万円でした。メモリーや計算機など民生用の電子部品を活用してコストを抑えています。
これによってプレーヤーが大きく変わりました。高価格だと政府や大企業しか衛星を持てませんが、3億円であれば大学や研究機関、ベンチャー企業、自治体、新興国などが持つことができます。新しいプレーヤーの登場によって従来にない斬新なアイデアが生まれ、利用範囲が大きく広がっています。

――「早い」ほうは、どんな利点があるのでしょうか。

中須賀 大きい衛星は設計から打ち上げまで普通5年かかりますが、超小型衛星は新しいものでも2年、同じものなら1年で作れます。何より学生の教育にとても使いやすい。5年かかると学生は途中で卒業しますが、1~2年であれば設計から稼働するまで確かめられます。モノ作りは最後まで自分で責任を取ることが大切です。

ビジネスの観点では、投資のリターンまでの期間が短くなり、見通しを立てやすくなります。5年先だとビジネスモデルが成り立つ保証はありません。
早く作れるようになると、1号機、2号機とステップを踏んで着実に技術開発ができます。また大きい衛星では衛星の主要部分が故障すると、たくさん搭載した観測機器や実験機器が全部使えなくなりますが、小さい衛星だと1機に1つの観測・実験機器しか搭載しないで衛星をたくさん作りますので、全部が使えなくなることはなく、リスク分散が図れます。こうして複数機で編隊を組めば、災害の発生現場などの情報を頻繁に収集することが可能になります。これは安く軽くなった衛星を多数打ち上げて運用できる超小型衛星の得意とするところです。

中須賀教授

かつてのインターネット黎明期と同じ雰囲気

――大型衛星から超小型衛星への流れは、「衛星革命」と呼ぶにふさわしい感じがしますね。

中須賀 そうです。今、宇宙で起きていることは、かつて大型コンピューターがパソコンに代わって、インターネットにつながった黎明期と似ています。コンピューターでは、利用する人が爆発的に増えることで、利用アイデアも爆発的に増加しました。ベンチャー企業家や投資ファンドはそうした観点から超小型衛星を見ています。インターネット黎明期に「何か起こりそうだな」と予感して投資した人たちは大儲けしました。宇宙でも今、「とにかく乗り遅れるな」という雰囲気が生まれ、資金が流れ込んでいるのです。

衛星データを人工知能に分析させて利用する新しいビジネスが次々登場

――リモートセンシングには産業界の関心が高いようですが、どのような産業創生が期待できるのでしょうか。

中須賀 先行しているのは、上空から頻繁に観察することが大事な分野です。例えば農業では作物の生育具合を監視し、病虫害の発生や肥料の過不足を判断します。漁業では海水温の変化を日々観察して、プランクトンが大量発生する暖流と寒流の潮目を捉えることができます。
最近面白いと思ったのは、工場の前に並ぶトラック台数の情報を売るビジネスです。企業の生産・出荷動向を金融業界などに売って利益を上げています。石油備蓄タンクのふたの上下する頻度などの動きを分析して、石油の在庫量や消費状況を調べるビジネスも登場しています。

石油や金など鉱物資源のありかを探る資源探査では、人工知能(AI)を使った大変革が起きつつあります。これまでは専門家が地形の知識や経験をもとに判定していましたが、超小型衛星が大量に集めた地形データをAIに学習させて見つけるような手法が可能になってきたのです。

また地上のインフラが不十分な発展途上国では、伝染病の拡大や洪水被害の予測、住宅環境の調査などのニーズがあり、衛星を自分で作って打ち上げたいという希望が強い。
いま私の研究室ではベトナムから来た研究員が自国向けに50kgの衛星を開発中です。

ほどよし1号で写したドバイの風景 写真提供:アクセルスペース社

ほどよし1号で写したドバイの風景
写真提供:アクセルスペース社

自動車部品の優秀さと秋葉原のすごさを実感

――衛星にはできるだけ民生部品を使うということでしたが、過酷な環境の宇宙空間で耐久性や安全性は大丈夫なのでしょうか。

中須賀 宇宙は真空であり、放射線が強く、温度変化が激しい環境です。打ち上げ時の振動、衝撃、加速度もあります。
電子部品は秋葉原で買ってきては、そういった条件を満たすかをチェックして使いますが、国産の自動車用部品ならほぼ問題ありません。なぜなら極寒の地や高熱のエンジンルームでも機能し、悪路の振動や衝撃にも耐えるように設計されているからです。ただ、強い放射線にも耐えられるかどうか、必ず事前に動作を検証します。

CPU(中央演算装置)は、宇宙専用だと数千万円から数億円します。放射線で「0」「1」の信号が乱れる恐れがあるので厳格な基準で作るからですが、秋葉原では同じレベルの民生品が数千円から数万円で買えます。
また宇宙用の蛍光灯は専用の生産ラインで少数生産するので、1本1000万円します。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の衛星が数100億円と高価なのは、失敗が許されないために究極の信頼性を追求するからです。超小型衛星などでは、専用品にこだわらず民生品を試験で確かめて活用すれば、もっと安くできると思います。
私たちが世界初で打ち上げたキューブサットは、今、世界の600近い大学や研究機関が打ち上げています。当初、寿命は約2カ月と思っていたら、14年経った今でも立派に動いています。国産部品の優秀さ、秋葉原のすごさを実感します。

コモディティ化で衛星事業はデータ利用の時代へ

――今や超小型衛星はそこまで身近な存在になっているということですね。

中須賀 そうです。電源、コンピューター、通信機器などのパーツはコモディティ化しています。そのため衛星は電化製品のようになり、作る側は手間ばかりかかって儲からず、データ利用する側の利益率が高くなっています。
上空100kmより上は領空の概念がないので、リモートセンシングは堂々とのぞき見ができる世界です。結局、データ解析して付加価値を高めたものがビジネスを制するのです。2008年に設立した東大発ベンチャーのアクセルスペース社も、当初は衛星製作が主でしたが、今は衛星開発とデータサービスの両方ができる会社に変わろうとしています。
ただ、唯一コモディティ化しないのはセンサーですが、いろいろな分野で新しい予測や利潤につながるような情報を取るための開発が進められ、どんどん変わっていくと思います。

空き缶を使ったカンサット打ち上げが、研究のスタートだった

――中須賀研究室はこれまで、空き缶を使ったカンサット、キューブサット、ベンチャー企業立ち上げ、「ほどよしプロジェクト」と歩んでこられました。これまでの成長の歩みを振り返っていただけますか。

中須賀 カンサットは、スタンフォード大学のボブ・ツイッグ教授が教育を目的にジュース缶の利用を呼びかけて1999年に始まったもので、今年で19回目のARLISSという打ち上げ大会がアメリカで開かれます。各国の学生が空き缶に通信機器やセンサーを詰め込み、米国のアマチュアのロケット・グループに頼んで高度4kmまで打ち上げてもらいます。パラシュートで地上に落ちるまでの間にさまざまな実験をして競います。中には失敗する学生もいますが、プロジェクト規模が小さいうちに失敗を経験し、そこから多くのことを学ぶ姿勢が大切です。

カンサット(CanSat)写真提供: 中須賀教授

カンサット(CanSat)
写真提供: 中須賀教授

2000年からはキューブサットに挑戦しました。2005年の2号機ではJAXAの依頼で太陽電池の性能を試しました。JAXAが自分でやろうとすると5年先になるというので、小回りの利く私たちのキューブサットが引き受けたのです。2009年の3号機PRISMは20cm立方で重さ約8kg、伸展式のカメラで地上を撮影しました。分解能はこのサイズでは画期的な30mを達成しました。

2008年には卒業生が中心になってアクセルスペース社を設立。2010年には「ほどよしプロジェクト」が始まりました。「ほどよし」とは、ほどよい信頼度と性能を備えているという意味です。英語では「ジャスト・グッド」です。内閣府の「最先端研究開発支援プログラム」の30件の1つに選ばれ、45億円の予算をもらってさまざまな機器を開発し、50~60kg級の衛星4機を開発しました。同時に衛星の試験設備も九州工業大学に配備することができました。各大学の地上局をインターネットでつなぎ、相互に遠隔操作できるシステムも運用を始めています。

完成したほどよし3号(左),4号(右)のフライトモデル  写真提供:中須賀教授

完成したほどよし3号(左),4号(右)のフライトモデル
写真提供:中須賀教授

自由度が高いロシアのロケット、審査に時間と労力かかるJAXA

――衛星打ち上げにはロシアのロケットを多用されています。JAXAではなくロシアという理由はどこにあるのでしょうか。

中須賀 ロシアは冷戦時代に大量生産したICBM(大陸間弾道弾)を再活用して、衛星打ち上げビジネスに参入しています。私たちがこれまで打ち上げた衛星7機のうち、5機はロシアのロケットで各国の衛星と相乗りで打ち上げました。50kg級で約2億円とお金はかかりますが、自由度があって使い勝手が良いのです。
他方、JAXAは打ち上げ計画の正確さは素晴らしいのですが、安全審査が厳格で膨大な書類作成などに時間と労力を取られるのが難点です。

デブリ処理が大問題。世界の協力が不可欠

――ところで、今、大量のデブリ(宇宙ゴミ)が大きな脅威になっていますが、どうすればよいのでしょうか。

中須賀 これは由々しき問題です。デブリは宇宙を漂うロケットや人工衛星そのもの、およびそこから放出されたものなどです。他の物体に衝突して飛散し、それがまた別の物体にぶつかって加速度的に増えるという、デブリの爆発現象(ケスラーシンドローム)が起きる可能性があるという危機感があります。

現在は、25年以内に寿命を終えて大気圏に突入し、燃え尽きるように設計していないと打ち上げてもらえません。日本や欧州は真面目に守っていますが、中にはかなりいい加減な衛星を打ち上げている国があるのも事実です。
デブリ防止を専門にするベンチャー企業も登場しています。網で捕まえる、モリを打ち込む、鳥もちのような物質を塗った衛星に付着させる、導電性のテザー(ひも)を垂らし地球の磁場で減速する力を発生させる、などいろいろな方法があります。いずれにしても、この問題の解決には世界の協力が欠かせません。今後の宇宙開発に向けた大きな課題の1つです。

米国のIT長者はフロンティアが大好き

――米国では、テスラモーターズのイーロン・マスク氏が創業したスペースX社、アマゾンのジェフ・ベゾス氏のブルーオリジン社など、多数のベンチャー企業が宇宙に参入しています。なぜこんなに盛んなのでしょうか。

中須賀 IT長者たちはみんな宇宙というフロンティアが大好きで、有り余ったお金を次のフロンティアに投資しているのです。ベンチャー企業の数もすごく多くて、衛星や機器の製作から打ち上げ、運用まで約100社が活動しています。民間のファンドのほかNASA(米航空宇宙局)やDOD(国防総省)の資金が支えています。例えばDODはプラネット社というベンチャーから年間数十億円分の衛星画像を購入しています。補助金だけでなく、こうした資金の出し方もしているのです。

中須賀教授

日本のアクセルスペース社は5年後に50機体制へ

――日本はアクセルスペース社などまだ少数ですが、見通しはいかがですか。

中須賀 幸い宇宙熱の高まりで、アクセルスペースには宇宙関連会社、商社、ベンチャーファンドなどが投資しています。同社は今年、重さ100kgで分解能が2.5mの衛星(GRUS)を3機打ち上げ、2022年までに50機の編隊にする計画です。50機あれば1日1回世界中どこでも写真が撮れるので、新しいデータビジネスを展開しようとしています。
これからは衛星だけでなく、ロケットベンチャーも出てくると思います。もし50機編隊の中の1機が故障したら、それを取り替える必要があり、衛星を1機単位で打ち上げる安価なロケットが必要になるからです。北海道の大樹町を拠点に、液体燃料ロケット開発を行うインターステラテクノロジズ社はその一例です。
昨年11月に「宇宙活動法」と「衛星リモートセンシング法」が成立しました。これから宇宙に乗り出す企業が気を付けるべきことが明確になり、安心して参入できるようになりました。日本でももっと宇宙利用が活性化することを期待しています。

TEXT:木代泰之

中須賀 真一(なかすか・しんいち)
東京大学大学院 工学系研究科 教授

1961年生まれ。1983年東京大学工学部卒、1988年東京大学博士課程修了、工学博士取得。 同年、日本アイ・ビー・エム㈱東京基礎研究所入社。1990年より東京大学講師、助教授、アメリカ・メリーランド大学およびスタンフォード大学客員研究員を経て2004年より東京大学工学部航空宇宙工学専攻教授。超小型人工衛星の設計・製作・運用、宇宙システムの知能化・自律化、革新的宇宙システム、宇宙機の航法誘導制御等に関する研究・教育に従事。 日本航空宇宙学会、SICE、IAA等会員。IFAC航空宇宙部会長。2010~2014年、内閣府FIRSTプログラムによる「ほどよし超小型衛星プロジェクト」のリーダー。2012年から内閣府宇宙政策委員会委員。著書に『宇宙ステーション入門』(東京大学出版)、『国家としての宇宙戦略論』(誠文堂新光社)など。