甘いチョコレートの苦い現実。フェアトレードが変える児童労働と不公平貿易

“甘い”チョコレートが大好きな日本人は多いだろう。ただ、その原料のカカオを作る途上国の農家や労働者たちは、想像を絶するほどの“苦い”現実にさらされている。事実、カカオの主要生産地である西アフリカ諸国では、200万人にのぼる児童が農場での危険な労働を強いられ、学校へ通う機会が奪われている。

問題の根幹にあるのが、末端の農家が満足に暮らせるだけの対価が得られない「不公平な貿易」だ。カカオだけではない。砂糖、コーヒー、バナナ……など、日本人になじみのある商品の背後には、「不公平な貿易」が見え隠れする。

そうした農家や生産者が適正な対価が得られる公平・公正な貿易の仕組みを「フェアトレード」と呼ぶ。認証を受けた製品は世界共通のラベルを使用でき、消費者が選別できるようになっているのが特徴だ。欧州ではすでに認知度が高いが、日本でも少しずつ広がりを見せている。取り組み拡大に奔走するフェアトレード・ラベル・ジャパンの中島佳織事務局長に、国内の現状と課題を聞いた。

組合で力を。支払うお金にはルールを

――食料品や原材料の輸入大国である日本では、「〇〇産は危ない」といった食の安全の問題が頻繁に議論される一方で、作り手の実態についてはあまり話題になっていない気がします。途上国の農家や労働者たちは、どのような環境におかれているのでしょうか?

中島 国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)が生産国として活動対象にしているのは、主にアフリカ、中南米、アジアの国々です。カカオ、コーヒー、バナナ、砂糖、紅茶などの食品をはじめ、衣服などの繊維原料であるコットンなど、世界中で取引されている貿易産品の原料生産者は、いまだ深刻な貧困に直面している状態が続いています。

コーヒー生産者

Copyright:Danielle Villasana

みなさんはあまりご存じないかもしれませんが、サッカーボールもその一つです。世界の手縫いサッカーボールの7割がパキスタンで生産されていますが、小さな子どもたちが低賃金、手作業でボールを縫っているという児童労働が深刻な状況でした。この問題は90年代に世界的に大きく取り上げられ、ユニセフやFIFAなど、世界の関係機関が協力して取り組んだ結果、だいぶ改善されたといわれていますが、いまだに労働者への低賃金や児童労働が報告される状況です。

ボール生産者

Copyright:Fairtrade Deutschland

また、末端のカカオ農家は、森のずっと奥にあるような小さな農家が多いのですが、生産量も少ないうえに、都市に売りに行きたくても車や交通手段が満足にない。結局、買い付け側の「言い値」で買いたたかれるという構図が続いてきました。そんな状況のため、子どもを学校に行かせる余裕はありません。

さらに、西アフリカ諸国のカカオ農家では、素手の上にカカオの実を置いてナタで叩き割るといった危険な労働や、カカオを入れた何十kgもある重い麻袋を担いで運搬するといった重労働にも、小さな子どもが使われています。貧しい地域から労働力として「売られてきた」子どもたちも多くいます。農家で働く子どもの写真を見ると、私たち日本人は「親の手伝いをがんばっている」などと想像しがちですが、そんな状況ではありません。

カカオ生産者

Copyright:Marco Garofalo

――カカオにしても、現地の農家から消費者がチョコレートやココアとして店頭で購入するまで、多くの仲買いや商社などが関わっていると思います。フェアトレードでは、立場の弱い末端の農家の利益を、どのように確保するのでしょうか?

中島 Fairtrade Internationalが定める国際フェアトレード基準では、フェアトレード実現の出発点として、まずは農家の人たちに組合をつくってもらいます。小さな農家では買いたたかれてしまいますが、組合単位になれば生産量も増え、買い付け側との交渉力を持つことができます。同時に組合には、性別や人種などの差別なく民主的に運営したり、環境に配慮して生産したり、品質や生産力を高めたりといったことが求められます。

一方、買う側には二段構えのルールが存在します。1つ目は商社などの輸入業者に対して、最低取引価格の設定をします。カカオやコーヒー、砂糖などは世界的な貿易産品ですが、天候による収穫量のほか、投機によっても相場が乱高下します。相場が高い時もありますが、大暴落して安く買われてしまうと、末端の農家に大きなダメージが発生します。需給バランスや市場の原理を考えたら、価格の下落があるのは当然かもしれませんが、ただでさえ日頃から貧困にあえぐ開発途上国の小規模農家にとっては、貧困に追い打ちをかけ、生きていけない状態を意味します。そのため、フェアトレードでは、生産者側のコストはいくらか、最低いくらの価格で取引されれば十分な生活ができるのかという水準を決め、たとえ市場が大暴落してもそれ以下の額では取引してはいけないルールを設定し、生産者にとって「セーフティーネット」の役割を果たしています。

2つ目は、取引金額に上乗せする料金「プレミアム」の支払いです。これも生産品ごとに一定の金額を決めていて、輸入業者から農家のつくった組合に支払われるルールになっています。

原材料の調達から最終製品の販売者に至るまでの一連の流れ、これをサプライチェーンと呼びますが、私たちはここに関わるすべての業者が、こうしたルールに基づく取引を行っているかチェックしています。そのうえでフェアトレードの認証をし、認証を受けた製品は世界共通のラベルを使用できます。もちろん、認証後も定期的に監査を行い、問題があった場合は改善指導や認証の一時停止など、最終的には問題がなくなることを目指して対応していきます。

――価格保証によって生活レベルを確保したうえで、さらにプレミアムがあるわけですね。農家の生活はどのような変化が見られますか?

コロンビア 学校

フェアトレード・プレミアムによって建設・運営されているコロンビアの学校の授業風景
Copyright:Fairtrade International/ Linus Hallgren

中島 親が適正な代金を手にすることで、子どもは学校に通えるようになります。また、プレミアムは農家個人ではなく、地域や組合を発展させるために使うルールになっていて、組合の話し合いによって使途を決めています。例えば、農薬を使うのをやめて有機栽培に切り替えるための資金として使ったり、学校を建てたり、医療機関まで何十キロも離れている地域では、クリニックや薬局を設けたり、救急車を導入したところもあります。

現在、認証製品は世界135カ国に流通していて、世界全体でのプレミアムの受け取り総額は、2009年~10年の5150万ユーロから、14~15年には1億1780万ユーロとなり、5年で倍以上に増えています。

フェアトレード後進国「日本」の現状とは?

――日本でも、一部の小売り業でフェアトレード認証ラベルの付いた商品を見かけるようになりました。

中島 日本でのフェアトレード認証製品の推定市場規模は、16年に113億円に達しました。10年は37億円だったので、着実に増えています。また、IT、金融、運輸など、フェアトレードの対象産品とは関係のない業界でも、社員食堂やノベルティーグッズなどにフェアトレード認証製品の導入が進んでいます。

国際基準を遵守して生産・取引された商品に表示される国際フェアトレード認証ラベル

ただ、世界での市場規模は約1兆円のため、日本の市場規模はその1パーセントにすぎません。世界的に見れば、残念ながらまだまだ遅れているのが現状です。欧州では、フェアトレード製品を置いていないスーパーマーケットを探すほうが難しいんですけどね。

――企業側が静観しているという実態もありそうですが、フェアトレードについて、どのような反応が目立ちますか? フェアトレード認証ラベルが付いた商品を扱うことで、企業への信頼性が高まるという側面もあるように思いますが。

中島 対応は企業によってさまざまですが、多く見受けられるのが、フェアトレードの意義は理解してくれていても、「1つの商品でフェアトレードを導入すると、残りの商品がすべてアンフェアなものだと思われてしまうのでは」と取り組みに躊躇してしまうケースです。私たちも、フェアトレード認証を受けてない製品が、必ずしもアンフェアということではないと強調するようにしていますし、とにかく少量でもフェアトレードに取り組むこと自体、評価されるべきだと思っていますので、企業の方々には、まずはできるところからでも始めましょうとお伝えしています。

また、カカオに関しては、これだけ世界で児童労働の問題が調査されて明るみになっているにも関わらず「自分たちのサプライチェーンには、こうした問題は存在しない」と言い切ってしまうメーカーの方もいました。批判を受けたくないという防御策なのか、本当にないと信じ切ってしまっているのか……。調べなければわからないことを「ない」と言い切ってしまうので、ビジネスのあり方を見直すアクションにつながりません。

――企業のそうした姿勢には、われわれ消費者側の「安いものがいい」というニーズも影響していそうですが、そもそも、日本の消費者にフェアトレードはどの程度知られているのでしょうか?

中島 日本の消費者は、こうした情報を得る機会が少なかったせいか、フェアトレードの認知度が高いとは言えません。欧州の場合、国民のフェアトレード認証ラベルの認知度が9割を超える国も複数ありますが、日本での認知度は25パーセント程度です。企業側からすれば、フェアトレード商品だろうと、消費者に買ってもらえなければ売れずに棚から消えてしまう。「安いものがいい」というニーズも理解できますが、企業だけでなく消費者側の理解も進まなければ、フェアトレードは成り立たない仕組みなんです。

それでも、最近になって若い人たちの状況は変わりつつあります。家庭科や社会科、英語の教科書でフェアトレードの意義や広がりについて取り上げられるなど、教育の場で触れる機会があるため、認知度も上がっていると実感しています。フェアトレードを導入していない商社に、「フェアトレードを広げたい」という理由で入社した若者もいて、教育の力はすごいなと思いました。

 「なぜ人間は対等じゃないんだろう」。難民たちとの対話で気づかされたこと

――世界の貧困をなくすために働くとしても、さまざまな手段があると思いますが、そもそも、中島さんはなぜフェアトレードを広げる仕事を選んだのでしょうか?

中島 こういう話をするときに、象徴的な出来事があるとストーリーとして格好いいんですが、特にないんです(笑)。私の場合、小さいころから途上国の問題や飢餓問題には関心があって、大学に入って以降、そうした仕事に就きたいと考えてはいました。ただ、「これ」という自分を突き動かす出来事があったわけではありません。海外でのさまざまな体験や、特にその体験の中でのさまざまな「気づき」が重なり、この仕事をしているんです。

中島さん

――具体的に、「気づき」とは?

中島 大学4年の時にケニアの難民キャンプに行ったんです。テレビで見ていた難民キャンプって、「肌の白い人」が「肌の黒い人」に食べ物や薬を与えているイメージで、今振り返ると私も勝手にその「白い人」の側に立っていました。現地に行けば、何かを「してあげられる」と思っていたんでしょうね。

ところが、現実は違いました。そのキャンプはできてから5年ほどたっていて、人々の生活ができ上がっている。私も建設用のレンガを運んだりセメントを混ぜたりしましたが、なんの技術もない自分に、ただ無力感を抱くだけでした。

また、そこで生活している難民の若者や子どもたちは、壮絶な体験をしてきたにも関わらず、現実を受け入れて明るく暮らしているんです。例えば、隣国から逃げてくる途中、大きな川を自力で必死に渡る中、目の前で友人がワニに食べられたという男の子や、銃撃戦に遭って家族を殺された男の子もいました。彼らと言葉を交わして気づいたのは、「難民」というかわいそうな人たちではなく、私と同じく名前を持ち、顔を持つ1人の人間だということです。私は豊かな国で親から食べさせてもらっている身である一方、彼らは壮絶すぎる人生を受け入れながら生きている。同じ人間なのに「なぜ対等じゃないのか」「なぜ社会は無関心なのか」。そんなことを強く感じました。

さらに、その数年後、ケニアのスラム街に住む子どもたちのサポートをする取り組みに携わったんですが、寝食を取る場所のすぐそばに汚水が垂れ流しになっていて、耐えられないほどの悪臭の中、裸足でその上を歩いているような環境でした。さまざまな手を尽くしたものの、結局はサポートをやり切れたとは言えず、またも無力感にさいなまれました。

そのあと、現地の日本企業で働く機会があったんですが、現地で300人もの雇用を生み出し、人々の生活を支えている。やっぱり、企業の力はすごいなと感じたんです。と同時に、同じ職場にはスラムから来ている従業員もいて、まともな住居に暮らせるほど十分な給料が支払われていないことも見ていました。世界的に有名な日本企業でさえその状況だったわけです。貧困をなくすには、企業のビジネスの在り方が変わらないといけない、社会に仕組みをつくらないといけない、社会の構造から変えないといけないと確信しました。そんな経緯があって、07年にフェアトレード・ラベル・ジャパンに入りました。

フェアトレードは消費者にも企業にとっても、あって当たり前の仕組み

――形を変えても、社会に貢献する道を進んでいますね。

中島 私自身としては、「社会貢献」という意識で活動しているわけではないんです。以前は私も「生産者のために」と思って仕事をしていましたが、10年近く前、ある生産者の代表の方の言葉で、気づかされたことがありました。

「フェアトレードは私たちにとって希望です。これがなければ私は教育を受けることもできなかったし、いまここにもいないでしょう。ただ、フェアトレードはわれわれ生産者だけではなく、あなたたち消費者の役にも立っているはずです。生産者に適正なお金が入るようになれば、もっといい品質のものを作ろうと努力をする。そして、それが商品になって、消費者のもとに届くようになるんです。われわれはwin-winの関係なんです」

確かにその通りですよね。これからもずっとおいしいコーヒーが飲みたかったら、生産者にもメリットがある、持続的な仕組みをつくる必要がある。フェアトレードは、企業にとっても品質を保ち、事業を発展させるために、あって当たり前の仕組みだと思うんです。だから、「社会貢献」をしているとは思っていません。社会に必要なコンセプトだと考えています。

――今後の目標を教えてください。

中島 フェアトレードなんて言葉がない社会になることが一番ですが、現状では、世界の農家や生産者たちが安定した生活ができるように、この仕組みを広げていかなければいけません。日本では、バナナ、コーヒー、チョコレートの認証製品が身近なスーパーにそろっている社会。まずは、そこを目指したいと思っています。

TEXT:國府田 英之(POWER NEWS)

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中島佳織(なかじま かおり)

特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)事務局長。茨城大学卒業後、化学原料メーカー勤務を経て国際協力NGOに転職。アフリカ難民の支援事業やフェアトレード事業などに従事。その後、ケニアの日系企業勤務を経て、2007年より現職。共著『ソーシャル・プロダクト・マーケティング』(産業能率大学出版部、2014年)ほか。