この記事はIBM THINK Watsonに掲載された記事を転載したものです。
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コグニティブ ・コンピューティングの登場により、テクノロジーは単なる「機械」という位置づけを越え、人間の「生活の質を高める」ものとして注目を集めている。そして今、ロボティクスとコグニティブ技術が融合し、社会に大きな変革をもたらそうとしている。

教育現場へのコグニティブ・コンピューティングの活用

 カーネギーメロン大学の金出武雄氏(ワイタカー記念全学教授)は、理想のロボットが、コグニティブ技術によって可能になるという。

最も理想的なのは、お節介なことはせず、本当に助けてほしいときにだけ助けてくれる機械です。そもそも人間は、自分のことは自分でしたい生き物ですから、ロボットが何でもかんでもやる必要はありません。例えば、高齢者になって運動・思考能力が落ちてきたときに、その部分を理解して助けてくれる機械を実現するには、人間を認識してその人の思考や経歴、周囲の環境をすべて考えて最適な判断を下せなければなりません。そのためには、音声、言語、問題解決、データベースをひもとき、行動を決定する能力が大切です。そうした能力を備えた安全なロボット、すなわち私たちがもともと考えていた概念のロボットが、コグニティブ技術によってようやく議論できるようになりました。

そして金出氏は、このコグニティブ技術が今後教育現場に活かせるという。

子供が学習したときに「どこができていないか」「その理由は何か」「何を教えればよいのか」「効果はあるのか」――そういった部分はコンピューターで補えますし、場合によってはコンピューターの方が適している可能性があります。

IBMの浅川智恵子フェローも、コンピューターが教育の問題を解決する展望を持っている。

今の教育現場では子供に対して同じ教え方をしていますが、違う教え方をしたほうが効果的な場合があります。また成績上位の子供のレベルに合わせてしまうと成績下位の子供がついて行けないといった問題もあります。これらをコンピューターで解消する時代が来ているのかもしれませんね。

教育現場である実際の教室では、1人の先生が大勢の生徒を前に授業をする。だから、生徒の学習能力やスピードが異なるという問題に、教える側が対処しきれない。また、そもそも人と話すのが苦手だという生徒もいる。

自閉症など人とのコミュニケーションを苦手とする子供たちが、ロボットとのコミュニケーションを通して、人とのコミュニケーションを学ぶ取り組みも行われています。実際にリハビリテーションの現場で活用され始めていて、成長してからの社会生活をスムーズにできると期待されています。

人間とコンピューターが分業する未来

 しかしだからといって、教育をすべてロボットに任せようということではない。人間は違う役割を担う。コンピューターと人間の分業こそが、目指すべき教育現場のあり方だ。金出氏はこう話す。

私が重要だと考えているのが「教育」への活用です。変な風に聞こえるかもしれませんが、教育において最も重要なリソースまさに資源は、実は子供と教師の時間なのです。つまり、子供は本当に学ぶべきことを学ぶのに時間を使い、教師は本当に教えるべきことを教えるのに時間を使うということです。

確かに、例えば数式や英単語などを教える場合、「知識」が伝わればよいのだから、コンピューターでもよい。英単語アプリなどはその典型だ。むしろコグニティブの場合、学び手の性質を学習していくので、学ぶ速度やコミュニケーションの能力に配慮することが可能になる。

では、コンピューターではなく人間がやるべきことはなんだろうか。

人間の教師がやるべきなのは、むしろ人間社会の中で生きていくうえで知らなければならないこと、経験しなければならないことを教えるということではないでしょうか。

金出氏の言葉を受け筆者は、人間がやるべきことは「知識を与える」という教育の側面ではなく、社会の中でどのように生きたらいいのかという「道徳を教える」ことではないかと考えた。例えば、先生は、「嘘をつかない」「人に親切にする」などといった道徳を子供たちに伝えたり、「人と一緒に生きること」の大切さや難しさを伝えることで、子供たちを育てていくのである。

一緒につまづけるロボットの必要性

 最後に「一緒につまづけるロボット」も必要ではないかと提案したい。というのも、そもそも私たちの「学び」の場面を考えてみよう。「失敗は成功のもと」と言われるように、授業についていけなかったり相手とコミュニケーションがうまくいかなかったりした際に生じる「うまくいかない」「ついていけない」といった負の経験が、人間の学びを作りあげているのではないか。

ロボットによってよりスムーズな学びが可能になるということは、その分失敗体験が減るということだ。間違えたり一緒に躓いてくれたりするロボットがいたら、それが却って人間の学びを助長させるかもしれない。

 

*本文中の浅川智恵子氏と金出武雄氏の発言は、「ロボティクスとコグニティブ技術の融合が人間の生活の質を向上させる | IBM ProVISION90号特別対談」から引用しました。

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